藤岡陽子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
中学受験に対するイメージがまるごと塗り替えられた一冊。もちろんこれは小説だけど、加地のような先生に10代前半のうちに、いや生涯のうち一度でも出会えたら、その人の人生や物の見方は大きく変わるだろうなと思う。子どもに武器を与えたい、というだけでなく、その武器を周囲の人のためにも使ってほしいというところまで考えられる大人は強い。
藤岡陽子さんの作品は、自分の役目を静かに果たしている、日々をきちんと懸命に生きている人を見逃さないところが特に好き。
俊介や加地だけではなく、みんなと同じようにピアニカを吹くために人の何倍も努力を必要とする妹や、自分の辛い思いは息子の盾になれたかも、と思う母親。塾のプリントのコピーを毎日毎日大量にとってくれる事務員に加地がきちんと感謝しているところ。
派手に活躍しなくても、静かに、その人その人の頑張りに確かなスポットライトを当てる。大好きな作家さん。 -
Posted by ブクログ
心が揺さぶられる、大変優れた小説だった。
物語は、主人公の聡里(さとり)が獣医学を学ぶため、付き添いの祖母と共に北海道の大学に到着する場面から始まる。
山場は入学して間もなく訪れる。聡里は入寮してすぐ、同室の綾華から理由もわからないまま嫌われていることに気づく。
ある日、そのことで二人は対峙し、聡里は自分が嫌われる理由を知ることになる。けれど、その理由となった「ある物」には、これまで誰にも語ることのなかった、他人には計り知れぬ背景があることが聡里の口から明かされる。ここで私たち読者は、孤独で凄惨な時期を過ごしてきた、聡里の人生の一端を知ることになるのだ。
そして、その事実を知った綾華の態度はここから一変する。二人の間には確かな友情が育まれてゆき、お互いの存在が大学生活のかけがえのないものとなっていく。
聡里の大学生活は、学業の厳しさと経済的な制約もあり、決して華やかなものではない。登場人物もかなり限られているせいか、物語はある意味で淡々と進む。けれど、胸が締め付けられ、涙があふれる場面が何度かあり、いつの間にか聡里に強く感情移入していた。
この物語を通じて、自分のことを本当に思ってくれる人の存在がどれだけ生きる力になるのか、そして、人と交わり、他人の人生の歩みや考え方を知ることがどれだけ自分の生き方に彩りを与え、心を育ててくれるのかを深く教えられた。
そして、今の自分の悩みや苦しみも、聡里のそれと比べたら大したことではないと思えるし、聡里のように心優しい人間でありたいと思わされた。
作中で、鳥好きの同級生・残雪君が教えてくれたいくつかの知識もおもしろかった。「鳥は羽の模様で互いを見分けている。空を飛びながら自分と同種の羽の模様を見分けて、つがいになる」という話。
真偽のほどはわからなくとも、人間もまた、目に見えない共通の「模様」のようなもので惹かれ合っているのかもしれないな、と想像が膨らむ。
偶然だが、聡里が学んだ実在する大学には、私の周囲に縁の深い人が多く、個人的に強い思い入れがある。
私自身は遠く離れた場所に暮らしているが、小説に出てくる江別や野幌といった場所には何度か訪れたことがあり、親しみ深い。私にとっても、青春時代の一端を織りなす場所ともいえる。
そういう意味でも、心の底から「読んでよかった」と思える大切な小説になった。 -
Posted by ブクログ
最近気になる藤岡陽子さんのデビュー作。
作者が現在も看護師であり、リアルな看護専門学校の話が垣間見れた。
また社会人としてどっぷりその場所に根を下ろしている人には耳が痛いエピソードも。病院側が、学生が書いた真実の看護記録に訂正を求め、応じない学生を退学にさせる話もがっかりする。常識はそこにいる人が作るもので正しいとは限らない。。。
私は30年間ある仕事をして、別に転職したので、社会人入学した佐伯さんの言葉に納得したくないけど納得する言葉が多々あった。卒業後位の柔らかい時期に学んだことは身体に自然に溶け込む、40才50才位からでは吸収できないものもあるのでは・・・
自分が「正しいことを正しいと思えるセンス」を持っていたらいいな、持っていると信じたい、です。 -
Posted by ブクログ
大好きな藤岡さんの
そして満点のゴールの続編ということでとても楽しみにしておりました。
藤岡さんの医療系のお話は
いつも心に響く素敵なお話ばかりです。
今回も、あの幼いけれどしっかりしていてこんなにいい子どう育てたらなるんかなぁと思う反面
頑張りすぎないでねといつも心配になってしまう
奈緒の息子涼介。
それに主人公の奈緒をそっとさりげなく支え続ける三上先生。
そして奈緒の一生懸命の中の不器用さ。
みんなそれぞれいろいろあって支え合いながら
悩み苦しみ悲しみながらも、
前を向いてがんばる姿は
とても励まされるものがあります。
緩和ケア病棟についても
死に向かって行く悲しみはあるのですが、
それだけではない、死との向き合い方に考えさせられ、何度も泣いてしまいました。
私も
日々に追われてつい忘れてしまいがちな
毎日をしっかり生きて行くことの大切さを
何度も感じ、とても素敵なお話でした。
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Posted by ブクログ
過疎地医療・在宅医療の深刻な問題を赤裸々に描きながら、それでいて読後に希望と幸福感をもたらせてくれる著者の作風を、遺憾なく発揮された小説。
夫に裏切られた奈緒は、十歳の息子・涼介とともに逃げるように京都丹後地方の実家へと帰ってくる。
そんな折、父が事故に遭い、海生病院に入院。
そこで、担当医師の三上医師と出会い、さらに路上で倒れていた早川という老婆を助けることになる。
この4人を中心に物語が展開される。
奈緒の息子・涼介が生き生きと描かれ、大人たちの接着剤的な役割を果たしているのが好ましい。
そんな涼介が「いまだって毎日大変なのに、年を取ってもそんなに苦しいのなら嫌になるな。生きるって一生大変ってことじゃんか」と、三上に問う。
三上は、「そうだ。だからみんなおもりを見つけて、なんとか生きてるんだ」と。
そして起き上がりこぼしを例に取り、「倒れても倒れても、何度でも起き上がってくる。大人っていうのはな、そんな自分なりのおもりを腹の真ん中に持ってみんな必死に生きている」と応える。
「人が死ぬということは、決して悲しいだけじゃない」と、かつて諭された三上は、死はゴールであり、最高のゴールを迎えさせようとの思いで訪問診療を続けている。
その三上には何か暗い過去があり、一方人生を諦めたかのような早川。やがて二人それぞれの重大な秘密が明らかにされる。
「人が人と関わり続ける限り、相手を想う気持ちが生まれる」という”感涙小説”の謳い文句の通り、各場面で涙腺が刺激されずにいられない。