我孫子武丸さんデビュー35周年記念のアンソロジーです。
作家陣も錚々たるメンバーで、私に割とトラウマを植え付けた『殺戮にいたる病』に因んだテーマ。
我孫子さんご本人がヘンテコなテーマで作家さん方に申し訳ないし、自身も書かれるとは思って無かったので苦労したと仰っていましたが、そこは流石の力量を持った作家さん方!見事にテーマに沿った短編集となっております。
それでいて、それぞれの作家さんの個性がキラリ。
ではでは、いつもの如くさらっと短編毎の感想をば。
(なるべく短く…)
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【切断にいたる病】我孫子武丸さん
はい、エログロいー!
我孫子さんのはこうでなくっちゃ!(風評被害)
違法のAV制作会社でチョンパ事件(何処をって…お股がヒュンするアレです…ヒュン!)
捜査はやがて1人のセクシー女優を巡ってのストーカー事件に繋がって行く。
見事にメインパーソナリティーとしての力を見せつけて下さいました。
そして思い出したよ『殺戮にいたる病』でのアレコレを!ちょっと解凍中の肉を眺めてやめようかな、とか思っちゃったよ!
本短編はあれに比べるとマイルドですが、良い具合にうっ…となれます。(なりたいのか?)
たまに降臨する私の中のはじめちゃんが「じっちゃんの名にかけて!」とか言い出して途中で犯人が当たってしまったものの、そんなこたぁ些末な問題。
分かっていてもこのワクワクとハラハラ感!流石です!
あいつがこれで、こいつがこれ?!はぁ?!
これが堪らない!!
我孫子さんは作家業の他に様々なエンタメのお仕事が忙しそうですが、また長編を読みたいなあ。
【欲動にいたる病】神永学さん
僕の前に1つの血塗れの遺体が倒れている。目の前には血で濡れたナイフを持つ少女。
僕は思った。
美しい…。
倒錯の世界。ミステリーとしても読ませてくれますが、文学的な流れに惹かれる作品でした。
若い男女の三角関係は甘酸っぱく、こんな青春送りやがってちくしょーという青春拗らせが発動するも、どんどん2人は危うい方向へ…。
心理描写が丁寧で、グロさなど全く無いにも関わらず、美しさまで感じさせるのに、1番『いたる病』としての完成度が高かったです。
この内容を長編で読んでみたくなりました。
【怪談にいたる病】背筋さん
「幽霊が見えるんです」
そう告げる女性の体験談は、自身が映画研究会に居た時の恋愛話から始まる。
意気投合してキャッキャウフフだった筈の2人の話はどんどんと恐ろしい雪山の話へと変貌して行き…
背筋さんだわ、紛うことなき背筋さんの作品だわ。
怖いよ。アテントは必要無かったけどこんな目に遭ったら私なら発狂して自ら雪に埋もれる事を選ぶよ。
でも怖いだけじゃ無いんです。
きちんといたる病に持って行く技の妙!背筋さんは本来は短編で力を発揮するタイプの方かも知れない。
こんなに素晴らしい構成が出来るのに、なぜ『近畿地方の~』劇場版のストーリー協力であんな事に(強制終了)
【コンコルドにいたる病】真梨幸子さん
私が1番好きだったのがこちら!
もう凄すぎる。何が凄いってこの短編1つで沢山の叙述トリックを読めるんです。しかもどれも下らなくて笑える。
よくまあこんな下らない叙述トリックを幾つも思いつくなあと感心しました(いや本当に褒めてるんです)
売れなくなった落ち目の作家が主人公。短編ミステリーの競作で叙述トリックを書いてくれと編集者から依頼される。ところが書いてはボツ、書いてはボツの繰り返し。彼は途中から、自分はコンコルド症候群に陥っているのではないかと苦悩し、果てには究極の考えに辿り着く。
「はい、ということで決めました。お前をぶっ殺します」
まさかこんな最後に向かうとは!最高です。
ちなみにコンコルド症候群とは、超音速旅客機コンコルド事件に因んで、これ以上続けても損をすると分かっていながら、それまでにかけたお金や時間、労力がもったいないと感じて、投資をやめられない心理現象の事です。
【拡散にいたる病】矢樹純さん
『或る集落の●』の最後の章と同じ作品ですが、改めてこれだけで読んでみてもきちんと独立したホラーなんですよね。こちらが先なのか、あちらが先なのか?あちらでもこのタイトルだったので、あちらにも使えるように合わせて書かれたのかも知れません。
リスナーから届いた怪談話を独特の辛口でズバッと切って行くコーナーが人気のラジオ番組。
ところが、あるリスナーからの怪談話が盗作では無いかとクレームが入る。調査を始めるスタッフ達だが、それはP集落と言うジェノサイド案件の村へと繋がる話だった。
おっと、既に『或る集落の●』を読んでいるので思わずあの村の恐ろしさを思い出してしまった。
とにかくあの村は放置しておくとろくでもない事ばかり起きるので、いち早く燃やした方が良いと思う。
改めて私はそう思った(キリッ)
【しあわせにいたらぬ病】歌野晶午さん
コンコルドと同じ位に好きなのがこちら!
最後で1番驚いた作品です。そっちだったのか…!!
訪問介護をしている比佐子の元に所長から連絡が入った。彼女が担当している女性と連絡が付かないので様子を見てきて欲しいと娘からの依頼だった。
休日を返上して向かった比佐子を待ち受けていたのは、介護を担当していた女性と、女性の母親2人の遺体だった。
無理心中にも見える2人の死の真相は…?
短編でこの重み。ドスンと来ました。更に最後にメガトンパンチを喰らいます。社会問題がこれでもかと言う程詰まった短編。
この作品だけでも本作を読んだ価値がありますし、これを最後に持ってくる編集さんのセンスが凄い…。
うん、これは確かにしあわせにいたらぬ病だ…。もうそれ以外のタイトルが思い付かないよ。
度々思うのですが、作家さんって本当に凄いですね。
こんな難しいテーマを与えられてもご自身の個性を消さずに、しかも短編できちんと読ませる。
試しに私ならどんな話にするだろうと考えてみたのですが、グロい殺人シーンしか思い浮かびませんでした。(大問題。私が逮捕されたら「そう言えばこんな事言ってました」と音声変えて言われるやつ)
そして今更思うのですが、『殺戮にいたる病』ってセンスのあるタイトルですよね。
今後何かある毎に、私は〇〇にいたる病なのだ、とか言いたくなる。