【感想・ネタバレ】春にして君を離れのレビュー

あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

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Posted by ブクログ

国も違う、時代も違う今読んでも共感できる。そんな不思議な本です。
結局人間の本質は時代や国をも超えて同じような所に行き着くんだろうなと感じました。

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2025年12月28日

Posted by ブクログ

旅行カバンと女性の座っている姿が素敵な表紙です。読んだ後に考えさせられる、素晴らしい内容でした。

春にして君を離れ
absent in the spring

英語の題名も、日本語訳の題名も秀逸です。「君」は誰なのか、「absent」の意味も考えさせられます。

「君」はジョーン側から見るとロドニー、逆から見るとジョーン。物理的に旅行したから「離れた」って意味合いもあるけど、「心が離れている」意味もある。

本の流れとして、ジョーンは自分の意見が間違っていない、周りを良い方向に直してあげていると思っているが、周りからは融通のきかない、わがままなお母さんと捉えられている。しかし、別の面から見たら、この家庭を作り上げたのは、自分の意見を出さない夫のロドニーの不甲斐なさ、中途半端な子供達も一因であることに気づく。事なかれ主義が、無難で平和な家庭を作り上げた。決してしっかりものお母さんのジョーン1人のせいではない。

旅先で一瞬、他者の気持ちを無視してきた自分の身勝手さに気づいたジョーンだが、イギリスに戻ったら元どおりの自分に戻ってしまう!アウェイだからこそ、内面に向かって気づけた気持ちだったが、あまりにも内省の時間が短すぎたのでしょうか。
人が変わるのは、年を取れば取るほど難しいですね…

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2025年12月28日

Posted by ブクログ

人間の心理を描いたとてつもない作品。

毒親、ともよべる、自己中心的な母親ジョーン。
家族のことを思っているようで、実は自分の思い通りにすること、それが彼らにとってよいことだという一方的な決めつけを押し付けることしかせず、そのことに自覚もない。
皆にうとましがられていることにも気づかず、自分1人の幻想の中で孤独に生きている。
その真実に、一番気づきなくないのは、本人自身だ。

一人きりで時間がたっぷりあるとき、
ジョーンはようやく、自分自身の真の姿に出会うことになる。
それは、気持ちいいことではない。
不安で、不穏で、懺悔がまちうけているような、天変地異のような。
そのシーンの描写は圧倒的だ。

そして、改心し、
心から罪の赦しをこい、やりなおそうとする、のだが・・・

私は、やり直したいというのも自己中心的な気持ちなので、ロドニーがようやくしびれをきらして別れになるという結末かと予想していた。
が、見事に、裏切られた。

ジョーンもロドニーも、
自分の本心を自分自身にもひたかくしにしながら
表面上だけの夫婦を続けていくのである。

これには、もう本当に、びっくりした。

そして、このような夫婦を身近に知っているので、リアリティがあり
そして後書にもあるように、とてつもなく、恐ろしく、哀しく、感じた。

中年の域に入り、それまでのゆりかごから自ら脱することの難しさ、人間の弱さを見事に描いていた。
現実的でもあり、だからこそ、哀しい。

勇気、というものが
結局は、この2人は、なかった、ということなのだろう。

アガサクリスティの冷徹な、人間の心の深奥をみつめるような眼差しと描写は本当に見事だった。

読後感はよいものではないけれど、
人間の心をこれほどリアルに描いたものもなかなかないと思う。

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2025年12月23日

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ネタバレ

普通の主婦が旅先で人生を振り返るだけで、殺人も盗難事件も何も起きない。それでも一気に読めてしまう。そして怖い。アガサ・クリスティって凄いって感じる作品。

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2025年12月21日

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ネタバレ

誰でもこの作品の主人公になり得ると思うと....
真実に気付くことの哀しさ、人生において自分自身を客観的に見つめ続けることの難しさを感じる作品でした。後味悪いのに嫌いになれない。むしろ好きです。大好きな作品。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

