あらすじ
SNS上のカリスマアカウント〈スメラミシング〉を崇拝する覚醒者たちの白昼のオフ会。参加した陰謀論ソムリエ〈タキムラ〉の願いとは──? 壊れゆく世界の未来を問う、黙示録的作品集。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
初めて小川哲の作品を読まれる方にはおすすめしません。なんだこいつ、って感想になりかねない。そういう本でした。
「ユートロニカのこちら側」を読まれると良いと思います。そうして水が合った方向け。
一歩引いて飄々とした作風から一転して、熱量のある作品たちでした。
いつも根底に哲学的な姿勢を取られますが、それがいつになく強く、キャラクターより構造を重視したものになっています。ですので読後感はすっきりしません。しかし咀嚼していくに従って、この単行本そのものが小説のていをとった哲学論だという理解をすると、腑に落ちる気がします。
虚構を信じる力に善悪はない。貨幣経済や信仰をはじめとした道徳という実体のない虚構を信じることは文明を発展させる源であるが、人々を分断させ憎しみ合わせることもできる。両義性あるその力こそが、人類の優れた才のひとつである。
そういう受け取り方をしました。どうでしょう、バラモンになれますか?(笑)
こういう読み方自体が術中なんだろうなぁ。
……うん。考えたら疲れたので、砕けますが。
コロナ禍前後で、色々思ったり傷付いたり腹立ったりしたのかな。
大なり小なり、みんなあの時期には色々思ったけど、小説家っていう職業であるからこそ、そしてヴィトゲンシュタインに文転させられたような人だからこそ、言葉が人を断絶させるっていう状況下にめっちゃ物申したかったんかな……。
そういう意味では、ここまで思想で殴ってきたのは、小川哲の生の感情の現れなのかなあとか。思ってた以上に苛烈な人なんかな、とか。って思わせるのも手法なのかなぁ。
色々余計なことを考えたりなどしました。
一番のお気に入りは「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」。仮説を立てること自体が神という虚構を信じるということ、文面にされるとくるものがあります。フィクション全肯定じゃん。思わず泣きました。ありがとう、小説読んでて良かった。
Posted by ブクログ
小川哲の最新短編集。表題作「スメラミシング」を含む歴史、SF、数学、宗教を縦横に駆使した、言葉と物語による創造と救済、支配と欺瞞の世界の記録。
面白かった。表題作「スメラミシング」をはじめ、「なぜ人は理由や物語を求めるのか」というテーマが通底する短編集だった。中でも「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」が印象的。
科学至上主義を掲げる国家・理国を舞台に、神や信仰を否定する体制のなか、叙事詩の矛盾を暴く書簡形式で物語が進行する。
ヴォネガット『タイタンの妖女』を思わせる壮大な構成と、理性と感情、客観性と直感が人間を形づくるという主題が胸を打つ。科学も信仰も“物語”として人を導くのだと感じた。
Posted by ブクログ
“宗教と科学”
相反することでも相対することから、何かしらの関連性を感じさせること
6編の物語では「過去」「現在」「未来」を行き来しながら、信仰することと探求することが線を引くことのできない間柄であるように感じてくる。
『ゲームの王国』でのナイフのような感覚から少し滑らかにはなったけど、どこか金属的な味のする作者の物語
これからも読み続けそう。
Posted by ブクログ
小川哲は本当に作風に幅があって驚く。キリ教出身なので、神とか宗教とかテーマの短編集は見逃せない。お気に入りは、七十人聖書を巡る宗教裁判「七十人の翻訳者たち」と、天皇を運ぶ家柄の配達員「密林のモガリ」。表題作も雰囲気がかなり好き。
Posted by ブクログ
高尚すぎて、理解できているかは言い難いが、自分なりにこの作品から切り取ったことがいくつかある。まず、コロナウィルスやワクチンに対する陰謀論的な見方、本当にそう思っているのか?防衛からくる心理なのか?など、思想の根本はどこにあるのだろうと考えさせられた。
また、『神についての方程式』が、ひいお爺さんの話の真実を追求するというテーマのもと、宗教や神の存在を数学を使って論じるところが魅力的だった。実数を0で割ることの意味について、社会と結びつけて考えたことなどなく非常に興味深かった。
ラストの『ちょっとした奇跡』も好みだった。 SFの世界にロマンティックな要素が少し感じられるところが良かった。
Posted by ブクログ
神とか信仰をテーマした小川哲の短編集
テーマを絞っているようで、取り上げている題材と描かれている知識は膨大。まずはその情報量というか知識を浴びるのが楽しい。
短編なので基本アイデア勝負なんだけど、伏線張って回収していくこともきちんと押さえている。ただ、短編故の説明余地の少なさで、落とし噺のようにすっきり治まる話もあれば、難解のまま終わってしまう話もあって好みも分かれると思う。
聖書の解釈を巡る冒頭作で「なんじゃこの情報浴びせ系」と圧倒させておいて、SF感動譚の最終話でほっこりさせるという構成は良い。難解度的に、掴みはOKで始めるのも手だが、いきなり関門ガツンで最後ユル目ってのも1冊全体通すと好印象なんだなぁと。
Posted by ブクログ
「神」に向き合う「人」の短編集。
神というのはそれを求め、正対する人が少しずつ触れる輪郭の集合である。
そういう意味では人を通してしか神は見えない。神学者を通しても、天皇に使える一族を通しても、陰謀論者を通しても神は見えるのだ。
Posted by ブクログ
12月に予約し、やっと手元へ届きました!
