また、この季節がやってきた!!
そう、M・W・クレイヴンの〈ワシントン・ポー〉シリーズの新刊である。
感想に入る前に一言だけ言わせて欲しい。
『本書は有隣堂にて購入!』
( ここ ⬆ 大事(*•̀ㅂ•́)و✧)
2020年に第1作『ストーンサークルの殺人』を手にして以来、ずっと追いかけてきたシリーズ。
私にとっては、もはや「新刊が出たら読む」というレベルではない。
年に一度のお祭りだ。
今年もポーに会える。
ティリーに会える。
フリンに会える。
そして、あの独特の緊張感と、重厚な捜査と、胃が痛くなるような事件と、その真っ只中で突然差し込まれる「そこ、笑わせるところか?」という絶妙なユーモアに会える。
しかも困ったことに、このシリーズ。
作品を重ねるたびに面白くなっている。
普通、シリーズものには「最初の頃が一番好きだった」という作品が少なからずある。
ところが、このシリーズにはそれがない。
『ストーンサークルの殺人』で「なんだ、このシリーズは!」と衝撃を受け、『ブラックサマーの殺人』でさらに引き込まれ、『キュレーターの殺人』『グレイラットの殺人』『ボタニストの殺人』と読み進めるたびに、「前作を超えてきたな」と思わされる。
そして今回。
また超えてきた。
……おい、クレイヴン。
どこまで行くつもりだ(笑)
今回、英国各地で同じ手口による射殺事件が相次ぐ。
被害者は17人。
ところが、彼らには年齢、職業、生活環境などに共通点が見つからない。
普通なら「なぜこの人物が狙われたのか?」というところから捜査を始める。
ところが今回は、その「なぜ」が見えない。
犯人の目的も分からない。
被害者同士の接点も分からない。
そして何より恐ろしいのが、犯人がどこから撃っているのかすら分からない。
まるで英国全土のどこにでも現れる幽霊のような狙撃手。
人々は外に出ることすら恐れるようになり、社会そのものがじわじわと犯人に追い詰められていく。
ここで政府が切ったカードが、ポーたちだった。
かつての重大犯罪分析課のメンバーが再び招集される。
この時点でもう、シリーズ読者としてはテンションが上がる。
「来た!」
ポー、ティリー、フリン。
この三人が揃う。
事件そのものももちろん面白い。
だが、このシリーズの最大の魅力は、実は事件だけではないと思う。
ポーたちが帰ってくることそのものが嬉しいのだ。
ポーは相変わらずポーである。
ぶっきらぼうで、頑固で、時に無茶をする。
しかし、その奥には仲間を思う熱さがある。
そしてティリー・ブラッドショー。
シリーズ開始当初から考えると、本当に大きく変わった。
天才的な分析能力を持ちながら、人とのコミュニケーションが苦手で、世間一般の「普通」からはかなり離れたところにいる彼女。
そんなティリーが、ポーと事件を追い続ける中で、少しずつ、しかし確実に変わってきた。
今では、この二人のやり取りを見るだけで嬉しくなる。
事件は凄惨。
捜査はシリアス。
なのに、会話になると妙に笑える。
このバランスが絶妙なのだ。
「英国ミステリ、重っ!」
と思っていたところへ、ポーとティリーのやり取りでフッと力が抜ける。
この緩急があるからこそ、重厚な警察小説を最後まで一気に読める。
そして今回の事件のキーワードとなるのが、タイトルにもなっている「ダイス」。
捜査を進める中で、17件の犯行現場に奇妙な法則が浮かび上がる。
犯人はどうやら、特殊なサイコロを使って犯行場所を決めているらしい。
サイコロで殺人現場を決める。
なんとも不気味な発想だ。
普通なら「そんな馬鹿な」と思うところなのだが、クレイヴンはそこから話を組み立ててしまう。
そして、読者が「なるほど」と思った瞬間、さらに別の角度から殴ってくる。
そう。
このシリーズ、油断できない。
「分かった!」
と思った瞬間に、
「はい、残念でした」
とひっくり返される。
そしてページをめくる。
またひっくり返される。
……だから止まらない。
上巻を読み終えた時点で「え? ここからどうするの?」となり、下巻へ手が伸びる。
夜中でも伸びる。
眠くても伸びる。
明日仕事でも伸びる。
そして翌朝、
「……寝不足だ」
となる。
知ったこっちゃない。
ポーが待っている(笑)
しかし今回、事件以上に心を揺さぶられたのが、ポー自身の物語だ。
これまで数々の事件をくぐり抜けてきたポー。
仲間を失い、傷つき、それでも事件の真相を追い続けてきた男が、今回は自分自身の人生についても大きな決断を迫られる。
孤独に生きることに慣れていた男。
他人との距離を置き、自分の世界を守っていた男。
そんなポーが、誰かと人生をともにする未来へ進もうとしている。
そこへ、この最悪の事件が襲いかかる。
まるで、
「お前、本当に幸せになれると思ってる?」
とでも言うように。
そして、事件は容赦なく仲間へ迫る。
ついにはティリーまで犯人の標的になってしまう。
ここからのポーは凄い。
いや、怖い。
仲間を守るためなら、どこまででも踏み込む。
ルール?
