あらすじ
1932年、満洲国建国。明男が建築学徒として携わった仙桃城は、立派な都市に発展した。一方、乱暴な支配に苦しむ地元住民との対立は激化。明男がダンスホールで出会った孫丞琳も、抗日軍の一人だった。細川は、リットン卿の調査を受け、戦争構造学研究所を設立。十年先の未来を予測しようとするが・・・・・・。人はなぜ拳を振りあげ、戦争へと向かってしまうのか? 圧倒的スケールで描き切る歴史×空想巨編! 第13回山田風太郎賞受賞作。第168回直木三十五賞受賞作。
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Posted by ブクログ
間違いなく面白い
地図と建築は時間を保存するという言説に感動した。
そして、地図が変わること、建築物が壊れることは、さまざまな過去が一点に収束した現在から続く未来への導線を切断することであると解釈した。それはネガティブに捉えれば時代の終焉だが、ポジティブに捉えれば歴史の転換点で、新たな価値の創出期でもある。
自分の過去を尊重しながらも、自分を殺し、明日からは新しい自分として生きていきたいと感じた。
Posted by ブクログ
戦争では、なぜ人はここまで人間性を失ってしまうのだろう。
下巻で、その理由が少しわかった気がした。
とても印象的だったのは、死と隣り合わせの時にある人物が、戦争とは何の関係もないことを思い浮かべる場面。
あまりにも何気ないその思考が胸に残った。
もし自分が同じ状況に置かれたら、きっと私もそんなことを考えている気がする。
極限状態では、人はそうやって自分を保つしかないのかもしれない。
小川さんは、あえて戦争を劇的なドラマとして描いていない。
普通なら感動的な言葉が出てきそうな場面でも、あえてそう描かない。
そこにリアリティがあると思ったし、ドラマチックに感動させようとしないところが小川作品の好きなところでもある。
一人ひとりに人生があるはずなのに、戦争では消耗品のように失われていく。その現実が、恐ろしいほどリアルに感じた。
読み終えて、この一文の重みを改めて感じた。
「必要なのかわからぬ戦いのために、必要に違いない命を懸けて。」
Posted by ブクログ
歴史とファンタジーが8∶2くらいで融合した小説。日清日露戦争、日支事変から日米開戦そして敗戦までを描いた大河小説。人類は「拳」に頼るのを止められない愚か者。個人的に石本に惹かれた。
Posted by ブクログ
かなり調べているなと思いました。
登場人物が多い割にキャラが立っているのと入場退場のタイミングが良いので混乱少なく読めました。
この辺りは作者の力量でしょう。
Posted by ブクログ
様々な登場人物の視点から日露戦争〜第二次世界大戦頃の主に満州を舞台に地図と拳、つまり地図と戦争の話がテーマで描かれている。一度も主観的な視点が描かれない細川の行動が常にキーで日本のために活躍、時に暗躍する。常に気になり続ける存在だった。ただ、私が好きだったシーンは別の人物、中川のシーンだった。彼は非常に頭がキレて、反戦主義で左翼活動までしているキャラで戦場にいっても人をなるべく殺さないようにしていた。そんな彼が度重なる行軍で疲れ果て、暗闇の中で尿意を催した時に、明かりをとりトイレするために他人の家を燃やす。建築学生として優秀だった彼は家の価値を知っていたのでそれは彼を軍人として覚醒させてしまう。このシーンがとても印象的だった。
地図は国を国の歴史を物語ると作中で言われていた。今、ロシアやアメリカが大きな戦争をしていることを思い出す。地政学を勉強したくなる本だった。
Posted by ブクログ
上下巻にわたる長編小説ですが、そのボリューム以上の圧倒的な読み応えを感じる作品でした。めちゃくちゃ面白かったです。
