あらすじ
大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した木崎瑠美。毎日を憂鬱に過ごす彼女だが、不器用だけど心優しい千夏との出会いや厳しい看護実習、そして医学生の拓海への淡い恋心など、積み重なっていく経験が頑なな心を少しずつ変えていく……。揺れ動く青春の機微を通じて、人間にとっての本当の強さと優しさの形を真っ向から描いた感動のデビュー作。
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Posted by ブクログ
千夏もやめないでよかったし、実習で別の患者ならとかせんのない想いがあるし、初日止めるはずの瑠美が主席卒業して世渡り上手な遠野が止めるし亡くなったし、藤岡陽子さんの本はホントたくさん過ぎる詰まった中身、お父さんの鬱病の心情まで書いてるので、看護学生の体験から病院に患者に書かれてるが体験談からリアル感が抜群。遠野との距離感に千夏との距離感に書くのが上手ですね、留学や経験が積み重ねなんだろうな、海とジイで出会ったがホント読めて良かった
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「リラの花咲くけもの道」も良かったけれど、
こちらの方が心にグッときました。
この作品がデビュー作とは驚きです。
3年間共に学んだ友人達の最後が
なんともやるせない結末で
言葉になりません。
医療関係者にも、そうでない方達にも
お勧めの一冊です。
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これが藤岡陽子さんのデビュー作なのか。
主人公瑠美のハニキヌキセナイ生き方に、青春の真っ直ぐさと苦味を感じた。苦味は他でもない自分自身の苦い記憶。自分の考えが正しいと信じて権力に媚びないこと、それが自分らしさだと思っていた時期があったから。
瑠美の親友千夏は、包容力満点の看護師にピッタリの女性だった。屈折した正義感あふれる美女遠野も魅力的だった。二人のお子さんがいる佐伯も。
思わぬ展開で幕を閉じたこの物語。なのに読後感が無念や喪失感、哀しみに沈まないのはなぜだろう。
4人の選んだ道、レールがみんな重ならなくても、それぞれが自分の意志で選んでいったからなのかもしれない。
看護師さんを目指すこの話を読んで、父が亡くなった日の病院の一コマを思い出した。
父が亡くなった時に泣き崩れていた看護師さんを。
救われた。ありがたかった。
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不器用だけれど真っ直ぐな人、この作品に登場する人たちはみんな正しさのセンスがある。辛く悲しいことがあっても、挫折をしても、そのあとどう生きるのか、どんな風に考えるのかで、未来はいくらでも変えることができるのだと思う。
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看護学生ならではの、実習や実技試験の辛さ、理不尽な教員の言い分など…瑠美と同じく看護師に憧れていなかった看護学生だった身としては、まさに絶望感がよく分かる。瑠美のような自分を曲げない姿勢と、それにより偽りのない人間関係を築けることや自分の進む道を拓いていったことが尊敬できるし、瑠美は強いと思った。白衣の天使という言葉に対する純真で潔白というようなイメージを払拭してくれる、すっと腑に落ちた物語だった。
Posted by ブクログ
藤岡陽子さん、「手のひらの音符」に続いて2冊目です。
「手のひらの音符」も本当に良かった。この本もとてもいいです。
何と言うか、2冊とも納得しながら読めるんです。
人にはそれぞれいろんな人生がある、いろんな感情がある。それを経て、強い意志や思いやりが芽生える。
今回もいいセリフがちょこちょこ出てきて、読後は勇気づけられます。
おすすめの作家さんです。