そんなものは後回しだ。
正義感だけで突っ走るわけでもない。
感情だけで暴走するわけでもない。
これまで積み上げてきた捜査能力、仲間との信頼、そして自分自身の覚悟。
それらすべてを武器にして、犯人へ向かっていく。
これぞワシントン・ポーだ。
そして最後に待っているのは、シリーズ最大級の大仕掛け。
犯人は誰なのか。
なぜ17人なのか。
なぜサイコロなのか。
そして、ポーたちはどうやって神出鬼没の犯人を追い詰めるのか。
クレイヴンは今回も、読者が「もうこれで終わりだろう」と思ったところから、さらに一段階ギアを上げてくる。
そして事件の決着だけでは終わらない。
ポーという男の人生そのものが、大きく動く。
ここが今回の作品のたまらないところだと思う。
単なる「連続殺人事件を解決しました」で終わらない。
第1作からずっと積み重ねてきた人物たちの関係性があるからこそ、この物語の一つ一つが胸に響く。
シリーズものの醍醐味とは、こういうことなのだろう。
一冊だけでも面白い。
でも、7冊読んできたからこそ分かる。
ポーがどう変わったのか。
ティリーがどう成長したのか。
フリンがどんな存在なのか。
仲間たちがどれほど大切なのか。
それを知っているから、今回の一場面、一言、一つの決断が、ずしんと胸に落ちてくる。
そして、私は改めて思う。
こんなシリーズ、他にあるか?
重厚な警察小説である。
本格的なミステリーでもある。
猟奇的で、残酷で、時には目を背けたくなる。
それなのに、登場人物たちの会話にはユーモアがある。
そして何より、登場人物が生きている。
事件が終われば、それで関係がリセットされるシリーズではない。
前の事件で受けた傷も、築いた信頼も、変化も、次の物語へちゃんと持ち越される。
だから、新刊を読むたびに「事件の続きを読んでいる」というより、
「久しぶり。元気だった?」
と、昔から知っている仲間に会いに行くような気持ちになる。
2020年。
『ストーンサークルの殺人』から始まった私のポー追跡。
気がつけば第7作。
その間、何度ポーたちに驚かされ、笑わされ、ハラハラさせられたことか。
そして今回も見事にやられた。
ありがとう、クレイヴン。
また最高傑作を更新してくれて。
……でもね。
毎年これをやられると困るんですよ。
「今年こそ前作を超えるのは難しいだろう」と思っているのに、また超えてくる。
読者はハードルを上げる。
作者はさらにその上を飛び越える。
そして私はまた一年待つ。
「また、この季節がやってきた!!」
と言うために。
未読の皆さん。
お願いです。
早く読んでください。
ただし、一つだけ忠告。
第1作『ストーンサークルの殺人』から読むことを強くおすすめします。
なぜなら、このシリーズは事件だけを読む物語ではないから。
ポーとティリーの物語だから。
そして7作目まで来た今だからこそ、分かる。
この二人が歩いてきた道のりが、今回の物語をさらに熱くしている。
血と銃弾と謎。
そこに友情と信頼と、ほんの少しの笑い。
英国ミステリーの骨太さを存分に味わいながら、最後には「この人たちについてきてよかった」と思わせてくれる。
そんなシリーズだ。
さて。
読み終わった。
余韻に浸る。
そして、ふと思う。
……来年は、いつだ?
気が早い?
いやいや。
ポー読者にとっては、もう次の夏が始まっているのである。
本の概要
標的はティリー・ブラッドショー
読者を驚愕させる強烈な展開
一気読み必至の傑作
捜査の末、ポーは連続狙撃犯の正体と目的にたどり着くも、その行方は依然としてつかめなかった。
そしてポーたちの健闘むなしく犠牲者は増え続け、相棒のブラッドショーまでもが犯人の標的にされてしまう。
かつてない窮地に追い込まれたポーは、自身と因縁深いある医師に協力を依頼する。
神出鬼没の犯人を捕まえるため、ポーたちが打った一世一代の大仕掛けとは?
シリーズ史上最大規模の事件。予測不能の決着を見逃すな。
著者について
M・W・クレイヴン
イギリス・カンブリア州出身の作家。軍隊、保護観察官の職を経て2015年に作家デビュー。2018年に発表した『ストーンサークルの殺人』で、英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガーを受賞した。