恩田陸のレビュー一覧
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『黒と茶の幻想』(上) 恩田陸
『黒と茶の幻想』(下) “
読み手を引き込み一瞬も気を逸らせない凝った構成の物語だ。登場人物の微妙な心の動きはキレよく丁寧な文章で迫ってくる。自分の一回り後の世代が人生半ばにして棚卸しの中間総括をする話だ。
仲の良い男女4人の同期生が大学卒業後、仕事も家庭も一段落したところで、一緒に屋久島(小説上は架空の島)に3泊4日の旅行をするという設定である。
樹齢千年の古代杉など島の自然の息吹に触発されて、彼らが体験し交差した学生時代までを反芻する。
四人がそれぞれ章ごとに主語で回想を巡らす。
利枝子は小さい頃から美人で聡明、皆の憧れの的であった。今は結婚して平穏な生活を送っている。学生時代蒔生の恋人だったが、彼女の大の仲良し憂理と付き合うと宣告され関係が終結する。その時の蒔生の真意、その後の憂理について知りたいことを心に秘めて参加する。滝に吸い込まれる感覚に惹かれる。
彰彦はこの旅行の企画者で各々の意向を踏まえスケジュールや盛り上がる工夫をする。経済的に恵まれ銀のスプーンを咥えて生まれた頭抜けて美しい好男子である。蒔生のことが好きで同性愛を思わせる親友だ。
姉の紫織は弟の友達に手を出し関係を持つ癖がある。
最近結婚した妻はノーブルな美女で物理学者だ。
蒔生は若い頃から典型的な優等生タイプのエリートである。利枝子とは高校・大学と回りが羨むほど似合いのカップルであったが、突然憂理と付き合うため一方的に別れを告げる。
その頃は紫織と欲望に任せた肉屋関係を続けていた。
「紫織は彰彦の代用品として俺を抱き、憂理は利枝子の代わりに俺と寝た。俺はいつも誰かの代用品であって、俺自身ではない」と自分の世界に浸る。
他人の目は気にせず、考えていることの説明はせず、結論を行動で表すいわゆる自分勝手な性格だ。
結婚して子供が一人いるが、半年前突然一方的に離婚し、今は一人暮らしをしている。
断崖から飛び降りる衝動を回りから諌められる。
節子は幼少期の内籠りの反動で誰にでも打ち解ける開放的な性格である。小さい頃から蒔生は憧れの的で、幼馴染の友達利枝子と二人の組み合わせには納得であった。かつて蒔生が憂理を殴る場面を目撃する。
今は企業の女性管理職として活躍中である。
結婚して子供もいるが夫はガン闘病中で余命幾許もない。医療費の伝票整理を彰彦に見られるが、そのことは言わない。生きることに敏感だ。
四人は森の巨大杉を目指した登山の途中や帰ってからの食事会や部屋飲みで、お互いの過去を再現し当時の気持ちや真意を曝け合う。時の経過と視点の違いでいろいろな事実も発見し新しい思いも生まれる。
過去を語り合い明日からの生きる糧を培う。
10年後51歳の再会を約して旅行を終える。
作者と同世代の話で、こんな風に彼女も生きてきたのかと思わせる。彼らに混ざって泣いたりはしゃいだりしている姿が想像できる。
「愛すること」「人間の品格」「生きること」など作者の思いが全開で、この年頃迄に遭遇する殆どのことが網羅される。
女性作家が繰り広げる世界は人の心の機微を刺激し束の間の擬似体験を味あわせてくれる。
恩田陸の作品らしい爽やかな長編の傑作である。 -
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遊郭「墜月荘」に暮らす「私」には、名前も、生年月日も、そして自分が男なのか女なのかさえ分からない。
三人の「母」に囲まれながら、「交流部」や「料理部」など、館の中で繰り広げられる異様でおぞましい出来事を目にし、経験していく「私」。その無垢ともいえる視線を通して描かれる人間の欲望や狂気、そして少しずつ揺れ動いていく感情が、何とも不気味で、それでいて美しい。
読み進めるほどに、「私はいったい何者なのか」という疑問が膨らんでいく。そして最後に明かされる、その正体――。ここで物語の景色が一変する。思わず「そういうことだったのか」と唸らされる衝撃の結末だった。
本作が『鈍色幻視行』の中に登場する「作中作」であり、断片のまま終わらせるには惜しいと感じた恩田陸さんが、一つの作品として完成させたものだというのも興味深い。実際、『鈍色幻視行』では、この『夜果つるところ』という小説そのものをめぐって、さまざまな人物が語り、解釈し、謎を深めていく。
『鈍色幻視行』を読んでから『夜果つるところ』へ進むのか、それとも私のように『夜果つるところ』を先に読むのか。どちらからでも楽しめる仕掛けになっているようだ。
期せずして後者となった今回は、まず「物語の中の物語」を旅したことになる。
さて、これから『鈍色幻視行』へ。
『夜果つるところ』で感じた違和感や謎が、今度はどのような形で浮かび上がってくるのだろうか。
