あらすじ
マルクスとエンゲルスの出逢いを阻止することで共産主義の消滅を企むCIAを描いた歴史改変SFの表題作をはじめ、零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる青年の感動譚「ひとすじの光」、音楽を通貨とする小さな島の伝説「ムジカ・ムンダーナ」など6篇を収録。圧倒的な筆致により日本SFと世界文学を接続する著者初の短篇集。解説:鷲羽巧
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Posted by ブクログ
1.SFっぽくない感じが良かった。
全編通してSFっぽさは少なかったが、それ以外の良さがあった。完全なSF世界ではないからこそのリアリティがあるような気がする。「魔術師」で言えば、タイムマシンが本物であるかどうかわからないまま物語が終わるのが良かった。これについては「読者に任せる」書き方が効果的に感じた。 「ひとすじの光」はSF要素がなかったが、馬と自分とを重ね合わせて父親との関係性や自身のアイデンティティに思いを馳せる姿に感動した。「ムジカ・ムンダーナ」はSFというよりファンタジーかな。
2.嘘と正典が一番良かった。
前半はSF的な要素がないまま話が進んでいき、後半から過去との通信が出てきて一気に話が進んでいく展開に引き込まれた。そして冒頭のエンゲルスの裁判につながっていくところはもはや感動的でもあった。過去に干渉することができる機械によって、世界が分岐する場合は「正典」にあたるものはなにに該当するのだろうか。ニュートンがいなくても万有引力の法則が見つかっただろう。これは完全に同意する。しかし、エンゲルスがいなかったら共産主義は存在しなかったのだろうか。歴史を改変するものを妨害するために歴史を改変していないだろうか。少なくとも中継者や守護者の人生には大きく干渉していると思うし、それによってバタフライエフェクトが発生していないだろうか。なにをもって正典としているのだろう。
「嘘と正典」の過去に送れる電気信号は「Steins;Gate」のDメールに近いような感じがした。一度行った改変を取り消すことで元の世界を目指すのも同じかな。そのなかで、計算量を減らしたいという「嘘と正典」の動機は「Steins;Gate」よりも弱く感じた。「Steins;Gate」の独善的で身勝手でも仲間との絆を大切にする感じが大好き。
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SFの基本のキと言っても決して過言ではないだろう時間に関するSFがぎゅっと詰まった一冊。僕は、ムジカ・ムンダーナが一番気に入りました。
四次元HIP-HOPばり収録全作が面白い短編集でした。
Posted by ブクログ
単行本からの再読。SFを基軸にミステリや歴史などのジャンルを横断した作品集。改めて読むと著者のその後の作品に登場する、小説を連綿と続く系譜として位置付ける発想や、実験の失敗から信じ難い真実へと辿り着く合理主義的な科学者などの要素が垣間見られることがわかった。
Posted by ブクログ
6篇の短編で構成される短編集。
時間スケールは異なるけれど「歴史」が横串のキーワードではないかと思う。
共産主義の打倒を目指し時空間通信で歴史改竄を企てる表題作の「嘘と正典」は伏線の回収で何度もゾワッとさせられるし、過激な正義や短絡的な介入は歴史や状況を変えないということを再確認させてくれる。他の作品もそれぞれ毛色が違ってどれも面白い。
個人的にはひとすじの光が好きだ。名馬スペシャルウィークの血統を遡りながら自分の血筋が明らかになっていくが、その過程がなんとも不器用な父親からの愛に感じられてホッコリする。やはり小川哲、侮るなかれだな。
Posted by ブクログ
短編集でこんなに全部面白いことある!?ってくらい、良かった、とても楽しかった。
・魔術師
マジックが文面でこんなに生き生きと表現できるんだと圧巻。思わず心を掴まれる臨場感のある演出描写、含んだ終わり方も全部好きだった。めちゃめちゃ好み。
・ひとすじの光
競馬すぎて面白かった(笑)競馬好きとして非常に楽しめた。小川さんが競馬好きとしか思えないくらい熱意感じた(笑)血統のロマンがふんだんに描かれていて、ますます血統の魅力を感じました。
・時の扉
