あらすじ
優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。
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Posted by ブクログ
【ネタバレあり】『春にして君を離れ』レビュー
読んだきっかけ
文芸評論家の三宅香帆さんがおすすめの一冊として挙げていたのがきっかけです。「平凡な主婦の話で、誰も死なない」という紹介に興味を惹かれました。アガサ・クリスティー作品は『そして誰もいなくなった』『オリエント急行の殺人』を読んだことがあり、もう一冊探していたタイミングだったため、別名義(メアリ・ウエストマコット)で書かれた本作を手に取りました。
あらすじと物語の背景
3人の子供に恵まれ、一見すると非常に幸せな家庭を築いてきた主人公のジョーン(名前はマザーグースの「ジャンプのジョーン」に由来)。彼女は娘の住む中東を訪ねた帰り道、砂漠のレストハウスで足止めされ、一人きりで自分の人生を振り返ることになります。
家族との思い出を辿るうち、「良き妻、良き母」という自己像は徐々に崩壊していきます。3人の子供たちは彼女を信用しておらず辛辣で、使用人たちも必要最低限の仕事をするだけで冷ややかです。夫のロドニーも、娘の元へ向かう駅でどこかあっさりと去っていきました。周囲の描写から、誰にとっても「ジョーンと一緒にいることが苦痛である」という事実が浮かび上がってきます。
なぜ家族にとってジョーンは「苦痛」なのか
ジョーンは常に「あなたのため」と言いながら自分の価値観や正解を押し付け、無意識に自分にとって都合の良い人物像を演じさせていました。その結果、家族は「自分で自分の人生を決める」という人間として最も大切な本質を奪われていたのです。
夫・ロドニー: 本当は農家になりたかったものの、弁護士事務所の仕事を続けている。
子供たち: 本当に望む人生や愛する人との結婚を選ぶことができず、矛盾と生きづらさを抱えている。
周りの心が離れ、ジョーンが孤独であることが読み手にも、そしてジョーン自身にも次第に分かっていきます。
改心と結末の残酷さ
砂漠での内省の末、ジョーンは「自分は悪い妻であり母だった。夫に許しを請わなければならない」と気づき、改心を決意して帰宅します。
しかし家に着いた瞬間、「謝罪するか、何事もなかったように振る舞うか」で葛藤した彼女が口にしたのは、「ただいま、ロドニー」といういつも通りの一言でした。彼女は元の自分へと戻ってしまったのです。
夫のロドニーは、かつてレズリーという女性を愛していました。レズリーは外見こそ魅力的ではないものの、困難な人生を自身の信念で生き抜く勇敢な女性でした。ロドニーが惹かれたのは、彼女のその「生き方」だったのだと感じられます。しかし、結婚の誓い(健やかなるときも病めるときも添い遂げるという契約)を守り抜く倫理観を持つロドニーは、どれほど心が離れていてもジョーンと添い遂げる道を選びます。
物語のラストで離婚届が出されることはありません。ロドニーが心の中で呟く「かわいそうなリトル・ジョーン」という言葉には、彼女の心が永遠に満たされることがなく、真の意味で一人ぼっちであることを見抜いた残酷な冷ややかさが込められています。
感想と自分への問いかけ
外見上は恵まれた成功した人生に見えながら、その内実は非常に孤独で悲惨であるという描写に、深い衝撃を受けました。
一方で、変えられない現実の中で「結婚の誓い」を守り、最善の手を打ち続けて静かに耐えるロドニーの生き方にも考えさせられます。
自分自身の振る舞いを振り返り、「自分も知らず知らずのうちに、誰かにとってのジョーンになってはいないだろうか」と深く内省させられる、非常に味わい深い名作でした。
Posted by ブクログ
読み終わって、恐ってなった!
アガサ・クリスティー作品ではあるが、
殺人事件とか何も起きて無いんだけどಠ_ಠ
家族の歪さをこれでもかと見せつけられた。
家族を、夫を心から愛していると信じるジョーン・スカダモアの有りようが哀しいし、虚しい。
本人は良き夫、良き子供たちに恵まれて理想的な家庭を手に入れたと自負しているのに、「知らぬは当人ばかりなり」といった具合に事実は全くの逆。それを段々に鋭く描き出しているから凄まじい!
