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Posted by ブクログ
「いいかい、彼女を殺してしまわなければいけないんだよ」
こんな会話を盗み聞きしてしまうポアロ。休暇のエルサレム旅行中にだっていうのにさすがに名探偵!事件から寄って来ちゃう!
しかし物語の中盤までポアロの出番はない。話はこの会話の主であるレイモンド・ボイントンと、キャロル・ボイントン兄妹へと移る。
兄妹が殺そうと決意したのは、自分たちの継母(父の後妻)であるボイントン老夫人。彼女はボイントン氏の死後、家族の上に君臨し、心理的に抑えつけ、絶対に逆らえないと精神に叩き込んでいた。ボイントン一家はこんな感じ。
・ボイントン老夫人:昔は刑務所の女看守だった。そりゃーコワい。根っからのサディスト、独裁者。ボイントン氏の死後、氏の資産管理人として子供たちを管理している。
・レノックス・ボイントン(20代半ば): ボイントン夫人の長男(血は繋がっていない)。老夫人に精神を支配され逆らうことができなくなっている。
・ネイディーン・ボイントン :レノックスの妻。看護師資格を持っているが実家は貧しい。そのためボイントン老夫人は自分の手駒になると思って結婚させた。だが芯の強い女性で、夫のレノックスに共にボイントン家を出るように説得を試みている。
・レイモンド・ボイントン(20代初め): ボイントン老夫人の次男(血は繋がっていない)後述の「サラ・キング」と淡い恋が芽生え、そのため母からの支配から逃げる決意をした。
・キャロル・ボイントン(20代初め?):ボイントン老夫人の長女(血は繋がっていない)兄と彼女は、まだ母に逆らおうという気力がある。
・ジネヴラ・ボイントン (ジニー。10代後半?):ボイントン老夫人の次女(老夫人の実子)生まれたときから母に支配され完全に精神不安定。「私は本当は王族なの」などと現実逃避をしている。レイモンドとキャロルが「義母を殺そう」と決意したのは、ジニーを助けるため。
そして舞台はヨルダンの首都ペトラに移る。
旅行者一行はこちら。
・サラ・キング:前半は彼女が主人公のようなもの。イギリス人女性の若い女医。旅行で一緒になったレイモンド・ボイントンと淡い恋が始まりかけ、ボイントン老夫人のサディスト支配から一家を引き離そうとする。
・テオドール・ジェラール:著名なフランス人心理学者。
・ジェファーソン・コープ: アメリカ人で、レノックスの妻ネイディーンに愛を捧げて、ボイントン一家とも交流を結んでいる。
・ウエストホルム卿夫人:アメリカ人で、イギリス貴族と結婚して下院議員となった。激烈な性格!
・アマベル・ピアス :いわゆる「悪い人ではないがうざい人(^_^;)」
ここに、ポアロもいます。
そして旅行者はヨルダンの首都ペトラ観光に行く。
さあ!ボイントン家の事情を丁寧に書いた一部の最後で、いよいよボイントン老夫人が毒殺されましたよ!
(…不謹慎な書き方ですが、ミステリーってエンターテイメントですからね。冒頭で「彼女を殺さねば」と言い会話がありながら殺されなかったらむしろ反則(^_^;)
老夫人の死に対しての捜査は、アンマン警察署長のカーバリ大佐が行うことになった。彼は旧友のポアロに捜査協力を依頼する。
被害者は嫌われ者。ポアロ及び我々読者は、ボイントンの子供たちが母を殺したがっていたことも知っている。するとボイントン一家はだれが犯人でもおかしくないし、家族同士で犯人をかばう、つまりみんなの証言が嘘だとも考えられる。
しかし本当にボイントン家の誰かによる殺人なのか?カーバリ大佐も言っていたけど「レイモンドが犯人というのはあまりにも出来過ぎている」し、他の旅行客だって個性ありすぎる人たちだよ。やっぱり推理小説としては、こんな個性的な人たち出して「ただの同行者で事件に関係ありません」ってことはないよね?
さあ、読書として楽しくなってきました!