ファンタジー要素強め。いちばんよく分からなかったけど、世界観や価値観を楽しめたかな。抽象的で少し難しめ。
・ムジカ・ムンダーナ
音楽を通貨とする島のお話。独特の世界観が面白かった!オチも好き。良い。
・最後の不良
星新一っぽい社会風刺めいた話。とても好みだった!これ短かったけど、もっとこの世界観楽しみたかったなあ。
・嘘と正典
共産主義の話は難しかったけれど、分かりやすく書いてくれていたので、話はすっと入ってきた。何よりタイムトラベル絡みなのが面白かった。話としては短かったけど、充実度がとても高い!クオリティの高い短編だった。
全体的に、嘘や歴史が共通しているような感じがして、繋がりも楽しめた。
どれも短編ではもったいないくらいに好きな世界観で、クオリティが高かった。
すっごく好きでした!楽しかった。
(オーディブルにて)
Posted by ブクログ
歴史絡んだSFはかなり好みだった。歴史ネタじゃないものも柔らかくて、油断できない雰囲気の筆致と相まって飽きない。SFらしく読後はモヤモヤがあるけど(それを楽しむのがSFだと思うけど)SFを読み慣れない私には、解説が優秀だと感じた。いままで解説に満足したことなかったけど、この文庫は解説までセットで高評価。
Posted by ブクログ
ユートロニカでただならぬ雰囲気を感じてこちらの本をチョイス。
結論、この作者はめっちゃくちゃ面白い。
この本自体は6つの短編からなるが、短編とは思えない密度を保ちつつショートならではの小気味良さも持ち合わせているので面白い。
個人的には「魔術師」が面白かった。タイムマシンというマジックを披露した父の後を追って、数十年に渡ってトリックを準備し、後戻りのできない一世一代のマジックを披露する姉という短いながらも起承転結のしっかりした構成が好き。
表題の「嘘と正典」も小難しい感じはあるもののすごく練られていて面白い。
Posted by ブクログ
1年ちょっとぶりの再読。去年読んだ時も面白くて星5つ付けたけど、改めて読んだら星12個くらい付けたいぐらい面白かった。
前回読んだ時に衝撃を受けた魔術師がやはり強烈。“ある”か“無い”かは意見が分かれるのだろうけど、個人的には無い方が理道の、そして姉の狂気が際立つと思うので無し派で。
表題作は前回はあまり頭に入ってこなかったけど、改めて読んだらとても面白かった。
この1年でテッド・チャンを読んだので時の扉の見え方がちょっと変わったのも面白かったり。
地図と拳、分厚くて大分身構えてしまうのだけど読んでみようかな
小川哲の多才
村上ラジオのプレ番組でのレギュラー出演で知り、地図と拳に打たれ、この作品で改めてその多才さを知りました。音楽の話も、馬の話も手品の話もみんな楽しい、小川さんを知ることができて良かった。
Posted by ブクログ
「王と道化の両方」
初めて読む作家さん。
親子で継ぐいい話系と狂気じみた展開だったりふざけてるのかどうかすら怪しいくらい計画的な犯行っぽい作品もあり、だんだんどっちに振り切るのかわからない状態で次の短編へ読み進めるのが楽しくなっていった。
「嘘が正典になるなら正典とは何か?」と言う思いが頭を巡る。
他の方の感想見ると「短編も面白い」って言葉が気になりますよ…それ聞いたら長編も読みたくなるって.
Posted by ブクログ
不思議な読み味の作品たちだった。
小川さんの作品は、君が手にするはずだった黄金についてと、君のクイズしか読んだことがないけれど、その2作ともに感じた内包するテーマは深いけれど、ジャンルに形容し難い独特な短編集だった。
ヒトラーの話、流行の話と最後の嘘と正典は、最後の最後にやられたー!と言いたくなる物語だった。
というか、歴史とフィクションの織り交ぜ方がうますぎる…
どの話も結構楽しめたので、このまま小川さんの作品を読み続けたい。
Posted by ブクログ
もはや小川哲氏のファンになったので、理由なく手に取る。
重厚ながら、ストレスなく読める文体。
ご都合主義に終始しないストーリー。
素晴らしい読書体験。
短編だからか話が着地しきっていないようなところはやや物足りなかった。
Posted by ブクログ
SFって好きだけど疲れるから読むのは多くなくて、でも短編だと物足りないみたいな立ち位置だけど、これは全然物足りなくない。短編なのにちゃんと完成されてるって隙がないな。個人的には、最後の不良、嘘と正典、ムジカ・ムンダーナが好き。
