誠実さや愛や祈りをテーマにした小説。 誠実さや愛や祈りはいつだって至上のエンターテイメントとなりうる。
メタ構造を用いており、『好き好き大好き超愛してる。』や『君と彼女と彼女の恋。』などとの類似性を感じる。
本作のメタ構造は、『好き好き大好き超愛してる。』の「世界間の差異を創作内で解体することを通し
...続きを読むて、創作と現実の差異をも解体し全ての存在は連続体であると示し、それによって自作内の"祈り"を世界全体に普遍化させようという試み」の踏襲で、でも『好き好き大好き超愛してる。』が既に言葉を使わないかたちで鮮やかにそれを完全に達成してしまっていて、本作は「作中世界の構造の解説」という言葉を使った説明によって再現しているわけで、言葉は悪いけどその点においては先行研究の展開というより戯画化しただけという印象があった。
一方で、『未来にキスを』の展開としては正当後継的で、未キスでは「自分の認識の枠組を参照する形でしか他者を捉えられない」という問題を「その"距離"こそが大切で、「知りえない」ことには祈りがあり、「知りえない」と知ってしまった新しい人類としての私たちの新しい愛の形だ」と結ぶ。本作では、それが双方向的であるという指摘を付け加えて「愛の対象が代替可能であるように、愛の主体も代替可能であり、それでも代替可能な者同士の間の"感情"は真実で、それならそもそも代替可能であるということは受け入れるべき悲しみでもなんでもなく、喜ぶべきものじゃね」と展開する。さらに、現実世界と創作世界の差異の脱構築と、恋愛の対象と恋愛の主体の脱構築をオーバーラップする形で話を広げていて、結果的に独我論的ながらも他者志向的な祈りになっていく。
一方で、ポリアモリーの観点からは、納得がいかない。わざわざ「ポリアモリー」というアイデンティティを直接的に使用したにも関わらず"誠実さ"という立場から明瞭なアンサーを出せなかったように思う。言及しない方が良かったと個人的には思う。