小川哲のレビュー一覧
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物理的にも政治的にも経済的にも遠く隔たっている火星と地球。火星ではごくありふれた物質「スピラミン」の新たな性質が発見されたことを機に(?)、長年の燻りが勢いを増して……。
NHKのTVドラマ版(吉田玲子, 2025)から知った本作。「未知の物体」の代わりに「スピラミン」がキーアイテムで、マルは勤勉なISDA警察捜査官ではなく地球に帰りたがっている火星自治警察の非常勤捜査員で、キーパーソンであったタキマ・スズキやファン事務総長はほとんど登場せず……。両者の差異に少し驚いた。
ナショナリズムや異文化交流といったテーマはTVドラマ版と共通。また、小説版では“火星の女王”の意味に触れられている点が好ましい。
結末までとんとん進む展開は読みやすくもあり、物足りなくもあり。個人的には火星・地球間、地球住民/火星住民同士間、そして盲目のリリ-E1102と彼女以外の人々との間の物理的・精神的隔絶の描写はTVドラマ版のほうが好き。 -
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小説家•小川哲×小説家(と漫画家)の対談集。
小説家の創作手法や思考回路が面白い(時に難しい)。小説家を目指す方は読んで損は無いと思う。どんなことから書き始めるか?無意識をどう使うか?読点をどう使うか?など、小説を書くためのヒントが随所に散りばめられている。
様々な小説家と対談しており、読者によってハマるゾーンは十人十色だろう。私の場合は今村昌弘さんとの本格ミステリ談義と、葉真中顕さんとのゲーム談義がストライクゾーンだった。
また、エッセイとは?純文学とエンタメの違いは?特殊設定とは?など、もやもやしていた本のジャンル分けに一定の解を提示してくれてすっきり。
小説をラーメン屋に例えたり、エレベーターからケント•ギルバートを空想したり、小川さんらしい思考の飛躍が相変わらず独特で楽しい。小説をスキージャンプに例え、飛距離だけでなく飛型点も考慮に入れる考え方には共感。「終わりよければすべてよし」ではないんだなー小説って。最も共感したのは、漫画連載と小説連載の違いについて語った小川さんの一言。思わず吹いたが切実過ぎる(苦笑)
ブックガイドとしても有効。本書で語られていた数々の本(特に下記)を読みたくなった。というか少なくとも小川哲作品はある程度読んでおいた方がベター。さて、私はどれから読もうかしら…
小川哲『ゲームの王国』『地図と拳』
中村文則『掏摸』『去年の冬、きみと別れ』
尾崎世界観『転の声』
古川日出男『アラビアの夜の種族』
佐藤究『テスカポリトカ』
東山彰良『流』
深木章子『欺瞞の殺意』
呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』 -
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情報への無制限アクセス権を預ける代わりに、最高ランクの基礎保険が保証されるシステムの運用が始まった社会。その特別提携地区であるアガスティリゾートを舞台にした連作短編。一章ごと、話者が異なり、徐々にそのほころびが見えてくるしかけ。
一人目のジェシカは、八度目の応募でようやく楽園、アガスティリゾートへのパスポートを手に入れた主婦。喜び勇んで移住したものの、夫は家にこもるようになる。
二人目、リード。小さな田舎町に住む両親の遺言によって、過去体験サービス「ユアーズ」の提供を受けるため、日本を訪れる。
三人目、スティーブンソン。激務のため、妻との約束を反故にしてばかりの夫。アガスティリゾートの住民が巻き込まれた殺人事件の捜査をする。
四人目、クリストファー・ドーフマン。アガスティの犯罪予防課で働く。犯罪を起こす可能性のあるものを特定するシステムを構築する。
五人目、ユキ。アガスティへの入場を許可されなかった留学生。そのことに怒りを抱いた同級生に誘われ、テロを起こす決意をする。
六人目、ロバート・アーベントロートは元牧師。アガスティを運営しているマイン社をディスる書物を出版して警察に追われる息子に、その息子を託される。
ユートロニカとは、意識のない世界のこと。情報を提供する者たちには、等級が付けられ、想像力がないもののほうが等級が高い、つまり、人間から考える脳を奪っているということ。
「神が授けたのは自由だ。どんな決断を下したとしても、そしてそれがいかに厳しい選択だったとしても、五年後や十年後に自分の選択が誤りではなかったと確信できるように今を過ごす自由だ。」と、牧師は言う。
「人間は意識をなくし、社会構造は非常にシンプルなものに回帰し、世界は集団の利益に資する完全な利他的行為のできる個体のみによって構成されるだろう」と、その息子は書籍で暴く。そのヤバさは、そのことが人間が、望んで選択をした結果であるということ。
ディストピアである。が、それを批判しながらも、ユートロニカの「こちら側」に、話者たちはいる。つまり、意識を手放す代わりに、安全で平和な暮らしを約束された側に。
単純に善悪をつける話ではない。ちょっと哲学的で難しくはあるけれど、すばらしくおもしろい。「男だったら」という口癖から、面白がってセミを食べさせられたりしていたスティーブンソンの過去のルームメイト、オリビアの話は切なかったし、ルーティンの鬼のようなドーフマンのおかしみは、ゲームの王国の輪ゴムの話に通じるものがあった。 -