第一部だけでは、精神的な支配者と被支配者の関係がかなり重苦しかった。推理小説の流れとしてボイントン老夫人は死ぬんだろうけど、死んだからと言って子供たちは社会復帰できるのか?などとも心配しましたよ。
そして主人公のような立場にいるのが部外者で自立しているサラ・キングのため、ボイントン老夫人が客観的には哀れな女だということも見抜かれる。独裁者気質を持ちながら、ただ自分の子供達にだけしか君臨できないのだから。「私に見えている『哀れな女』という姿をボイントン家の人たちにも見えればいいのに」
一部だけならそんな重苦しい人間心理劇場として成り立つし、この時代の女性の社会的立場の様子も読み取れる。
ボイントン家の女性たちが家を飛び出せないのは、何の後ろ盾もない女性が生きていくのは難しいから。
そこへイギリス人女医のサラ、アメリカ人猛女のウエストホルム卿夫人、仕事は持ってるけど物事を見る目は無いピアス夫人が出て、「女性が社会で活躍することが大切」「社会が良くなるなら男女関係ない」なんて話になります。
さらに、アメリカ人で良い人のコープ氏に、フランス人で物事を”セックス”重視で見るジェラール博士など、国際色豊かな登場人物が、国民性による性質の違いを見せてきますね。
でもやっぱり読者としてはミステリーの楽しさも期待しますよね。そこで第二部はポアロの殺人推理が繰り広げられてエンターテイメントとして楽しい。
そして終盤では自分たちを抑えつけていたものから自由になり、それぞれが自立できた人々のその後が書かれます。
私としては「ボイントン家の人たちは、老夫人が死んでも今更性格変えられないし、社会生活できるの?」と懸念していたのですが、それぞれ寄り添う人がいるため本来の快活さを取り戻せたのですね。
Posted by ブクログ
【ポアロ】
「いいかい、彼女を殺してしまわなければいけないんだよ」すごいセリフからはじまる。
三谷幸喜さんの本で「地味だけど面白い」と紹介されていて、2021年に三谷さん脚本、野村萬斎さん主演でドラマ化されている。三谷さんファンなのに知らなかった(^_^;)
ボイントン一家はみんな何かがおかしい。
母親にマインドコントロールされている家族。
『春にして君を離れ』くらいの毒親かなと思ったら大間違い。自分の家族が苦しむのを見て喜ぶ本物のサディスティックな母親。こんな母親だったら地獄。
犯人は自分の中で2パターン予想していたけど、どっちも大ハズレだった。予想はハズレた方が嬉しい。
予想できない結末で、なおかつ読後感が最高なのは、やっぱりさすがアガサクリスティ。アガサ作品は有名所しか読んでなかったけど、そんなに知られてない作品でもやっぱり面白い。
もっとクリスティー作品を読みたくなって、『葬儀を終えて』読み始めているけど、これもすごく面白い!Audibleの時間が楽しみになった。
三谷さんの『死との約束』は今度FODで観たい。アガサとの違いも楽しみだ。
Audibleにて。
久しぶりにクリスティーが読みたくなって購入しました。今の時代のエログロやバイオレンスの無い、上品な、しかし人の思惑や怨念のドロドロと渦巻くクリスティーワールドで大満足です。
犯人はそうくるか!でしたし、最後はみんなが上手くいく大団円で読んでいてスッキリしました。
Posted by ブクログ
ポアロシリーズ。
名探偵の悲しい宿命とばかりに、旅先でも事件に遭遇しちゃうポアロ。エルサレムを訪れたら、そこで殺人事件の捜査依頼を受けることに。
冒頭はなんとも不穏な台詞で幕を開ける。
その台詞は夜のしじまに流れ出て、あたりを漂い、やがて闇の中を死海の方へ消えていった、という表現…なんて痺れる詩的な導入なんだろう。。
母親がサディスティックで家族を支配的に束縛しているボイントン家の関係性と、この家族と複雑に絡み合う外部の人たちとの利害関係が面白い。その後に発生する殺人事件が単調にならず、それを鮮やかに紐解く様子がとっても痛快だった。
同じ中東の旅情モノ『ナイルに死す』と雰囲気が似ていてなかなか事件が起きないが、本作は序盤でポアロがほとんど登場しないし、家族それぞれの背景がしんどくて前半は読むのがつらかった。中盤で事件が起きたあとは、ようやくポアロが活躍してくれるのでグイグイ読めた。いやぁ、やっぱ凄いな。鋭い分析力がハンパない。
それにしても解決編では、緊張感高まる推理の連続と予想外の展開でホント驚いた!