流石のクリスティーだな、と感嘆しました。
砂漠の只中で一人、自身の内面を省みることしかやる事が無くなっていく描写が寒々とこわかった…
汽車がやっと着いて、徐々に現実の生活に戻りながら利己的な自身をも取り戻していく様子も哀しい。人はそう簡単に変われやしないと分かってはいても。
Posted by ブクログ
ジョーンがせっかく非日常の中で見つめ直した自分の過ちを無かったことにしてしまうあたり、最高の皮肉を感じた。
ロドニーは事を荒立てたないことに重きを置いた結果、表面上の付き合いを続けていく覚悟が垣間見えた。
隠し事だらけだけど、こういう愛の形もあっていいんじゃないかな
Posted by ブクログ
前半から、この主人公の問題ありな部分が節々に感じられ、一体どういう話なんだろうと想像を膨らませながら読んでいた。
ついに自分の罪と向き合いながらも、やはり人は簡単には変われないという現実を突き付けられた感じがした。
推理小説ではなかったものの、感情を揺さぶられるような小説だった。売れたアガサクリスティーが別名義で書いたというのも納得。
生き方に迷ったときも読み返したい。
ライフイベントなどのタイミングで読み返すと、その時々で違った感情になるのかもしれないなと思った。
Posted by ブクログ
スマホも本も持たずに旅に出たら、ジョーンのように雷に打たれたような気づきがあるかもしれない。が、これもまたジョーンのように結局は日常に戻った瞬間にすべてを忘れて元の思考に戻ってしまうんだろうなぁ。年を重ねても自分を客観視できる人間でありたいと思った。
Posted by ブクログ
子育てに行き詰まった時、おすすめの本を探していて見つけた一冊。
読後の感想……怖い。
いや、怖すぎる。
ぎゃーーーっ!でした。
何が怖いかと言うと、誰の心にもあるかもしれない部分を見せられたことです。
「自分は正しい」
「子どものために、夫のために、家族のために最善を尽くしている」
そう信じてやってきたことが、もし間違っていたとしたら……。
ひとり自分自身と向き合う時間の中で、これまで気付かなかったことにも気づいていきます。
けれど、日常に戻った途端、また以前の自分へ戻ってしまう。
人は、そう簡単には変われないのかもしれません。
子どものためと思っていることは、本当に子どものためなのか。
家族を思う気持ちの中に、自分の「こうあるべき」を押しつけてはいないか。
そんなことを考えさせられる一冊でした。
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読後のざわつき度:⭐⭐⭐⭐⭐
でも読んでよかった度:⭐⭐⭐⭐⭐
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Posted by ブクログ
時代背景とか全然違うのに、なんかリアルで生々しく感じて、怖くもあり面白くもあった。
クリスティ作品のキャラクターは、いつも本当に 生きている人のような感じがする。
Posted by ブクログ
読み始めてすぐに「これって完全に義母じゃん!」ってなって、こんな風な考えのもとの言動だったのか、、と再確認した。ロドニーの役割をしていたのが義弟で早逝した。 人との境界線が無くて人をコントロールする事を正しいとする内省しない人間って、近くにいる人が崩れるか離れるかしかなくなる。
私にとってこの物語はリアルで救いがない。
Posted by ブクログ
優秀な弁護士の旦那とそれぞれ結婚し巣立った3人の子供を育て上げた主人公のジョーン。
理想的な人生を歩んできたと盲信してきたジョーンが徐々に不都合な真実へ直面していく物語はシンプルだが面白い。
この作品の終盤帰りの車内で出会う人物にもうすぐ戦争が始まると告げられるシーンがある。僕の知識が乏しかっただけでもしかしらそれまでの場面でそういった伏線が散りばめられていたのかもしれないが、なにも知らずに呑気に読んでいた僕はそのセリフにどきりとした。なによりジョーンの自己認識という最もミクロな物語と戦争というマクロな物語を自然と接続させる表現力とセンスがとてつもないと感じた。
孤独の中で内省を深めたジョーンは家に帰ったら夫であるロドニーに謝り新たな人生を歩み始めると決意する。しかし、ジョーンは普段の日常に戻ると変わる必要なんてないのでは、或いはあの時辿り着いた真実はただの空虚な妄想だったのではないかと心変わりしてしまう。
ラストの章ではロドニー視点で物語が語られる。その中で彼はジョーンの幸せの為、真実を伏せて彼女に接する。
ロドニーは優しく聡明であり正しい大義と責任感を持っている。しかし、それ故にジョーンは生まれ変わることができない。真実に向き合うことができない。僕はここにある種の政治家像を重ねる。彼らもきっと国民に今までと変わらない豊かな生活を享受させる為に奮闘しているのだろう。物価が上がっても減税し、ホルムズ海峡が封鎖されてもガソリンの値段は財政出動により大きな変動はしない。世界情勢は刻々と変動しているが国民は今までと同じ生活が続くと信じ切っている。まさにヒトラーが戦争を起こすわけがないと信じ切っているジョーンのように。
奇しくも僕がこの作品を読み終えたのは8月16日だ。終戦記念日の1日後である。僕たちは改めて考えなければならない本当の勇気について。
Posted by ブクログ
ミステリーでもホラーでもないのに怖さを感じた小説だった。ただの主婦が自分の人生を振り返るだけなのに…
でも思い返せば自分もジョーンのようなことがあったような…当時は気付かないけど、あとから振り返ってみればあぁいうことだったのかな?!と穴があったら恥ずかしい気持ちになったことが。笑
自己肯定感が高すぎるのも考えものだなと思った。
そして結末はあまりにも救いようがないというか…残念な気持ちになったけど色々と考えさせられる本だった。
この題材でここまでのめり込ませてくれるアガサクリスティはすごい!
