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夏の黄昏
南部の小さな町に育った十二歳の少女。背丈ばかりのびて、近所の子どもから仲間はずれになっている少女の夏の出来事。この少女の心の孤独感は、仲間はずれになったことのある誰の心にも消えがたく残っている。そして自分がどこかのグループに属したい、誰かに認められたいという願望も。この作品はこの深くて鋭い心情をとらえて、あますところがない。しかしその卓越している点は、空気さえ感ぜしめる描写の力だ。人は空気によって生きるように、この作品の三人――少女と少年と黒人女性――は作中の暑い夏の空気を呼吸して生きている。その空気は狭いキチンにいる三人の息遣いを伝え、その絶妙の会話を伝える。外で遊ぶ子供たちの叫び、ピアノの調律音、猿まわしの演奏するオルガンの音、照りつける街なかの白い光などを伝え、その脈搏によってこの作品を日常の次元よりも高い、不思議な雰囲気のものにしている(訳者あとがき)。「結婚式のメンバー」という訳書もあるマッカラーズの代表作。 -
肚
頭中心の思考から「肚(はら)」の知恵へ。ユングと老子が交差する、全く新しい身体論。 現代の私たちは、明治以来の習慣で、すべてを「頭(脳)」で考え、合理的に解決しようとしてきました。しかし、その結果としてストレスや神経衰弱に悩まされてはいないでしょうか。 本書は、詩人・加島祥造が77歳での開腹手術を機に得た、驚くべき「気づき」から始まります。 C.G.ユングが提唱した「集合的無意識」、D.H.ロレンスが説いた「太陽神経叢」、そして老子の「タオ(道)」。古今東西の知性を身体感覚を通して統合し、硬直した現代人の意識を「肚」という生命の重心へと導きます。「考える」のではなく「思う」ことの豊かさを、深い洞察とともに綴った一冊です。 -
被害者の顔
被害者の名はアニイ・ブーン。胸に銃弾を撃ちこまれ、血にまみれて死んでいた女。が、捜査が洗いだしていったのは、彼女の複雑な顔だった。貞淑な妻、優しい母、インテリ女性、情婦、酔いどれ……。どの顔が残忍な殺人者を招いたのか? しかし、容疑者はいずれも堅固なアリバイを持っていた -
毎日をいきいきと生きる100のヒント
大ヒット『求めない』の著者、珠玉の金言集。 『求めない』『受いれる』など多数の著書を通して、現代社会であえぐ私たちに優しく語りかけてくれた加島祥造さん。本書は生前最後に手がけた本となりました。晩年は自然を愛し、伊那谷で暮らしますが、生まれは東京、落語を愛する下町っ子。そんな加島さんの講演会は、いつも笑いが溢れ、親しみのある雰囲気に包まれていました。本書は、数多くの講演会から100の名言、名フレーズをセレクト、文章では出合えない本音の語りが飛び出します。そばに置いて、お好きなページからめくってみてください。失敗や不幸を喜びや発見に変えていく、知恵と勇気の言葉が飛び出します。 -
招かれざる客〔小説版〕
ミステリの女王の名作戯曲を小説化! 真犯人や真相に関する趣向はクリスティー作品史において前例はなく、まさに〈反ミステリ〉の新境地を開拓したのだ。小山正(本書解説より) 冷たい霧の中、電話を借りるため館を訪ねたマイケルが見たのは、当主が椅子にうずくまり、傍らでその夫人が拳銃を握る姿だった――11月の寒々とした晩。南ウェールズの霧深い田舎道で車が脱輪し、男は近くの大きな屋敷に助けを求めた。だが、そこには車椅子に座った屋敷の当主の射殺体が。そして傍らには当主の若く美しい妻が銃を握って立っていた。果たして妻が犯人なのか? どんでん返し連打の名作戯曲をチャールズ・オズボーンが小説化! 解説:小山正 今後の刊行予定2025年1月刊『蜘蛛の巣〔小説版〕』アガサ・クリスティー(チャールズ・オズボーン小説化)山本やよい訳 客間で見つけたのは夫の前妻と結婚した男の死体!? 傑作クライム・コメディ戯曲の小説化。 以下、続刊『白昼の悪魔〔新訳版〕』アガサ・クリスティー田村義進訳 地中海の避暑地の島に滞在中の元女優殺人事件。関係者のアリバイをポアロは崩せるか? 以上、クリスティー文庫 -
メジャー・リーグのうぬぼれルーキー
原題はYou Know ME ALで、「アルよ、君はおれのこと、よく知ってるよな」という意味。アルは友達の名だ。この作品は投手としては抜群だが田舎者でウヌボレ屋でケチなジャック・キーフという青年が、アルに書き送る手紙でできている。1910年代の小説だが、実在のチーム、選手、監督を織り交ぜて描いて大好評を博し、ユーモア小説、野球小説の古典的名作となった。作者ラードナーは野球物のあとで中流層の市民たちを描いたユーモアと諷刺のきいた諸作品によっても高く評価された。アメリカン・ユーモア小説はマーク・トウェイン→ラードナー→デイモン・ラニアンと受け継がれていく。 -
野生の棕櫚
「悲しみ(grief)と虚無(nothing)しかないのだとしたら、ぼくは悲しみのほうを取ろう。」 1937年――人妻シャーロットと恋に落ち、二人の世界を求めて彷徨する元医学生ウイルボーン。(「野生の棕櫚」) 1927年――ミシシピイ河の洪水対策のさなか、漂流したボートで妊婦を救助した囚人。(「オールド・マン」) 二組の男女/二つのドラマが強烈なコントラストで照射する、現代の愛と死。 アメリカ南部を舞台に、実験的かつ斬新な小説群を、生涯書き継いだ巨人、ウィリアム・フォークナー。 本作は、「一つの作品の中で異なる二つのストーリーを交互に展開する」という小説構成の先駆となったことで知られる。原著刊行(1939)の直後、ボルヘスによってスペイン語訳され(1940)、その断片的かつ非直線的な時間進行の物語構成により混沌とした現実を表現する手法は、コルタサル、ルルフォ、ガルシア=マルケス、バルガス=リョサなど、その後のラテンアメリカ文学に巨大な霊感を与えた。 他方、現代日本の小説にも、大江健三郎(『「雨の木」を聴く女たち』)や村上春樹(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』)、叙述トリックを用いたサスペンス小説(連城三紀彦は本作を生涯の10冊に挙げている)など、本作の影響は数多見受けられる。 また、ゴダール(『勝手にしやがれ』)、ジャームッシュ(『ミステリー・トレイン』)における言及で本作を知る映画ファンも多いだろう。 その意味では、文学のみならず20世紀カルチャーにおいて最大級の方法的インパクトを与えた、世界文学史上の重要作にして必読の傑作だといえる。 その本作を、『八月の光』『サンクチュアリ』『兵士の報酬』などの名訳によって定評のある、加島祥造訳にて復刊する。