史実とノンフィクションの要素の融合具合や物語全体の仕掛けも見事で、物語として脚色しすぎていない感じがむしろリアルさをもって胸に迫ってくる作品でした。
登場人物も個性的な人物が多く、特に細川の発言や行動は理知的なのに何故か予想不能で、ストーリーとしての面白さに登場人物の魅力も掛け合わさっていて、全体として違和感のない作品に仕上げてしまう小川さんの精緻な技に感動しました。これを機に小川さんの他の作品も読んでみたいと思います。
Posted by ブクログ
神父や孫悟空等、主人公達が、それぞれの思惑の中で、様々な視点や時間から戦争にどう関わっていくのか最後まで夢中になって読み進めてしまった。物語の最後、地図というもののもつ意味について考えさせられ、読み応えのある物語だった
Posted by ブクログ
須野明男は石本と中川宅へお邪魔した。石本曰く、
千年に一人の秀才らしい。
明男、石本、中川他木内と韮山で若手建築家の勉強会を開いた。途中人数も増えたが、結果5人だった。『輝く都市』を読み進め、意見交換を行なった。戦争構造学研究所の設立記念パティが千里眼ビルディングで
開かれた。石本は4年前から心に龍を買っていた。というのも元々は飛び級になる程の秀才だった。ところが、2年に進級したときに満鉄の設計図を作成した。しかし、学生随伴員に選ばれたのは明男だった。石本は負けを認められず、仙桃城視察旅行に加わった。
細胞という組織に入っていた。今田から仕事を受け、ビラ配りをした事もあった。細胞のリーダーはKというらしい。石本はkの為に、青年建築家同盟を掲げる事にした。そして青春という冊子を発行する事にした。
主に、石本、明男、中川で構成を組んで行った。
今田から石本へ細胞への勧誘があった。
明男は大学を卒業し、徴兵へ入隊する事になった。
入隊するまでに期間があったことから、青春 の作製に夢中になった。そんな中、使用不明金があると木本から指摘があった。皆んなは中川を疑ったが、石本が使ったと白状した。
そして明男が大切にしていた写真機が売られていた。石本から売った先を聞き出し、買い戻し、明男は青年建築家同盟を脱退した。
年が明け、石本はようやくKと会う事になり、再建方針書を受け渡す瞬間、警察に捕まって、ジリジリと取り調べが行われた。(あくまで拷問はなかった)
明男は徴兵に入隊していた。射撃訓練の後、問題がおきた。2年兵が薬莢がら1つなくしたのだ。上官の命令は天皇陛下と同じ価値を持つ 明男は、なくした本人橋本と薬莢を探す事になった。
しかし、薬莢などなく、2時間が、経過した頃、白澤が倉庫から別の経の薬莢を持ってきた。探していた38口経ではなかったが、別の機関銃班の薬莢なら、上官も文句を言えまいと、その薬莢を持っていく事にした。
戦争構造学長の細川から任命があった。
石本は、日本銀行の総裁に。
戦争構造学を進めるにつれ、地政学、政治の研究が必要だった。その為、仮想内閣を組閣した。
石本は、仮想内閣内の日銀総裁。内閣総理大臣に須野正男。海軍大臣 赤石。陸軍大臣に滝本。
様々な口論を繰り返し、石本は明男との歪な関係、自分へのモヤモヤ、自分の中の龍を呼び起こすように、叫んだ。
1937年。中川は、徴兵に渋々、入隊した。仲間が次々死んでいく中、水島と共に行動した。
真っ暗な中、ただの兵隊として、進む中、耳の横にヒュンという銃声が聞こえ、恐怖でたまらなかった。
暗闇の中、陰部の位置が分からないので、支那人の家に火をつけた。中川はまだ自分は人間なのか 自問自答した。
1938年。
明男は、銅線などの盗難事件を、きっかけに安井との再会を果たす。安井とは、小型写真機を没収した人間だ。その後、集落は消滅したのだ。
安井は、盗難事件は仙桃城八路軍の犯行だ。と言い切った。明男は、証拠を突き止めたが、支那人に再開発を快く思っていないもの がいるだけであった。