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ネタバレ個人的には、物語の展開スピードがちょうどよく読みやすかった。あまりにも詳細に場面を記述されると疲れるし、簡素に書きすぎると素人っぽく見えてしまう。そのどちらでもなくちょうど良い場面記述をしていたから、ストレスなく読むことができたのだろう。
また、小説のために参照した文献数が数多く、それだけ読んで頭に入れたからこそ、文献で得た知識と自らの想像力を駆使しながら、しっかりと必要な情報を適切に記述することができたのだろうと思う。
内容も面白かった。満州を主な舞台として、そこでさまざまな人種的な背景を持つ人々がそれぞれ置かれた状況から、満州で活動を行う。
個人的に面白いと思ったのは細川で、彼は日本が戦争で敗戦することを開戦前に確信する。そして、自分にできることはこれだけだと断言し、敗戦後の復興のための資材を関東軍の目をかい潜りながら確保する。そのたびに、満州で計画されていた都市計画は頓挫する。細川の行為はのちに関東軍の1人の軍人にばれ、そこで尋問を受け上記の売国行為をした理由を聞かれた際に、細川が愛国者だからだと述べる。
愛国者であるがゆえに、論理的に物事を考え、国の行末を正しく予見し、国のために行動する。今の日本を考えると、このような愛国者がどれだけいるかは正直あやしい。たとえば、政治家は愛国者であるにもかかわらず、国のためより、自分の属する党や利害関係者のために、行動してはいないだろうか。
誤った道を選択してしまうのは、愛国心が悪いわけではない。細川のように、愛国心を持つからこそ現状を冷静に見つめ国のために次取るべき行動が見えてくることもある。誤った道をとってしまうのは、愛国心のせいではなく、自らの判断や行動への過信と、現状をあやふやなままにして冷静に見つめない浅はかさ、国より周囲の利害を優先する愚かさにあるのだろうと思う。 -
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火星と地球との間の光の速度を超えられないタイムラグのあるやり取り。同じ地球人なのに、物理的な距離が離れていて、リアルタイムで会話を成立させることがかなわない。両者の間に少しずつ溝ができ、広がり、あわや戦争か、という深刻な状況に。これって、いま地球上で起きていることと変わらないよね。私たちはタイムラグなく顔を突き合わせて対話ができるはずなのに…。
以前見たテレビドラマは私としてはイマイチで、原作である本書もあんまり期待していなかったんだけど、本書はストーリーもドラマよりずっと分かりやすかったし、登場人物も変にキャラ立ちせず、いい感じに個性があってよかった。おもしろかったです。 -
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小川哲こんな宇宙SFも書けちゃうのか!作品の幅広さに改めて驚き。すごい人だなあ。
火星居住が進む近未来が舞台で、テクノロジーというよりは地球居住者と火星居住者の政治的な問題を主に扱っている小川哲らしい視点のSF。
地球と火星の間の通信には往復8分ほどの時差が生じてしまい、意思疎通が難しく、コミュニケーションの摩擦が生じてしまう。
SFは夢のある内容が多いけれど、本作は火星に夢を見て冒険するものの、現実問題としてはなかなか上手くいかず、摩擦が起き...という個人的に好みな展開のSFだった。技術が進んでいるとはいえ、策略が飛び交う外交、統制システムの不備、政治に不信感を覚え抵抗する市民など、共同体を構成する上での根本的な課題は変わらないもんだよなあと思った。
説得力があって、SFとして完成度が高いと感じた。
一方、展開がちょっと都合良すぎたところもあったのが気になった。あと、もう少しテクノロジーのところ広がってたら面白かっただろうなと、世界観はとっても良かったので、楽しめましたが。 -
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宗教や信仰をテーマにした6つの短編集。
『スメラミシング』
1番面白かった。面白くて2度読んだ。
この面白さを伝えたいけど、この作品は何も知らずに読んだ方がいいと思う。
1つだけ言いたいのは、ミステリ好きにも刺さるということ。
『七十人の翻訳者たち』
『神についての方程式』
『啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで』
自分の脳が理解を諦めてしまったのか、ちゃんと聴いてたのにいつの間にか違うことを考えていた。Audibleで文字を見てないからということにしておこう。きっとそうだ。
『密林の殯』
生々しすぎる描写に、自分のエロNGサイレンが鳴りっぱなしだった。完全に許容範囲を超えていた。
『ちょっとした奇跡』
地球の自転が停止してしまった終末世界を描いたSF作品。
SFの中に青春、ミステリ、哲学的でもあり、読後感も最高だった。
これは1番わかりやすいので、読んでいる間ずっと頭の中で映画のように映像が浮かんだ。
最後のシーンが今も頭に残っている。
遥か未来のSF設定なのに、ノスタルジーも感じるそのギャップも良かった。
『密林の殯』であれだけ引いていたはずなのに、最終話の余韻が良くて全部上書きされた。
Audibleにて。
★3.5