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看護学校の学生の青春物語かと思ったが、もっと過酷な看護の世界や、真っ直ぐに生きていくには時に残酷で理不尽な社会が描かれており、読み終えてやりきれない気持ちになる。
唯一明るい気持ちになるのは、ヒロイン瑠美の看護学校の親友である千夏が登場した時である。
千夏の明るくて大らかで優しい人柄が物語に光を差し込んでくれる。
登場人物たちの決して交わらない一方通行の恋心も、繊細で切なく描かれている。
何よりも尊いのは、彼女たちのまっすぐな心が不当に曲げられることを許すことができないこと、間違っていないのに間違ったと修正できない生き方。
社会の中で大人たちは心がすり減って行くが、何色にも染められていない若物の心は瑞々しく眩しい。
この作品は藤岡陽子さんのデビュー作であるが、心の奥にスッと入ってきて、飽きることなく400ページ以上の長編を読ませる筆力はさすがだ。
ますます藤岡さんの作品をもっと読みたい気持ちになる。
Posted by ブクログ
木崎瑠美
大学受験に失敗し、看護学校に進学する。看護師になりたいという願望は特にない。卒業式では卒業生を代表で答辞を読んだ。
平野亜矢
二年の夏まで一緒にアーチェリー部に所属していた。
山田千夏
瑠美と同じ看護学校の同級生。瑠美と同じ班。父は自衛官。父と三歳下の妹と三人で暮らしている。看護記録の訂正を先生に言われたが拒否し、看護学校を退学する。
佐伯典子
瑠美と同じ看護学校の同級生。瑠美と同じ班。三十代半ば。離婚して看護学校を退学し、旧姓の須賀典子で出直す。
遠野藤香
瑠美と同じ看護学校の同級生。瑠美と同じ班。人を圧するほどの美貌。ひとつ違いの妹が十二歳の時に手術ミスで死んだ。病院側を訴えず、両親は離婚した。千夏への病院側の行いに対し教員に歯向かう行動をし、退学した。
横井ちえ
瑠美と看護学校のクラス委員。自分の発言を周りにいるすべての人に聞かせなくてはすまない勝気な性格。瑠美は苦手を通りこして嫌い。
日野瞬也
千夏の友人。大学の剣道部。保育園から高校まで一緒だった。瑠美に告白する。
原さとみ
大学の剣道部のマネージャー。瑠美の一つ年上。
佐藤
大学の剣道部。背が高い。兵庫県出身で、インターハイで優勝経験あり。
三田
大学の剣道部。高校から剣道を始めた。
新田
大学の剣道部。面打ちが得意なイケメン。
林
横井ちえといつも一緒にいる。
菱川拓海
大学四年生。図書室で勉強をしている瑠美に声をかけた。母と弟の三人暮らし。かつての父親は小学校の時に別れていて、それから一度も会ってない。
瑠美の初恋相手で瑠美達の実習病院と同じ系列病院の小児科医。
波多野
瑠美や千夏の担任。
佐伯の夫
建築士。
佐伯の娘
拓海の父
京都に住んでいて森林を研究する施設で働いている。
湯川さつき
澄川ヌイ
鍼灸師。
池尻
年配の教員。
千田仙蔵
瑠美が臨地研修で担当した患者。
浜野
病棟の指導看護師。
篠原
千田を担当する看護師。
野木佑太
千田の孫。手紙を花房チヨを探して手渡すように依頼される。
花房チヨ
六十年前、千田の母親が働いていた都内の病院の同僚。
矢部
担当教員。
八木友香
瑠美が担当した小児科入院患者。
越野
八木友香の担当。
Posted by ブクログ
あなたは、看護師になりたいと思ったことはなかったでしょうか?
進学情報サイト「スタディサプリ進路」が2024年に実施した“高校生のなりたい職業ランキング”の第三位にランクインしたという看護師は昔から”なりたい職業”の上位に位置付けられる職業のひとつです。2024年末で136万3,142人という就業看護師の数の一方で、高齢化社会によって看護師不足は年々深刻化している現状もあるようです。
私たちの命を預ける存在でもある看護師。しかし、そんな看護師になるには国家試験に合格する必要があります。また、国家試験を受験するためには『看護学校』に通う必要もあります。私は看護師ではありませんし、当然、『看護学校』でどのような学びが行われているかも存じ上げません。命を預かるにはどのような学びがそこに用意されているのでしょうか?