明男は、人々の想い、渡せなかった写真、アカシアの木、そして根腐れた実家で、公園を作る事を決意した。
チョリンは、黄宝林と出会った。
黄宝林は八路軍として、集会を何度も行った。そこで、チョリンは銃持つのではなく、救命具をもつように支持を受けた。納得はいかなかったが、チョリンは救命具を持つことになった
またチョヤスは黄宝林に、激怒したが、黄宝林が21時間常に日本鬼子を、殺す為に動いている凄みを聞き納得した。砂時計の3時間のみ自由時間寝る時間も含む生活を送っているのだ。明男が計画していた「ラージャジェン公園」は計画通り進んでいた。燃えない土がなぜつかえないのか、それはアルカリ性であり、畑は弱酸性を好む為でたる。ただ、コンクリートはアルカリ性のため、家の壁に塗って使う事が可能となった。
1939年。
安井は激怒した。仙桃城再建築が白紙となったのだ。
黄宝林は八路軍を使い、安井の暗殺を試みたが、失敗し、犯人をハルビン行きを命じた。
黄宝林は実行犯が失敗する事は分かりきっていた。
失敗しても嘘の連撃作戦を伝えており、爆竹で球を消費させて作戦に出ていていたのだ。
その頃には、チョヤスは黄宝林を崇拝しており、6時間の砂時計を持ちそれ以外は、日本鬼子殺戮に前進する事にした。打倒孫悟空を目指す、チョリンはそれでも黄宝林を好きにはなれなかった。
石本は、明男の建設中の公園にいた。日本人が支那人に勝ったという新聞を手に、勇敢な死を迎えたリストに、中川の名を見つけた。あの秀才で勇敢とは結びつかない男がだ。
城島源蔵。泥棒なのだが、決してリスクは犯さない。
今まで、500回以上繰り返したが、盗難先で人と出会したのは2回のみ。1回目は、柔道の達人であったが、なんとか逃げ切った。2回目は条件付きで逃してやるとの事だった。
細川は、明男が作っている公園のモニュメントを盗まさせた。そして、8ヶ月遅れで、モニュメントが完成したのだった。モニュメントはコブシという名をつけた。明男は細川が何か知っていると思い、釣りの勝負に出たが負けてしまい、逆に細川の要望 軍隊は戻ってもらう を、聞く事になった。
そんな中、赤石が軍事違反で、捕まった。赤石は満州を、泥舟といい穿った見方をするものだと思い、黒幕がいると悟った。
1941年。明男はソ連の国境にある要塞に勤めていた。
時折細川は顔を出し、明男に言った。
満州にある不要な建築物(殺害に使われるような)を、再建築する事だ。建築で街を再構築してほしい。
そんな中、日ソ中立条約が結ばれ、ソ連は不可侵条約を破りドイツを攻撃した。日本の敵は米となった。
要塞からは、次々に人が減っていった。
日米の開戦は、満州開発の終戦であった。
明男は、ペンを置き、守備隊歩兵として駐屯軍に加わりたいと申し出た。
一方、黄宝林率いる八路軍は、日本が真珠湾攻撃をし、米へ宣戦布告した事により、日本の敗戦を確信した。
黄宝林は、毛沢東などの談話が収録された「整風」を理論だて、党員たちの弱みを次々に吐かせ、心を破壊して、党の信者にさせた。時には、嘘をも吐かせ、心を壊した。シャオカンも同様に、心を破壊された。シャオカンは見せしめのために、拷問を受けた。そして仙桃城八路軍は日に日に暴徒化していった。
1944年。須野は戦争のせいで、仕事がめっきり減った為、細川から与えられていた30年以上前の地図に、実際にはない「青龍島」がなぜかかれているか、にとりかかった。久々に正男、明男が家にいた為、明男にたずねてみた。この形は、モスクワ川に似ているね
その時、爆撃が落ちた。須野は防空壕へ。明男は、ランプ片手に、爆撃の方に向かった。
町野寿雄は、5歳から軍人としての頭角を表していた。その町野の上司に明男が付いた。町野は明男が指示する事が気に食わない。がしかし、明男の作戦はことごとく、町野と同様であった為、結果従う形になった。見事に作成があたり、八路軍の拠点を一つ潰した。町野は明男に聞いた。どんな気持ちだ。