恩田陸さんが仕掛けた、もう一つの「旅」の続きを、しばらく存分に楽しみたい。 -
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上巻では、ピアノコンクールを文章で味わう体感に新鮮さと驚きを感じたが、後半戦になるとやや中だるみ感が否めず、読みながら何度も眠気を感じた部分があった。
本戦の前のリハーサルのエピソードなどは物語のアクセントになっていて良かった。
ホフマンのメッセージと、弟子に課した課題は、作中で消化されたような、やや腹落ち感が欠けるような感覚ものこった。
登場人物については、本当によく考えられ、厳選され、一人ひとりの感性までもよく掘り下げられており、作品に厚みを与えてくれている。
また、解説を読んでもわかる通り、音楽を文学に落とし込むというのは相当な工夫と努力が必要だったはずで、その点は、すごいのひと言に尽きる。 -
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ネタバレ導入は毎年開かれるお茶会、クラシックなホテル、作り話のリレーが習慣の三姉妹など、独特のミステリアスな雰囲気が感じられて良かった。
姉弟の出生の秘密、
両親の死の真相、
顔が潰された謎の死体の真相など、
姉弟の禁断の関係で序盤にプチ衝撃を受けていたのが馬鹿らしくなるくらいてんこ盛り。
一番の隠し事をしていたのは丹伽子だったが、それにしたって施設を抜け出してなんとお騒がせな笑
知られずに終わる形もあったかもしれないが、それまでにバレていた可能性もあるし、良くも悪くも区切りがついて良かったのではないか。
巻末にて、著者のインタビュー
子供時代や、社会人になってからのエピソードなど -
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【短評】
第156回直木賞及び第14回(2017年)本屋大賞を受賞した傑作『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ小説。六つの掌編からなる作品群と、作者による音楽エッセイで構成された一冊である。『祝祭と掃苔』『獅子と芍薬』『袈裟と鞦韆(ブランコ)』『竪琴と葦笛』『鈴蘭と階段』『伝説と予感』の六編が収録されている。
本作は、風間塵や栄伝亜夜を始めとする数々との登場人物との再会を喜ぶ趣のお話と、これまでとは違う側面から「音楽」を描くお話に二分される。前者はファンサービス感が強く其処まで心躍るものではなかったが、後者は素直に面白かった。作者の「音楽」に対する造詣の深さが垣間見える。
特に気に入ったのは『袈裟と鞦韆』及び『鈴蘭と階段』である。『袈裟と鞦韆』は作曲、『鈴蘭と階段』は楽器選びをテーマとしている。前作の濃密で降り注ぐような音楽とは毛色が違うが、音楽に向き合う人々の姿が活き活きと描かれており、また違った趣があった。音楽を描写するって凄いなあという強烈な感動は本作でも健在である。全体として、派手さはないが、堅実である。
①祝祭と掃苔 ★★★☆☆
風間塵、栄伝亜夜、マサルが亡き先生のお墓参りをするお話。良くも悪くも導入であり、キャラクタが再び躍動する喜びが先行する類の作品だ。最終盤、風間塵が空を振り仰ぐ描写は、はっとさせられる美しさがあるが、残念ながら、そこに込められた意味までは読み取ることが出来なかった。
②獅子と芍薬 ★★★☆☆
相変わらずピアノ演奏の描写が巧いなぁ。音が押し寄せてくるような表現は圧巻。
とは言え、そのへんは残念ながら傍流であり、物語は無難に着地した印象。
③袈裟と鞦韆 ★★★★★
本作のベスト。前作の課題曲「春と修羅」の誕生を描いた物語。早逝の作曲家が見た音楽とは。ホップ畑という原風景と宮沢賢治の詩が重なり合い、音楽を生み出す。それを、弔問に訪れた老作曲家が夢想するという展開が技巧的。良い景色を見ることが出来た。
④竪琴と葦笛 ★★★★☆
音楽の世界を拡げるマサルの物語。ジャズと邂逅を果たしたマサルが受けた衝撃が印象的。只の神童に終わらないマサルの天性と強かさのバックボーンが描かれている。この辺りの話を読んだうえで前作を再読してみたいと思った。
⑤鈴蘭と階段 ★★★★☆
楽器選びというチョイスに舌を巻く。掌編にうってつけの題材だと感心した。
ヴィオラ一、ニ、三の音色の違いを言葉に出来るって本当に凄い。凄いしか言っていない気もするが、本当に凄い。あるべき人間の手に楽器が渡るような運命的な展開も実に好みだった。
⑥伝説と予感 ★★★☆☆
余りに短いため、評価不能というのが正直な感想。風間塵の天才性の一端を垣間見るお話である。
あとがきを拝読する限り、シリーズは打ち止めなのかしら。
佳作揃いの本作であったが、やはり打たれるように音楽に浸る前作の体験をもう一度、という思いは強い。気長に待っております。是非とも。