私が積極的に手にとるようなジャンルではなかったですが、久しぶりな感覚になりました。なんだろな・・・?
色々な世界というか 感覚というか
読み進めていて面白いなとなりました。
Posted by ブクログ
難解だったけどぼんやり言いたいことが伝わるような、新しい読み味でした。星新一の短編集をもっと難しく、現代風にした感じ?最初の話からなかなか攻めてて面白かったです。
Posted by ブクログ
全体を通して、陰謀論に関するインターネット社会の裏の顔が垣間見れた。というのも、インターネットで検索すればいくらでも情報が手に入るが、裏を取ることはほとんどしていないであろう。今アクセスできる情報の信憑性はどれぐらいだろう。ということは、陰謀論を広めようと思えば簡単に広がってしまうのではないか。そんなインターネット社会の裏の顔を心に留めた。
陰謀論を全く信じず、神様の存在にフタをしている私は、この本を面白がれるほど人間ができていない。ノーと言えず、社会に流されてしまう私では。
今何かを頑張ってる人、純粋な人、実直で素直な人の、視点の幅を広げる一助におすすめしたい一冊であると感じた。
〈七十人の翻訳家たち〉
・事実と言い伝えの相違が、危うさを生んでいるのだと感じた。
・歴史を紐解くには、書物や伝言でしか伝わらないため、道筋を開くためには想像するしかないことを学んだ。
・こうでなくてはならないとか、これでなくてはならないとか、綺麗な数字であるはずとか、神様の法則に従っているとか、あんまり関係ないんだなと思った。
〈密林の殯〉
・対比がこの上なく素晴らしい。主人公の職業である運送業(配達員)と、殯(天皇が亡くなった時に、死体を運ぶ職)の対比、生と死(風俗と殯)の対比、送る人と受け取る人(荷送人と荷受人)の対比。私が感じたいくつもの対比を、素晴らしい配置で構成されていることに対し、尊敬の意を表したい。
〈スメラミシング〉
・ツイートという、何の信憑性もない、裏付けのない文字の羅列で、人間はこうも簡単に信じ込んでしまうのだなと思った。
・職場の環境を良くすることで職場の人間関係が良好になることは、なんとなく理解できる。ただその中に入れない人も一定数存在していることを念頭に置くべきであると感じた。
〈神についての方程式〉
・数学や物理学と神学を結びつけるところがリアルだと思った。
・この物語がフィクションであることは後々明かされるが、将来の予測としてリアルさが精緻だった。
・内容を掴みたいけど掴みきれない魅力がある作品であると感じた。
・人類は宗教にどれだけの時間とお金を費やしただろう。因果関係などないのに、神様に
自分の努力やたまたま発生したことを、神様のおかげにする。冷静に考えると歪であると感じた。
・ニュース記事を読んでる意識で読めた。難解な話題、言葉、単語が豊富に出てくるが、読みやすいのは、素晴らしい技術だと思った。
〈啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで〉
・約30ページの作品だが、3回読み直しても30%ほどしか理解できなかった。
・神の存在を論証で証明されてしまうことを巡り、物語が進んでいく。
・人名、地名がカタカナであり、出てきたカタカナ語がどちらか分からなくなる部分があり、集中できなかった。
・もう少し理解力、読解力を上げて、再挑戦させてもらいたい作品だった。
〈ちょっとした奇跡〉
・2つ目の月が出現し、地球の自転が遅くなってしまう。その影響で、人類は地球を赤道に沿って動かなくてはいけない。
・ラブ要素が多めなので、スメラミシング全体でも非常に読みやすい作品
・地球の自転を止めるために2つ目の月を設定したことが、素晴らしいと感じた。
・タイトル通りちょっとした奇跡が起こることが、とってもよかったと引き込まれる作品
Posted by ブクログ
自転が止まった地球を2つの船が昼と夜の境目をぐるぐる回ってる話が一番好き
ネットの陰謀論者のオフ会の話は反政府的な思想を持ってる人が自分が信じてる人の言葉は何も考えずに鵜呑みにしてるセリフがあって、こういうのあるよな〜ってなった
