藤岡陽子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
良書です。
その一言に尽きる一冊でした。
看護師の紗穂は夜勤中、長く意識が戻らない高齢女性患者が意識を取り戻した瞬間に遭遇する。
医師を呼ぼうとするも大きな地震が発生し、気付いた時、彼女は目の前にいたはずの患者の若き日の姿となり、1944年のマニラにいた。
従軍看護師として戦争に巻き込まれた紗穂は、仲間の看護士と共に厳しく苦しい日々を乗り越えていくー。
かなり突拍子もない設定ですが、主人公の紗穂の明るさと、戦時下のマニラにおける看護師の視点で描かれた第二次世界大戦の悲惨な描写に引き込まれ、あっという間に読み終えました。
20歳前後の女性達が従軍看護師として負った任務の過酷さ、目の当たりにした戦争の悲惨さ、無意味さ、それでも絶望せず前を向いて生きようとした精神力。
全くもって頭が上がりません。
そして改めて感じる、戦争の恐ろしさ。
ノンフィクションでは伝わらないことがあります。
史実に基づいた良質なフィクションの存在価値を示す一冊だと思いました。
この荒唐無稽な設定に違和感を覚えなかった理由が解説に書かれていました。
「戦争のおろかさを相対化するためには、戦争の外で生き、戦争の結末を知る人の視点が必要だから」だそうです。
だとしたら、戦争を知らない私達にもできることがあるはず。
もう二度と、あれほど恐ろしくて愚かで無意味なことが起こらないように、今を生きる私達に何ができるのか考えていかなければならないと思いました。
2020年11冊目。 -
Posted by ブクログ
助産師を描いた医療小説+お仕事小説。最近メキメキと頭角を現している藤岡陽子さんの作品で、なおかつ生命の誕生を扱ったものなので、「泣かせにくるいい話なのだろうな」と思っていたのですが、いい意味で裏切られた感があります。
主人公である若手の助産師、有田美歩。彼女の勤める産婦人科病院はなかなかにクセがある。先輩や後輩の助産師は頼りになるものの、院長は腕は不確かなのに尊大。さらに看護師長は院長の愛人で、この師長も仕事は満足にしないのに、部下にはヒステリックに当たり散らす。
描かれるテーマも主人公が壁にぶつかって、そこから成長して……、というお約束の感じではなかった気がします。美歩自身、障害をもった姉がいて、親の世話を一身に受ける彼女に複雑な感情を抱いた過去があり、その経験ゆえ生命倫理や出生前診断に悩む妊婦たちの苦悩に真剣に対応する。そんな彼女の真摯な姿は、応援しやすくて、また描かれる問題は難しいからこそ読み応えがありました。
他の描かれる事象もなかなかに重たい。若い女性のお産とネグレクト、そして中絶といった臨まれない子どもたちの話も心に迫る。作中で中絶手術の時、取り出した胎児の声が母体に聞こえないよう、助産師がガーゼで胎児の口をふさぎ、動きが止まるまで待つ、という描写があり、そんな心理的に厳しい手術の話も初めて知りました。
優秀ではあるが、ストーカー疑惑のある同僚の医師。真面目だったはずなのに突然、仕事を欠勤しがちになった美歩の後輩助産師。それぞれのエピソードを回収しつつ、物語は進んでいきます。結末としては、完全なるハッピーエンドではないかもしれないし、物語全体としてみると、少し詰め込みすぎな感じも否めない。
でも一方でシリアスな物語の展開に対しての、登場人物たちの新しい生命に対する想いには心を打たれました。母になるということの意味であったり重さであったりも、考えさせられます。
そして何よりネグレクトや、障害を持って産まれた子、そして中絶でお腹の中だけで命を終えた子。そんなすべての命に対する慈しみが感じられて、それが本当に良かった。藤岡陽子さんも、折に触れて追いかけていきたい作家さんになりそうです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレまず、新潮文庫100選を読んで抽選に当たった本です。ありがとうございます。前向きで暖かい、幸せな気持ちになれるこの本から新しい年を始めます。
服飾業界のデザイナーの夢を持ち続けて実現させてきた。実績もある35歳の水樹。突然会社が方向転換して業界から撤退することになった。中途採用で難関を切り抜けてきたがまだまだ愛着がある。仕事は好きだ。
落ち着かない将来の方向に、迷いに迷っていた時、京都の母校から連絡が来る。水樹の困難な夢の実現を後押ししてくれた恩師が入院している、治癒の難しい病気で、命が残り少ないかもしれない。クラスで集まってお見舞いに行こう。
30代半ばでまた将来の道に迷っている、才能を見つけてくれた。上京し好きな道に進むきっかけを与えてくれた美術の先生に、間に合ううちに会わなくてはならない。
