小川哲のレビュー一覧
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ネタバレクメール・ルージュへの迫害から、そのクメール・ルージュによる大虐殺までが描かれていた上巻は打って変わって、下巻では、2000年ごろから現代にかけてを舞台に、いまだ腐敗が続くカンボジアを救うために権力を求め、首相をめざすかつての少女ソリヤと、ソリヤが権力の中枢に近づいていく過程で、村の仲間や両親を見殺しにされたかつての天才少年ムイタックが(間接的に)戦う話が中心になっている。
ソリヤはカンボジアを救うという大きな正義を実現するため、腐敗した現実という「ゲーム」の中で権力を得ようとする。つまり、現実を操る。
一方、教授となったムイタックは、そんなかつての少女に対抗するヒントを、脳波を用いて仮想現 -
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ポル・ポトの隠し子かもしれない少女ソリヤと、科学も教養もない村に突然変異のように生まれた天才少年ムイタックを(いちおうの)中心人物として、おおむね時系列で、いろいろな人の視点から、それぞれの見た世界が語られる。
上巻の舞台は、フランスから独立したカンボジアの、汚職や賄賂が続く状況を共産主義によって変えようとするクメール・ルージュが政府によって敵視され、関係者とされる人々が冤罪で次々と殺されていった時代から、そのクメール・ルージュの統治が始まり未曾有の虐殺が行われた時代である。
ポル・ポトの大虐殺についての前提知識がほとんどなく、馴染みのない固有名詞に苦労はしたが、わりと細かに切り替わるそれ -
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小説を、心の栄養に。
表紙をめくると、真っ赤な紙の上に銀色の文字でそう書いてありました。
ことばの下には、ハートを胸に抱えるゴートくんのイラストが。
そのページの裏には、こう書いてあります。やっぱり銀色の文字です。
この秋、新たな文芸誌「GOAT」が誕生しました。
誌名の由来は、紙を愛してやまない《ヤギ》。
表紙にいるのは、”ゴートくん”。
物語を栄養にして生きています。
さあ、一緒に、物語を探す旅に出かけましょう。
518ページ+綴じ込み7ページの厚い雑誌の価格は熱い攻めの510円!
巻頭のカラーページ、写真ページ。
本文ページの紙の色は、濃いピ -
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著者のデビュー作。荒削り…みたいな書評を見かけたことがあるけど私は結構好きだと思った。最近彼の作品は難しい短編集が多かったが、この近未来都市のSFは、エンタメよりの楽しみ方をした。数年前の、情報銀行などか話題になっていた頃に書かれたのかなという内容。一応ディストピア小説というジャンルだと思う。
あらゆる個人データや生体データ、行動データをその会社に提供することに同意し、「あまり深く考えない質」であることで情報ランクが高いと評価された人間は、その会社が運営するカリフォルニアの実験都市の住人になれる。そこでは仕事をしなくても平均以上の生活が保障されるユートピア。トイレ以外の場所はカメラで監視され -
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ネタバレ久しぶりに結構しっかり目のSFを読んだ。
内容としては、個人情報やプライバシーを切り売りすることで働かずして暮らせるようになるという実験都市、アガスティアリゾートにまつわる人物たちを描いた作品。
サーヴァントと呼ばれるAI?の指示通り動けば大きな間違いや苦悩にぶつかることなく過ごせるというところから人々は徐々に思考(作中でいう意識)を放棄していく様に妙にリアリティを感じる。久々に「言葉で感想を上手く言えないけどなんか面白い…」と感じる作品。
ユートピア×エレクトロニカという造語も納得できるような作品。
ただし、かなり小難しい。 -
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「この表紙のおじさん誰だったっけな……見たことあるんだよな~!」
というレベルの人間も夢中で読んだ表題作だった。
どれも面白かったけど、お気に入りは表題作と「時の扉」。
場所や時間を引っ張りまわされながら懸命についていく感覚が良かった。
表題作のオチについては、どっちになればよかったんだろうと考え込んでしまった。
そして、物語というのは“正解”に辿りつくためのものじゃないんだよな……と改めて思った。
小川さんの作品はこの本が初めてだったけれど、物語を誠実に紡ぐ作家という印象。
登場人物たちの意志が確かに感じられて、「ここがこうなればこうなるし、あそこがああなればああなるよな」という納得が -
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直木賞作家・小川哲の、以前直木賞受賞候補作になったSF短編集。6篇が編まれている。どれも独立した話だが、共通項に、過去と未来、父と息子、血脈、歴史改ざん、などを持つ。少し小難しく、気品があり、魅力的だ。謎めいた話の立ち上がりから注意深く読み進め、その短編の世界観を徐々に把握し、やがて筋はクライマックスを迎え…ホーっ、そういう展開ですか…。どれも複雑に構成された物語で、これぞ短編という味わいがあった。
「魔術師」は、かつてメディアで人気を博したマジシャンが再び表舞台に立ったとき、ステージ上でタイムトラベルのマジックを披露し、消えてしまった。そのステージの動画を何度も何度も見返す大人になった息子 -