さてここに、『看護師になるつもりなど微塵もな』いままに、『看護学校』に入学した一人の女性を主人公にした物語があります。看護師になるための学びを見るこの作品。命を預かることの意味を知るこの作品。そしてそれは、自らも看護師である藤岡陽子さんが看護の現場を描くデビュー作な物語です。
『おはよっ』、『予習してきた?』と、山田千夏(やまだ ちなつ)に『後ろから背中を叩かれ』、『ああ…おはよう』、『演習ってベッドのシーツ交換でしょ。予習のしようがないじゃない』と答えるのは主人公の木崎瑠美(きざき るみ)。『看護師になるつもりなど微塵もなく、とにかく手に職をという親を納得させるためだけに受けた』『都心にある看護学校へ』と通う瑠美は、『きょうこそは担任に退学の意思を伝え、手続きをしよう』と考えています。『じゃあ前に出てやってみて』と言う教員は『名簿に視線を落と』すと、『一組の山田さんと佐伯さん』と指名します。『こわごわとシーツを摑んでいるがどう扱えばいいのかわから』ず苦戦する千夏は、『予習をしっかりしてこいと教員に注意を受け』てしまいます。そして、『各々練習を始めた』学生たち。『瑠美は佐伯と遠野、そして千夏と同じ班にな』り練習を進めます。そんな授業も終わった放課後、『ねえ。やめるなんて言わないでよ。せっかく入った学校じゃん』と、『千夏の大きな声が』教室に響きます。『もともと私、看護師になりたかったわけじゃないし』と言う瑠美に『そんなこと言わないで。いずれやめさせられるかもしれないんだし、それまで残りなよ』と返す千夏は『この学校って入学した数の六割くらいしか卒業できないんだよ。四割の学生はやめさせられるか、自分からやめちゃうんだって』と話します。『一人娘の瑠美の進学先が決まり、ほっとしていた両親の顔』を振り返る瑠美は、『仕事をやめていた父も、数ヶ月前から二十四時間営業の焼肉屋の店長として働き始めたところ』で、『成人するまではと慣れない勤めに出ていく姿を前にすると、自分の思いを言えなくなる』という今を思います。『学校をやめたところで次に自分が何をすればいいか、本当はわかっていない…大学に行ったからとて何者になれるかはわからない』と思う瑠美。
場面は変わり、『夕食を一緒に食べようと言』う千夏と学校を出て『JR新橋駅に向かって』『並んで歩』く瑠美。『瑠美はほんとはどこを志望していたの』と訊かれ、『受験した大学名と学部を口にすると』、『そりゃ難しいわ』と、『大げさに溜め息をつ』く千夏。『あなたは?看護学校だけ?受験したの』と反対に訊く瑠美に、『あたしは看護の専門学校だけだよ。大学はいちおう防衛大も受けたけど。なんちゃって受験だよ、なんちゃって。記念、記念』と答える千夏は『小さい頃からずっと看護師になると決めていた』ことを説明します。『親がそうしろって言い続けてたから』と言う千夏は、『あたしは農耕牛のようにでかいし、器量も良くないし、要領も悪いし、男受けはしないだろうって…ひとりで生きていけるようにしとけって』と父親に言われて育ったと話します。それを聞いて『えらくひどいことを言う父親だなと思ったが、本人はさほど傷ついてもいないように見える』と感じる瑠美。そんな中、『うちで夕飯をごちそうしまあす』と言う千夏は、『山田家の食卓にご招待。まあちょっと遠いんだけど。うち和光市だから、埼玉の』と説明します。『なに、あなたのうちで?』と驚く瑠美に『心配しなくても大丈夫』と言う千夏に連れられ山手線に乗った瑠美。『電車を乗り継いで』和光市駅へと降り立った二人。『あたしんち、あれ。見える?高野豆腐みたいなのが並んでるでしょ』と言う千夏は、『官舎なんだ』、『あたしの父親、自衛官だから。その官舎』と説明します。『小学校二年の時に病気で』母親が亡くなり、『父と、三つ違いの妹との三人で暮らしている』と補足する千夏。『瑠美は、姉妹いるの?』と訊かれ『私はひとり』と答える瑠美に『へえ、そうなんだ。愛情いっぱい育てられたって感じだもんね』と言う千夏は『物怖じしないというか、マイペースというか、あたしから見れば羨ましいとこあるよ』と続けます。それに『我慢できない性格なだけよ』と言う瑠美。そんな瑠美に『うちまで来てくれてありがとう。誘うのけっこう緊張したんだよね』と言う千夏は『あっさり断られるかな、と』思ったと話します。『私こそありがとう…という言葉がうまく出てこなくて』口ごもる瑠美は、『本当は、千夏が声をかけてくれて嬉しかった。