嫌われてる上司のネット右翼アカウントを晒す計画のキベノミクスがどうなったのかも気になる(木辺さんはその上司から一目置かれてる主人公の事も陥れようと計画していた感じでかなりイヤだった)
Posted by ブクログ
なかなか尖ったコンセプトの短編集。
どの作品もまず設定が面白い。「スメラミング」「ちょっとした奇跡」が好き。設定は「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」が好き。
Posted by ブクログ
神にまつわる短編集。
作者のこの手の話はコントの台本みたいで面白い。(ツッコミがなく置いてきぼりにされるところも新しい感じ。)小ネタも散りばめてるし。特に「神についての方程式」なんか、令和ロマンの漫才かよ。
最後の「ちょっとした奇跡」はラブストーリーで素敵だった。ちょっと雪舟えまみたいで。
Posted by ブクログ
6つの短編。それぞれ別の話。だが共通した感じが。宇宙や歴史や神などの深遠な世界と、卑近で具体的な世界が併存する奇妙な感じ。一番好きなのは第6話の「ちょっとした奇跡」。
Posted by ブクログ
帯の裏、「この世界は末期です。全部壊さないといけません」
強い言葉で引用されているが作中の展開に大きい展開はない。
内容は中々に難解で、複雑な科学用語に陰謀論の元となる要素が入り混じるので分かりにくい。ある種、現実の陰謀論もそんな感じなのかもしれないがそこは分からない。
ある作品こそ清涼感のある終わり方だったが、帯にあるような『弩級エンタメ』作品ではない思想的作品と感じられる事は言っておきたい。
少なくとも一般大衆向けのエンタメではないということは。
Posted by ブクログ
『地図と拳』、『君のクイズ』、『君が手にするはずだった黄金について』と読んできた身からすると「どした?」という感じが否めないのが正直なところ。
ただ、元々がSF作家とのプロフィールだったり、書き下ろしというわけでもなく、それなりの期間で様々な掲載先に掲載された短編を集めてきたもので本作が出来上がっている点なんかも考えると、本当はこういう把みどころがないような物語が書きたいのかなー、なんて思ったりもする。
宗教(歴史あるものもあれば、危うい新興思想のものもある)、神なるものをテーマとした6編からなる短編集。
登場人物や世界観は全く重ならないが貫くテーマがある。
小難しい理屈、理論、設定の中に潜ませる警鐘、皮肉、視座は暗に仄めかしすぎていて何が伝えたいのかわかり難い部分もあるが、なるほどーと思えるような着眼点、よじれがあって興味深い。
もっと簡単に書いてくれればいいのにと素人目線では思う。
最後に人間くさい「ちょっとした奇跡」をもってきたところは作品全体がきゅっと締まって、編集の力を感じた。
ただ、「密林の殯」はちょっと悪ノリが過ぎるような気が。
Posted by ブクログ
宗教とか思想、多方面から苦情が来そうな内容を書ききりましたね。難しいので、合わないひとはほんの数ページで読むのをやめるのではないでしょうか。
最後は大衆向けのSFです。もう一つの月ができて自転がなくなり極零下の暗闇と灼熱の極光の世界になった地球を生き残るために二つの船が限られた資源の中、奇跡が起きない限り、数千年で資源が尽きる運命の中、ルールを調整しながら生きていく世界のちょっとしたロマンスを込めて。この一作がなかったら、この本は・・・
Posted by ブクログ
何を言うてるの?という話が半分くらいだったけれど、陰謀論だったり、宗教だったり、神だったり題材が自分の関心というか不思議だと思うことと重なっていて、自分はそっち側になることもあるし、その逆側になることもあるんだけど、それを俯瞰して読めることが面白かった。
小川哲さん、「君が手にするはずだった黄金について」で初めて読んで好きになって、「君のクイズ」も面白くて、期待に胸を膨らませてこの本を手に取った。でも最初から読みづらすぎて全然入ってこなくて、無理だと思って諦めちゃっていたんだけど、「地図と拳」ではまって読書熱が上がり、もう一回読んでみてよかった。特に最後の話がとても好きだった。
Posted by ブクログ
ふふふ、むずっw
難しくはあるんだけど、なんだろうな、好きなんですよね。
「七十人の翻訳者たち」
