アガサ・クリスティーのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』
なんとも印象的なタイトルです。「どうして頼まなかったんだろう?」と誰しも不思議に思うことでしょう。個人的には『そして誰もいなくなった』『鏡は横にひび割れて』に次いで好きなタイトルかもしれません。
この本を知ったのは、改めてクリスティーを読んでみようと思い立ち、書店の本棚を眺めていたとき。
有名だけどまだ読んでいないタイトルがずらりと並ぶ本棚で、ふと目に飛び込んできたのが本書でした。
購入したものの積読の列に並び……この度やっと読むことができました。うん、クリスティーは何を書いたって面白い!
今作の主人公は牧師の息子ボビイと伯爵令嬢であるフランキー。
たまたまボビイが崖から落下した男を看取ることになり、その謎の男が残した最期の言葉が「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」でした。
持ち前の好奇心と貴族の権力を駆使して潜入捜査を試みるフランキー。この展開は、あたかも少年少女の冒険譚といった雰囲気で微笑ましく読めました。
「そんなにうまくいくわけない!」なんて野暮なツッコミはノンノンです。これはワクワクしながら楽しく読むものなのですから。
いつも通り殺人事件は起こるものの、お子様が読んでもわかりやすい一冊なのではないかと思います。
とっても可愛らしい関係のボビイとフランキー。
今作だけのコンビなのが残念……もっと二人の冒険を見てみたかったです!
ポアロやマープルとはまた違った雰囲気だけども、やっぱりこれも面白い。さすがです、クリスティー。 -
Posted by ブクログ
ネタバレミステリーにおいて物語の導入はとても大事な要素で、冒頭から惹き込まれると終盤まで一気に魅せられて怒涛の様に読み終えてしまう。そして、クリスティは冒頭の構成がとても上手で、終盤まで圧倒的なインパクトで読者に驚きを与える。
今作では警察を引退している主人公ルークが、ロンドンに帰郷する列車の中で、とある老婦人と一緒になる。彼女は地元で連続殺人が起きており、それをロンドンの警察まで伝えにいく途中だと告げる。ルークは全く信じていなかったが、後日、その老婦人が車に轢かれて亡くなった事を知り、また、別の日には老婦人が次の被害者になり得ると心配していた医者が死亡した事を知る。ルークは事実を確かめる為に舞台となるウィッチウッドに向かう。
サスペンス要素も多く、しかししっかりとミステリーとして読む事が出来る。クリスティの大量殺人は少ないが、彼女が大量殺人モノを描いたらこうなるというお手本の様な作品だ(そして誰もいなくなったは全く別のテーマだと思っている)。現代ではサイコパスや狂人等サスペンスやホラーによった作品も多いが、読み易さとバランス感は今作が頭抜けて面白いと思う。
登場人物達は当然ながら怪しい人ばかりで、ルークはまるでおどろおどろしいウィッチウッドに生贄に向かった様な印象だ。今作でヒロインの役回りであるブリジェットについても、冒頭から信用せずに疑ってかかってしまう程、どんよりとした雰囲気をもつ作品だ。
ルークは探偵役として行動力はとても高いが推理力は乏しい。読者と同じ目線という作品も多いが、どうやら僕は探偵が読者を置き去りにして、"ワトソン"が読者に寄り添うスタイルの方が好きなようだ。今作ではルークがほとんど全ての人物を疑ってかかる為、犯人に迫っていくスリリングなやり取りは感じられず、更には終盤にブリジェットがいきなり推理を覚醒させて、少し大雑把な印象だった。それであっても物語の始まり方、終盤のどんでん返し含めとても面白い作品だ。作中、様々な殺人事件があるわけだが、クリスティは作中よく、殺害方法の型の話をするが、今回、殺害方法が実は共通性がある事に感心してしまった。ピンカートンの事故から物語はスタートするが、実は彼女の死も共通性をきちんと持った殺人の一つだった。(バトルはおいしい所を調整する役目だった(笑))
残念ながら、翻訳が機会的に思えてしまう部分があり、定型文の様なやり取りに見えた部分がある。余り翻訳を気にした事はないが、こういった影響があると学んだ。原文であれば更に面白いのであろう。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ嫌われ者の老大佐が静かな田舎町の牧師館で殺されるところから始まるミス・マープル初登場の作品。
物語は牧師館の主であるクレメント牧師視点で語られ、村のあらゆる人物たちの人間性と置かれた状況から「だれが大佐を殺したのか」を推理していく。
結局犯人はローレンス青年と大佐の妻アンであったが、最初に自首した二人が実は真犯人であったというのはよくありそうでなさそうな展開だ。犯人が偽の自首をすることで完璧なアリバイを確保し二度と疑われることがないよう好印象に振る舞うのは、実は現実によくあることで、珍しいのは彼らが殺人犯とその恋人であった点だ。
レティスは母と海外で静かに暮らすが、デニスはやはり船乗りになるのだろうか。そして気になるのはグリゼルダが宣言通り良妻賢母となるのか否か。きっと彼女は誰もが慕う牧師様の美しく慈愛に満ちた妻となるのだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「こんなクリスマスはもうこりごりですよ、まったくのところ」
ほんと、そう。せっかくの年に一度の楽しいクリスマスに、血みどろなとんでもない殺人事件が起こるなんて。しかも容疑者が家族全員だなんて、酷すぎる。
そんなせっかくのクリスマスに、休暇返上で密室殺人事件の謎解きに挑むポアロ。相変わらず飄々としながらも冷静に、そして確実に真犯人を追い詰める。
誰が真犯人なのか、色々想定しながら読み進めていたけれど、見事に大ハズレ。またもやポアロに一本取られた感じ。まさかあの人が…。
そんなこんなで最後は全てが丸く収まり、みんなの日常もなんとか良い方向へ収まって一安心。
一足早いけれどメリー・クリスマスなミステリを堪能できた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレひょえ〜〜〜!そんな犯人もアリなのか!と思わず声が出てしまった作品。個人的に、先日読んだミステリーも〇〇が犯人で、〇〇も疑ってかからないといけないんだな、と少々複雑な気分です……。
それにしても。
クリスティーには「すごく面白い」か「面白い」作品しかありませんね、ええ。
タイトルがそのまま『ポアロのクリスマス』ということで、この時期が来るのを待ちわびていました。しかもこのタイミングで新訳版が刊行!
