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優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。
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Posted by ブクログ
国も違う、時代も違う今読んでも共感できる。そんな不思議な本です。 結局人間の本質は時代や国をも超えて同じような所に行き着くんだろうなと感じました。
旅行カバンと女性の座っている姿が素敵な表紙です。読んだ後に考えさせられる、素晴らしい内容でした。 春にして君を離れ absent in the spring 英語の題名も、日本語訳の題名も秀逸です。「君」は誰なのか、「absent」の意味も考えさせられます。 「君」はジョーン側から見るとロドニ...続きを読むー、逆から見るとジョーン。物理的に旅行したから「離れた」って意味合いもあるけど、「心が離れている」意味もある。 本の流れとして、ジョーンは自分の意見が間違っていない、周りを良い方向に直してあげていると思っているが、周りからは融通のきかない、わがままなお母さんと捉えられている。しかし、別の面から見たら、この家庭を作り上げたのは、自分の意見を出さない夫のロドニーの不甲斐なさ、中途半端な子供達も一因であることに気づく。事なかれ主義が、無難で平和な家庭を作り上げた。決してしっかりものお母さんのジョーン1人のせいではない。 旅先で一瞬、他者の気持ちを無視してきた自分の身勝手さに気づいたジョーンだが、イギリスに戻ったら元どおりの自分に戻ってしまう!アウェイだからこそ、内面に向かって気づけた気持ちだったが、あまりにも内省の時間が短すぎたのでしょうか。 人が変わるのは、年を取れば取るほど難しいですね…
人間の心理を描いたとてつもない作品。 毒親、ともよべる、自己中心的な母親ジョーン。 家族のことを思っているようで、実は自分の思い通りにすること、それが彼らにとってよいことだという一方的な決めつけを押し付けることしかせず、そのことに自覚もない。 皆にうとましがられていることにも気づかず、自分1人の幻...続きを読む想の中で孤独に生きている。 その真実に、一番気づきなくないのは、本人自身だ。 一人きりで時間がたっぷりあるとき、 ジョーンはようやく、自分自身の真の姿に出会うことになる。 それは、気持ちいいことではない。 不安で、不穏で、懺悔がまちうけているような、天変地異のような。 そのシーンの描写は圧倒的だ。 そして、改心し、 心から罪の赦しをこい、やりなおそうとする、のだが・・・ 私は、やり直したいというのも自己中心的な気持ちなので、ロドニーがようやくしびれをきらして別れになるという結末かと予想していた。 が、見事に、裏切られた。 ジョーンもロドニーも、 自分の本心を自分自身にもひたかくしにしながら 表面上だけの夫婦を続けていくのである。 これには、もう本当に、びっくりした。 そして、このような夫婦を身近に知っているので、リアリティがあり そして後書にもあるように、とてつもなく、恐ろしく、哀しく、感じた。 中年の域に入り、それまでのゆりかごから自ら脱することの難しさ、人間の弱さを見事に描いていた。 現実的でもあり、だからこそ、哀しい。 勇気、というものが 結局は、この2人は、なかった、ということなのだろう。 アガサクリスティの冷徹な、人間の心の深奥をみつめるような眼差しと描写は本当に見事だった。 読後感はよいものではないけれど、 人間の心をこれほどリアルに描いたものもなかなかないと思う。
翻訳文はちょっと読みづらい。。と思ったけど、ぐんぐん引き込まれて、今年いちばん面白かった。。。 自分のことを人がどう思ってるか、見たくないことをわからないふりして生き続けて、自分が見たいようにしか世界を見ず、その型に当てはめるためにまわりが苦しくなって。 面白かったなあ。
「ミステリーの女王」であるアガサ・クリスティー氏。平易な文章と特殊な設定で読者をミスリードするエンターテイメント性が特徴だが、こういう作品も書けるんだなあと感心(当たり前か…)。 本作では殺人は起こらない。しかしミステリーとしては最も怖いかもしれない。そしてある意味哀しい物語。 主人公ジョーン・スカ...続きを読むダモアのような承認欲求の塊のような人っているよねと思いながら読んでいた。気付くようで気付かない。気付いたと思ったらまたふたたび日常に戻る。それを支えるのはある種の諦観を伴う周囲の哀しき愛。茫漠とした時に包まれ孤独のなかフラッシュバックのように猜疑心とともに真実に迫っていく過程の心理的機微の描き方が見事。
ミステリーかと思って読み始めたら、誰も死なないし、それどころか状況もほとんど変わらない なのに先が気になって読み進めてしまう面白さでした 立場上旦那さんに感情移入して、自己犠牲を払っている気の毒な人だと思っていたのですが、解説を読んで初めてその身勝手な一面に気づかされました まだまだ人を見る...続きを読む目が足りません 自分の結論を揺さぶられたくないから真実を見ない人、考えたくないことから目を逸らすために忙しくしている人――「あの人も同じだな」と現実の顔が浮かんできて、生き方を考えさせられる一冊でした
結ジョーンも夫のロドリーも、今の生活から結局改革できなかった所は、九州男児の父に従わざるをえない自分の家族を思い出した。 あと、思春期に親の正義を押し付けられて苦しんだことなどを思い出して、自分の子ども時代を思い出して辛くなってしまった。 結局ロドリーとレスリーは一線を越えてしまったのか、、、?...続きを読む 自分も周りの人に、自分の価値観を押し付けてしまってないか? 心の奥底で人を勝手に評価してないか? 嫌なこと目を背けて、不要に時間を埋めようとしてないか?等反省しました。 じわじわ意味がわかってきて、後味悪かったけど面白かった!
