【感想・ネタバレ】春にして君を離れのレビュー

あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

誰でもこの作品の主人公になり得ると思うと....
真実に気付くことの哀しさ、人生において自分自身を客観的に見つめ続けることの難しさを感じる作品でした。後味悪いのに嫌いになれない。むしろ好きです。大好きな作品。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

翻訳文はちょっと読みづらい。。と思ったけど、ぐんぐん引き込まれて、今年いちばん面白かった。。。

自分のことを人がどう思ってるか、見たくないことをわからないふりして生き続けて、自分が見たいようにしか世界を見ず、その型に当てはめるためにまわりが苦しくなって。

面白かったなあ。

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2025年11月20日

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ネタバレ

訳がやや古いせいか、単純にものを知らないということもあるが読めない漢字、意味のわからない熟語がちょこちょこある。
ストーリーとしては何ということは無いが、有り余る時間の中で自分自身を嫌でも省み、少しずつ真実に迫られる描写がページを進ませる。
沙漠の中でのある種のカタルシスから、本編ラストの描写までの揺れ動きも良い。現代なら、最後の一行は書かずにエピローグも割愛する作家もいそう。そこを書き切っているのも、切なくて好き。

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2025年11月08日

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ずっと主人公の気持ちに寄り添って読み続けてきたのに、後読感は最悪です。
何日か引き摺りそう。
とはいえ、とても素晴らしい小説でした。
もしかしたら、同じ境遇の女性でないと、なかなか没入できないのかなとも感じました。

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2025年10月25日

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ネタバレ

自分の母を見るかのようで、心がゾワゾワした。きっと私の母は、砂漠で一人になっても、自分を顧みることはしない。自分は良い母親だったと満足し、疑うことはないだろう。

ロドニーの視点から見たジョーンが最後に描かれていた。諦めと失望と歪んだ優越感。栗本氏の解説にもあったが、結局似たもの同士なのだろう。子供達の視点から見たジョーンの姿も見てみたかった。

ジョーンが最後にあの選択をした(というより、考えることを放棄した)のも、リアルだし納得。私はロドニーにはなれないので、衝突の上、絶縁した。この選択が良かったのかは分からないし、ずっと関わらないで居られるのかも分からないが、自分に嘘をついて生きるのだけは嫌だ。

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2025年10月19日

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初アガサクリスティ。長年世界で愛されるだけある。
欺瞞に満ちたお似合いの夫婦。
ジョーンは普通にASDで家族はカサンドラ症候群になる前に自衛しただけにすぎない。

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2025年10月06日

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最近色々思うことがあり、やっとこの年にして初クリスティ。もう刺さった……私も人生第一楽章の春が終わり、夏の第二楽章へ向けた間奏を走り抜ける、そのためには砂漠の地でちょっとばかりの列車の旅と思索が必要ね。

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2025年10月04日

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ネタバレ

ずっと読みたくて、だから、やっと読めて嬉しい。1,2日でほとんど一息に読んでしまった。とても面白かったし、考えさせられる本だった。
バクダットで足止めを食らったジョーン・スカダモア夫人は、自身の半生を振り返る。穴からのぞくトカゲは終いには彼女を覆い尽くし、最後はさも「イギリス人らしく」改心したかと思いきや、最後のオチはなんと…といった内容。シェイクスピアのソネットの引用、タイトルの「Absent in the Spring」。そしてエピローグで夫のロドニーがこう独りごつ、「ああ、どうか、きみがそれに気づかずにすむように。」
まったく大した出来事も起こらず、ジョーン夫人とインド人の召使いしかいない、油臭い宿泊所(レストハウス)で、彼女を襲ったあの出来事。果たして意味があったのだろうか。

【栗本薫氏の解説が素晴らしかったために】
・「夫のロドニーはいやなやつだ」とは露ほどにも思えなかった私だが、いつか「年をとって」気持ちが変わるのだろうか。
・「ジョーン・スカダモアを連想させるような家族」を持っているか否か、という着眼点はかなり鋭い。現代でいう毒親をこんなに鮮やかに(かつそれとなく)描けるなんて、やはりクリスティにはミステリだけではない純粋な筆力があると言わざるを得ない。

