前作『カリブ海の秘密』の続編のようなもの。『牧師館の殺人』でちょっと出てきた人も出てきます。
『カリブ海の秘密』から2年近くたったある日、ミス・マープルは新聞の死亡欄で富豪ラフィール氏の訃報を知る。数日後、ラフィール氏の弁護士から「あなたに遺言があります」との知らせを受ける。ラフィール氏はミス・マープルに「1年以内にある謎を解いてくれたらまとまったお金(かなりの大金)をあなたに遺そう」と書き残していた。ミス・マープルを「復讐の女神」と見込んだこと、正義に対する鋭い勘を信じているというのだ。
しかし何を解決すれば良いのかのヒントはまったくない。(ここで、『カリブ海』に登場したラフィール氏の使用人のその後も分かる)
ミス・マープルはこの申し出を受けることにする。ラフィール氏の謎の言葉に興味を持ったことと、「わたしたち年寄りだってまったくお金に興味がないわけではありません」ってことで。うんうん、お金は大事。楽しまなくちゃね。
やがてラフィール氏の代理人から、「大帝国の著名邸宅と庭園めぐり」の旅行券と、氏の手紙が届く。ミス・マープルは旅行に参加しながらラフィール氏が何を自分に解決してもらいたいと思っているのかを探っていく。
ラフィール氏は何かをミス・マープルに解明してもらいたいと思っているんだけど、それをはっきり書かないし、ミス・マープルに会うようにと手配された人たちも事情をあまり知らされていない。それはラフィール氏がミス・マープルや他の関係者たちに余計な先入観を入れたくなく、本人が得た情報をどのように解釈するかを大切にしているからのようだ。
なんとも困った遺言だが、ラフィール氏の手紙や伝言は親しみに満ちている。「あなたがピンクの毛糸で編み物をしている様子が目に浮かぶ」「愛情を込めてあなたの友」「守護天使が守ってくださいますように」「正義に関して鋭い勘を持った女性」など。『カリブ海』でも束の間の交流だったけれどもあのときの良い老・老コンビは、それっきり会うことはなくても心のなかでは「友」なんですねえ。現在のように電子手段で連絡を取ったり交通手段もゆっくりだった時代には「もう会えないけどずっと友達」っていう絆はあったんだろうなあ。
…まあ、いくら曖昧な指示とはいえだんだん「解明してもらいたい謎」も分かってきた。ラフィール氏には大変とっても不肖の息子、生まれながらのロクデナシのマイクルがいる。数十年前に、ある女性を殺して遺体を損壊させた罪で終身刑となっている。だがマイクルの収容施設の館長は長年の経験から「マイクルは手の施しようのないし絶対改心しない犯罪者タイプだが、女性を殺して顔を潰すタイプではない」と考えた。それを聞いたラフィール氏が、殺人事件の真相を知りたがったのだ。
ここでミス・マープルに求められる「正義に関する道徳心」が必要になる。ミス・マープルは「私は犯罪者は大嫌い。例えば不幸な幼年期を送ったり育った環境が悪かったとしても犯罪者は大嫌い」と断言する。
確かに「探偵」って自分の判断で人を死刑にさせることもありますからね、断固たる気持ちを持っていないとできないよなあ。
そして犯罪捜査の確かさを見込まれたミス・マープルの自己分析は「まあ、私はたまたま行く先々で犯罪事件に遭遇して、殺人犯を人よりは多く知ってるだけだわ。私の親戚は五回も船の事故にあっているし、知り合いで列車やタクシー事故に合ってばっかり人もいるし、渡しの場合だってたたまたま私自身にではなくて周りで殺人事件が起きてるだけだわ」って自己分析してるんだけど、いやいやいや、どれも嫌だよ笑・笑・笑
まあそれでですね、ミス・マープルはマイクル・ラフィールのこと、彼が殺したとされている女性のこと、それとは別に行方不明の女性のことを調べていく。
読者としては「これってどうやって解明するの!?」と非常に興味を持った。だって小説では登場人物が限られてるから、被害者も、加害者も必ずその中にいる。でも今回は10年も前の犯罪で、ミス・マープルの行動も限られている。さらにもしマイクルの殺人罪が冤罪だったとしてどうするんだ?生まれつきのロクデナシを「好きなようにロクデナシ人生を歩ませるため」に釈放させて大丈夫なのか?
それでも悪の気配を見抜くミス・マープル。この殺人の背景になるのは「この世にある最も怖ろしい言葉である”愛”」のため。
ついに対峙した殺人犯人に告げる。「私の一つの名前はね、ネメシスっていうの」