Posted by ブクログ
「自分は正しい」という善意が、知らず知らずのうちに相手を傷つけてしまう。そして、自分では正しいと思っているからこそ、そのことになかなか気づけない。本作が描いているのは、そんな「無意識の罪」の怖さなのだと感じた。
ジョーンは、偶然砂漠で家族から離れて一人になることで、これまでの人生を振り返り、自分が良い妻・良い母としてしてきたことが、実は家族の気持ちを無視していたのではないかと気づいていく。しかし家族のもとへ戻ると、結局また「自分は正しかった」という元の考え方へ戻ってしまう。
人は何かに気づいたからといって、物語のようにきれいに変われるとは限らない。この現実的で救いきらない結末に、本作の静かな怖さを感じた。同時に、ときには日常から離れ、自分や周囲との関係を客観的に見つめ直す時間の大切さも感じる。
また、ジョーンだけが悪いとも思えない。自信と行動力がある一方で自分の正しさを押しつけてしまうジョーンと、穏やかな一方で本音を伝えず不満を抱え込むロドニー。二人とも長所がそのまま短所にもなっていて、人間関係とはこうした互いの性格の微妙なバランスの上に成り立っているのだと気づかされた。
登場人物の何気ない言葉や行動にもさまざまな意味が込められていて、一度読んだだけですべてを理解しきれたとは思えないほど深みのある作品だった。時間をおいて、自分自身の経験や考え方が変わったときに、もう一度読み返してみたい。
Posted by ブクログ
人が死ぬ云々ではなく、自己認識と周りからの認識のずれがどのくらいあるのかを描いた物語。
自分の良い方向に解釈してしまう、人の自己中さがよく描かれていて、現実世界でもこういうことあるよなと思いながら面白く読んだ。
解説も、読んだ後の総括として読むにはとても良かった。
Posted by ブクログ
今でこそ自他境界とかいう概念が広く知られているけど、きっとそうではなかった時代に自他境界ガバガバな母親の違和感をこんなにも描写できるアガサクリスティーがすごすぎる、
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夫婦、親子でも、お互いのことを分かっているようで、まるで分かっていない。でもそれを受け入れることで生活が成り立っている。誰もが薄々気づいていることを嫌というほど思い知らされた気がした。
Posted by ブクログ
人生は不断の進歩の過程。死んだ自己を踏み石にして、より高いものへと進んでいくのです。
娘の家の帰路、雨の影響でバグダッドで足止めにされ、主人公が自己を省みる話。
家に帰ったら幻かのように全てを忘れ、いつも通り過ごしていく。
自分自身、自己本位で生きてはいけないなとすごく考えるが、なかなか難しいなといつも感じる。
一波乱起きそうで結局は日常に戻っていくのはもやもやするものでもあり、リアルでもあるなと思ったが、その辺も含めて面白く読めた。
Posted by ブクログ
ジョーンの内省で自分に気付いていく過程と思い違いに気付いていない部分は共感できて面白かった。家に帰って日常生活に戻ると結局は、っていうところもわかる!