明男は、公園を作るのに一部軍隊がほしい。と答えた。
明男の作った公園にあるモニュメントに、シャオカン、チョリンがおり、明男はシャオカン目掛けて、打った。左肩に血が流れた。
チョリンは打ち返そうとしたが、引き金が引けなかった。
1945年。
ソ連は中立条約を破り、満州を責めた。
日本は、米とソ連を同時に相手にする事になり、
居留民を逃すこととなった。安井は、案内役をしており、最終列車で、細井の名前を見つけた。
反日の細井を見つけ、牢屋にぶち込んだ。
細井自身は、愛国精神があり、日本は戦争に負ける。その為に、満州に建築をたてる必要はないとかんがえていたのだ。8月15日昭和天皇の耐え難きを耐え忍び難きを忍び、、、(玉音放送)敗戦の知らせだった。
安井は信じることができず、暴れたが町野の抑えられ、牢屋に入れられた。
その晩、首を吊った。
仙桃城の官舎にいた石本はソ連の怒号で起こされた。
そこで、日本軍が敗戦した事を知った。
命からがら生き延びた
石本は新京行きの列車にのりそこで、村越と再会した。村越は、阿片の販売をしており、人手が足りないとの事で、足元が手伝うこととなった。
商売が順調で、日本に帰るか、満州に残るかの選択を迫られた時、満州に残る選択をした。
チョリンは、聖ヨハネ協会の跡地に移り住んでいたクラスニコフ神父の元へ尋ねた。
そこに弱りきった孫悟飯がおり、かつて恨んだ父親
の姿だった。孫悟空は手帳を一枚一枚チョリンに読んでは、燃やさせた。そして、最後のリーダーガンの魔法が解ける と書いたメモを、読み燃やした。そして、手帳毎燃やしてくれ というと孫悟空はちからつきた。
明男は、日本に帰る船で細川と再会した。
そして、今までの事、満州での建築物の盗難や公園のモニュメント等何全て細川の仕業だと聞いた。
細川は日本が負ける事を分かっており、満州への建築はすべて無駄になる為、日本に送っていた。
明男は頭に来たが、日本に上陸する瞬間力がみなぎってきた。また、建築ができる。そして、上陸する直前に、小刀を海に捨てた。もう武器は必要なかった。かつて高木がハルビンに着く前に捨てれなかった時とは違う。
1955年。
中国へ帰還される中国人に混じり明男は倒壊された仙桃城を訪れた。チョリンと会い、クラスニコフが残した地図について尋ねた。
青龍島 を何故書いたのか?
中世の西洋には、未開の地には、アダムとイブの楽園があると信じられていた。
青龍島はリージャンジェンの人間にとっての楽園だったのでは、ないか。
Posted by ブクログ
上下まとめて。
本当に小川哲氏は小説家として懐が深い、守備範囲が広い。
次々と繰り出される引き出しからはいつも違うものが飛び出してくる。
本書では、旧満州を舞台に太平洋戦争をまたぐ半世紀を等身大の視座で描ききり、いわば直球の真っ向勝負。
物語の骨格を形成するような基準や軸がいくつか現れるが、いずれも本筋を貫く大黒柱というものではなく、あるいは散漫であるという印象を受けることも否定できないながら、容貌をゆるりと変えながら連綿と続く、ある意味でクロニクルらしいトーンに仕上がっているという見方もできる。
それらの中でも、"予測"が、最も強く印象に残るキーワードか。
戦時下という、剥き出しのアイデンティティが曝露される状況で示される各キャラクターの生き様に、否応なしにすべての読者は沈思し黙考を強いられることだろう。
「はたしてそれは勇敢ゆえの行動だろうか。それとも臆病さのせいだろうか。」
「都市という衣を引き剥がした、仙桃城の本当の姿が写しだされているように感じたからである。」
「『アカシアだけではない。この世界の「自然」は本当に素晴らしい建築だ』」
「人体の設計者が神であるというならば、神が大学で建築学を履修していないことは確実である。」
「『国家も建築だ。ゆえに、国家の図面を引くのも建築家の仕事なんだ』」
