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優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。
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Posted by ブクログ
実ある心の婚姻に、許すまじ、邪魔だては。 世は移り、人は変われど、まことの恋は 摘まれて朽つる花のごとく はかなきものにあらざれば。 そはさながら天の一角に 嵐を下に見て、巌としてゆるがざる、 かの不動の星、荒波に揉まるる小舟の 変わりなき道しるべ、 いと高く輝きて、限りなきものを内に秘む。 まこと...続きを読むの恋、そは時の道化にあらず よし、あえかな唇、ばらのかんばせは、 時の利鎌の一振りにうつろうとも 恋はかりそめならずして 世のきわみまで恋うるなり。 変わらぬ恋は世になしと証しさるれば わがすべての詩はむなしく およそ人のすべての愛もまたむなし。 ──ウィリアム・シェイクスピア「ソネット116」
ジョーンの自己中心性、奢り、焦り、認めたくない気持ち、赦しをこう気持ち、変えられない自分など、文章からとてもリアルに伝わってくるようだった。外から見ると、何と人は哀しい生き物かと思うが、誰もがもつ心理だし、大なり小なり人生の間で出しているのだろう。聖人君子のようなロドニーにもまた人間くささが見えて...続きを読む、エピローグもよかった。
流石のクオリティ 3人称で、1人称ぽく書くのか肝だなと。 女の登場人物の書き分けが良い。 男の作者だとここまでいかない気がする。 栗本薫のあとがきが、また秀逸。 最後の方は主人公がかわいそうになってきて、これだけ一人になって内省できるって、実は繊細なんじゃないのとか、旦那の方もなんだかな とか...続きを読む思ったのも全て作者があえて仕組んでるんだなと思うと、やっぱりアガサクリスティー凄まじき しっかりエンタメで、かつ深い理想的な小説
国も違う、時代も違う今読んでも共感できる。そんな不思議な本です。 結局人間の本質は時代や国をも超えて同じような所に行き着くんだろうなと感じました。
旅行カバンと女性の座っている姿が素敵な表紙です。読んだ後に考えさせられる、素晴らしい内容でした。 春にして君を離れ absent in the spring 英語の題名も、日本語訳の題名も秀逸です。「君」は誰なのか、「absent」の意味も考えさせられます。 「君」はジョーン側から見るとロドニ...続きを読むー、逆から見るとジョーン。物理的に旅行したから「離れた」って意味合いもあるけど、「心が離れている」意味もある。 本の流れとして、ジョーンは自分の意見が間違っていない、周りを良い方向に直してあげていると思っているが、周りからは融通のきかない、わがままなお母さんと捉えられている。しかし、別の面から見たら、この家庭を作り上げたのは、自分の意見を出さない夫のロドニーの不甲斐なさ、中途半端な子供達も一因であることに気づく。事なかれ主義が、無難で平和な家庭を作り上げた。決してしっかりものお母さんのジョーン1人のせいではない。 旅先で一瞬、他者の気持ちを無視してきた自分の身勝手さに気づいたジョーンだが、イギリスに戻ったら元どおりの自分に戻ってしまう!アウェイだからこそ、内面に向かって気づけた気持ちだったが、あまりにも内省の時間が短すぎたのでしょうか。 人が変わるのは、年を取れば取るほど難しいですね…
人間の心理を描いたとてつもない作品。 毒親、ともよべる、自己中心的な母親ジョーン。 家族のことを思っているようで、実は自分の思い通りにすること、それが彼らにとってよいことだという一方的な決めつけを押し付けることしかせず、そのことに自覚もない。 皆にうとましがられていることにも気づかず、自分1人の幻...続きを読む想の中で孤独に生きている。 その真実に、一番気づきなくないのは、本人自身だ。 一人きりで時間がたっぷりあるとき、 ジョーンはようやく、自分自身の真の姿に出会うことになる。 それは、気持ちいいことではない。 不安で、不穏で、懺悔がまちうけているような、天変地異のような。 そのシーンの描写は圧倒的だ。 そして、改心し、 心から罪の赦しをこい、やりなおそうとする、のだが・・・ 私は、やり直したいというのも自己中心的な気持ちなので、ロドニーがようやくしびれをきらして別れになるという結末かと予想していた。 が、見事に、裏切られた。 ジョーンもロドニーも、 自分の本心を自分自身にもひたかくしにしながら 表面上だけの夫婦を続けていくのである。 これには、もう本当に、びっくりした。 そして、このような夫婦を身近に知っているので、リアリティがあり そして後書にもあるように、とてつもなく、恐ろしく、哀しく、感じた。 中年の域に入り、それまでのゆりかごから自ら脱することの難しさ、人間の弱さを見事に描いていた。 現実的でもあり、だからこそ、哀しい。 勇気、というものが 結局は、この2人は、なかった、ということなのだろう。 アガサクリスティの冷徹な、人間の心の深奥をみつめるような眼差しと描写は本当に見事だった。 読後感はよいものではないけれど、 人間の心をこれほどリアルに描いたものもなかなかないと思う。
旅に出ることで、人は普段とは異なる考えを抱くようになり、普段では到達し得ない真実や決意に辿り着くことができる。 そして、旅先でどれだけ素晴らしい決意を得たとしても、日常に戻れば日常という環境に規定された思考方法に戻り、素晴らしかったはずの決意や真実はまるで夢だったかのように色褪せてしまう。 異国の...続きを読む地に置き去りにされたジョーンは、持て余す時間の中で自己に向き合い真実を悟る。しかし、家に帰り着いた瞬間にその全てが幻のように消え去ってしまう。この心変わりは、経験的に本当に共感できると思った。 旅は僕らを非日常、異なる環境に連れ出してくれるものであり、その効果は掛け値なしに素晴らしい。だが日常に戻った時、僕らの思考は環境によって強く規定されており、そこから抜け出すことは非常に難しいのだと改めて思わされた。 僕はジョーンのことはとてもかわいそうだと思ったし、その妻に対して半ば諦めつつも折り合いをつけることを決めたようであるロドニーのことは尊敬できると思った。結婚とは契約である。現実とは、自分のしたいようにはできないもの、でもそう簡単には投げ捨てられないもの。
多くの人、特に母親が歩む道である被害者妄想というか。家族のために自分を犠牲にして、過ちを犯さないようレールを敷いてあげているのに。当時の彼女の別ペンネームの作品。
この主人公みたいなタイプってやっぱちょっとやそっとで治ることはないんだなぁ……と思って文庫解説を見たら「夫や息子娘が諦めたのも良くない」とあって、その視点があったか…!と。
自分では気づいていなかった、知ろうともしなかった真相にたどり着いてしまうというのは考えてみると恐ろしい。できることならば、周りにとって自分がどういう存在なのか、知ることなく生きていきたいいうのもそんなにおかしなことではないだろう。でも、この小説の主人公、ジョーンは気づいてしまう(最後その扉を開けるか...続きを読む閉めるかという葛藤はあるが)。異国の砂漠の宿に取り残されて、気を紛らわすこともなく数日間を過ごすというシチュエーションもそれに寄与したのだろう、と思うが、それゆえに何か悪い夢でも見たような気持になってしまうというのもむべなるかなというところだと思う。後から考えるとそういうシチュエーションの描き方もうまいというか、だんだんとヨーロッパが近づくにつれて自分の思いに確信が持てなくなるような雰囲気もあらわされていると思った。
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