Posted by ブクログ
話の展開がSFでおもろい。嘘と正典はタイムマシン、運命が決められている、歴史の改変し合いの戦いで面白かった。あとは究極の音楽を探す話も。どれも伏線があって最後には驚きがある。ただ登場人物はどの人もCPUみたいで記号のような形で感情は無い。
Posted by ブクログ
書くのを忘れていたか、書いたのが消えたかしたが、非常に面白かった。
おそらく初めに収録されていたボドゲの話と、競馬の話、ヒトラー?の話(だっけか)が印象に残っている。
Posted by ブクログ
良いテンポで読めた。短編6つとも面白いなって読むのは意外に珍しい気がする。いくつかは長編にしても退屈しなさそうなテーマな分、キレイにまとまっているのをこじんまりしていると思うか作者の力量と思うかは評価が分かれそう。もっと読みたい、と思う人は少なくないのでは。
個人的には「ムジカ・ムンダーナ」が一番だったかな
Posted by ブクログ
「この表紙のおじさん誰だったっけな……見たことあるんだよな~!」
というレベルの人間も夢中で読んだ表題作だった。
どれも面白かったけど、お気に入りは表題作と「時の扉」。
場所や時間を引っ張りまわされながら懸命についていく感覚が良かった。
表題作のオチについては、どっちになればよかったんだろうと考え込んでしまった。
そして、物語というのは“正解”に辿りつくためのものじゃないんだよな……と改めて思った。
小川さんの作品はこの本が初めてだったけれど、物語を誠実に紡ぐ作家という印象。
登場人物たちの意志が確かに感じられて、「ここがこうなればこうなるし、あそこがああなればああなるよな」という納得がある。他の作品も読むのが楽しみである。
Posted by ブクログ
直木賞作家・小川哲の、以前直木賞受賞候補作になったSF短編集。6篇が編まれている。どれも独立した話だが、共通項に、過去と未来、父と息子、血脈、歴史改ざん、などを持つ。少し小難しく、気品があり、魅力的だ。謎めいた話の立ち上がりから注意深く読み進め、その短編の世界観を徐々に把握し、やがて筋はクライマックスを迎え…ホーっ、そういう展開ですか…。どれも複雑に構成された物語で、これぞ短編という味わいがあった。
「魔術師」は、かつてメディアで人気を博したマジシャンが再び表舞台に立ったとき、ステージ上でタイムトラベルのマジックを披露し、消えてしまった。そのステージの動画を何度も何度も見返す大人になった息子と娘。父は本当に過去に戻ったのか?父のマジックを再現しようとする姉。終始謎めいて不穏な雰囲気。
「ひとすじの光」は打って変わり、競走馬の血統をたどる話。疎遠だった学者の父は病に伏せっていた。亡くなる数日前に病室に呼び出された作家の息子は、父が唯一処分しなかった財産である競走馬についての父の原稿を読む。この馬のルーツを辿りながら、いつしか自分のルーツに思いを馳せる。
「時の扉」は、ファンタジーめいた話。どんな話なのかなかなか掴めない。古いヨーロッパのおとぎ話もしくはシェイクスピアの戯曲を読んでいるような感覚で読み進めているうちに、これは…!ある歴史上の人物の話なのだとわかる仕掛け。過去を認めず改ざんしていくと、時間は線形ではなくなる。
次の「ムジカ・ムンダーナ」は、異国情緒溢れる不思議な話。フィリピンの離島に、通貨の代わりに音楽で商取引がされる島がある。取引のために披露された楽曲は、徐々に価値を失っていくという。島の最高峰の音楽はまだ誰も聴いたことがない。かつてその島を訪問し帰ってきた作曲家の父は、以降いっさいの活動をやめた。父の遺品の中に古いカセットテープを見つけた息子は、印象的な曲が録音されていることを発見し、島に渡る…。
「最後の不良」は近未来の日本。流行を追いかけ続けることに嫌気が差し、オシャレを志すことがダサいと言われるようになった無機質な日本。トレンド情報誌の編集者だった主人公は、売れなくなった雑誌を横目に辞表を叩きつけ、特攻服を来て暴走族となるが…。ちょっと星新一テイストを感じた。
そして表題作「嘘と聖典」へ。冷戦の時代のソ連が舞台。主人公は、CIAの工作員。ソ連側の技士が寝返りたいと接触してくる。どうやら過去にメッセージを送る装置が開発されたそうな…?そこで、共産主義の祖であるマルクスとエンゲルスの出会いを阻止することで共産主義の誕生を阻止し、冷戦の原因を根絶できるのではという発想に至る…。果たしてこの歴史改ざんはどうなる。冒頭の伏線を回収するラストで、ふーっと満足感とともに本を閉じる。