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『地図と拳』は、日本が戦争へと突き進んでいくきっかけの一つとなった満州事変。そのとき満州では何が起きていたのか、そしてそこから何が起こり、どのように時代が進んでいったのかを、さまざまな人々の視点から描いた物語。
読み始めは独特な世界観や登場人物の多さ、歴史的背景などが複雑で、難しい作品だと感じた。しかし100ページを超えたあたりから徐々に世界観に慣れ、物語に飲み込まれていった。上巻では満州という土地や国家が形作られていく過程を描き、下巻に入ると物語が大きく動き始めたことで、さらに読みやすくなり、ページをめくる手が止まらなくなった。
特に印象に残ったのは、それぞれの人物がそれぞれの正義や思想、思惑を持っていること。大義を成すためには犠牲が必要なのか、そもそも正義とは何なのかを考えさせられた。
また、最後まで読んで感じたのは、一人ひとりの感情や気持ちの動きがとても緻密に描かれていることだった。国家や戦争、思想など扱っている内容は難しいものの、それぞれの人物が何を考え、何を感じ、なぜその行動を取るのかが丁寧に描かれているため、複雑な物語でも想像しながら読み進めることができた。
一方で、読む前に満州の歴史についてもう少し知識をつけておけば、さらに楽しめたのではないかという反省もある。満州事変に至るまでの経緯や満州国がどのような国家だったのかを知っていれば、作中で起きている出来事や人物たちの行動を、より深く理解できたと思う。
難しい作品ではあったが、読み進めるほどに世界へ引き込まれ、国家や歴史という大きなものを、一人ひとりの人間の人生や感情を通して考えさせられる作品だった。
Posted by ブクログ
拳が世界を作り、地図が正当化する…
世界を描く力が地図で、世界を奪う力が拳。
歴史を知っていればなるほどこういう時系列か…となる
明男とチョンリンは世界を繋ぐ人間なのかもしれない。
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個人的には、物語の展開スピードがちょうどよく読みやすかった。あまりにも詳細に場面を記述されると疲れるし、簡素に書きすぎると素人っぽく見えてしまう。そのどちらでもなくちょうど良い場面記述をしていたから、ストレスなく読むことができたのだろう。
また、小説のために参照した文献数が数多く、それだけ読んで頭に入れたからこそ、文献で得た知識と自らの想像力を駆使しながら、しっかりと必要な情報を適切に記述することができたのだろうと思う。
内容も面白かった。満州を主な舞台として、そこでさまざまな人種的な背景を持つ人々がそれぞれ置かれた状況から、満州で活動を行う。
個人的に面白いと思ったのは細川で、彼は日本が戦争で敗戦することを開戦前に確信する。そして、自分にできることはこれだけだと断言し、敗戦後の復興のための資材を関東軍の目をかい潜りながら確保する。そのたびに、満州で計画されていた都市計画は頓挫する。細川の行為はのちに関東軍の1人の軍人にばれ、そこで尋問を受け上記の売国行為をした理由を聞かれた際に、細川が愛国者だからだと述べる。
愛国者であるがゆえに、論理的に物事を考え、国の行末を正しく予見し、国のために行動する。今の日本を考えると、このような愛国者がどれだけいるかは正直あやしい。たとえば、政治家は愛国者であるにもかかわらず、国のためより、自分の属する党や利害関係者のために、行動してはいないだろうか。
誤った道を選択してしまうのは、愛国心が悪いわけではない。細川のように、愛国心を持つからこそ現状を冷静に見つめ国のために次取るべき行動が見えてくることもある。誤った道をとってしまうのは、愛国心のせいではなく、自らの判断や行動への過信と、現状をあやふやなままにして冷静に見つめない浅はかさ、国より周囲の利害を優先する愚かさにあるのだろうと思う。