入学してから今日まで、瑠美の近くに寄ってくるのは千夏だけで、彼女がいなければひとりきりの学校生活を送っていただろう。朝、教室に入ると一瞬のうちに千夏の姿を探していることを、彼女は知らない』と思う瑠美。『入学式の時からずっと、瑠美と友達になりたいと思ってた。強い人といれば自分も少しは強くなれるかな、とか思ったりして』と言う千夏に『かいかぶりよ』と返すと、『そう…かな。でも瑠美となら繋がれるとか群れるとかじゃない友達になれるような気がして。本物の友達っていうか…。ってあたし大げさかな』と言われた瑠美。『何か言おうとして、でも今話すと声が震える気がしたので、黙って千夏の目を見』る瑠美。『看護師になるつもりなど微塵もな』いという中に『看護学校』で、さまざまな経験を積みながら卒業のその日を目指して歩んでいく瑠美の姿が描かれていきます。
“大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した木崎瑠美。毎日を憂鬱に過ごす彼女だが、不器用だけど心優しい千夏との出会いや厳しい看護実習、そして医学生の拓海への淡い恋心など、積み重なっていく経験が頑なな心を少しずつ変えていく…。揺れ動く青春の機微を通じて、人間にとっての本当の強さと優しさの形を真っ向から描いた感動のデビュー作”と内容紹介にうたわれるこの作品。同志社大学文学部をご卒業後、報知新聞社に就職、その後留学などの経験をされた後、専門学校に通われ看護師資格を取得された作者の藤岡陽子さん。この作品はそんな藤岡さんが2009年6月23日に発表されたデビュー作になります。
2018年4月には、新川優愛さん主演でテレビドラマ化もされているこの作品は、藤岡さんのご経験を描くかのように『看護学校』をその舞台としています。看護師になるには、大学もしくは、3年制の短期大学か専門学校を卒業し、その後、看護師国家試験に合格する必要があります。主人公である木崎瑠美は、高校卒業後、『国立大学』を受験するも不合格、『すべり止め、看護学校だった』と『本人の希望ではなく親の勧めで』『地下鉄三田線の御成門駅から徒歩二分、都心にある看護学校へ』通うようになります。詳細は記されていませんがおそらく3年制の看護専門学校が舞台になっているようです。看護師を主人公に看護の現場を描いた作品としては医師が本業の南杏子さんの「ヴァイタル・サイン」があります。一方で看護師が本業の藤岡さんの作品では、若干飛び道具感が強い「晴れたらいいね」しか私は読んだことがありません。この作品の主人公の瑠美は看護を現在進行形で学ぶ立場であり、看護師を主人公とした小説ではありませんが、普段なかなか目にする機会のない『看護学校』の現場を見ることができることは貴重です。では、そんな現場での学びについて少し見てみましょう。
『ここで下着以外、着ているものをすべて脱いで。ロッカーは一番端から四つを使って。術着はここ。帽子、靴下も忘れずに着けてきてね』
看護師の指示に従って術衣に着替える面々。『手術の見学をするために系列の大学病院』へとやってきた瑠美たちは、『手術を見るのなんて初めてのこと…』、『大丈夫かしら、血とか見るんでしょう?』と戸惑いながら『手術室』へと向かいます。『患者の命すべてが、医師と看護師に預けられている』ことを実感する瑠美という手術室の見学では、『結構倒れる子いるのよ。ここ』という現実もあるようです。
『実技試験の内容は、ベッドメイキング、洗髪、全身の清拭、浣腸、足浴の五課題で、その中からひとつ試験される』。
学びを進める中で避けることができないもの、それが『試験』です。『ある程度準備して臨める学科にくらべて実技は運に左右される』という『実技試験』に臨む瑠美たち。『どの課題に当たるかは、今日、いわゆる試験当日までわから』ないというやり方で実施されるようです。『自分の不得手なものに当たった学生は不運』というその内容は、命を預ける側から見れば仕方ないかなとは思います。しかし、あくまで学生視点から見ることができるところが興味深いです。
『看護学生の木崎瑠美でございます。本日が臨地実習の初日でありまして、至らぬとは思いますが、どうぞよろしくお願いします』。
そんな挨拶からスタートするのは『週明けから、いよいよ初めての臨地実習が始まった』というリアルな医療現場へと足を踏み入れる場面です。個室へと入り、『剝き出しの命と死の気配に、膝が震える』という瑠美の様子が描かれていく場面は読んでいて間違いなく緊張が走ります。物語では、『あの人、難しいから』、『手を焼いてるの。あの人には』と看護師が噂する患者と向き合っていく瑠美の戸惑いが描かれます。学校での授業の場面と違って命を預かる看護師ならではの実習の様子を見ることができ、物語の面白さも増してきます。看護師になるのも大変だということが改めてよくわかる中、とても興味深く読ませていただきました。