贅沢な読書体験だった。
Posted by ブクログ
君のクイズ、ゲームの王国に続いて3冊目。
総じて難しいんだけど面白かった。教養が自分にあれば最高だったかも。
それぞれの短編を読んでる間は難しいし、なんだこれ?みたいな感じで進んでいくけど、読み終わったら面白い!すご!ってなるような感覚。個人的に。
お気に入りはひとすじの光です。
Posted by ブクログ
全体的に少し難しかったが、面白かった。
特に好きなのは「嘘と正典」はじめは何やこれ?と思ったが、途中からわかってきてドキドキした。
「ムジカ・ムンダーナ」も結構好き。歌うような言語ってどんなだろう、と想像しながら読んだ。音楽が通貨や資産になるという発想にびっくりした。
「最後の不良」は流行に関しての考え方が面白く、共感できるところがあった。私はどちらかと言うと流行気にしない派だけど、主人公の気持ちを知って、そんな考え方もあるんだなぁと面白かった。
Posted by ブクログ
物語が快適で読みやすい本は多いけれど、読み応えのある本を手に取ったのは久しぶり。ぐいぐいと没頭して読みました。
なんというか、脳みそフル回転で読む、という感覚でした。
作家が発表する作品は、その時代に衝撃を与えることも多々あると思いますが、私にとってこの作品がまさにそれ。
『地図と拳』に行く前に、他作品も読んでおこうと思います。
Posted by ブクログ
表題作の中篇を含む6篇の短篇集。また、時間を題材にした作品集でもありました。
どれも良かったですが、特に気に入ったのが
『魔術師』『ひとすじの光』『嘘と正典』です。
『魔術師』
売れっ子マジシャンとして大成した父は、積年の夢だった「魔術団」を結成します。しかし、天才的な演出力や演技力があっても、事業を取り仕切る才に欠け、借金を重ねて零落し、ついには妻と離婚して姿を消します。
ある時、再び表舞台に復帰した父は、僕と姉を公演に呼び「仕掛を見破って、恥をかかせたくないか?」とマジシャンになっていた姉を挑発してきます。はたして、父の人生を賭けたタイムトラベルマジックは本物なのか…
マジシャンがやってはいけない三つのことという「サーストンの三原則」。これに挑戦するという演出から、過去の好きな時間に飛ぶ片道のタイムトラベルは、アニメ『シュタインズゲート』のバイト戦士(鈴羽)の手紙を思い出して、涙腺が緩みそうになった。ラストは、読者に想像を任せる終わり方なので、謎は謎のままですが、これはこれでいいと思いました。
『ひとすじの光』
亡き父の残した競走馬と病室で書いていた未完の原稿。生前は、相続に関する手続きをほぼ終えてしまうほど几帳面だっただけに、競走馬の処遇を決めずに逝ってしまったのが謎でした。
その謎を解くため、父の原稿を読み始めたところ、スペシャルウィークの系譜を遡るところから始まっていた…
実在のダービー馬であるスペシャルウィークの血統を遡って行くうちに、作家の息子が父の思いを理解していく感動作。終盤は、まるで競馬の実況を聞いているような臨場感。ラストは、そこから新たな物語が始まるかのような終わり方が秀逸でした。
『嘘と正典』
時は米ソ相対する冷戦時代。ある日、モスクワ駐在の米大使館員(CIA工作員)が、接触してきたソビエトの電子電波研究所の技師から機密情報を得るようになります。周囲はKGBの監視が張り巡らされた、不自由な諜報活動。そんな中、技師は偶然にも「過去にメッセージを送る方法」を発見します。
それを知ったCIA工作員は、自分の過去に影を落とす共産主義を消滅させるため、マルクスとエンゼルスの出会いを阻止しようと歴史改変を試みます…
ミステリではないですが、伏線の回収が見事ですね。後半は、スパイ小説さながらのハラハラドキドキしながらの読書でした。しかしながら、何をもって正しい歴史とするのかとか、最後はいろいろ考えさせられました。
Posted by ブクログ
大雑把に言えばタイムトラベルと歴史に関しての短編集といったところか。
各短編の良し悪しにはかなりの差を感じた。
だが概ねどれも興味深く読めたのは確か。
名馬スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる『ひとすじの光』は
競馬好きにはたまらない内容。
自分が一番競馬に熱を上げていた時期の名馬に関する物語が読めるとは。
