あらすじ
大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した木崎瑠美。毎日を憂鬱に過ごす彼女だが、不器用だけど心優しい千夏との出会いや厳しい看護実習、そして医学生の拓海への淡い恋心など、積み重なっていく経験が頑なな心を少しずつ変えていく……。揺れ動く青春の機微を通じて、人間にとっての本当の強さと優しさの形を真っ向から描いた感動のデビュー作。
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Posted by ブクログ
木崎瑠美
大学受験に失敗し、看護学校に進学する。看護師になりたいという願望は特にない。卒業式では卒業生を代表で答辞を読んだ。
平野亜矢
二年の夏まで一緒にアーチェリー部に所属していた。
山田千夏
瑠美と同じ看護学校の同級生。瑠美と同じ班。父は自衛官。父と三歳下の妹と三人で暮らしている。看護記録の訂正を先生に言われたが拒否し、看護学校を退学する。
佐伯典子
瑠美と同じ看護学校の同級生。瑠美と同じ班。三十代半ば。離婚して看護学校を退学し、旧姓の須賀典子で出直す。
遠野藤香
瑠美と同じ看護学校の同級生。瑠美と同じ班。人を圧するほどの美貌。ひとつ違いの妹が十二歳の時に手術ミスで死んだ。病院側を訴えず、両親は離婚した。千夏への病院側の行いに対し教員に歯向かう行動をし、退学した。
横井ちえ
瑠美と看護学校のクラス委員。自分の発言を周りにいるすべての人に聞かせなくてはすまない勝気な性格。瑠美は苦手を通りこして嫌い。
日野瞬也
千夏の友人。大学の剣道部。保育園から高校まで一緒だった。瑠美に告白する。
原さとみ
大学の剣道部のマネージャー。瑠美の一つ年上。
佐藤
大学の剣道部。背が高い。兵庫県出身で、インターハイで優勝経験あり。
三田
大学の剣道部。高校から剣道を始めた。
新田
大学の剣道部。面打ちが得意なイケメン。
林
横井ちえといつも一緒にいる。
菱川拓海
大学四年生。図書室で勉強をしている瑠美に声をかけた。母と弟の三人暮らし。かつての父親は小学校の時に別れていて、それから一度も会ってない。
瑠美の初恋相手で瑠美達の実習病院と同じ系列病院の小児科医。
波多野
瑠美や千夏の担任。
佐伯の夫
建築士。
佐伯の娘
拓海の父
京都に住んでいて森林を研究する施設で働いている。
湯川さつき
澄川ヌイ
鍼灸師。
池尻
年配の教員。
千田仙蔵
瑠美が臨地研修で担当した患者。
浜野
病棟の指導看護師。
篠原
千田を担当する看護師。
野木佑太
千田の孫。手紙を花房チヨを探して手渡すように依頼される。
花房チヨ
六十年前、千田の母親が働いていた都内の病院の同僚。
矢部
担当教員。
八木友香
瑠美が担当した小児科入院患者。
越野
八木友香の担当。
Posted by ブクログ
看護学生が看護師になるまで…のお話…と思って読み始めたが。
家族、友情、恋愛、生き方、考え方…いくつものことが混ざり合って、目まぐるしい3年間を一緒に感じることができた。
瑠美の視線で描かれているので、これはこれでいいのだが、拓海や駿也の心が単純過ぎるような気がした。
Posted by ブクログ
<本のあらすじ>
大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学した木崎瑠美。毎日を憂鬱に過ごす彼女だが、不器用だけど心優しい千夏との出会いや厳しい看護実習、そして医学生の拓海への淡い恋心など、積み重なっていく経験が頑なな心を少しずつ変えていく……。揺れ動く青春の機微を通じて、人間にとっての本当の強さと優しさの形を真っ向から描いた感動のデビュー作。
<感想>
進路で看護師を目指す人はどんな人でしょうか。純粋に看護師という仕事に憧れる人、身内に医療関係者がいる人、一人で生きていく、お金に困らない資格を得たい人などさまざまでしょう。コロナ禍で改めて「エッセンシャルワーカー」の職種としても考える日々を過ごしました。感謝や敬意を表し、メディアもこれを広く取り上げられました。しかし、エッセンシャルワーカーの重要性が広く認識されると同時に、日本では人手不足が顕著な職種である実態が問題視されています。
読んだきっかけは自分が看護師さんに患者として大変お世話になっている身だからかもしれません。
主人公は大学受験失敗と家庭の事情で不本意ながら看護学校へ進学する。
専門知識の習得はもちろん、実習や人間関係など、いのちと向き合う肉体的精神的にも大変な仕事だ。
看護資格を取得した作家のデビュー作として、とても実体験に基づき、思いが込められた作品だと思った。
瑠美と千夏。二人とも不器用で、「常識よりも大切な物」を抱く。「正しさのセンス」を持っている。
病院という生と死が凝縮された場で、患者として思うのは、看護師が重くてつらいものだろうし、献身的な努力も求められたり、そして患者や家族にとって、医師にとってもありがたい存在だ。
とはいえ、この物語を通して言えるのは、看護師としての在り方だけではなく、何のために生きているのか。何を根拠に人生を進むのか。私達が生きている限り、その意味を問いつづける事が人生なのだ。
答辞の言葉より
「白衣は白い色をしているが、その白は潔白の白さではないと。どんな色にでもなり得る白なのだと。
(中略)この先、何色の白衣をまとっているかは、それぞれの生き方にかかっているのです」
が物語っている。
グレーになったり黒になったり、何色にも染まる白だからこそ『いつまでも白い羽根』を持つ気概を持っていけたら、そんな生き方ができたら。テーマは重たいけれど励まされた作品だった。
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本文で気になった文章