そんな物語は、主人公の瑠美の他、同じ班となる四人の学生たちを中心に展開していきます。そんな四人をご紹介しておきましょう。
・木崎瑠美: 『国立大学』受験に失敗し、『すべり止め』として親が希望した『看護学校』に入学。『看護師になるつもりなど微塵もな』い。『二クラス合わせて九十七名の中で、二番の成績』
・山田千夏: 瑠美の同級生で同班。自衛隊に勤める父と三つ違いの妹と官舎に暮らす。『モアイ』とあだ名をつけられている。日野瞬也の幼なじみとして育つ
・佐伯典子: 瑠美の同級生で同班。二人姉妹の母親。『社会人枠』で看護学校に通う。横浜市青葉区の一戸建てに暮らす。夫は建築士
・遠野藤香: 瑠美の同級生で同班。『妹が手術中に命を落とし』、それをきっかけに家族は離散。妹の死の翌日に病院で医師が笑っているのを見て『自分自身の手で、復讐するしかない』と考える
以上の四人を軸に、そして、上記した『看護学校』での学びを描きながら物語は展開していきます。とは言え、二十歳前後の青春を描く物語である分、瑠美が出会う男性についての淡い恋の物語など、必ずしも看護一辺倒で描かれるわけではありません。しかし、どこまで言っても看護の学びを深めていく瑠美の心の有り様が描かれていく物語はやはり魅力的です。
『瑠美は、たった一ヶ月で人はこんなに弱っていくものだということを知った。病魔が巣くうということは、死臭を帯びるということはこういうことなのだ』
同じ医療職と言っても医師と看護師では役割が異なります。それぞれの患者の疾患に向き合っていく医師に対して、患者が生活の場とする病棟を守っていくのが看護師です。そんな看護師になるために学びを深める瑠美は、その学びの中で人が弱っていく姿を目にしていきます。それは、教科書や参考書に書いてあることではありません。自分の目の前で、毎日通う実習の場で、本物の人間が弱っていく様子を見ることになるのです。『病魔』の恐ろしさを感じる一方で、それでも患者と誠実に接していく瑠美の姿は作品冒頭からは大きく変化しています。
『自分が資格を持った看護師であれば、患者の力になることもできるけれど、学生という身分では患者からもらうばかりで、自分は何ひとつ返すことができず、それがまた苦しい』
人が弱っていく現場にいるにも関わらず、一人の学生として何もできない歯痒さを思う瑠美。『実習を経験した者にしかわからない』というその苦しみは将来、看護師になり現場を守っていくためには、必ず経なければならない通過点なのだと思います。この通過点の中で得ることのできる学びの大きさも理解できるところです。しかし、その経験の辛さは簡単に言い表せるものでもないのだと思います。
『看護学生にとって実習より大切なものはなく、また実習より辛いこともない』。
そんな大切な時間を経験していく瑠美。物語は、『看護師になるつもりなど微塵もな』いと退学を考えていた瑠美が看護の現場へと向かって力をつけていく様を描いていきます。その中では、同級生の四人にもさまざまな苦難が襲いかかります。そして、至る物語の結末には、人として誠実に、看護の現場に、人の命に向き合っていく看護師たちの物語が描かれていました。
『白は何色にも変わる』。
白衣姿で命の現場に向き合っていく看護師。そんな看護師になるために学びをすすめていく看護学校の学生たちを描くこの作品。そこには、”本当の強さと優しさ”とは何かという問いを求める主人公たちの姿が描かれていました。看護の学びを興味深く見るこの作品。恋も友情も描く”青春物語”でもあるこの作品。
看護師の世界に興味がある人だけでなく、多くの方に読んでいただきたい、人の命に向き合う貴さに胸打たれる物語でした。
Posted by ブクログ
看護学生ってこんなに大変なのか。
看護師の皆さんはこれを乗り越えてきたんだな。
「常識というのはその場にいる人間で作られるの。だから常識が正しいことだとは、限らない。」
わかる。医療の現場に限ったことではない。おかしいと思ったら声を上げることができる人は貴重だ。そこにずっといると慣れちゃうから。
それにしてもそんなにみんな辞める?と思ってしまった。看護学校ってそうなの?
