恩田陸のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
まるで失いかけていた青春時代を、そっと追体験させられるような一冊でした。
当初は「ただ夜通し歩くだけの物語で面白くなるのだろうか」と懐疑的でしたが、読み終えた後はどこか切なくも満たされる、温かな読後感に包まれました。
本作には、事件らしい事件は起きません。しかし、主人公の西脇融と甲田孝子の心の中では、夜の静けさとは裏腹に感情の大きな荒波が打ち寄せています。緻密な人間描写によって登場人物の思考や感情がくっきりと立ち現れ、彼らの心の動きを克明にイメージできる点こそ、この作品の最大の魅力です。
さらに、進学校の生徒らしい知的な言葉選びや会話が学生時代の空気をリアルに再現しており、まるで自分自身の青春を疑似体験しているような感覚に陥りました。
ただ集団で歩くからこそ生まれる、自分自身との対話。非日常の高揚感があるからこそ明かせる、胸に秘めた会話。大人になると、こうした時間は意識しなければ決して手に入りません。スマートフォンと睨めっこする日常から少し離れ、時には自問自答したり、大切な人と腰を据えて語り合ったりする時間が必要なのかもしれない。そんな気づきと、確かな幸福感を与えてくれる名作でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ多聞の出てくるシリーズは、『珈琲怪談』、『不連続の世界』、そして本作と、刊行順と逆に読んでしまいましたが、直接ストーリーが続いているわけではないので普通に楽しめました。
本作は結構SFっぽい話だったなと、僕は個人的には思います。真相については受け取る側にある程度委ねている部分もあるのかなと思いました。結局、箭納倉で起きた一連の失踪事件はなんだったのか(何者の仕業か、人間もどきってなんだったのか)について明記されていないので。
ハッキリとした真相が知りたいって思うタイプの方はモヤモヤするかなと思います。
でもやっぱり恩田陸さんの文章力ってやっぱりすごいんだなとひしひし感じました。僕としても若干のモヤモヤはありますがストーリーの持っていき方には面白さを感じました。読んでて真相がわかりそうな気になりつつもやっぱりよくわからない、どんどん読み進めるけど真相はわからなかった。でも満足感のある読み応えでした。
ストーリーに直接関係ないですが、協一郎と多聞がやっていた文学しりとりが楽しそうでした。今度僕もやりたい。 -
Posted by ブクログ
2005年本屋大賞&2004年吉川英治文学新人賞。
ずっと積読となっていた本書。直木賞の『蜜蜂と遠雷』で大ファンとなった恩田陸さん。読む前からワクワク。
高校三年生の学校行事、歩行祭。朝から翌朝まで、休憩と仮眠を挟みながら、80キロ超を歩く。
その間、二人の主人公、融(とおる)と貴子(たかこ)は話をできるだろうか?
たった一日、それだけのテーマで、ここまで面白くできる恩田陸さんに脱帽。
これはロードムービーだ。
高校の同級生とひたすら歩く。会話しかすることがない。噂話もはずむ。
景色は変わる。千二百人もいるので、ともに歩く人、会う人は変わる。景色も変わる。疲労や感傷で、見える世界も気持ちも移り変わる。
年に一度しかなく、三年生はこれが最後。否応なく思考はめぐる。去年のイベントや高校生活を振り返り、後悔や葛藤もする。
最初、融が好きじゃなかったけど、次第に嫌いじゃなくなっていった。貴子は好きでも嫌いでもない→わりと好きになった。仲間たちの忍や美和子、みんないい。
名作ですね。 -
Posted by ブクログ
私が子どもの頃、読書というのは賢くなるための手段の一つだと考えていた大人が、私のまわりには結構いた。
なので、楽しいから本を読んでいるだけなのに、「えらいね~」とよく言われたものだ。
この年になって、賢くなるために本を読んでいたわけではないにしても、本を読んでいたから知識がついたことは否めないし、知識があれば物語の解像度が上がって、余計楽しくなることも判ってきた。
だから、この多読なうえに広範囲のジャンルの本を読む恩田陸は、私の何倍も物語を楽しめているんだろうなあ、と思う。
今回、上橋菜穂子の『精霊の守り人』の文庫解説を読んで、膝を打つ思いだった。
「モノが違う」。
巷にあふれている異世界物の小説。
異なる世界を一から構築することは、作家みょうりに尽きるのかもしれないけれど、これは相当に難しいミッションである。
ゲームのようにアイテムが用意されていて、好きなように並べればいいというようなものではない。
その世界の文化は、歴史は、何をもって特徴とするか、その中で登場人物たちはどう生きるのか。
毎日ネットの無料マンガをちびちび読んでいる。
今は毎日3作品。
おすすめで紹介されたもので絵のきれいなものを読むと、毎日「無料チャージされたよ」とお知らせが来るので。
たまたま今読んでいる3作品は、どれもが異世界の貴族令嬢に転生していて、魔法的な能力を持ち、家族は機能不全で、髪の毛はピンク。
毎日読んでいるけど、今一つ区別がつかない。
そんな張りぼての異世界ではなく、もしかしたらどこかの並行世界に本当にあるかもしれないような臨場感を持った異世界が、上橋菜穂子の書く作品だと思う。
誰もが彼女くらいかけねばならない、とは思わないけれど、もう少し異世界を構築することの意味というか、世界について勉強してほしいと思う。
これは、異世界だけではなく、最近はやりの、ふわふわした口当たりがいいだけの現代小説の書き手にもそう思っている。
まだ20代の若手ならまだしも、ヘタすると私と同世代でこの程度か…とがっくり来ることが多くて。
あと、若竹七海について書いている文章の中に、コージー・ミステリに必要なのが、「ちょっとした悪意」というのに目ウロコでした。
これはいやミスのあからさまな悪意とは別物で、エレガントなコージー・ミステリに不可欠なもの。
アガサ・クリスティやドロシー・セイヤーズあたりの作品に特徴的な。
ああ、読みたい本がまたどんどん増えてしまう。