そしてこれほどまでに熱い血の浪漫が読めるとは、そういった感動があった。
そして表題にもなっている『嘘と正典』
これは長編で読んでみたいと思うぐらいの出来だった。
マルクスとエンゲルスの出会いを阻止することで共産主義の消滅を企む。
構成とオチは完璧。勿論、その結末には驚かされたに決まっている。
Posted by ブクログ
SF短編集。この短編集ひとつであらゆる時代のあらゆる物語が楽しめる。作者の着眼点・想像力が凄まじい。ただし、ものすごく分かりやすい文章にしてある所為か、文学的な要素は薄いと感じた。
○魔術師
父親の世紀のマジックを、姉が再演しようとする話。結局タイムトラベルを実際にしたのかどうか分からないままで、余韻の残るラスト。そこまで好みではなかった。
○ひとすじの光
作者の競馬愛がひしひしと伝わってくる作品。誰にも注目されず、ひっそりと現役生活を終える競走馬の一頭ずつにドラマが込められていることがわかった。
○時の扉
個人的には今作で一番微妙だった作品。あまり記憶に残ってない。
○ムジカ・ムンダーナ
個人的には今作の中でベスト。音楽を通貨とする部族の設定が面白かったし、それに魅了された父と子の物語もとても素敵だった。
○最後の不良
流行が消滅し、個性を出すことがダサくなった近未来を舞台に、懐古厨たちが暴れ回る話。と見せかけて、全て仕込みだったというオチ。これだけで長編一作できそうなくらい面白い設定だった。
○嘘と正典
一番ボリュームがある表題作。冷戦期のモスクワを舞台にしたがっつりSF。エンゲルスとマルクスの出会いを阻止することで、共産主義を世界から抹消しようとするCIA職員の物語。冷戦期のスパイ活動の緊張感がしっかりと伝わってきて、とても楽しめた。
Posted by ブクログ
頭を使って読む本。
とにかくいろいろ理屈を考えないと、話に付いていけない。面白いけど疲れる。す~っと頭に入ってくる話はグイグイ引き込まれるけど、引っかかってしまうとそこで止まってしまう。短篇ごとに、読む人の知識や考え方を選んでいる気がする。全編楽しく読める人はいるのかなぁ。
自分は、表題作が一番面白かった。
Posted by ブクログ
この短編集の感想を書くのは難しい。バラバラの話だが同じような世界観で描かれているような。
時間を超えてマジックを見せていくような魔術師、共産主義の時代を将来から過去に繋げていくような嘘と正典、名馬の血統の繋がりを探し出すひとすじの光。
この感じが好きな人にはハマるだろうという作家は多いが、私にはちょっと面白さがわからなかった。他の人の感想にあった回収が見事、という点を探し出せないところが多くあり。
Posted by ブクログ
小川哲さん、直木賞受賞おめでとうございます。SF界から直木賞が出たのは、半村良以来の50年ぶりかもしれない。でも「雨やどり」はSFではないし、この頃から路線を変更してしまった。私の大好きな恩田陸はSF大好き人間だけど、ジャンルはSF作家ではない。とすると、小川哲さんは初めての純SF作家としての受賞なのかもしれない。一方、芥川賞は結構いるようだ。
積読、すなわち現在所有している本は、本作品「嘘と正典」、「君のクイズ」、そして受賞作の「地図と拳」の3つだが、どれから読むか迷った。「君のクイズ」は帯の紹介文がうるさく、「地図と拳」は分厚いので、まずは本作品から読むことにした。直木賞候補作品でもあるし、短編集なので読み易いというのも選択した理由。
全体を通した感想は、SFの境界線、かろうじて境界線内に留まっているという位置付け。ならば、他の二冊も同じような感じなのだろうか。これから純文学の方に思いっきり舵を切るのだろうか。疑惑は深まる。
いずれの作品も人の心の動きを緻密に描いており、甲乙つけ難い六作品となっている。強いてベスト作品を選ぶなら、やはり時間SF、パラレルワールドの「噓と正典」だと思う。あと、どの作品か忘れたが、人は死んだら記憶を失ってまた他の人間に生まれ変わるという考え方、これは私が子供の頃に信じていたもの、そのものであり、ちょっとびっくりした。その亜流ではあるが、最近のテレビドラマ(ブラッシュアップライフ)でも人から人への輪廻を取り上げていた考え方。これは伴名練から借用したか?一方、手塚治虫の火の鳥では、様々な生物に生まれ変わるタイプの輪廻転生で最後に人間に戻るのだが、やはり実際?は人間のみで廻して欲しい。