翻訳文はちょっと読みづらい。。と思ったけど、ぐんぐん引き込まれて、今年いちばん面白かった。。。

自分のことを人がどう思ってるか、見たくないことをわからないふりして生き続けて、自分が見たいようにしか世界を見ず、その型に当てはめるためにまわりが苦しくなって。

面白かったなあ。

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2025年11月20日

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ネタバレ

訳がやや古いせいか、単純にものを知らないということもあるが読めない漢字、意味のわからない熟語がちょこちょこある。
ストーリーとしては何ということは無いが、有り余る時間の中で自分自身を嫌でも省み、少しずつ真実に迫られる描写がページを進ませる。
沙漠の中でのある種のカタルシスから、本編ラストの描写までの揺れ動きも良い。現代なら、最後の一行は書かずにエピローグも割愛する作家もいそう。そこを書き切っているのも、切なくて好き。

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2025年11月08日

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「ミステリーの女王」であるアガサ・クリスティー氏。平易な文章と特殊な設定で読者をミスリードするエンターテイメント性が特徴だが、こういう作品も書けるんだなあと感心(当たり前か…)。
本作では殺人は起こらない。しかしミステリーとしては最も怖いかもしれない。そしてある意味哀しい物語。
主人公ジョーン・スカダモアのような承認欲求の塊のような人っているよねと思いながら読んでいた。気付くようで気付かない。気付いたと思ったらまたふたたび日常に戻る。それを支えるのはある種の諦観を伴う周囲の哀しき愛。茫漠とした時に包まれ孤独のなかフラッシュバックのように猜疑心とともに真実に迫っていく過程の心理的機微の描き方が見事。

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2025年12月29日

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ネタバレ

地に足のついたサスペンスでこわかった。

子育て中の身には人ごとではない。自分と向き合うこと、自分が子どもたちにしたことに向き合うことは怖い。彼女と一緒にわたしも自分と向き合うことになった。
ジョーンが過去に向き合い悔い改め、変わろう!と決意するも、日常に戻れば漫然と元に戻っていくのは本当にリアル。人はそうそう変われないのだ。

ジョーンが毒妻毒母なのはもちろん否定できない。けれど、その被害者であり子どもたちの理解者であるように振る舞う夫こそおそろしい人だ。農場経営に踏み切れない勇気のなさを妻が反対したせいにする。愛情もかけず、育児もメイドまかせなのに子どもをコントロールしようとする伴侶から子どもたちを守れない。人として欠陥がある妻を優しく見つめるようでいて、向上のための気付きは与えず、崩壊していく家庭を最後まで傍観するのみ。

ロドニーは夫婦として、父親として、ジョーンとぶつかり向き合うべきではなかったか。
とても孤独な家族の物語だと思う。アガサもそうだったのかもしれない。

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2025年12月27日

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ネタバレ

第三者視点から客観的に見たジョーンは夫や娘のことなど何も分かっていないように見えるのに、ジョーン本人は「私はいつも良い選択をしてきた」と思い込んでいる、その差に怖さを感じます。自分の思い込みではなく、相手が本当は何を求めているのか、という本質を見抜く必要性を感じました。自分を見つめ直す時間を与えられたのにもかかわらず、旅から帰った後夫に今までのように接する選択をしたジョーンは、これからも誰にも愛されることがないのだろうなと思いました。

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2025年12月21日

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ネタバレ

クリスティの別名義の本。優雅な奥様が、もしかして私は思うほど幸せではない?という自問自答を砂漠で1人でし始めて、実際は?そして結末は?というのが最後に明かされるわけだけど、日常系心理サスペンスって感じでゾクゾクした。うまいなー

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2025年12月13日

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ミステリーかと思って読み始めたら、誰も死なないし、それどころか状況もほとんど変わらない

なのに先が気になって読み進めてしまう面白さでした


立場上旦那さんに感情移入して、自己犠牲を払っている気の毒な人だと思っていたのですが、解説を読んで初めてその身勝手な一面に気づかされました

まだまだ人を見る目が足りません


自分の結論を揺さぶられたくないから真実を見ない人、考えたくないことから目を逸らすために忙しくしている人――「あの人も同じだな」と現実の顔が浮かんできて、生き方を考えさせられる一冊でした

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2025年12月13日

Posted by ブクログ

結ジョーンも夫のロドリーも、今の生活から結局改革できなかった所は、九州男児の父に従わざるをえない自分の家族を思い出した。

あと、思春期に親の正義を押し付けられて苦しんだことなどを思い出して、自分の子ども時代を思い出して辛くなってしまった。

結局ロドリーとレスリーは一線を越えてしまったのか、、、?