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2025年09月28日

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人間の心理描写、考え方に対する技巧がすばらしい。
ただ内容に関しては読むのが辛かったです。
ジョーンは現代に生きていればいわゆる毒親とよばれるものでしょう。ラストのカタルシス的な展開を期待しつつ、、、やはりといった締め方。
救いようのない哀しさも覚えますがそれがまた人間らしい、、、。

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2025年09月23日

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ネタバレ

最後の万華鏡の例え、自分のこれからのウィンドウをどう捉えて生きていくか決めるシーン、凄い
頼むから気づいたことに正直になってこれからを生きてほしい…と最後の最後のページまで思わずにはいられなかった。
しかし、ロドリーの最後の「気がつかずにいてほしい」の一言できっとこのまま過ごすんだと確信してしまい…

それだけじゃなく、最後にヒトラーの名前が出ることによりとてつもない戦争がこの先起こること、バーバラの真実の手紙が燃やされてしまったこと…主人公がこの先自分自身と向き合って気づく時間や物や人はもうないんだと暗雲が微かに匂わされていて、終わり方に感心してしまった。良い本でした。

あのとき主人公がきちんと贖罪して改めていたら…という想像の余白をこれから何度か考えてしまいそう

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2025年12月08日

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2025/08/17 読み終わった

な〜〜〜〜んにもわかっていないお母さんの話。こういう人いる!て感じ。

あと、帝国主義時代のイギリスの雰囲気がよく伝わってきたのが面白かった。バグダードもイスタンブールもローデシアも自分のもの!あれ?もしかしてこのお母さん、帝国主義のアナロジーなのかしら…?

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2025年11月27日

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ネタバレ

初アガサ・クリスティ

この主人公は長年何をしてきたんだろうかと……

人の言葉や思いにずーーーーっと向き合わずにきたジョーン
そのつけがラストにきてる

自分勝手な幸福論を押し付けてきた結果、きっと誰にも幸せを願われずにいくんだろうな

子供のために主人のために

その奥にあるのは変化を恐れる自分のため

なんてプア・リトル・ジョーン

勇気を持ち合わせないプア・リトル・ジョーン

せっかくの回心のチャンスを与えられたというのに

最後のエピローグの最後の一文

一番愛している人間にそんなことを思われているとは

なんて哀れなプア・リトル・ジョーン

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2025年11月16日

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 おそらくは世界で一番有名なミステリ作家、アガサ・クリスティ。彼女のノン・ミステリ作品で、しかも彼女の書いた物語の中で1、2を争う傑作であるという下馬評はずっと前から知っていた。ずっと手に取らなかったのは、クリスティのミステリ以外の部分、ちょっと気取ったような繊細な心理的なやりとりの部分が面倒だったからだ。ただ、最近クリスティのミステリを読むと、そういう部分が少しおもしろく感じられて(大人になったのかもしれない)、よし!とおもむろに手に取ったのである。

 最初は少し退屈だった。何よりも主人公の語り口調というかキャラクターが妙に鼻について、「ああ、嫌いな方のクリスティだな」と思った。が、読み進めていくうちにその嫌いな部分こそが将にこの作品のテーマの根幹にあることがわかり、次第に物語の仕掛けがわかってくるにつれて、どんどん引き込まれていった。

 物語自体は地味である。素晴らしい家庭を築き上げたと人生を振り返る満足げな女性が、旅の途中に過去を振り返るシーンがほとんどだから。ただ、読んでいるうちにこれは地味でのんびりした物語ではなく、強烈な迫力に満ちたサスペンス小説だということがわかってくる。個人的にはサスペンスと言うよりも、むしろホラー小説に思えてならなかった。暗闇の中から魔物が出てきて自分の首を食いちぎることを恐れながら、森の中の小道を歩いていく、そんな感じで、次第に気配が濃厚になる魔物に、主人公と共におびえながら読み進んでいた。

 そんなふうに感じるのは、主人公の思いが自分と重なるからなのだろうと思う。「人は自分の見たいものしか見ようとしない」というユリウス・カエサルの言葉が紛うことなく真実だと思うが、自分自身も見たくないものをできるだけ見ないようにして生きている。そして穴に埋めてなかったことにしようとしていた「過去」が何かの拍子にふっと顔を出してくると、慌ててまた土をかけたりしながら生きているのだ。そして自分自身が「目を逸らしている」ことすら心の奥に押し込んで、決して見ないようにしながら。魔物は心の中に潜んでいるのである。いや、魔物は自分自身なのだ。無意識に隠そうとしている自分自身。

