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Posted by ブクログ
【ネタバレあり】『春にして君を離れ』レビュー
読んだきっかけ
文芸評論家の三宅香帆さんがおすすめの一冊として挙げていたのがきっかけです。「平凡な主婦の話で、誰も死なない」という紹介に興味を惹かれました。アガサ・クリスティー作品は『そして誰もいなくなった』『オリエント急行の殺人』を読んだことがあり、もう一冊探していたタイミングだったため、別名義(メアリ・ウエストマコット)で書かれた本作を手に取りました。
あらすじと物語の背景
3人の子供に恵まれ、一見すると非常に幸せな家庭を築いてきた主人公のジョーン(名前はマザーグースの「ジャンプのジョーン」に由来)。彼女は娘の住む中東を訪ねた帰り道、砂漠のレストハウスで足止めされ、一人きりで自分の人生を振り返ることになります。
家族との思い出を辿るうち、「良き妻、良き母」という自己像は徐々に崩壊していきます。3人の子供たちは彼女を信用しておらず辛辣で、使用人たちも必要最低限の仕事をするだけで冷ややかです。夫のロドニーも、娘の元へ向かう駅でどこかあっさりと去っていきました。周囲の描写から、誰にとっても「ジョーンと一緒にいることが苦痛である」という事実が浮かび上がってきます。
なぜ家族にとってジョーンは「苦痛」なのか
ジョーンは常に「あなたのため」と言いながら自分の価値観や正解を押し付け、無意識に自分にとって都合の良い人物像を演じさせていました。その結果、家族は「自分で自分の人生を決める」という人間として最も大切な本質を奪われていたのです。
夫・ロドニー: 本当は農家になりたかったものの、弁護士事務所の仕事を続けている。
子供たち: 本当に望む人生や愛する人との結婚を選ぶことができず、矛盾と生きづらさを抱えている。
周りの心が離れ、ジョーンが孤独であることが読み手にも、そしてジョーン自身にも次第に分かっていきます。
改心と結末の残酷さ
砂漠での内省の末、ジョーンは「自分は悪い妻であり母だった。夫に許しを請わなければならない」と気づき、改心を決意して帰宅します。
しかし家に着いた瞬間、「謝罪するか、何事もなかったように振る舞うか」で葛藤した彼女が口にしたのは、「ただいま、ロドニー」といういつも通りの一言でした。彼女は元の自分へと戻ってしまったのです。
夫のロドニーは、かつてレズリーという女性を愛していました。レズリーは外見こそ魅力的ではないものの、困難な人生を自身の信念で生き抜く勇敢な女性でした。ロドニーが惹かれたのは、彼女のその「生き方」だったのだと感じられます。しかし、結婚の誓い(健やかなるときも病めるときも添い遂げるという契約)を守り抜く倫理観を持つロドニーは、どれほど心が離れていてもジョーンと添い遂げる道を選びます。
物語のラストで離婚届が出されることはありません。ロドニーが心の中で呟く「かわいそうなリトル・ジョーン」という言葉には、彼女の心が永遠に満たされることがなく、真の意味で一人ぼっちであることを見抜いた残酷な冷ややかさが込められています。
感想と自分への問いかけ
外見上は恵まれた成功した人生に見えながら、その内実は非常に孤独で悲惨であるという描写に、深い衝撃を受けました。
一方で、変えられない現実の中で「結婚の誓い」を守り、最善の手を打ち続けて静かに耐えるロドニーの生き方にも考えさせられます。
自分自身の振る舞いを振り返り、「自分も知らず知らずのうちに、誰かにとってのジョーンになってはいないだろうか」と深く内省させられる、非常に味わい深い名作でした。
Posted by ブクログ
4.2
読んでいてショック。誰しも身につまされることがあるのではないか。。子供のため家族のためとやっていることが空回りしていたり、一方的な思い込みや良かれと思ってしたことが相手には、とても迷惑がられ、反論ももらえず、そっとされておいたのだとしたら。
自分がしてしまったことや、切り回してきたことを思い返して、実はこういうことではなかったかとか、気づかないようにやり過ごしたが、実はこうだったよねと気づいたり、物事の一面しか見えていなかったことに気づいてしまう。
その時点で30年近く経ってるので、悔恨と反省が湧き出たとしても、あるいは新しい自分になった気ではいても、端から見ると何も変わっていない。
人間は、そう簡単に新しくなれるわけでもない。
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