Posted by ブクログ
2010年05月13日
ポアロ本人の口から言わせても、「失敗」となった事件。
それだけ犯人は実に手ごわい強敵だった。
ある魅力的な女優の願いを聞き入れ、偏屈な大富豪の夫に
離婚の交渉へ向かうポアロ。しかし、その夫は殺され、
疑わしい人間達には完璧なアリバイがあり、
調査が難航する内に再び悲劇は起こり・・・。
今回の...続きを読む作品では、いつもの作品以上に、
ポアロの大いなる混乱、苦悶ぶりが伝わってくる。
私も初めの方で、犯人が誰なのかわかった気になったにも
関わらず、読み進めている内に更なる疑惑や様々な疑問が
自分の中にむくむくと持ち上がり、最初疑っていた人間が
本当に犯人なのか、別にもっと怪しい人物がいるのではないか、
といった気持ちになって頭の中が混乱してきた。
最後まで、ポアロと同様、真実が見えず、
敵の狡猾な罠、様々な人間の実に身勝手な思惑に
大いに惑わされた。
タイプは違うが、大変魅力的でエキセントリックな二人の女、
そんな女達から比べるとやや情けなさを感じさせられる二人の男、
事件の重要な鍵を握るクールな秘書とメイド(こちらもやはり
二人の女)、多くの謎に包まれた二通の手紙・・・。
その他色々な小道具や関係者の登場に、
大いにポアロと私達読者は振り回される。
ポアロの灰色の脳細胞をもってでも
事件の解決にはまだまだ時間がかかりそうであったが、
ある日本当に偶然の出来事によってその答えは導き出される。
そんな運命の悪戯によって導かれていった物語の終盤が、
若干私には不本意に思え、すっきりと納得はできなかった。
偶然の手助けによって、ポアロの脳細胞に閃きが
与えられるのではなく、たとえもう少し時間がかかっても、
ポアロが自分が集めた一つ一つの手がかりを
パズルのようにはめ合わせて、
そこから浮かび上がる一つの事実に辿りつき、
自身の「灰色の脳細胞」を駆使して、
事件の真相を導き出してもらいたかった気がする。
そのような理由により、事件としては、結末が
少々自分的には不完全燃焼の感はあるものの、
ポアロが事件解決の目的を遂げるための過程(プロセス)、
個性豊かな多くの被疑者や関係者達との会話、
相棒のヘイスティングスをからかいつつ
相談している場面などは、いつも通り大変楽しめたと思う。