小川哲のレビュー一覧
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情報企業が運用している実験都市・アガスティアリゾート。このリゾート内で暮らすことを選択した/認められた人々は、自らのバスルームとベッドルームを除くあらゆる場所・時間での個人情報を視覚・聴覚・位置情報等全て企業に提供することと引き換えに、働かずとも十分に生活できる報酬と、劇場・スタジアム・フィットネスクラブ・公園その他諸々の時間潰しを提供される。
一見ユートピアのようなこの実験都市にも、馴染めない人、反発を覚える人、そもそも入る資格を持てない人、様々な思いが交錯する。裕福さと個人情報を取引する、ここはユートピアなのか、ディストピアなのか?
今や直木賞作家の小川哲、ハヤカワSFコンテストで大賞を -
Posted by ブクログ
ネタバレおもしろかったし中々すごかった。
が、期待しすぎた(俺の悪い癖だ)。
舞台はカンボジア。史実に基づくが、あくまでも小説なのでフィクションが大いに混じる。とはいえ自分がカンボジアの歴史に疎いためよくわからないが。
かなりざっくり言うと、上巻はポルポトが政権を取り国民を虐殺するまでを描く。下巻は国を変えるために動く女性ソリヤと、ソリヤを止めたい天才ムイタック教授が中心のお話。上巻は1950年代で、下巻は2020年代のお話になる。
上巻。
基本的にはソリヤとムイタックまわりのお話。どんな村でどんな風に生きてきたか。
ソリヤは赤ん坊の頃、ポルポトの隠し子かもしれないがよくわからず、まったく関係ない -
購入済み
エッセイっぽい私小説っぽい
冒頭部分 プロローグの哲学っぽい エッセイっぽい語り口に、やや読みにくいその語り口に いつの間にか引き込まれていった。以前数学者のことを書いた本を読んだときに、似たような感想を抱いたのを思い出した。そういえば数学と哲学というのはよく似ているんだ。使う道具が違うだけで。作者の意図に転がされたような気がする。
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Posted by ブクログ
ネタバレ1970年代のカンボジア暗黒時代を舞台にした物語。
腐敗した王族の専制、資本家の搾取、秘密警察の暗躍。
こうした腐った社会を打ち倒すために反政府革命を目指したはずだったが、革命の理想は曲解され、社会はより一層荒廃し、事実無根の罪で大量の人が軽々と殺されていく。
愚かさと理不尽さと残酷さが執拗なまでに描かれ、タイトルの「ゲーム」とはほど遠い展開が続く。どこにゲームっぽさがあるんだろうかと思いながら読み進める。
中盤くらいになって、やっと「ゲーム」の意味が分かってくる。この物語におけるゲームとは、「複雑怪奇なルールの下で、一つでも違反をすれば殺される命賭けのゲーム」であり、理不尽な社会の下で生 -
Posted by ブクログ
見るもの、聞くもの、その行動のすべてをデータとして提供する代わりにほとんど働かなくても生きていける実験都市、アガスティアリゾートに住むことができる。
というとても単純な舞台設定をベースに、その実験都市の中の人や外の人の人生を描き出す群像劇。
この実験都市はある人にとってはユートピアで、ある人にとってはディストピアとなる。
登場人物それぞれの人生がリズム良く語られた後、最後に「そもそも意識とは何か」という命題を突きつけてくる。もし興味を持って読んでくれる人がいるかもしれないので多くは語らないけど、意識というのはストレスがあって初めて自覚されるのではないかという問いが投げかけられる。
ここはもうサ -
購入済み
あまりに悲惨で
全人口に占める虐殺された人の比率が史上最悪といわれる、あまりに悲惨なカンボジア.ポルポト時代を舞台とした作品である。少しはSFっぽい設定もあるようだが、主体は身近な住人同士による相互監視 親子兄弟同士の密告 秘密警察 強制収容所 そして虐殺である。同じ様な例が、ナチス時代のドイツ スターリン時代のソ連にもあったようだが、カンボジアのほうが時代が近いためによりいっそう悲惨さが実感される。読み進めるのが辛いほどである。
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購入済み
人とルール
カンボジアの歴史。ルールをここまで大胆に根底から覆すゲームは、聞いたことがなかった。そこにどんな崇高な理念があっても、他者を踏みにじるルールが人々に受け入れられるはずがない。過去の日本にも通じるものがあると思う。
ルールは平等をもたらしても、自由を損なう。自由と平等のバランスは集団生活の永遠のテーマなのかもしれない。
個人的には、ルールは誰かから与えられるものではなく、一人一人が育んだものを持ち寄って作れたらと考えるが。