そのまえがきとして、クリスティーが義兄にあてたこんな言葉がありました。
「『もっと血が大量に流れる元気で凶暴な殺人」を読みたいと。どこからどう見ても殺人でしかありえないものを!
そんなわけで、これはあなたに捧げる――あなたのために書いた――特別なお話です。」
私は特別スプラッタものが好きというわけではありませんが、この不穏な出だしにはかなりワクワクしてしまいました。
大富豪の老人とその子供たちといえば、『パディントン発4時50分』も思い出されます。その際も個性豊かな子供たちが出てきますが、今作はそれがグレードアップ。
各々の人生、性格や考え方、他の家族との関係性が非常に丁寧に描かれています。そして彼らを支える妻たちも三者三様。だからこそ、すっかり「家族のストーリー」に惹き込まれて騙されてしまったわけですが。。
最後もハッピーエンドで、これが雨降って地固まるということでしょうか。彼ら「家族」が、これからはもっといい関係を築いていけたらいいなと思いました。
最後に、ミステリーにしては珍しく付箋を貼った場所をご紹介。こうした家族ならではの難しさって、万国共通なんでしょうね……。
p134
「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一同に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから!(略)でも、偽善は偽善です!」
p136
「無理してこしらえた状況は本来の反応を引き起こします」
(おまけ)p448
"わたしの場合は、いついかなるときとセントラル・ヒーティングだ……" -
Posted by ブクログ
ネタバレハロウィーン・パーティー
ティーンエイジャーを集めたハロウィーン・パーティーと凄惨な殺人事件が対比になる作品。子供の無邪気さ、残酷さ愚かさを描き、また事件の真相がどこにあるのかを読者はポアロと一緒に辿る事になる。
ジョイスというと少女が「殺人事件を見た事がある」と発言し、その後に殺害されてしまう。ポアロが調査を重ねていく中、どうやらジョイスの本質は誰かの気を惹きたい為に嘘を付く事があり、誰かが経験した事をさも自分が体験したかの様に語る事がある。という事実がわかる。
嘘の本質が解れば今回の事件の概要が推測出来るが、僕自身は残念ながら最後まで気が付かなかった。物語の本筋を少し道をずらして読者を驚かす手法はクリスティの専売だが、今回は流石に気がつかなければならない(笑)(ミランダがジョイスに言ったことを、ミランダがパーティーに参加していない機会に然も自分が経験したかの様に語り、実際に作中でミランダの優先順位が高い理由がここにあった。)
現在発生した殺人事件を起点に過去の4つ事件に遡る。舞台の地にスペンスが引退して住んでいる事を思い出し彼を訪ねる。ポアロは仲間にスペンスと彼の妹を巻き込み(当然、オリヴァ夫人は参加している)、過去の疑わしい事件、未解決事件を紐解いていく。そして、全く関係ない様に思われていたいくつかの事件が関連性を持っている事がわかり、事件は二転三転する。
フィクションであるが、子供が殺害され、第二の殺人も子供(更に・・・)という事もあり、余り気持ちいい作品ではない。特に彼女達の母親と姉には同情してしまう。
作中、神秘的な庭園と芸術家(造園師)が登場し、事件とのコントラストが巧みだ。ミランダが芸術家のマイケルと打ち解ける背景があるのだが少し情報を盛り込み過ぎと思う。この辺りはシンプルでも良かったと感じる。犯人の意外性という手でも、確かに意外ではあるが納得できてしまう範囲内だ。クリスティは衝撃的な結末をつける作品が沢山あるが今回は物語の本質に導かれるまま、真相究明、結末に至っている。
今作はクリスティの晩年の作品という事で、ポアロシリーズではこの次が「象は忘れない」で最後が「カーテン」になるとの事だ。余り年代は気にしなかったが、意外に「象は忘れない」が実質シリーズ最後だという事は感慨深い(僕は結構早い時期にこの作品を読んだ)今作でも過去作品の回想が幾つか挟まっており、直近で読んだ作品の"その後"を知る事が出来て楽しい。(メドウバンク校が復活の兆しがある事が嬉しく思う)
とにかく楽しむべき部分と邪悪な部分がバランスよく描かれている作品だ。少し情報量が多い事と、似通った名前が多い事(これはイギリス人でないから仕方がないだろうが)が読みづらさになってしまったが、それでも満足できるミステリーだ。