2025/08/17 読み終わった な〜〜〜〜んにもわかっていないお母さんの話。こういう人いる!て感じ。 あと、帝国主義時代のイギリスの雰囲気がよく伝わってきたのが面白かった。バグダードもイスタンブールもローデシアも自分のもの!あれ?もしかしてこのお母さん、帝国主義のアナロジーなのかしら…?
おそらくは世界で一番有名なミステリ作家、アガサ・クリスティ。彼女のノン・ミステリ作品で、しかも彼女の書いた物語の中で1、2を争う傑作であるという下馬評はずっと前から知っていた。ずっと手に取らなかったのは、クリスティのミステリ以外の部分、ちょっと気取ったような繊細な心理的なやりとりの部分が面倒だった...続きを読むからだ。ただ、最近クリスティのミステリを読むと、そういう部分が少しおもしろく感じられて(大人になったのかもしれない)、よし!とおもむろに手に取ったのである。 最初は少し退屈だった。何よりも主人公の語り口調というかキャラクターが妙に鼻について、「ああ、嫌いな方のクリスティだな」と思った。が、読み進めていくうちにその嫌いな部分こそが将にこの作品のテーマの根幹にあることがわかり、次第に物語の仕掛けがわかってくるにつれて、どんどん引き込まれていった。 物語自体は地味である。素晴らしい家庭を築き上げたと人生を振り返る満足げな女性が、旅の途中に過去を振り返るシーンがほとんどだから。ただ、読んでいるうちにこれは地味でのんびりした物語ではなく、強烈な迫力に満ちたサスペンス小説だということがわかってくる。個人的にはサスペンスと言うよりも、むしろホラー小説に思えてならなかった。暗闇の中から魔物が出てきて自分の首を食いちぎることを恐れながら、森の中の小道を歩いていく、そんな感じで、次第に気配が濃厚になる魔物に、主人公と共におびえながら読み進んでいた。 そんなふうに感じるのは、主人公の思いが自分と重なるからなのだろうと思う。「人は自分の見たいものしか見ようとしない」というユリウス・カエサルの言葉が紛うことなく真実だと思うが、自分自身も見たくないものをできるだけ見ないようにして生きている。そして穴に埋めてなかったことにしようとしていた「過去」が何かの拍子にふっと顔を出してくると、慌ててまた土をかけたりしながら生きているのだ。そして自分自身が「目を逸らしている」ことすら心の奥に押し込んで、決して見ないようにしながら。魔物は心の中に潜んでいるのである。いや、魔物は自分自身なのだ。無意識に隠そうとしている自分自身。 そんなことを考えながら読んでいた。後半、ほとんどもう結末を迎えたと思ってからもう一度物語が動き出す(電子書籍で読んでいると、残り香どのくらいか物理的にわかりにくいのが利点だと思う)。結末はある意味意外で、ある意味当然のものだった。クリスティの巧みな物語展開と心憎いほどの文章表現に息もつかず引き回された後、たどり着いた結末はとても美しく、とても寂しいものだった。我が身とも重ね合わせながら、ぞっとする気持ちで余韻に浸った。 なるほど、傑作である。いわゆる推理小説だけしか読まない人にも、クリスティの代表作として読んでほしい。これまでみんながそう言っている理由が確かにわかった。良い読書体験だった。
何もかもに恵まれ、妻として母として人間として素晴らしい人生を送ってきた…と自分では思っている主人公のジョーン・スカダモア。 第二次世界大戦前のイギリスで何不自由なく暮らしていたが、家族に多少の不満は持っていた。 バグダッドで暮らす末娘家族を助けるために出かけた帰り、鉄道の不通で数日間一人の時間を過ご...続きを読むす。 いつも忙しく生活を送っていた彼女が自分や家族を顧みた時、ある事に気付かされる。 自分の至らなさに気付き、帰宅してすぐに夫に謝ろうとしたものの、帰宅した時にはその思いは消えていた。 何もかも自分が正しく、周りの人を正さなければ、と思うタイプの人ジョーン。 なぜ周りの人はそれを指摘しないのだろう? 彼女の帰宅で「休暇が終わった」とつぶやく夫。 愛する夫にそんな気持ちでいさせているジョーンは哀しい人である。
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アガサ・クリスティー
中村妙子
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