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Posted by ブクログ
情報への無制限アクセス権を預ける代わりに、最高ランクの基礎保険が保証されるシステムの運用が始まった社会。その特別提携地区であるアガスティリゾートを舞台にした連作短編。一章ごと、話者が異なり、徐々にそのほころびが見えてくるしかけ。
一人目のジェシカは、八度目の応募でようやく楽園、アガスティリゾートへのパスポートを手に入れた主婦。喜び勇んで移住したものの、夫は家にこもるようになる。
二人目、リード。小さな田舎町に住む両親の遺言によって、過去体験サービス「ユアーズ」の提供を受けるため、日本を訪れる。
三人目、スティーブンソン。激務のため、妻との約束を反故にしてばかりの夫。アガスティリゾートの住民が巻き込まれた殺人事件の捜査をする。
四人目、クリストファー・ドーフマン。アガスティの犯罪予防課で働く。犯罪を起こす可能性のあるものを特定するシステムを構築する。
五人目、ユキ。アガスティへの入場を許可されなかった留学生。そのことに怒りを抱いた同級生に誘われ、テロを起こす決意をする。
六人目、ロバート・アーベントロートは元牧師。アガスティを運営しているマイン社をディスる書物を出版して警察に追われる息子に、その息子を託される。
ユートロニカとは、意識のない世界のこと。情報を提供する者たちには、等級が付けられ、想像力がないもののほうが等級が高い、つまり、人間から考える脳を奪っているということ。
「神が授けたのは自由だ。どんな決断を下したとしても、そしてそれがいかに厳しい選択だったとしても、五年後や十年後に自分の選択が誤りではなかったと確信できるように今を過ごす自由だ。」と、牧師は言う。
「人間は意識をなくし、社会構造は非常にシンプルなものに回帰し、世界は集団の利益に資する完全な利他的行為のできる個体のみによって構成されるだろう」と、その息子は書籍で暴く。そのヤバさは、そのことが人間が、望んで選択をした結果であるということ。
ディストピアである。が、それを批判しながらも、ユートロニカの「こちら側」に、話者たちはいる。つまり、意識を手放す代わりに、安全で平和な暮らしを約束された側に。
単純に善悪をつける話ではない。ちょっと哲学的で難しくはあるけれど、すばらしくおもしろい。「男だったら」という口癖から、面白がってセミを食べさせられたりしていたスティーブンソンの過去のルームメイト、オリビアの話は切なかったし、ルーティンの鬼のようなドーフマンのおかしみは、ゲームの王国の輪ゴムの話に通じるものがあった。
Posted by ブクログ
個人情報や視覚・聴覚まで無制限に差し出す代わりに、高水準の生活が保証される特別地区。
最近、検索もしていないのに家族と話したピンポイントな内容の広告が出ることが多くて、「これスマホに盗聴されてるよね!?」と息子と冗談半分で、わざと変なダミーの会話をして広告に出るか試して遊んでいた^^;
それだけに、この作品が2015年に書かれていたことに驚いた。
今では相談ごとまでAIに頼る時代になり、ますますこの世界観が現実に近づいてきた気がする。
最初の方は好きな感じのSFでワクワクしながら読んでいたけど、後半にいくにつれてだんだん哲学的になっていって、よくわからなくなっていった。
でも、全体的に海外の翻訳SFのような独特の空気感があって、こういう世界観はかなり好き。
ちなみに、作中に出てくる「バンドゲーム」という妄想遊びが最高だった。
日常の何気ない電車での時間を楽しむ発想が面白くて、妄想好きなので今度真似してみたくなった。
こういう何でもない日常を面白く変えてしまう小川さんの発想が好きだ。
第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞した、小川哲さんのデビュー作。
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