恩田陸のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『spring』のスピンオフ作品。本編より多くの視点から主人公・萬春と彼を取り巻く人たちのエピソードが語られる。そもそも本編が主人公以外の視点でも書かれていたので、その点では特に番外編っぽさを感じない。
各パートが短いことと、時間軸、視点がともにバラバラなので、あちこち話が飛んでいるようだけれども、読み終わると萬春という一人のアーティストの全体像が浮かび上がってくるように感じられた。
ただ、フランツとの関係がより深く描かれている点と、60代になった春が登場する点は良かったのだが、それ以外の部分は本編の「付け足し」のような話が多い印象だった。もっと別の角度からのエピソードを読みたかったと少し物足りなさが残る。 -
Posted by ブクログ
2026.04.29
「珈琲怪談」が思いの外面白かったので未読のこちらにも手を伸ばしてみました。
「最恐の幽霊屋敷」を読んだすぐ後に読み始め、何個かリンクするワードがあり、なんというか縁を感じました。
ロバートもだけど恩田さんは見目麗しく仕事もできるまたは由緒ある家系で金持ちの美男美女を出すのがお好きですね。
珈琲怪談と違ってそれぞれの章で多聞のパートナー(というか雑談相手)が変わってその時その時の小さい謎をゆるく追う、という短編集でした。
全章オジサン4人でゆるゆる旅行する短編集だと思ってたので、最後の章でやっとお馴染みの尾上と黒田が現れたのでホッとしました。
でもえっ多聞って結婚してたんだ…しかも最初の章で現れたフランス人?美女のジャンヌと…と衝撃笑。珈琲怪談ではその設定が引き継がれていなかったのでびっくり!
総じて珈琲怪談のほうが面白く読めました。 -
Posted by ブクログ
福岡県柳川市をモデルとしたと思われるフィクションホラー。美しい表現が恐怖を掻き立てる。
ミステリーかなと思って読んでいたらしっかりSFでびっくり。
堀割に面した家の住民が行方不明に。しかし皆数週間でひょっこり帰ってくる。行方不明中の記憶をなくして、、、
調べていくうちに、帰ってきた行方不明者は元の人とは異なる「何か」と入れ替わっているのではと気づく。
クレヨンしんちゃんの映画「踊れアミーゴ!」を思い出した。こんにゃくから作られたクローンが元の人間と入れ替わる。クローンは明確に元の人間と異なる自我を持ち、まだクローンと入れ替わってない人間を捕まえようとする悪意がある。そして元の人間は連れ去られただけで生きてる。だから偽物を排除することに疑問は浮かばない。
一方同じくクレしんの「ロボとーちゃん」は、しんのすけの父ひろしの記憶と人格をそっくりそのまま受け継いだロボとーちゃんが出てくる。身体がロボだがそれ以外は元の人間のひろしと全く同じであり、家族も社会も「ひろし」として受け入れる。しかし人間のひろしは敵に捕まっただけであり、ロボに変わったわけでも消えたわけではない。本物のひろしと、見た目がロボであること以外オリジナルと同じなロボとーちゃん。同じ存在が2つになってしまうことはきっと正しいことではない。しかし、ロボとーちゃんを偽物として排除していいのか、子供向け作品とは思えないほど残酷な問いかけをしてくる。
この作品に出てくる「何か」は元の人間と同じ自我で、同じ記憶を持ち、入れ替わったことも気づかない。元の人間はおそらく消える。体の組成が変わり火葬すると骨が残らないらしいが、それ以外は何も変わらない。気づかなければ誰も不幸にならない。
では、この入れ替わりは無視できるような事象なのか。知ってしまった我々は何も感じないのか。そんなわけないが、なぜそんなわけないのか。何に恐怖感を感じるのか。
「スワンプマンの思考実験」なんて話がある。ある男が沼の近くで雷に撃たれて死んでしまう。死体は蒸発し跡形も無くなってしまう。しかし同時に奇跡的な反応が起き、沼から男と全く同じ分子構造、記憶、人格を持つ人間が生まれた。果たしてこの人間は元の男と同じ人間と言えるのか。
では、もしも死体が消失せず残っていたら?男が一命を取り留めて同じ人間が2人になってしまった場合は?男とは全く関係のない国の沼で雷が落ちて男と同じ人間が生まれてしまったら?
この物語はそんな我々のアイデンティティの不安定さを突きつけてくる。