「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」
「ちょっとした奇跡」
あたりは、シビれますね。
脳みそ、活性。
実話?と思うくらいに作り込みがすごい。
Posted by ブクログ
これまで読んできたSFとかファンタジー作品とは次元が違うくらい、私にとっては新しく、不思議な作品だった。ものすごく描写が詳細だから、本当にあった、あるいは未来に起こりうる話なんじゃないかっていう。タモリさんの「世にも○○」みたいな、ぞわっとする感じ。
確かにすごーく難解で、哲学的で、数学とか物理の話とかでてきて、読み進めるのがすごーく大変だったけど。(何度も断念しかけた)
テーマになっている「神」の扱い方も各章で全くといっていいほど違っていて、いろんな視点で神を感じられた。
人類は遠い未来、どうなっちゃうんだろうね…。
Posted by ブクログ
難しい話が多くてちゃんと読めたのは本題のスメラミシングだった。出てくる登場人物みんな主人公含めいろいろあり、何があるんだろうこの後どうなるんだろうと展開が気になりページをめくる手が止まらなかった。
Posted by ブクログ
宗教、神といったテーマが多かった短編。哲学のような小難しさがあるので、この作品は好みが分かれると思いました。小川さんの文章力に完全に支配されてしまったと感じた一冊。
Posted by ブクログ
最初繋がっていくと思い70人の章を繰り返し読んだんだが、ショートだった。
やはり小川さんの作品は自分の能力の発揮のために試行錯誤していると思う気持ちは継続中。
最終的にどのジャンルに根を張るのか気になります。
今回は難解過ぎる哲学過ぎる苦手なものもあり(70人と神のやつ)→宗教辛みは私にとっては何光年も先のテーマだww
面白かったのは、啓蒙の光かな。これもちょいと神ネタだけど、サスペンス要素ありのSFで内容好き。
そうかというと、密林とかスメラミシングとか、少し狂喜がかった作品もあったりと色々盛り沢山であった。
小川さん博学ですよね。友人が言ってて真理なりと思うことがある。偏差値の高い人たちって勉強できるだけじゃないのよ。試験とかに不要な雑学的知識も物凄い持ってるのよ。頭よいので容量が大きく、色んな興味から探求しちゃって知識増えまくるんだと思う。八瀬童子とかもわたしゃ初めて知りましたヨ。
Posted by ブクログ
これはSF風純文学なのではないか。SFとして読むと私の好みではなかったが、純文学と言われたら納得してしまう。読解力には自信があったのだが、全体を通して難解だと感じた。
タイトルのスメラミシングは、コロナ禍での陰謀論をテーマにしていて収録されている他の短編より読みやすかった。陰謀論って専門用語が多いなと思ったが、よく考えるとビジネスも専門用語が多い。となると、用語が分からない相手からしたら私たちも陰謀論者の語りと同じように見える可能性もある。結局、用語で煙に巻かず、相手が分かりやすい言葉で論理的に話すことが大切なのだ。
Posted by ブクログ
色々な味の短編小説集。
天皇制やコロナ陰謀論や何だかムツカシイお話やSF恋愛ものやと、小川哲の頭の良さを堪能出来る一冊ではあるものの、阿保の私には付いていけないお話もあり、全体としては、そんなに楽しめなかった。
やはり小川哲は長編が良い。
ただ、ラストのSF恋愛ものは、切なくて良かった。
これを読めただけでも損はしてない。
星は3つ。3.4だな。
Posted by ブクログ
6編からなる短編集。
「文藝」が主ではあるが、発表時期も媒体も異なりつつ、そこはかとなくテーマが通底していて、面白い。
「神」、「宗教」を扱いつつ、そこに潜む虚偽や、なにかにすがらずにはおれない人間の愚かさを冷ややかを皮肉っているかのようなお話。
核となる、というか、どの物語も発端は、ここにあるのでは? と思う記述が下記;
「地球が誕生したのも人類が誕生したのも偶然だ。何億年、何十億年という時間をかけて、さまざまな偶然の連鎖の果てに、私たち人類は存在している。だが私たちはその事実に耐えられない。だからこそ神を創造した。自分が生きていることは必然なのだと考えようとした。私たちは幸福を求めているのではなく、理由を求めている。真実を求めているのではなく、理不尽で暗く、生きる価値のない現実を受け入れるための物語を求めている。昔からずっとそうだった。」