 そんなことを考えながら読んでいた。後半、ほとんどもう結末を迎えたと思ってからもう一度物語が動き出す(電子書籍で読んでいると、残り香どのくらいか物理的にわかりにくいのが利点だと思う)。結末はある意味意外で、ある意味当然のものだった。クリスティの巧みな物語展開と心憎いほどの文章表現に息もつかず引き回された後、たどり着いた結末はとても美しく、とても寂しいものだった。我が身とも重ね合わせながら、ぞっとする気持ちで余韻に浸った。

 なるほど、傑作である。いわゆる推理小説だけしか読まない人にも、クリスティの代表作として読んでほしい。これまでみんながそう言っている理由が確かにわかった。良い読書体験だった。

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2025年11月16日

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何もかもに恵まれ、妻として母として人間として素晴らしい人生を送ってきた…と自分では思っている主人公のジョーン・スカダモア。
第二次世界大戦前のイギリスで何不自由なく暮らしていたが、家族に多少の不満は持っていた。
バグダッドで暮らす末娘家族を助けるために出かけた帰り、鉄道の不通で数日間一人の時間を過ごす。
いつも忙しく生活を送っていた彼女が自分や家族を顧みた時、ある事に気付かされる。
自分の至らなさに気付き、帰宅してすぐに夫に謝ろうとしたものの、帰宅した時にはその思いは消えていた。
何もかも自分が正しく、周りの人を正さなければ、と思うタイプの人ジョーン。
なぜ周りの人はそれを指摘しないのだろう?
彼女の帰宅で「休暇が終わった」とつぶやく夫。
愛する夫にそんな気持ちでいさせているジョーンは哀しい人である。

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2025年11月15日

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読ませたい人間が何人かいる
俺自身もその1人で、見につまされる部分もある

自分を客観的にみる方法を知りたい。

ど名作。教科書に載るべき。

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2025年11月06日

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ネタバレ

この旦那は自分の夢に浸ってるせこい勘違い野郎だと思います!
読み終わった後の虚無感がアガサクリスティの醍醐味ですね。

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2025年10月02日

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ネタバレ

アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』は,ミステリーではなく,一人の女性が自分の人生を振り返り,思いもよらない事実に直面していく物語である。主人公ジョーンは「完璧な妻であり母」という自負を持ち,なかなか来ない鉄道を待つ間に過去を省みる。その過程で彼女は,夫からも子どもからも,そして誰からも本当には愛されていないのではないかという恐怖に突き当たる。
 ジョーンは世間体を基準に人の生き方を決めつけてきた。夫の仕事や子どもの結婚相手でさえ,「この人のため」と思い込みつつ,実際は自分の価値観を押しつけてきた。しかしそれを本人は善意だと信じている。そして,自分の作り上げた小さな世界に満足するために,他人の心の機微を無視し,気づきたくない現実からは目を逸らす。だから,レスリーの死を語るときに夫ロドニーが沈黙した理由を「癌の話題は誰でも避けたいもの」と皮相的に解釈するなど,やり取りのずれに気づかない。読者には明らかに違和感があるのに,ジョーン自身は無自覚のまま過ごしている。この姿は,ギルビー校長が語った「苦痛を回避するために,手っ取り早く皮相的な判断を下す人間」にそのまま重なる。
物語が進むにつれて,ジョーンは人々の発言や態度を思い返し,「あれは自分を嫌っていたのだ」「あの人は自分に呆れていたのだ」と,まるで伏線を回収するかのように気づいていく。その瞬間の積み重ねが読者の胸を突き刺す。特に,「この人には何を言っても無駄」と周囲が判断し,表面上の穏やかさだけを保っている描写には,あまりにもリアルな冷たさがあった。無関心こそが最も残酷な態度だと突きつけられる感覚に,心臓が悪くなるほどだった。
 ただ,ジョーンを全面的に断罪できるかというと,それも違う。夫ロドニーの農場への夢を「くだらない」と切り捨て,弁護士としての安定を強いたのは彼女だが,実際に夫に寄り添ったレスリーは,農業の疲労と貧困の中で早死にしてしまった。「よき妻」であったはずのレスリーの最期を考えると,ジョーンのやり方だけが間違っていたとも言い切れない。この曖昧さがまた,物語の不気味な現実味を強めている。
 やがてジョーンは,絶望の中で「赦しを乞おう」と決意する。しかし,イギリスの我が家に帰れば,その思いは霧のように消えてしまう。公爵夫人の言葉どおり,ジョーンは聖人ではなくただの人間だからだ。読後に残るのは,人間の弱さと,そして「自分も同じように周囲から見限られているのではないか」という得体の知れない恐怖である。その恐怖があまりにリアルで,だからこそこの小説は読み終えても心に居座り続ける。