自分も周りの人に、自分の価値観を押し付けてしまってないか?
心の奥底で人を勝手に評価してないか?
嫌なこと目を背けて、不要に時間を埋めようとしてないか?等反省しました。

じわじわ意味がわかってきて、後味悪かったけど面白かった!

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2025年12月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最後の万華鏡の例え、自分のこれからのウィンドウをどう捉えて生きていくか決めるシーン、凄い
頼むから気づいたことに正直になってこれからを生きてほしい…と最後の最後のページまで思わずにはいられなかった。
しかし、ロドリーの最後の「気がつかずにいてほしい」の一言できっとこのまま過ごすんだと確信してしまい…

それだけじゃなく、最後にヒトラーの名前が出ることによりとてつもない戦争がこの先起こること、バーバラの真実の手紙が燃やされてしまったこと…主人公がこの先自分自身と向き合って気づく時間や物や人はもうないんだと暗雲が微かに匂わされていて、終わり方に感心してしまった。良い本でした。

あのとき主人公がきちんと贖罪して改めていたら…という想像の余白をこれから何度か考えてしまいそう

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2025年12月08日

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2025/08/17 読み終わった

な〜〜〜〜んにもわかっていないお母さんの話。こういう人いる!て感じ。

あと、帝国主義時代のイギリスの雰囲気がよく伝わってきたのが面白かった。バグダードもイスタンブールもローデシアも自分のもの!あれ?もしかしてこのお母さん、帝国主義のアナロジーなのかしら…?

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2025年11月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初アガサ・クリスティ

この主人公は長年何をしてきたんだろうかと……

人の言葉や思いにずーーーーっと向き合わずにきたジョーン
そのつけがラストにきてる

自分勝手な幸福論を押し付けてきた結果、きっと誰にも幸せを願われずにいくんだろうな

子供のために主人のために

その奥にあるのは変化を恐れる自分のため

なんてプア・リトル・ジョーン

勇気を持ち合わせないプア・リトル・ジョーン

せっかくの回心のチャンスを与えられたというのに

最後のエピローグの最後の一文

一番愛している人間にそんなことを思われているとは

なんて哀れなプア・リトル・ジョーン

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2025年11月16日

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 おそらくは世界で一番有名なミステリ作家、アガサ・クリスティ。彼女のノン・ミステリ作品で、しかも彼女の書いた物語の中で1、2を争う傑作であるという下馬評はずっと前から知っていた。ずっと手に取らなかったのは、クリスティのミステリ以外の部分、ちょっと気取ったような繊細な心理的なやりとりの部分が面倒だったからだ。ただ、最近クリスティのミステリを読むと、そういう部分が少しおもしろく感じられて(大人になったのかもしれない)、よし!とおもむろに手に取ったのである。

 最初は少し退屈だった。何よりも主人公の語り口調というかキャラクターが妙に鼻について、「ああ、嫌いな方のクリスティだな」と思った。が、読み進めていくうちにその嫌いな部分こそが将にこの作品のテーマの根幹にあることがわかり、次第に物語の仕掛けがわかってくるにつれて、どんどん引き込まれていった。

 物語自体は地味である。素晴らしい家庭を築き上げたと人生を振り返る満足げな女性が、旅の途中に過去を振り返るシーンがほとんどだから。ただ、読んでいるうちにこれは地味でのんびりした物語ではなく、強烈な迫力に満ちたサスペンス小説だということがわかってくる。個人的にはサスペンスと言うよりも、むしろホラー小説に思えてならなかった。暗闇の中から魔物が出てきて自分の首を食いちぎることを恐れながら、森の中の小道を歩いていく、そんな感じで、次第に気配が濃厚になる魔物に、主人公と共におびえながら読み進んでいた。

 そんなふうに感じるのは、主人公の思いが自分と重なるからなのだろうと思う。「人は自分の見たいものしか見ようとしない」というユリウス・カエサルの言葉が紛うことなく真実だと思うが、自分自身も見たくないものをできるだけ見ないようにして生きている。そして穴に埋めてなかったことにしようとしていた「過去」が何かの拍子にふっと顔を出してくると、慌ててまた土をかけたりしながら生きているのだ。そして自分自身が「目を逸らしている」ことすら心の奥に押し込んで、決して見ないようにしながら。魔物は心の中に潜んでいるのである。いや、魔物は自分自身なのだ。無意識に隠そうとしている自分自身。