えっ?えっ、そこ?まじかー!?って一人で盛り上がってたww
エピローグのシーンが、晴れやかな気持ちにさせてくれる満足な作品でした。
Posted by ブクログ
『アガサクリスティ完全攻略』で本書が★5になっていたので読みましたが、そこまでではなかった。というか、本書の前に読んだ『葬儀を終えて』があまりにもよ過ぎたのかも知れません。
「いいかい、彼女を殺してしまわなければいけないんだよ」という会話をポワロがホテルで耳にしてから物語が始まります。エルサレムへの旅行中のこと。
その話をしていたのは、ボイントン一家の次男と長女。ボイントン一家の母親(長男・次男・長女にとっては継母)は子ども達が幼き頃からマインドコントロールして支配し、反抗できないようにしてきた。それなりに年を重ねているのだから、もう少し抗ったらいいのにと思うけれど、母親の言いなり。そこにもどかしさを感じるけれども、それがマインドコントロールの怖さなのだろう。
その母親が殺された。読者は当然子ども達の誰かだろうと予想するだろう。しかし、アリバイや最後に生きている母親を見た時間からすると、嘘をついているのは〇〇ではないかと思う。
また一方で、ある人物の証言を聞いていたら、非常に違和感があったのだけども、その人の社会的地位や言動からすると、その違和感は考えすぎなのかもしれないとも感じる。
読者の思い込みや先入観を、本作も巧みに覆している。しかし、やはり『葬儀を終えて』のほうがより楽しめた。
Posted by ブクログ
1938年の作品
エルキュール・ポアロシリーズ長編16作目。
あらすじ
エルサレムを訪れたポアロがたまたま耳にしたのは、「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」という男女の囁きだった。
ヨルダンに旅行に来たツアー客の1人である医師のサラ・キングは妙なアメリカ人の家族と居合わせる。その家族は揃いも揃って家長のボイントン夫人の権力の支配下にあり、自由を奪われていた。サラは、息子のレイモンド・ボイントンと友人になり、彼らを救いたいと考えていた。しかし、かつて刑務所の看守だった夫人は、子供たちにサラとの交流を禁止する。腹を立てたサラはボイントン夫人を非難するが、夫人は「私は、行動も名前も顔も、何も忘れたことはない。」と謎の言葉を残した後、ペトラ旅行で何者かに殺害された。
家族全員が容疑者の中、エルキュール・ポアロは犯人探しを開始する。
中近東シリーズのうちの一つですが、異国情緒や旅の雰囲気が感じられるのは「ナイルに死す」や「メソポタミアの殺人」の方かな?
殺された人物が、死んだ方が皆のためになるどうしようもない悪い奴、というところからして、「オリエント急行の殺人」と同じような展開か?と思わせらます。作品内でも、オリエント急行のときのように見逃してくれ、というようなセリフが出てきます。が、さすがクリスティー。オリエント急行とは全然違う展開になっていきます。
1938年という時代を生きた、さまざまなタイプの女性について想いを馳せることができる深みのある作品。
医師として自立している強い女性、サラ・キング。
元看守として家族の中で権力を誇示するボイントン夫人。女ながらに政治家として活躍しているウエストホルム卿夫人。ウエストホルム卿夫人のような活動的な女性に憧れながらも、自分では何もできないアマベル・ピアス。母親のせいで家族以外とつながりを持ったことがなく、外に出るのを恐れているキャロライン・ボイントン。精神的に不安定で、思い込みの激しいジネブラ・ボイントン。
それに比べてこの作品に出てくる男性たちはなんとも弱々しく自分の意志がない(毒親のせい?)
女性ながらに小説家として女性がまだまだ生きづらい時代に生きた、アガサクリスティならではの視点を感じます。
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