でも登場人物みんなに魅力がある。それぞれの選択を応援したい。
個人的には佐伯さんが一番好き。空港での場面、よかったな。
Posted by ブクログ
藤岡さんの小説が好きな方は、いつかは必読。生きること、家族や友人、恋愛についての価値観の原点となるデビュー作。派手でなくても、失敗しても、着実に前に向かって歩む姿勢には、やはり勇気づけられる。
Posted by ブクログ
似た環境の人たちに囲まれていた高校生までとは違い
年齢も生き方も様々な人がいる看護学校で
成長していく主人公
人生のどの時点でどのような人と出会うかはその時にならないと分からないけれど
無駄な出会いはないと信じて
出会いを大切にしていきたいと思わせてくれた話だった
Posted by ブクログ
著者4作品目。デビュー作との事ですが、完成度が高くワンクールを通してドラマの原作になりそうなくらいストーリーや登場人物達に魅力があります。
著者が看護師という裏付けもあり、おそらくモデルとなった人物がいるだろうと想像するくらい設定に説得力があります。
著者の文章は私の心に寄り添う距離感が絶妙で、常に優しく癒してくれます。
どれくらい読み続けても疲れないからいつまでも読んでいられます。
今更ながら、私にとって贔屓の作家さんの1人になりました。
Posted by ブクログ
なんの目標もなく進んだ看護の道を選んだ瑠美の、看護学生の生活を通して変わる心情の変化が読んでいて面白かった。その他の登場人物との恋愛絡みや病院実習中に起こった出来事を通して、それぞれ看護師として成長していくのかと思ったが、看護学校を卒業できるのは6割という伏線通り、実習の4人組であった瑠美、佐伯、遠藤、千早のうち瑠美を除く3人がそれぞれの理由で自主退学の道を選んだのも面白かった。まとめると、目標なく大学に入ったとしても、大学で学んで行く中で見えていくものもあるため、進んで自主退学する必要もなく余程のことがなければ退学のタイミングは、来る時が来た時で良いのではないかということ。
Posted by ブクログ
大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した木崎瑠美。毎日を憂鬱に過ごす彼女だが、不器用だけど心優しい千夏との出会いや厳しい看護実習、そして医学生の拓海への淡い恋心など、積み重なっていく経験を頑なな心を少しずつ変えていく…。揺れ動く青春の機微を通じて、人間にとっての本当の強さと優しさの形を真っ向から描いた感動のデビュー作。
Posted by ブクログ
「これ読んでみ。きっと色々思い出して懐かしく思うんちゃうかな。」と、母からこの本を渡された。
私は自分には向いていないと思いながら、看護師を続けていた。
だから、この本を読む事に気分が乗らなかった。
しかし瑠美の姿勢と千夏の人柄に随分と心が救われた。
気分が落ち込み仕事に行きたくない日も、、私を持ち上げてくれた。
何か不思議な力を感じる作品。
Posted by ブクログ
看護師の方々からは現実はもっと違うとの批判もあるのでしょうが、医療現場の厳しさが私には感じられる作品でした。人柄の良い大人は登場せず、涙もありませんでしたが、これがデビュー作かと思うくらい読み応えがありました。日本人らしくない瑠美さん、今のままで頑張って!
Posted by ブクログ
看護学生が看護師になるまで…のお話…と思って読み始めたが。
家族、友情、恋愛、生き方、考え方…いくつものことが混ざり合って、目まぐるしい3年間を一緒に感じることができた。
瑠美の視線で描かれているので、これはこれでいいのだが、拓海や駿也の心が単純過ぎるような気がした。
Posted by ブクログ
藤岡陽子さんのデビュー作。人間模様を分かりやすく伝えてくれて、文体も読みやすいのはこの頃からさすがだと思う。
迷いながらもひたむきにがむしゃらに進む、が藤岡作品の主人公たちに共通するキャラクターであり良さだと感じていて、その点は今回も同様だった。また、社会の不条理を織り込んで、ご都合主義にならないストーリー展開も好きだな。
後の作品をいくつか読んだ身からすると、恋愛の進展を安易にストーリーに絡めない(あっても恋愛はサブのサブくらい)作品が多かった印象で、好ましく思っていたので、本作品は恋愛絡みの分量がやや多かった点が惜しかったかな。これは好みの問題かとは思う。
Posted by ブクログ
看護学校に通うことになり、そこで出会った仲間たちたとの看護師になるための勉強についてや恋愛、そして友情を描いた作品。
主人公の瑠美は看護師の仕事は厳しいと実習で痛感するが、それでも頑張れたのは友人がいたから…
凄く仲が良くなった千夏。