Posted by ブクログ
読むのに中々時間がかかってしまった。あまり起伏なく淡々と進んでいく物語である故に、とっつき易い作品ではないと思う。正直、本作が直木賞に選ばれたのは意外だなと思った。ただ、読んでよかったなと思わせる何かは確かにあるし、多くの登場人物に愛着も湧いた、そんな作品でした。
Posted by ブクログ
個人的にこういう群像劇形式は結構好み。戦争というものを過度に感情的にならず色んな立場から捉えて考える作品だと思った。
「あいつの考えには明後日はあるが、肝心の明日がない」という細川の満鉄時代の評価、閃ハサでハサウェイがダバオのタクシー運転手との会話で「暮らしはそんな先考えてる暇ない」って言われたのと同じだなぁと。
国の未来を見据える人間とその日暮らしの庶民じゃ視座が違いすぎるという話。
Posted by ブクログ
フィクションと事実を分けながら理解しようとするとかなり時間がかかるが、日清、日露、日中戦争の詳細を復習する良い機会となる本でした。
とにかくストーリーに飽きず、すぐ読めてしまいますが、この炭鉱での事件のきっかけはなんだろう?この日本の決断が欧州列強に及ぼす影響はどのようなものか?などを考えたり、調べたりしながら読むのがオススメです。
Posted by ブクログ
満洲という激動の土地を舞台に、理想と暴力、計画と衝動がせめぎ合う壮大な物語。その完結編である下巻は、上巻で張り巡らされた思索と葛藤を、より深く、より鋭く掘り下げていく。
読み進めるうちに感じるのは、この作品が単なる歴史小説ではないということだ。そこにあるのは、「国家とは何か」「理想はどこまで暴力を正当化するのか」「人は歴史の歯車なのか、それとも抗う存在なのか」という根源的な問いである。登場人物たちは皆、巨大な時代のうねりに翻弄されながらも、自らの信念を握りしめて立ち続ける。その姿は、英雄的というよりもむしろ痛切で、人間的で、だからこそ胸を打つ。
タイトルにある「地図」と「拳」。地図は未来を描く理性と設計図であり、拳は現実をこじ開けるための力だ。しかし本作が鮮やかに描き出すのは、その二つが決して単純な対立ではないという事実である。理想は時に暴力を孕み、暴力はまた新たな地図を描かせる。下巻ではその循環がより露わになり、読者は登場人物と共に「正しさ」の揺らぎを体感することになる。
特筆すべきは、群像劇としての完成度の高さだ。複数の視点が絡み合いながら進行する物語は、ひとつの結論に収束するというよりも、歴史そのもののように重層的に広がっていく。その構造は決して易しくはないが、読み終えたとき、世界の見え方がわずかに変わっていることに気づく。これは物語が読者の内面にまで踏み込んできた証だろう。
上下巻に分かれる分厚いページの重みは、そのまま思索の重みでもある。しかし決して読みにくいわけではない。むしろ文章は静謐で力強く、理知的でありながら、確かな熱を宿している。読み手を信頼している筆致だ。
読み終えた後に残るのは、単純な感動や爽快感ではない。もっと静かで、しかし深く沈み込む余韻だ。歴史を振り返ることは、過去を裁くことではなく、現在の自分を見つめ直すことなのだと、この作品は教えてくれる。
『地図と拳』下巻は、物語の完結であると同時に、問いの始まりでもある。理想を描くことの責任と、力を振るうことの代償。その両方を真正面から見据えた、重厚にして誠実な傑作である。
Posted by ブクログ
普通サイズの上下巻の本なのに、大河小説を読んだくらいには体力を失った。
長い年月「地図」を仕事としていたので、書名に「地図」という文字が入っていると、つい手に取ってしまうのだが、重苦しい本である確率が結構高い。
