あらすじ
SNS上のカリスマアカウント〈スメラミシング〉を崇拝する覚醒者たちの白昼のオフ会。参加した陰謀論ソムリエ〈タキムラ〉の願いとは──? 壊れゆく世界の未来を問う、黙示録的作品集。
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Posted by ブクログ
小川哲の最新短編集。表題作「スメラミシング」を含む歴史、SF、数学、宗教を縦横に駆使した、言葉と物語による創造と救済、支配と欺瞞の世界の記録。
面白かった。表題作「スメラミシング」をはじめ、「なぜ人は理由や物語を求めるのか」というテーマが通底する短編集だった。中でも「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」が印象的。
科学至上主義を掲げる国家・理国を舞台に、神や信仰を否定する体制のなか、叙事詩の矛盾を暴く書簡形式で物語が進行する。
ヴォネガット『タイタンの妖女』を思わせる壮大な構成と、理性と感情、客観性と直感が人間を形づくるという主題が胸を打つ。科学も信仰も“物語”として人を導くのだと感じた。
Posted by ブクログ
神とか信仰をテーマした小川哲の短編集
テーマを絞っているようで、取り上げている題材と描かれている知識は膨大。まずはその情報量というか知識を浴びるのが楽しい。
短編なので基本アイデア勝負なんだけど、伏線張って回収していくこともきちんと押さえている。ただ、短編故の説明余地の少なさで、落とし噺のようにすっきり治まる話もあれば、難解のまま終わってしまう話もあって好みも分かれると思う。
聖書の解釈を巡る冒頭作で「なんじゃこの情報浴びせ系」と圧倒させておいて、SF感動譚の最終話でほっこりさせるという構成は良い。難解度的に、掴みはOKで始めるのも手だが、いきなり関門ガツンで最後ユル目ってのも1冊全体通すと好印象なんだなぁと。
Posted by ブクログ
全体を通して、陰謀論に関するインターネット社会の裏の顔が垣間見れた。というのも、インターネットで検索すればいくらでも情報が手に入るが、裏を取ることはほとんどしていないであろう。今アクセスできる情報の信憑性はどれぐらいだろう。ということは、陰謀論を広めようと思えば簡単に広がってしまうのではないか。そんなインターネット社会の裏の顔を心に留めた。
陰謀論を全く信じず、神様の存在にフタをしている私は、この本を面白がれるほど人間ができていない。ノーと言えず、社会に流されてしまう私では。
今何かを頑張ってる人、純粋な人、実直で素直な人の、視点の幅を広げる一助におすすめしたい一冊であると感じた。
〈七十人の翻訳家たち〉
・事実と言い伝えの相違が、危うさを生んでいるのだと感じた。
・歴史を紐解くには、書物や伝言でしか伝わらないため、道筋を開くためには想像するしかないことを学んだ。
・こうでなくてはならないとか、これでなくてはならないとか、綺麗な数字であるはずとか、神様の法則に従っているとか、あんまり関係ないんだなと思った。
〈密林の殯〉
・対比がこの上なく素晴らしい。主人公の職業である運送業(配達員)と、殯(天皇が亡くなった時に、死体を運ぶ職)の対比、生と死(風俗と殯)の対比、送る人と受け取る人(荷送人と荷受人)の対比。私が感じたいくつもの対比を、素晴らしい配置で構成されていることに対し、尊敬の意を表したい。
〈スメラミシング〉
・ツイートという、何の信憑性もない、裏付けのない文字の羅列で、人間はこうも簡単に信じ込んでしまうのだなと思った。
・職場の環境を良くすることで職場の人間関係が良好になることは、なんとなく理解できる。ただその中に入れない人も一定数存在していることを念頭に置くべきであると感じた。
〈神についての方程式〉
・数学や物理学と神学を結びつけるところがリアルだと思った。
・この物語がフィクションであることは後々明かされるが、将来の予測としてリアルさが精緻だった。
・内容を掴みたいけど掴みきれない魅力がある作品であると感じた。
・人類は宗教にどれだけの時間とお金を費やしただろう。因果関係などないのに、神様に
自分の努力やたまたま発生したことを、神様のおかげにする。冷静に考えると歪であると感じた。
・ニュース記事を読んでる意識で読めた。難解な話題、言葉、単語が豊富に出てくるが、読みやすいのは、素晴らしい技術だと思った。
〈啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで〉
・約30ページの作品だが、3回読み直しても30%ほどしか理解できなかった。
・神の存在を論証で証明されてしまうことを巡り、物語が進んでいく。
・人名、地名がカタカナであり、出てきたカタカナ語がどちらか分からなくなる部分があり、集中できなかった。
・もう少し理解力、読解力を上げて、再挑戦させてもらいたい作品だった。
〈ちょっとした奇跡〉
・2つ目の月が出現し、地球の自転が遅くなってしまう。その影響で、人類は地球を赤道に沿って動かなくてはいけない。
