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Posted by ブクログ
血縁とは呪縛のようなもの。時には自らの手で断ち切らなくてはならない。そして、人生はその人の周りを見ればその結果がわかる……。
タイトルの可愛さとは裏腹に、描かれるのは「シメオン・リーという老人がその人生で積み重ねてきたものの総決算」である。舞台はクリスマスを迎えるゴーストン館だが、温かな暖炉や家族団らんとは無縁で、集まった家族達の間にはギスギスした空気が漂っている。
屋敷の当主シメオン・リーは、家族の弱点や不満をよく知り、彼らの感情を面白半分にかき回すような老人だ。そんな彼のもとへ、ばらばらに暮らしていた家族たちが呼び寄せられ、やがて血なまぐさい事件が起きる。
登場人物は多い。名前をずらりと並べられると、途端に誰が誰だか分からなくなりそうだったが、それぞれの性格と配偶者がはっきり書き分けられているため、混乱はすぐにおさまった。個性はその話し方にも表れており、「ああ、いるいる! こういう人!」という説得力がある。
特に女性たちが魅力的で、賢く気配りのできるリディア、芯のあるヒルダなど、彼女たちの存在が屋敷の空気を支えている。
面白いのは、誰もが怪しいのに、誰も本当に殺人までしそうには見えないところだ。恨み、金、虚勢、嫉妬、過去への執着。それぞれに動機らしきものはある。しかし彼らを見ていると、彼らの奥にある弱さや愛情、良心も見えてくる。誰もが嘘をついているのに、その嘘が必ずしも殺人に繋がっているわけではない。
私は性格分析に気を取られ、最後まで犯人が分からなかった。
ポアロの人物評はなかなか辛口だが、人の本質を暴き立てるだけではない。誰が何を恐れ、何に縛られ、どんな虚勢を張っているのか。家族それぞれの隠された性質や弱みが言語化されたことで、ゴーストン館の空気が少し変わった。
ラストは事件中、ずっと張り詰めていた皆の空気が緩んでいる。
アルフレッドとハリーも、すぐに打ち解けることはできずとも、時間をかければいずれ笑顔でハグを交わせる関係になれる気がする。また、嫌われ者のシメオン・リーにしても、家族の性格や人間性を見抜く鋭い目があればこそ、あのような挑発ができたのだろうと思うと、彼の存在の歪な複雑さも味わい深い。
楽しいクリスマスとはいかなかったが、事件が一つの区切りになって、皆が前向きに進めるようになった。皆が意地を張ったり争ったりするのをやめ、相手と自分の欠点を認めたからこそだろう。自分から弱みを晒すのは勇気が要るが、ポアロによって本質を言い当てられたからこそ、彼らは長年の意地や葛藤を手放せたのではないだろうか。これならきっと、来年のクリスマスは楽しく過ごせるはずだ。
事件後のアルフレッドとリディアの会話からは、彼ら本来の穏やかさと互いを思いやる気持ちが伝わってくる。まるで二人を包む温かな空気に触れるようで、こちらも思わず口元が緩んでしまう。
いつも凄いなーと思うのは、各個人に確固たる意思と性格や背景から来る動機があること。これが文章の羅列である小説をミステリーたらしめてるのかも。
あとがきによると、実験的な作品でもあるらしい。たしかに、今まで読んだポアロものとは少し空気が違う。トリックもオチも挑戦的で、読んでいる間ずっと「どうも何かいつもと違うぞ?」と疑問符を飛ばしていた。
ああでも、こうなってくると、時系列順にアガサ・クリスティーの作品を追っても良かったかな……という気になってくる。シリーズの変化が追えて面白いかもしれない。
「血なまぐさい事件を」という依頼で書かれた作品とのことだが、血が多いだけで描写自体がグロテスクなわけではない。家族の不和、人物描写、クリスマスへの皮肉、そして最後に空気が緩む瞬間を楽しむ屋敷ミステリーだった。
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