この本も、日露戦争を前にした時期から第二次世界大戦後までの長い年月を、ほぼ満州を舞台に書かれている。
最初から最後まで通して細川という男が出てくるところから、いかに短い期間に立て続けに日本が戦争という大きな波に翻弄されていたのかが、恐ろしいほどにわかる。
満州の東側の海に浮かぶ青龍島(チンロンタオ)が描き込まれた地図。
ないはずの島が、どうしてその地図に描き込まれたのか。
それを探るミステリだと思ったのだが、どっこい、テーマは時間で場所は仙桃城という街だった。
けれど、わかりにくいのだ。
パーツパーツは面白いのに、あまり有機的に組み合わさっていないというか。
その他の登場人物として括るには背負っているものが大きく、主たる人物にしては掘り下げが浅い。
そんな登場人物が結構中盤に多くて、共産主義者が、その挫折者が、憲兵が、中途半端に物語に介入してくる。
個人的にはその部分も面白く読んだけど、でもこの本の分量なのだったら、書くべきことはここではないだろう。
逆に、もっと長く深く全6巻くらいで書くべき作品だったのかもしれない。
でもたぶん、出版社がそれに応じることができなかったのだろうことも、想像に難くない。
何なら青龍島をめぐる謎も出版社から「ミステリ要素を入れてくれ」と言われたのかと思ったぐらいなのだが、解説を読むとミステリではなくSF要素を入れるよう要望があったらしい。
SF部分というか、まったくのフィクションとしては戦争構造学研究所という存在なのだけど、そのような組織が日本国内にあったということはあるらしいし、細川が作ったこの機関がさほどフィクション部分を強調しているわけでもないので、いかにも中途半端。
仙桃城における孫悟空とその娘孫丞琳の愛憎。
都市における建築物の意味――明男の半生。
高木と細川が夢見た満州の未来。
これらを別の作品として書いて、サーガのようにゆるく繋げたほうがわかりやすかったのではないかなあ。
実はこの物語の最初(ないはずの島を描いた地図の謎)も、最後に戦火の中ずっと仙桃城になる前の町――李家鎮の地図を描き続けたのも、クラスニコフ神父だった。
もともとは測量士だったのだが、ロシア正教の伝道師として満州に派遣された(満州の地図を作るため)神父の存在は、長く続いた物語の中であまりにも控えめだ。
参考文献のリストの膨大な量に比して、作者の思いが存分に投影されたとは思えないので、いつかきっと、もっと深く静かに沁み込むような長大な作品が書かれることと期待する。
その時まで私の体力が残っているかは…自信ないけど。
Posted by ブクログ
久しぶりに上下巻の小説を読んだ。人々の苦悩や思考がすっと頭に入ってくる。書き手の体幹のようなものを感じたし、安心して最後まで読みきれた!おもしろかった!
Posted by ブクログ
面白かったー。満州のある土地をめぐる群像劇。それゆえに物語に終わりはなく、据わりが悪い気もするが、そういうのがリアリティなのかも。キャラクターごとストーリーの主題があってそれがしっかり解決される物語が好きな人には向かなそう。
個人的には戦争構造学研究所の行く末に関しての石本と須野正男のやりとりが白眉。敗戦を予言することは侮蔑的で、それこそが戦争構造学の限界である。そしてその指摘もきっと戦争構造学にとっては侮蔑的なのだ。そういった分断が世界の課題なんだろう。
解説で情報開示の手順に言及があるのが新鮮に感じた。
Posted by ブクログ
この本を読んで、祖父母やまたその親たちは戦時中や戦後にどういう生活を送っていたのか知りたくなった。
まだ、知っている人が生きているうちに聞きたいことは聞いておかないといけないな。。
Posted by ブクログ
拳とは暴力、すなわち戦争のこと。
これは、地図と戦争の物語。
細川〜〜〜!上巻の時から好きなので、活躍(及び暗躍)が沢山見られてとても嬉しい!