仲は良くないのに、頼りにされていた遠野。
様々な要素が盛り込まれていて、時に涙腺が緩んだ。
2024.7.11
Posted by ブクログ
<本のあらすじ>
大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した木崎瑠美。毎日を憂鬱に過ごす彼女だが、不器用だけど心優しい千夏との出会いや厳しい看護実習、そして医学生の拓海への淡い恋心など、積み重なっていく経験が頑なな心を少しずつ変えていく……。揺れ動く青春の機微を通じて、人間にとっての本当の強さと優しさの形を真っ向から描いた感動のデビュー作。
<感想>
進路で看護師を目指す人はどんな人でしょうか。純粋に看護師という仕事に憧れる人、身内に医療関係者がいる人、一人で生きていく、お金に困らない資格を得たい人などさまざまでしょう。コロナ禍で改めて「エッセンシャルワーカー」の職種としても考える日々を過ごしました。感謝や敬意を表し、メディアもこれを広く取り上げられました。しかし、エッセンシャルワーカーの重要性が広く認識されると同時に、日本では人手不足が顕著な職種である実態が問題視されています。
読んだきっかけは自分が看護師さんに患者として大変お世話になっている身だからかもしれません。
主人公は大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学する。
専門知識の習得はもちろん、実習や人間関係など、いのちと向き合う肉体的精神的にも大変な仕事だ。
看護資格を取得した作家のデビュー作として、とても実体験に基づき、思いが込められた作品だと思った。
瑠美と千夏。二人とも不器用で、「常識よりも大切な物」を抱く。「正しさのセンス」を持っている。
病院という生と死が凝縮された場で、患者として思うのは、看護師が重くてつらいものだろうし、献身的な努力も求められたり、そして患者や家族にとって、医師にとってもありがたい存在だ。
とはいえ、この物語を通して言えるのは、看護師としての在り方だけではなく、何のために生きているのか。何を根拠に人生を進むのか。私達が生きている限り、その意味を問いつづける事が人生なのだ。
答辞の言葉より
「白衣は白い色をしているが、その白は潔白の白さではないと。どんな色にでもなり得る白なのだと。
(中略)この先、何色の白衣をまとっているかは、それぞれの生き方にかかっているのです」
が物語っている。
グレーになったり黒になったり、何色にも染まる白だからこそ『いつまでも白い羽根』を持つ気概を持っていけたら、そんな生き方ができたら。テーマは重たいけれど励まされた作品だった。
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本文で気になった文章
p224
「お父さんな、鬱病だった時期があってな・・・・・・。おまえも気づいていたかもしれないが・・・毎日毎日、生きるのが本当に大変だった時があったんだ。一日をやり過ごすのが驚くほど大変で、一日がこんなに辛いんだったら、あとの人生の何十年、どんだけきついんだと思うとまた滅入ってしまってな。本当に苦しかった。そんな風に思ってしまう自分が情けなくて、何よりおまえや母さんに迷惑をかけていることが情けなくて・・・。死んでしまおうと何度も思った」
「でも死ななかった。死のうと思うたびに、おまえのことが頭に浮かんだんだ。おまえが生まれた日のことを思い出すんだ。おまえが生まれた時、人はなぜ歳をとるのかという答えを、お父さんは見つけた。歳をとるのは、一日一日強くなっていくためなんだと。お父さんは、赤ん坊の顔を見ながら確信したんだ。自分は父となり、子どものおまえを守っていける強さを身につけようとその日強く思ったんだ。」
「死にたいと思う今日の自分がいたとしても、明日また生きようと思えばいいじゃないかと考えられるようになった時、お父さんの鬱病は少しずつ良くなっていったんだ。これからはおまえや母さんや、自分を必要としてくれる人を信じて生きようと思う。瑠美のいうとおり、軌道修正はいつでも可能なんだ」
p.251
「ねえ瑠美、人の好き嫌いってなんだと思う?特別に自分に何かされたわけじゃないのに、どこかいけすかない人がいたり、逆に親切にされたわけじゃないのに好きだなと思う人がいたり。そういうのなんでだと思う?」
(中略)
「略 それはね、生きる姿勢なんだと思うんだ。その人の生きる姿勢が好きか嫌いか。それがその人を好きになるか嫌いになるかなんだよ」
p.254
死を目前にしながら、人に対して善意的に接することができるということが、自分には奇跡的に思える
「人は、最期までその人らしく生きるんだね」
p.296
