まず、なにより邦題も「ネメシス」でよかったのではと。日本語にしてしまうと名称としての力強さがなくなり、少し説明じみたイメージになってしまう。ネメシスの方が復讐の女神より力強さや恐ろしさを感じるのは僕だけだろうか。
僕はクリスティがミステリにおける殆どの試行やトリックを編み出し使い尽くしたと考
...続きを読むえており、彼女以降の作家は新たなジャンルや作風の工夫こそ出来うるかも知れないが、ミステリの観点でアイデアで彼女の創作を超えていく事は難しいと常々偉そうに語っている(笑)
ミステリの形式としては、1.犯人は誰か2.何故事件は起きたのか3.事件の過程を解き明かす4.叙述トリックなどが考えられるのだが、今回は問題は何かというまさかのテーマであり、そもそもミステリの殆どは何かの事件やトラブルに対しての道筋であるはずなのだが、今作ではマープルと同じ様に読者も広大なフィールドに投げ出され、とにかく進んで何かを見つけろと言われている様な気分であり、新しいジャンルを経験している様な気分だ。中盤から終盤にかけて、徐々に今作の解明すべき問題が明らかにされていき、ラフィールが一体何をマープルに託したのか、が構築されていく。大枠としては漫画やゲームの構成と似ているなぁと感じた部分もあり、そういったものがまだ表現されていないなかで、文章で表現されているのは驚きだ。
カリブ海の秘密で共闘した数年後、新聞の死亡記事にラフィールの名前が載る。マープルは彼の名前をようやく思い出し、カリブ海での事件に思いを馳せる。数日後、弁護士事務所を通じてマープルの元にラフィールからの不思議な依頼が届く。何について、誰について、全く何の依頼もなく、弁護士達も何も知らされていない。そんな中、マープルはラフィールが手配したバスツアーに参加する事となり、少しずつラフィールが意図した事件の輪郭が姿を現してゆく。
物語の軸自体を読者が探し、考察しながらストーリーの真相に迫っていく。ある意味で謎解きの幅が広くなり、登場人物達を全て精査していく必要上、読みにくくなる事が考えられたが、全くそんな事はなく、反対に非常に整理された道筋を辿るため読みやすくさえあると言える。
今作は連作のため、カリブ海の秘密から続けて読むと格別だ。(バートラムホテルの事件は次に読む予定)また、本来三部作を予定しており、英題を読み解くと、ウーマンズレルム(女性の領域?僕は今作かは勝手に想像し、女王の庭と略した!!)
が完成しなかった事は残念だ。僕は本当にこの二作が好きで、ふたつ合わせてクリスティの10指の一つに選びたい。