安井は今の感覚で見ると愚かに見えなくもないけど、彼は「大日本帝国の臣民、皇民」の象徴だと感じた。彼ほど純粋に真っ直ぐ天皇への忠誠心を抱いている人間が当時どれくらいいたのか分からないけど、当時国民に求められていた「あるべき姿、思想」がこの安井なのだと思うと背筋が凍った。
明男は、登場当初は超機械的な青年、という感じだったけれど、徐々に彼の感情や思想が明らかにされていって、後半どんどん人間くさくなっていったなという印象。建築への熱意や丞琳への淡い感情(?)など。
上巻の冒頭で、小刀を捨てられなかった高木と、最後に感謝しながら小刀を海に捨てた明男の対比も美しい。戦争の始まりと終わり。
戦後10年の明男と丞琳の場面は朝日のような眩くて暖かい希望が感じられてとても素敵。
Posted by ブクログ
領土わ獲得するために争い合う人間の愚かさ、戦争の悲惨さを痛感する作品。
全体を通じて静かな悲哀に満ちた作品という印象をうけたが、ラストの終わり方は希望を感じさせるようなもので後味が良い。
Posted by ブクログ
下巻。満州事変後から1945年の終戦あたりまでの流れ。さまざまな登場人物の視点に切り替わるので多少読みづらいけど、歴史小説としては面白く読めた。どの程度史実に則っているのかわからないけど。
Posted by ブクログ
明治期の日露戦争前夜から第二次世界大戦までの満州国をめぐる大河小説。満州国にある架空の一都市を舞台に、時代に翻弄された人々の群像劇が語られる。
架空の都市を通して、戦争における理屈や抗いがたい歴史の流れが描かれる。大きな流れの中で登場人物達は戦争に身を投じざるを得ず、その中で死ぬもの、生き延びるものが別れるが一様に悲惨な経緯を辿るが、最後は多少の希望が残された終わり方で、読み応えのあり、飽きさせない展開だった。
Posted by ブクログ
タイトルは探究心と戦争の暴力性という人間の根源を現したもの。
それが、満州という地域と時代にスポットを当てて描かれている。
歴史、満州、戦争に翻弄される人々を描いた大作なのだが、論理的な作者なので、次々と変わる視点となる登場人物が駒っぽいのが否めない。
筋書きに従って登場し、筋書きに従って出会ったり結婚し、筋書きに従って死ぬ。そこに歴史、人間関係、戦時の世情と言った理不尽や感情や思惑に巻き込まれる魂の叫びはあるといえばあるのだが、いまいち伝わってこないというか。
怪人物もカリスマ性を持ってる人間も頑固な者もいるが、なぜ、なぜ皆温度感が似てしまっているのか。
『君のクイズ』はとても面白かったが、おそらくそちらは作者のストーリーの論理的構築手腕とミステリというやはり論理的なジャンルが合致したせいかなと思う。
文章や構成はとても読みやすい。
=追記=
この後同じく小川さんの『言語化するための小説思考』を読み始めたら、冒頭から
「僕は小説を読むうえで登場人物に共感するという感覚を抱いたことがなかったので(中略)僕の書いた小説が違法である(=つまらない)と主張する読者がいてもどうすればいいのかわからなかった」
「あるいは僕は小説を読む時情景を思い浮かべるという行為を一切せず言語を言語のまま理解しているので、描写が足りない、という理由で(攻略)」
とあり、なるほどこの作品と読者(私)の溝、キャラの温度感について私が感じたのはそこか!と思った。
小説においても字を字のままに、文章を文章のままに読む人ならばパンチ不足は特に感じず、この作品はある時代のある地域と人々の辿った運命である、と歴史書のように読めるかもしれない。
Posted by ブクログ
満州を舞台に時代は第二次世界大戦、そして終戦へと移り変わっていく。やはりこの作者は小説が非常に上手く、感傷的になりすぎず、さりとて倫理との距離を見誤ることなく、悲惨な戦争の実態とともに物語は進んでいく。戦争による破壊と対になる都市と建築がテーマであるのもバランス感覚に優れており、気候を読み建築の才のある明男は本作における主人公と言っても過言ではないだろう。また端々で暗躍する細川も魅力的であり、それ故に前回と書いたが時代のうねりが巨大すぎてそれに翻弄されるがあまり「個」としての人生やエピソードを見出すことができず、端折られているような感覚になったのは非常にもったいない気もする。史実のインパクトに押される形でドラマ的な盛り上がりも薄く、情緒的な話の好きな自分としては技巧面で唸らされる反面感情面ではいまいちハマりきることができなかった。ただそれをやると上下巻では収まらず、史実ベースの空想大河として視点を変えて読むことで個人的には何とか折り合いをつけることができた。
地政学を元に戦争の行末を検討するための組織「戦争構造学研究所」と、数々の未来の可能性を議論して予知していく「仮想内閣」という設定は非常に面白く、あとがきにもある通りこの部分のSFっぽさはとても良かった。
ただ、タイトルでもある地図と拳は本作のテーマを超えて人類のテーマと言ってもいいほどに逸脱しており、そのスケール感と物語への落とし込みぶりは素晴らしかったように思う。