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2025年10月05日

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ネタバレ

主人公のジョーンが、一人旅により自分の半生を振り返る物語。優しい夫と3人の子供たちに恵まれ、人生に充実感を得ていたジョーン。砂漠地帯で電車が止まり、本も読み尽くしてやることがなくなったことから、自分が正しいと信じ続け、夫や子供たちの生き方をも決める自分の身勝手さに気付いていく。
特に愛する夫の人生を奪っていることに猛省し、赦しを乞おうと動き始めた電車に乗るも、家に近付くにつれどんどん『いつもの自分』を取り戻してしまう。
夫より先に家に到着し、謝るか、いつも通り振る舞うかの2択で悩んだ結果、後者を選んだことが残念だった。
ジョーンも悪いが、夫であるロドニーも、子供たちも、もう少しジョーンと対話をすればよかったのだ。(おそらくあきらめてしまったのだが…)
これは反面教師にすべきだし、人生を迷わないために繰り返し読むべきだと思う。なんとも哀しい物語。

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2025年10月11日

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ネタバレ

 アガサ・クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で発表した『春にして君を離れ(Absent in the Spring)』は、彼女の作家人生のなかでも特に内省的で、個人的色彩の濃い作品である。1944年の刊行当時、クリスティーは第二次世界大戦下という不安定な時代の只中にあり、50歳を超えて人生の折り返し地点を迎えていた。当時クリスティーはすでに「ミステリの女王」としての地位を確立していたが、その一方で、プライベートでは二度目の結婚生活を送りながら、自身の女性としての在り方や人間関係について内省的な時間を過ごしていた。
 物語は、旅の途中で孤立を強いられた中年女性ジョーンが、ふとした空白の時間のなかで自分の人生これまでの人生を見つめ直すというシンプルな構造をもつ。しかし、回想するにつれて、ジョーンがこれまで信じてきた「良き妻」「良き母」としての自己像は、実のところ自己満足や独善に過ぎなかったという残酷な真実が明らかになっていく。
 クリスティーは本作について、自伝のなかでこう記している。「これは誠実に、真心を込めて書かれました。私が書こうと意図したとおりに書けた作品であり、それこそが作家にとって最も誇らしい喜びなのです(和訳)」(An Autobiography, Agatha Christie)。さらに同書で、「彼女(ジョーン)は絶えず自分自身に出会うことになる。ただし、それが自分だとはわからず、次第に居心地の悪さだけが募っていくのです(和訳)」とも語っている。
 興味深いのは、ジョーンが自己の欺瞞に気づきながらも、根本的な変化は起きず、再び日常へと戻っていくという結末である。ここでは、変わることの困難さ、人間の保守的な心理が淡々と描写されている。この静かな終幕が、読後に深い余韻を残す。
 『春にして君を離れ』には、謎も事件もない。それでも、心の奥底に潜む暗がりを見つめるという意味ではクリスティーの他のどの作品よりも深く刺さる読書体験を提供してくれる。映像化されていないこの作品は、クリスティーの知られざるもう一つの顔を示す貴重な一冊であり、ミステリの名声とは異なるかたちで彼女の文学的真価を物語っている。

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2025年06月04日

A

購入済み

結末は、これで良かったのかもしれないね。
過去は変えられないし。
登場人物全員がまるで実在の人物かのように思えてくる。
それだけでも読む価値があると思いました。
若い人に読んでほしい本ですね。ピントこないかもしれないけどね。
それにしても、クリスティは人物描写が巧みだね。

