小川哲のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
表題作の中篇を含む6篇の短篇集。また、時間を題材にした作品集でもありました。
どれも良かったですが、特に気に入ったのが
『魔術師』『ひとすじの光』『嘘と正典』です。
『魔術師』
売れっ子マジシャンとして大成した父は、積年の夢だった「魔術団」を結成します。しかし、天才的な演出力や演技力があっても、事業を取り仕切る才に欠け、借金を重ねて零落し、ついには妻と離婚して姿を消します。
ある時、再び表舞台に復帰した父は、僕と姉を公演に呼び「仕掛を見破って、恥をかかせたくないか?」とマジシャンになっていた姉を挑発してきます。はたして、父の人生を賭けたタイムトラベルマジックは本物なのか…
マジシャンがや -
Posted by ブクログ
上巻を読み終わり下巻を開いた時には、いきなり30年以上経った現代に飛んでいて少し不安にも思ったが、それは杞憂に終わり、上巻同様に楽しめた。脳波を計測して遊ぶゲームなど、SF要素が出てくるものの、人生や社会が物語のメインテーマであることは変わらず良かった。ムイタックが提示する「人生」と名づけた数字を選ぶゲームはシンプルながらメッセージ性が強い。
最後は唐突に終わった印象を受け、そこが少し残念ではあった。下巻から登場する人物も多く、日本人のNPO職員が語る途上国支援のあり方の話は興味深かったものの、本筋には深い関係はなく、そこにページを割くよりは最後をより深く描いてほしかったとも思う。
とは思 -
Posted by ブクログ
舞台は1956年〜1978年のカンボジア。ポル・ポト率いるクメール・ルージュの誕生から支配までを背景に、一市民や秘密警察官、クメール・ルージュ幹部など視点を変えながら、その時代を描く。
クメール・ルージュのことは概要しか知らなかったものの、著者がまるでこの土地、この時代を生き自身の目で見たのではないかと思うほど情景が精緻に描かれており、殺戮や拷問などのおぞましいシーンがありつつも(とはいえそれほど長くもない)、引き込まれるように読んだ。
中には、輪ゴムで未来を予知する村人や、泥を操れる村人など特殊能力を持った人物も出てくるが、さほど物語に重大な影響を及ぼすのでもなく、個人的には余計に感じて -
Posted by ブクログ
ネタバレ登場人物たちのセリフには、欧米の翻訳風コミカルさとは異なる、独特な言い回しの癖を感じた。だが、小川先生の作品を2〜3冊読めば、その違和感も自然と馴染んでいく。本書は、小川先生の2作目の作品である「ゲームの王国」に比べると、やや表現が固い印象がある。
「アガスティアリゾート」。個人情報を全て都市に提供する代わりに衣食住・文化活動の保証を得られる完璧な管理都市。働くことも、悩むこともしなくて良い、一件ユートピアに見えるこの都市で、登場人物たちは疑問を持ち葛藤する。
「ユートロニカのこちら側」が出版されたのは2015年。管理都市のようなシステムをAIとして捉えると、Siriや検索予測のような技術 -
Posted by ブクログ
ネタバレカンボジアを舞台にした混乱、残虐の時代を乗り越え、理想をかかげ時代をつなぐ物語。前半の悲惨な時代はかなり事実に近いのだろうか。ほんの数十年前にこんな悲惨なことが起きていたのかと思うと胸が痛む。ところどころにファンタジーやユーモアがあってよい。後半はまさに今現代でChatGPTとかAIを彷彿とさせるSFあり。章に日付が書いてあるのだが、色んな伏線が散りばめられていて、時系列に並べるとこういうことだったのかと話の構成の素晴らしさに感服させられたが、多分全部は理解できていないと思う。歴史のことのみならず、インテリジェンスにおいても、心のソウルにおいてもとてもよかった。この作者は天才だな。