p224
「お父さんな、鬱病だった時期があってな・・・・・・。おまえも気づいていたかもしれないが・・・毎日毎日、生きるのが本当に大変だった時があったんだ。一日をやり過ごすのが驚くほど大変で、一日がこんなに辛いんだったら、あとの人生の何十年、どんだけきついんだと思うとまた滅入ってしまってな。本当に苦しかった。そんな風に思ってしまう自分が情けなくて、何よりおまえや母さんに迷惑をかけていることが情けなくて・・・。死んでしまおうと何度も思った」
「でも死ななかった。死のうと思うたびに、おまえのことが頭に浮かんだんだ。おまえが生まれた日のことを思い出すんだ。おまえが生まれた時、人はなぜ歳をとるのかという答えを、お父さんは見つけた。歳をとるのは、一日一日強くなっていくためなんだと。お父さんは、赤ん坊の顔を見ながら確信したんだ。自分は父となり、子どものおまえを守っていける強さを身につけようとその日強く思ったんだ。」
「死にたいと思う今日の自分がいたとしても、明日また生きようと思えばいいじゃないかと考えられるようになった時、お父さんの鬱病は少しずつ良くなっていったんだ。これからはおまえや母さんや、自分を必要としてくれる人を信じて生きようと思う。瑠美のいうとおり、軌道修正はいつでも可能なんだ」
p.251
「ねえ瑠美、人の好き嫌いってなんだと思う?特別に自分に何かされたわけじゃないのに、どこかいけすかない人がいたり、逆に親切にされたわけじゃないのに好きだなと思う人がいたり。そういうのなんでだと思う?」
(中略)
「略 それはね、生きる姿勢なんだと思うんだ。その人の生きる姿勢が好きか嫌いか。それがその人を好きになるか嫌いになるかなんだよ」
p.254
死を目前にしながら、人に対して善意的に接することができるということが、自分には奇跡的に思える
「人は、最期までその人らしく生きるんだね」
p.296
「仕事をしている人はその中で小さな喜びがあって、その繰り返しが生きていく上での楽しさでもあり幸せでもあるでしょ。それは育児や家事においても同じなのよ。嬉しいことがあったら聞いて欲しいし、そんな自分の喜びを知って欲しいの。自分に関心を払ってもらいたいとは言わないけれど、せめて子供たちには本気で目を向けて欲しいと思っていた。」
p.340
「感じた疑問を口にして、きちんと答えを求めるような人よ。おかしいことをおかしいと言える人。常識というのはその場にいる人間で作られるの。だから常識が正しいことだとは、限らない。その場の常識だとか雰囲気に流されないでいられる人は、とても貴重だと思う。」
p.342
「略) 看護師として働いても働かなくも、それはどちらでもいいの。でもね、一度入学したなら、卒業してみるものよ。良いも悪いも、全部やり遂げた人にしか語る権利はないんだから。今途中で投げ出してしまったら、一生、あの先生達や病棟の看護師さんと対等に話せなくなるわよ」
p.362
子をもつ大人にとって、子の存在は人生そのものにもなり得ることを、瑠美は実習を通して知った。病に伏す高齢者の患者が思うことは家族と過ごしたこれまでの日々、自分がいなくなってからの家族の幸せ。人はこれほどまでに家族を想っているのか、親は子を愛しているのか、支えられているのかと、瑠美は何度も思い知らされた。そしてまた逆に、独りきりで病と闘う辛さ、亡くなっていく哀しさ・・・。人はとてつもなく強く、そして弱いものだということを、自分は患者たちに教えてもらった。
免許を手にして働き出すと、学生の間に感じたことを、日々忙殺される中で少しずつ剥がされていくのだろうか。剥がされて削られていくうちに、つるつるの何も感じない心の部分ができてくる。
p.370
どんなに高度な医療をもってしても治らない病気は世に溢れていて、そうした病を前には、医師も最新の医療機器も薬剤もただ無力な存在になるしかないのだった。
でも、何もできないわけではないんだと、瑠美はおっもう。治らない病を抱えた人に対しては、看護師が最も力を発するのだと教えてくれたのはどの教員だったか。
p.418 主人公の答辞より
「私たちはこの三年間、学生という立場で医療の現場に立ち会い、その清さも濁りも、この目で見てきました。医療の現場は壮絶です。人の生き死にの場ですから、もちろんきれいごとではすみません。その中で、自分がどういう仕事をするかということは、看護師としてというよりも人として、という問いかけになってくると思います。同じように看護師を目指していた友人に言われたことがあります。白衣は白い色をしているが、その白は潔白の白さではないと。どんな色にでもなり得る白なのだと。
(中略)
この先、何色の白衣をまとっているかは、それぞれの生き方にかかっているのです」
Posted by ブクログ
初めましての作家さん。 すごく真っ直ぐな文章を書く方だなー。と言う印象です。
家庭の事情で不本意ながら看護学校に通う瑠美。
そんな瑠美の不器用な生き方が、なんだか読んでいてすごく痛々しいんですよね。
ダメなことはダメ。イヤなことはイヤ。って言えることは素晴らしいことなんだけど、でも実際は正義を貫くってすごく大変なんですよね。敵もたくさん作っちゃうし。
だけど現状への不満を抱えながらも前へ進む瑠美は、きっといい看護師さんになれるんじゃないかな。という気がしました。
私、何度か入院したことがあって、看護師さんって、白衣の天使なんかじゃないってかなりリアルに実感してるので、きれいごとばかりじゃなく現実と向き合ってる瑠美みたいな人の方が、他人の気持ちに寄り添えるんじゃないかな。という気がします。
瑠美の心の成長が、とても強く感じられる作品でした。