 そんなことを考えながら読んでいた。後半、ほとんどもう結末を迎えたと思ってからもう一度物語が動き出す(電子書籍で読んでいると、残り香どのくらいか物理的にわかりにくいのが利点だと思う)。結末はある意味意外で、ある意味当然のものだった。クリスティの巧みな物語展開と心憎いほどの文章表現に息もつかず引き回された後、たどり着いた結末はとても美しく、とても寂しいものだった。我が身とも重ね合わせながら、ぞっとする気持ちで余韻に浸った。

 なるほど、傑作である。いわゆる推理小説だけしか読まない人にも、クリスティの代表作として読んでほしい。これまでみんながそう言っている理由が確かにわかった。良い読書体験だった。

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

何もかもに恵まれ、妻として母として人間として素晴らしい人生を送ってきた…と自分では思っている主人公のジョーン・スカダモア。
第二次世界大戦前のイギリスで何不自由なく暮らしていたが、家族に多少の不満は持っていた。
バグダッドで暮らす末娘家族を助けるために出かけた帰り、鉄道の不通で数日間一人の時間を過ごす。
いつも忙しく生活を送っていた彼女が自分や家族を顧みた時、ある事に気付かされる。
自分の至らなさに気付き、帰宅してすぐに夫に謝ろうとしたものの、帰宅した時にはその思いは消えていた。
何もかも自分が正しく、周りの人を正さなければ、と思うタイプの人ジョーン。
なぜ周りの人はそれを指摘しないのだろう?
彼女の帰宅で「休暇が終わった」とつぶやく夫。
愛する夫にそんな気持ちでいさせているジョーンは哀しい人である。

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2025年11月15日

Posted by ブクログ

読ませたい人間が何人かいる
俺自身もその1人で、見につまされる部分もある

自分を客観的にみる方法を知りたい。

ど名作。教科書に載るべき。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 アガサ・クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で発表した『春にして君を離れ(Absent in the Spring)』は、彼女の作家人生のなかでも特に内省的で、個人的色彩の濃い作品である。1944年の刊行当時、クリスティーは第二次世界大戦下という不安定な時代の只中にあり、50歳を超えて人生の折り返し地点を迎えていた。当時クリスティーはすでに「ミステリの女王」としての地位を確立していたが、その一方で、プライベートでは二度目の結婚生活を送りながら、自身の女性としての在り方や人間関係について内省的な時間を過ごしていた。
 物語は、旅の途中で孤立を強いられた中年女性ジョーンが、ふとした空白の時間のなかで自分の人生これまでの人生を見つめ直すというシンプルな構造をもつ。しかし、回想するにつれて、ジョーンがこれまで信じてきた「良き妻」「良き母」としての自己像は、実のところ自己満足や独善に過ぎなかったという残酷な真実が明らかになっていく。
 クリスティーは本作について、自伝のなかでこう記している。「これは誠実に、真心を込めて書かれました。私が書こうと意図したとおりに書けた作品であり、それこそが作家にとって最も誇らしい喜びなのです(和訳)」(An Autobiography, Agatha Christie)。さらに同書で、「彼女(ジョーン)は絶えず自分自身に出会うことになる。ただし、それが自分だとはわからず、次第に居心地の悪さだけが募っていくのです(和訳)」とも語っている。
 興味深いのは、ジョーンが自己の欺瞞に気づきながらも、根本的な変化は起きず、再び日常へと戻っていくという結末である。ここでは、変わることの困難さ、人間の保守的な心理が淡々と描写されている。この静かな終幕が、読後に深い余韻を残す。
 『春にして君を離れ』には、謎も事件もない。それでも、心の奥底に潜む暗がりを見つめるという意味ではクリスティーの他のどの作品よりも深く刺さる読書体験を提供してくれる。映像化されていないこの作品は、クリスティーの知られざるもう一つの顔を示す貴重な一冊であり、ミステリの名声とは異なるかたちで彼女の文学的真価を物語っている。