表題作の中にあるので、間違いないだろう。
その理由を求めたものが、「七十人の翻訳者たち」で扱った聖書であり、「神」の存在であり、その神的な存在、理由を何に求めるかで、「密林の殯」(天皇と神)となり、「スメラミイング」(新興宗教)、「神の方程式」(ゼロという概念)などと、理由、根拠をどこに求めたかを手を変え品を変えて綴られていく。
とにかく著者の博識ぶりに舌を巻くし、短編ゆえに、きっちりオトシマエを付けるまで深堀りせず、考えるヒントを与えるくらいのところで筆を収めているあたりが巧い。
一話めに持ってきた「七十人の翻訳者たち」の中で語られる、近未来の「物語ゲノムの解析」という発想が、実に面白い。
神話の体系を整理し分類したジョセフ・キャンベルの研究を持ち出すまでもなく、世界中に散らばる物語の原型が、旧約聖書だったり、古事記だったり、古き伝統に根ざしているということを、
「聖書を含むすべての物語には「ゲノム」があり、「適応と淘汰」がある。物語は「突然変異」を繰り返し、いくつかの個体が存在し、後代に残されていく。」
と、あたかもDNA研究に置き換えて語っているのは見事。
逆に、人体のDNAも、編集と編纂を繰り返し、時には書き間違い(突然変異)が発生し、それを正す「校正」の作業が入ると、まさに文章のごとしという話を『ことばの番人』(高橋秀実著)でも最近読んだばかり。
「全ての物語には過去に存在した物語の「ゲノム」が残されている。」として、近未来に、そのゲノム解析が行われているなんて、ゾクゾクさせられるが、そうなると、作家なんかは、ますます必要なくなるのではと思ってしまう。そういえば、著者は、『文藝春秋』でAIの可能性について一文もいつだったか寄せていたか。
行きつくところ、人は、嘘を信じることで生きていく生き物ということで、ユヴァル・ノア・ハラリの言う「認知革命」以降、あらゆる分野で、虚構を講じていく生き物だということが、この短編集を読んでいて痛感させられる思いだ。
虚構を構築した先になにがあるか?
「いいですか、私たちが出来事を語ろうとするとき、真実は消えてしまうのです。」
真実など必要ない、という、神の御宣託也。
Posted by ブクログ
神と宗教、信仰についての短編集。
特に好きだったのが『神についての方程式』『啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで』の2篇。
『神についての方程式』
これぞ小川哲。遠い未来、宗教が滅んだ後の世界。過去存在した最後の宗教についての調査録。数学に絡めて神を定義していく、「0」に秘められたロマン。頑張れば少し分かりそうなレベルから始まり、最後は分からないけどすごい気がする、に持っていく。自分が賢いと思っている人間が一番ハマるラインの宗教の解像度が高い。どこかに存在していたのか、あるいはこれから存在するのかもしれない。そんな実在性を持った物語こそ小川哲の真骨頂。
『啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで』
全体的にこれまでよりエンタメより純文学寄りの仕上がりかな。これまでの小川哲作品のようなエンタメ性を求めると少し物足りないかなと思いつつも世界観のリアリティは充分。
Posted by ブクログ
短編集6編
神や宗教、歴史あるいは真理に根元から切り込んで疑問を投げかけている作品が多い。
自転しなくなった地球で出会うことのない2隻の船で航海する「ちょっとした奇跡」が良かった。
Posted by ブクログ
これでこの作者の作品2つ目。どうも、この作者は自分にイマイチ合わない気がしてきた。難易度の高い、博識な人しか知らないような知識がバックグラウンドにあって、そのうえでテーマがある。テーマが身近なものならスッと入ってくるが、テーマも高度だとちんぷんかんぷん。
それでも、表題作「スメラミシング」と「ちょっとした奇跡」はまだ分かりやすかった。あとの4つは頭の上で「?」が踊り、読み進むのが遅くなった。自分が無知無学なのかな〜