「仕事をしている人はその中で小さな喜びがあって、その繰り返しが生きていく上での楽しさでもあり幸せでもあるでしょ。それは育児や家事においても同じなのよ。嬉しいことがあったら聞いて欲しいし、そんな自分の喜びを知って欲しいの。自分に関心を払ってもらいたいとは言わないけれど、せめて子供たちには本気で目を向けて欲しいと思っていた。」
p.340
「感じた疑問を口にして、きちんと答えを求めるような人よ。おかしいことをおかしいと言える人。常識というのはその場にいる人間で作られるの。だから常識が正しいことだとは、限らない。その場の常識だとか雰囲気に流されないでいられる人は、とても貴重だと思う。」
p.342
「略) 看護師として働いても働かなくも、それはどちらでもいいの。でもね、一度入学したなら、卒業してみるものよ。良いも悪いも、全部やり遂げた人にしか語る権利はないんだから。今途中で投げ出してしまったら、一生、あの先生達や病棟の看護師さんと対等に話せなくなるわよ」
p.362
子をもつ大人にとって、子の存在は人生そのものにもなり得ることを、瑠美は実習を通して知った。病に伏す高齢者の患者が思うことは家族と過ごしたこれまでの日々、自分がいなくなってからの家族の幸せ。人はこれほどまでに家族を想っているのか、親は子を愛しているのか、支えられているのかと、瑠美は何度も思い知らされた。そしてまた逆に、独りきりで病と闘う辛さ、亡くなっていく哀しさ・・・。人はとてつもなく強く、そして弱いものだということを、自分は患者たちに教えてもらった。
免許を手にして働き出すと、学生の間に感じたことを、日々忙殺される中で少しずつ剥がされていくのだろうか。剥がされて削られていくうちに、つるつるの何も感じない心の部分ができてくる。
p.370
どんなに高度な医療をもってしても治らない病気は世に溢れていて、そうした病を前には、医師も最新の医療機器も薬剤もただ無力な存在になるしかないのだった。
でも、何もできないわけではないんだと、瑠美はおっもう。治らない病を抱えた人に対しては、看護師が最も力を発するのだと教えてくれたのはどの教員だったか。
p.418 主人公の答辞より
「私たちはこの三年間、学生という立場で医療の現場に立ち会い、その清さも濁りも、この目で見てきました。医療の現場は壮絶です。人の生き死にの場ですから、もちろんきれいごとではすみません。その中で、自分がどういう仕事をするかということは、看護師としてというよりも人として、という問いかけになってくると思います。同じように看護師を目指していた友人に言われたことがあります。白衣は白い色をしているが、その白は潔白の白さではないと。どんな色にでもなり得る白なのだと。
(中略)
この先、何色の白衣をまとっているかは、それぞれの生き方にかかっているのです」
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自分の思い通りにいかないこともおおいけれど、途中で投げ出さず最後までやり遂げてからさらに進んで行くことも大切なんだと思いました。
好きで選んだ道ではないとやめる機会をねらいながらも最後までやりとおした主人公に拍手。
Posted by ブクログ
大学受験を失敗して家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した主人公、木崎瑠美の話。
看護学校へ進学をしたものの、大学進学も諦められず、学校生活もどこか冷めていた。
しかし、友達ができて親友になり、厳しい看護実習を重ねていくうちに頑なだった心が少しずつ変わっていく。
少し恋愛も絡んでいて、看護学生、木崎瑠美の入学から卒業までの「青春ストーリー」という感じかな。
主人公の瑠美が、ずっと冷静で強かったのが印象に残りました。
Posted by ブクログ
初めましての作家さん。 すごく真っ直ぐな文章を書く方だなー。と言う印象です。
家庭の事情で不本意ながら看護学校に通う瑠美。
そんな瑠美の不器用な生き方が、なんだか読んでいてすごく痛々しいんですよね。
ダメなことはダメ。イヤなことはイヤ。って言えることは素晴らしいことなんだけど、でも実際は正義を貫くってすごく大変なんですよね。敵もたくさん作っちゃうし。
だけど現状への不満を抱えながらも前へ進む瑠美は、きっといい看護師さんになれるんじゃないかな。という気がしました。
私、何度か入院したことがあって、看護師さんって、白衣の天使なんかじゃないってかなりリアルに実感してるので、きれいごとばかりじゃなく現実と向き合ってる瑠美みたいな人の方が、他人の気持ちに寄り添えるんじゃないかな。という気がします。
瑠美の心の成長が、とても強く感じられる作品でした。