・ラブ要素が多めなので、スメラミシング全体でも非常に読みやすい作品
・地球の自転を止めるために2つ目の月を設定したことが、素晴らしいと感じた。
・タイトル通りちょっとした奇跡が起こることが、とってもよかったと引き込まれる作品
Posted by ブクログ
自転が止まった地球を2つの船が昼と夜の境目をぐるぐる回ってる話が一番好き
ネットの陰謀論者のオフ会の話は反政府的な思想を持ってる人が自分が信じてる人の言葉は何も考えずに鵜呑みにしてるセリフがあって、こういうのあるよな〜ってなった
嫌われてる上司のネット右翼アカウントを晒す計画のキベノミクスがどうなったのかも気になる(木辺さんはその上司から一目置かれてる主人公の事も陥れようと計画していた感じでかなりイヤだった)
Posted by ブクログ
『地図と拳』、『君のクイズ』、『君が手にするはずだった黄金について』と読んできた身からすると「どした?」という感じが否めないのが正直なところ。
ただ、元々がSF作家とのプロフィールだったり、書き下ろしというわけでもなく、それなりの期間で様々な掲載先に掲載された短編を集めてきたもので本作が出来上がっている点なんかも考えると、本当はこういう把みどころがないような物語が書きたいのかなー、なんて思ったりもする。
宗教(歴史あるものもあれば、危うい新興思想のものもある)、神なるものをテーマとした6編からなる短編集。
登場人物や世界観は全く重ならないが貫くテーマがある。
小難しい理屈、理論、設定の中に潜ませる警鐘、皮肉、視座は暗に仄めかしすぎていて何が伝えたいのかわかり難い部分もあるが、なるほどーと思えるような着眼点、よじれがあって興味深い。
もっと簡単に書いてくれればいいのにと素人目線では思う。
最後に人間くさい「ちょっとした奇跡」をもってきたところは作品全体がきゅっと締まって、編集の力を感じた。
ただ、「密林の殯」はちょっと悪ノリが過ぎるような気が。
Posted by ブクログ
6編からなる短編集。
「文藝」が主ではあるが、発表時期も媒体も異なりつつ、そこはかとなくテーマが通底していて、面白い。
「神」、「宗教」を扱いつつ、そこに潜む虚偽や、なにかにすがらずにはおれない人間の愚かさを冷ややかを皮肉っているかのようなお話。
核となる、というか、どの物語も発端は、ここにあるのでは? と思う記述が下記;
「地球が誕生したのも人類が誕生したのも偶然だ。何億年、何十億年という時間をかけて、さまざまな偶然の連鎖の果てに、私たち人類は存在している。だが私たちはその事実に耐えられない。だからこそ神を創造した。自分が生きていることは必然なのだと考えようとした。私たちは幸福を求めているのではなく、理由を求めている。真実を求めているのではなく、理不尽で暗く、生きる価値のない現実を受け入れるための物語を求めている。昔からずっとそうだった。」
表題作の中にあるので、間違いないだろう。
その理由を求めたものが、「七十人の翻訳者たち」で扱った聖書であり、「神」の存在であり、その神的な存在、理由を何に求めるかで、「密林の殯」(天皇と神)となり、「スメラミイング」(新興宗教)、「神の方程式」(ゼロという概念)などと、理由、根拠をどこに求めたかを手を変え品を変えて綴られていく。
とにかく著者の博識ぶりに舌を巻くし、短編ゆえに、きっちりオトシマエを付けるまで深堀りせず、考えるヒントを与えるくらいのところで筆を収めているあたりが巧い。
一話めに持ってきた「七十人の翻訳者たち」の中で語られる、近未来の「物語ゲノムの解析」という発想が、実に面白い。
神話の体系を整理し分類したジョセフ・キャンベルの研究を持ち出すまでもなく、世界中に散らばる物語の原型が、旧約聖書だったり、古事記だったり、古き伝統に根ざしているということを、
「聖書を含むすべての物語には「ゲノム」があり、「適応と淘汰」がある。物語は「突然変異」を繰り返し、いくつかの個体が存在し、後代に残されていく。」
と、あたかもDNA研究に置き換えて語っているのは見事。
逆に、人体のDNAも、編集と編纂を繰り返し、時には書き間違い(突然変異)が発生し、それを正す「校正」の作業が入ると、まさに文章のごとしという話を『ことばの番人』(高橋秀実著)でも最近読んだばかり。
「全ての物語には過去に存在した物語の「ゲノム」が残されている。」として、近未来に、そのゲノム解析が行われているなんて、ゾクゾクさせられるが、そうなると、作家なんかは、ますます必要なくなるのではと思ってしまう。そういえば、著者は、『文藝春秋』でAIの可能性について一文もいつだったか寄せていたか。
行きつくところ、人は、嘘を信じることで生きていく生き物ということで、ユヴァル・ノア・ハラリの言う「認知革命」以降、あらゆる分野で、虚構を講じていく生き物だということが、この短編集を読んでいて痛感させられる思いだ。
虚構を構築した先になにがあるか?
「いいですか、私たちが出来事を語ろうとするとき、真実は消えてしまうのです。」
真実など必要ない、という、神の御宣託也。