子どものことは何でもわかっている、って自ら口にする母親って、毒親だわって思うけど、殺人事件のないアガサクリスティの作品で人間の闇を感じた。
ロドニーとレスリーの部分は、何か起こるんじゃないかと、推理小説を読んでいるようにドキドキした。
思わぬトラブルで幾日も帰宅できず、時間を持て余していたら、自分もジョーンのように家族や過去を振り返り反省すると思う。でもそういう機会がないことを祈る。
Posted by ブクログ
長ったらしい自己満足に満ちた回想なのに、最後までちゃんと読ませる文章力というか構成力があって、さすがアガサクリスティだなぁと。いや、もしかしたらアガサクリスティだからという信頼のもとに読み切れたのかもだけど。
正直この本を読んで、何を思えばいいのか分からなかった。自分は自分しか認知できない、ともすれば自分すらも曖昧なまま、他人の思考や考えなど理解できようもない、ということなのかしら。
妻や母として、家族のためにどうのこうのというのは実際のところ、正しい形なんてないのだと思う。人を愛するということも、献身も、何もかも自己満足じゃない?というか自己満足を通じてでないと他人に干渉なんてできないんじゃないだろうか。
などと、自分と他人には深い溝があるということしか得られませんでした。
他の人の感想を読んで、自分の中で確固たる考えが確立した。人間、みんな自己満足に満ちていている!それを知覚するか、しないか。
Posted by ブクログ
アガサクリスティはミステリーしか読んだことがなかったため新鮮だった今作。
前半はジョーンのプライドの高さ、子供達からどう思われているか気がつかない鈍感さにばかり目がいったけれど、後半の、急激に自分の過去の過ちを振り返り始めるのは見ていてもとても心苦しい。
それとともに後半印象が変わるのは、ロドニーだ。
前半は、旦那さんあるあるだなあ、子供にとって良い父親なんだろうなあ、とか呑気に考えていたけれど、後半を見ているとそうも言えなくなる。
完全なモラハラとも違うような気がするけれど、なんだかモラハラ臭を感じる。
決定的なことを言うわけではないけれど、だからこそ胸に秘めてずっと相手に核心的なことを言わない、相手が可哀想だから。
ロドニーの言動は、ずっとジョーンのことをどこか下に見ている気持ちが表れていたと思う。
良い父親像からは一転、本当に結婚してはいけないのはこういう人なんだと思う(知らんけど)
ジョーンも最後の勇気を振り絞るところまではきたのに、結局今までと同じ生き方を選んだ。
ジョーンもロドニーも、お互い核心的なところまでは切り出さずに、上辺ともとれる関係のまま一緒に暮らしていく。
そういう関係性も本人たちが幸せなら良いと思うけれど、きっとこの先またモヤモヤを抱えるときが絶対にくる。
そのときジョーンとロドニーはどうするんだろう。
また知らないふりをするんだろうか。
人生の選択って本当に大事なのだと思う、きちんと選択をできる人間でいたい。
その選択が正解かどうかはその時点ではわからないかもしれないけれど、その後の人生、振り返った時にいい選択だったな、と思えるように責任を持って生きていきたい。
結末は、これで良かったのかもしれないね。
過去は変えられないし。
登場人物全員がまるで実在の人物かのように思えてくる。
それだけでも読む価値があると思いました。
若い人に読んでほしい本ですね。ピントこないかもしれないけどね。
それにしても、クリスティは人物描写が巧みだね。
Posted by ブクログ
ミステリーかと思ってたけどアガサ・クリスティーはこういうのも書くんだと驚き。
ずっと場所が動かない、たまに人と会話するけどほとんどが主人公の回想だからそれが苦痛な人には合わないかも…
最後は2つの意味に取れる…
①もう誰も君を愛してないけど真実を知ると面倒くさいから気付かないでくれ
②愛してるからこのまま気付かないで幸せなまま生きてくれ
どっちだろ。でも愛してなかったら離婚するよなあ…
結局気付いたのに変わろうとしない妻
妻にちゃんと向き合わないで全てを諦めた夫
子供だけが可哀想…
あと何故かひらがな多くて読みづらいとこ多かった。
Posted by ブクログ
クリスティーが別名義で出していた小説。
感情の機微が巧みに描かれている分、読んでいてかなりヒリつくというか、疲れた。
私はかなりロドニーに同情して読んでいたのだが、解説で「ロドニーは嫌なやつだ」を見て、その視点はなかったなと思う。
ロドニーや子供たちにも、責任はあるのかもしれない。
でもなー、この手の人間って他人から何言われても変わらないもの。まともな方が神経擦り減らすの割にあわなくない??