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2024年11月20日

Posted by ブクログ

 第二次世界大戦前夜のヨーロッパ。「善良」で折目正しい人生を送ってきたイギリス夫人が、乗り継ぎの悪さで足止めを受けている間に、知らず知らず、回想する自分と家族の人生。
 家族に「正しさ」を押し付けており、それが客観的には間違っていないかもしれないが、家族の心と人生を歪めていく。しかも、自分も家族も、互いに相手に向き合わず、目を背けて、上辺は平和に生きている。
 自分に正直に生きる人々と、自分を偽って生きる主人公たちとの対比も、極端過ぎるほど鮮やかで、どっちが幸せなのかわからない。

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2025年12月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでいる間ずっとしんどかった。
独善的で視野が狭くて、自分が見たいものしか見ようとしない。自分が良いと信じることを、他人も良いと信じると疑わない。なので無邪気に他人に自分の思想を押し付ける。コントロールしようとする。
今の自分の人生のスタンスとは対極すぎて、自分語りを読むのがしんどすぎた。
ようやく気づいたのに、気づかないふりをしたジョーン。こういう性質の彼女と暮らし続けるロドリーと彼女を避け当然のように出て行ったエイヴリル、バーバラ、トニー。

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2025年11月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分の思い込みで周りの意見を取り入れようとせず、価値観を押し付けてきた主人公は、最後の最後まで変わらなかった。
夫は被害者なのだが、彼の『休暇が終わってしまった』というメッセージなど痛烈に刺さる

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

和訳されている文章だからか、個人的には読みづらい、すんなりと受け入れづらかった。
名前の表記では、男性はファーストネームで、女性は同じファーストネームなのにラストネーム表記だったり。
誰が何を話しているのかパッと理解できないところがあったのは、私の理解力不足かもしれません。

内容としては、大きな起承転結やミステリーがあるわけではない。
ただ考えさせられる、そして10年後にまた読んでどう自分が受け取るのか、変化があるのかを感じたい一冊。

主人公の思想に共感が全くできず、
こういう人がいるよね、自分の親と重ねる部分があるよね、と主人公の嫌な部分を誰かに重ねて読んでいくことになってしまい、辛かった。

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2025年11月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めてアガサ・クリスティーを読んだ。
ジョーンの傲慢たるや。他人のため、と言って自分が気持ちいいだけの都合を強いてくる人ほど厄介なものはない。解説には、ジョーンに掛け合ってこなかった家族についても責任があると書かれていて、それはそう思いつつも、結局ジョーンが全く耳を貸さなかったから、全員諦めて、ジョーンは変わらないままだったんだろうなと思う。ギルビー、ブランチ、サーシャからも示唆されているのに気付かず。そんな自分の考えを転換できるチャンスを一度は手にしたものの、間際で破り捨ててしまった勇気のないジョーン。本当に気の毒でかわいそう。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

哀しい話か。
結局、家に帰っても反省するそぶりもないジョーン、向き合わないロドニーや子供たち。
終わっている家族ってことか。
誰が悪いのかって話になったら難しいな。答えれない。ふわふわした物語だな。

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2025年11月12日

Posted by ブクログ

哀しい話だったな。子育て中の身にはなんだか読んでて辛いものがあった。

ジョーンは家にメイドとコックがいて、子供も巣立って一体何をしてるんだろう…??
ミステリーかと思ったけど、そうではなかった。
最後の後味もなんとも…

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2025年11月01日

Posted by ブクログ

嫌悪感しか感じない主人公の語りがどんどん哀れで可哀想になり、最後は袋小路だと分かって進んで行ったと思え、怖くなった。

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2025年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読む人を選ぶ本。この本があまり刺さらなかった人は、割と幸せな人生を歩んできたのかも。
異国の地で、自分と向き合って目を覚ましたかに見えた主人公が、家に帰ってきて、元通りになってしまうということは、やはり環境が人を作るのかな。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

本作は、誰も死にません。
色々考えるけど、結局人は中々変われない臆病な生き物なんです、特に夫婦関係や子育てについては、と。まあ分からんでもないけど、心に響くのにはもう少し歳を重ねる必要があるかな。

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2025年10月20日

Posted by ブクログ

初めて読んだアガサ・クリスティー

最初は主人公にうんざりしたが、それぞれ色々抱えてるんだなーと、ぼんやりと感じた。

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2025年12月08日

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