そうして水樹の記憶の底から懐かしい時間が蘇ってくる。
集合住宅の真上、二階の家族とは特に親しかった。年が近い三人兄弟との思い出。中でもいつも気にかけてくれて、前向きで元気をくれた同級生の信也はどうしているだろう。
お見舞いの連絡が彼一人だけが取れないらしい。どこでどう暮らしているのか、心を寄せ音符を刺繍したシュース入れを渡した、淡い思い出恋しい心が蘇る。
多感な頃、経済的にも苦しかった。それでも頑張って服飾の道に進んだが。あのころ信也の家庭はより苦しかった、頼りになる秀才の兄が弟をかばって事故で死んだ。母親は入院していた。あの苦境からどうして暮らしているのか。
思い出の地で先生は重い病にやはり衰えも見えたが、秀才で将来を嘱望されていた同級生が地元に残って公務員になり先生に付き添っていた。二人の親密な様子に先生との絆が見えた。
水樹はそれぞれの苦悩と希望が織り込まれたあの時代、将来の進路に悩んだ時代を思い出し、信也を探すことにする。
節目を過ぎるとき同じ悩みを持つ、青春時代をどう生きたか、懐かしさと戻りたくない思いがある。その中からもう一度やり直せたらと思うことがある。あの時代をどう生きたか、埋もれていた時間に帰ってもう一度歩みだすことができるとしたら。今からでもまだ間に合う。
状況は違っても時間の流れは様々顔を変えながら過ぎていく。初心という言葉がある。
そういうこと。
そんな話だった。
迷いながら生きていくこと、埋もれてしまっていた時に還り、新たに希望を見つけた水樹の、過ぎてしまったと思っていたあの時代の思い出が、厳しく優しく、暖かく胸に迫る。 -
Posted by ブクログ
再読。
以前よりは、かなり客観的に眺めていたとは思いますが、やはり辛い読書でした。
和恵の悪意に絡め取られ、翻弄された家族。
長い夫婦の時間があればこそ、夫の不義理に対して、恨みがあってもどこか許してしまう気持ちもあったのかもと、聡子の心根を想像する自分がいました。
家族に支えられ、自分の足で立ち上がった聡子の強さが、最後は章を受け入れたのだろうと思います。
幸せは自分しだいで増やせるものだと気づいた聡子のこれからを応援したいです。
2021/11/11
再読。
家庭を省みることなく仕事第一に生きてきた団塊世代の廉太郎。自分よりも人という我慢が習い症になっていた杏子。
この時代の夫婦では平凡で当たり前で、感情を素直に出せない様子が切なかった。
杏子の病状が進み、廉太郎が鎧を脱ぐが如く杏子に感情を見せるようになる姿に何度も涙し、妻として残していく夫が心配で、家事や近所付き合いなどを教えていく様に、同じ女として尊敬の念を覚えました。
家族のお別れの時に、互いの尊厳を尊重し、その時を迎えることが出来る、そんな時間をもてたらいいなと私も望みます。 -
Posted by ブクログ
シングルマザーとして懸命に生きる主人公。真面目で一生懸命だからこそ、いろいろなことを一人で抱え込み、かえって人生をこじらせてしまっているようにも感じました。
母親として読むと、子どものために頑張ろうとする気持ちや、自分のことよりも子どもの幸せを願う姿には、どこか共感するものがありました。
そして何より心に残ったのは、そんな母親を見ながら、まっすぐ優しく育っている子どもの姿。子どもは親が思っている以上に親のことを見ていて、時にはその優しさに親のほうが救われることもあるんだな、と胸が熱くなりました。
家族のさりげない優しさにも何度もぐっときて、完璧じゃなくても、支えてくれる人がいることの温かさを感じました。母と子の絆や家族の愛情がじんわり心に残る、優しい物語でした。 -
Posted by ブクログ
なんのために受けるのかは家族毎に違うんだろうけど、目標に向かって必死に挑む過程そのものが、人を大きく変え(子どもが成長し)、未来を切り開く財産になるのなら、中学受験もありなのかも。
英語が全くダメで、センター試験も受けたことはないし、『必死』に勉強をした経験のない私には、眩しくも少し耳が痛いお話。
世の中には、こんなにがんばって『輝く金の角』を持った子どもたちがたしかにいるんだろうな。
正直、受験にも学習塾にも少なからず偏見を持っていた。(兄妹ともまったく兆しはない)けれども、将来子どもたちが、勉強をがんばりたい!と打ち明けてくれたなら、できる限りのサポートをしよう。
訛りが強くて、歯列矯正してて、息が臭くて、坊っちゃん刈りの中年英語教諭。他人のせいにして逃げているだけなのはわかってる。それでも言いたい。英語が嫌いになったのはお前のせいだぞ!
ところで、お母さんは保育士になれたのだろうか?きっとなれたんだろうな。いきいきと働けていたら嬉しいな。