そう思うと、生ぬるい地獄に身を置いてしまうロドニーの気持ちはわかる気がする。
Posted by ブクログ
優しい夫と立派な子供に恵まれ、完璧な人生を築いたと疑わない主婦ジョーン。旅先で途絶えた足止め(孤立)のさなか、旧友ブランチとの一対一の会話から、彼女の記憶の再検分が始まる。
一見、静かな女同士の世間話。しかし刃のように突きつけられる皮肉と揺さぶりはまるで上質な舞台劇のよう。読み進めるほどに見えてくるのは、彼女を取り巻く世界の狭さと、無自覚な支配欲だ。
家事や育児をメイドやナニーに任せ、手に職を持たない裕福な彼女が全情熱を傾けたのは「家族の管理」。心の中では子供たちすら冷徹に裁きながら、表向きは「良妻賢母」を演じ続ける二面性にゾクッとさせられる。
帰りの列車で出会うロシアの公爵夫人サーシャは、ジョーンの独善性やイギリス的上流中産階級特有の「無意識の押しつけ」を冷静に見抜く。「善意という名の鎧で人を殺す」という冷徹な分析。あれこそが物語の核心であり、読者の胸を打ち抜く瞬間だ。
しかし、知性と率直さを持つサーシャの言葉すら「鼻につく」と切り捨て、日常へ戻っていくジョーン。彼女は結局、何一つ変わらない。
「だったらここまで読んできたのは徒労なのか?」
答えはノーだ。
彼女が改心しないからこそ、この本は恐怖の鏡となる。「傷つかない心地よい嘘」を選び直す彼女の姿に、読者は「自分も無自覚に誰かを追い詰めていないか」と迫られるのだ。変わらなかったジョーンの代わりに、すべての学びは本を閉じた私たちの側に託される。
Posted by ブクログ
子供が独立したとき、それまでの親子関係や夫婦関係を顧みて、自分の考え方が正しかったのかを確かめたくなるが、真実はわからない、誰も助けてくれない、自分が思ったことがすべて。あらためて、後悔のない人生を、送りたいと思った。
Posted by ブクログ
三宅香帆さんがYouTubeで読まずには人生を終えることができない小説の1つに挙げていた本。Instagramで「いいな」と思うことが減る、と言う感想も気になって読んでみた。三宅さんほどの感受性がないので、自分は相変わらずSNSをみて羨ましく思ってしまうのだろうなと思う。
Posted by ブクログ
ジョーンもジョーンだけど、じわじわロドニーに腹が立ってきた。夫婦関係があまりに歪で、彼ら自身も、彼らに関わるひとたちも、ぼんやり皆不幸だな........
Posted by ブクログ
良妻賢母を自認して疑わない主人公ジョーンがバグダッドでの思わぬ足止めをきっかけに自分と向き合う。
ジョーンの自認と他者からの評価のズレが痛々しくてずーっと読むのが苦しい。身近な人物や自分自身の中にもジョーンを感じる部分があり、真綿で首どころか体全体を絞められるよう。
エピローグで夫サイドが語られ、ラスト1行の破壊力が、いい。夫は穏やかで人格者のように全編語られる(し、実際そうだろう)けど、ジョーンのダメさを分かったうえで利用していた狡猾さもあるのかな、とも思った。
「プアリトルジョーン」が優しい言葉とはとうてい思えない
Posted by ブクログ
三宅香帆さんのYouTubeでオススメされていたので読んでみました。アガサクリスティーだけど、マーダーミステリーではない、純文学っぽい作品。「本当は自分でも気づいているけど、見ようとしてない事実ってあるよね」ということ、そして「人間はそう簡単には自分の非を認められない」という感じの作品。専業主婦の主人公、ジョーン・スカダモアがとにかく腹立たしい…苦笑。今で言う、毒妻・毒親ということなんだろうな。この小説が書かれた時代にも、そういった言葉こそないにせよ、概念としてはやっぱりあったんだなあと思った…。夫のロドニーがとにかく良くできた人物であり、同時に可哀想だった…
Posted by ブクログ
たった一人の人間の心の葛藤だけで一冊の物語が作れてしまう、アガサ・クリスティーの文章力の高さにはすごい!という気持ちになるが、それ以上に恐ろしさを覚える本だった。
人間の醜い本心を冒頭から見せられているようで、ジェーンの自分を高く見積もるところが好きになれない、全部が全部間違っているとは言わないが、自分の価値観を人に押し付けるところもちょっとな…などと考えながら読んでいたが、途中でそのことを自覚し、変わるのかと思ったら…人間はそうは変われないということすら、生々しい。
彼女と通ずる部分があるからこそ、読むのが辛くなる。心に刺さってしまう。