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2025年06月04日

A

購入済み

結末は、これで良かったのかもしれないね。
過去は変えられないし。
登場人物全員がまるで実在の人物かのように思えてくる。
それだけでも読む価値があると思いました。
若い人に読んでほしい本ですね。ピントこないかもしれないけどね。
それにしても、クリスティは人物描写が巧みだね。

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2024年11月20日

Posted by ブクログ

 第二次世界大戦前夜のヨーロッパ。「善良」で折目正しい人生を送ってきたイギリス夫人が、乗り継ぎの悪さで足止めを受けている間に、知らず知らず、回想する自分と家族の人生。
 家族に「正しさ」を押し付けており、それが客観的には間違っていないかもしれないが、家族の心と人生を歪めていく。しかも、自分も家族も、互いに相手に向き合わず、目を背けて、上辺は平和に生きている。
 自分に正直に生きる人々と、自分を偽って生きる主人公たちとの対比も、極端過ぎるほど鮮やかで、どっちが幸せなのかわからない。

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2025年12月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでいる間ずっとしんどかった。
独善的で視野が狭くて、自分が見たいものしか見ようとしない。自分が良いと信じることを、他人も良いと信じると疑わない。なので無邪気に他人に自分の思想を押し付ける。コントロールしようとする。
今の自分の人生のスタンスとは対極すぎて、自分語りを読むのがしんどすぎた。
ようやく気づいたのに、気づかないふりをしたジョーン。こういう性質の彼女と暮らし続けるロドリーと彼女を避け当然のように出て行ったエイヴリル、バーバラ、トニー。

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2025年11月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分の思い込みで周りの意見を取り入れようとせず、価値観を押し付けてきた主人公は、最後の最後まで変わらなかった。
夫は被害者なのだが、彼の『休暇が終わってしまった』というメッセージなど痛烈に刺さる

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

和訳されている文章だからか、個人的には読みづらい、すんなりと受け入れづらかった。
名前の表記では、男性はファーストネームで、女性は同じファーストネームなのにラストネーム表記だったり。
誰が何を話しているのかパッと理解できないところがあったのは、私の理解力不足かもしれません。

内容としては、大きな起承転結やミステリーがあるわけではない。
ただ考えさせられる、そして10年後にまた読んでどう自分が受け取るのか、変化があるのかを感じたい一冊。

主人公の思想に共感が全くできず、
こういう人がいるよね、自分の親と重ねる部分があるよね、と主人公の嫌な部分を誰かに重ねて読んでいくことになってしまい、辛かった。

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2025年11月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めてアガサ・クリスティーを読んだ。
ジョーンの傲慢たるや。他人のため、と言って自分が気持ちいいだけの都合を強いてくる人ほど厄介なものはない。解説には、ジョーンに掛け合ってこなかった家族についても責任があると書かれていて、それはそう思いつつも、結局ジョーンが全く耳を貸さなかったから、全員諦めて、ジョーンは変わらないままだったんだろうなと思う。ギルビー、ブランチ、サーシャからも示唆されているのに気付かず。そんな自分の考えを転換できるチャンスを一度は手にしたものの、間際で破り捨ててしまった勇気のないジョーン。本当に気の毒でかわいそう。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

哀しい話か。
結局、家に帰っても反省するそぶりもないジョーン、向き合わないロドニーや子供たち。
終わっている家族ってことか。
誰が悪いのかって話になったら難しいな。答えれない。ふわふわした物語だな。

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2025年11月12日

Posted by ブクログ

哀しい話だったな。子育て中の身にはなんだか読んでて辛いものがあった。

ジョーンは家にメイドとコックがいて、子供も巣立って一体何をしてるんだろう…??
ミステリーかと思ったけど、そうではなかった。
最後の後味もなんとも…

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2025年11月01日

Posted by ブクログ

嫌悪感しか感じない主人公の語りがどんどん哀れで可哀想になり、最後は袋小路だと分かって進んで行ったと思え、怖くなった。

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2025年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読む人を選ぶ本。この本があまり刺さらなかった人は、割と幸せな人生を歩んできたのかも。
異国の地で、自分と向き合って目を覚ましたかに見えた主人公が、家に帰ってきて、元通りになってしまうということは、やはり環境が人を作るのかな。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

初めて読んだアガサ・クリスティー

最初は主人公にうんざりしたが、それぞれ色々抱えてるんだなーと、ぼんやりと感じた。

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2025年12月08日

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