【感想・ネタバレ】春にして君を離れのレビュー

あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

アガサ・クリスティといえば『ミステリーの女王』として有名だが、この小説のジャンルは “Introspective novel” として分類されるらしい。直訳すると「内省的な小説」……意味はわかるが、絶妙にしっくりこない。とにかく自己の内面や感情、行動に焦点を当てた小説であり、アガサ・クリスティはこの作品を執筆するにあたり『ミステリーの女王』という先入観なしに正当な評価を得るため、あえて別名義で発表したという。

物語のほとんどは病気の娘を見舞った帰りに列車の不通に遭い、砂漠のど真ん中にあるゲストハウスで数日間を一人過ごさなければならなくなった主人公・ジョーンの徹底した内省(事実上の一人語り)によって展開する。持参した本も読み終え、英語もろくに通じない(この辺りに当時の英国人の特権的な文化的背景も感じ取れて大変香ばしい)現地人の使用人しか身近にいない中、彼女はこれまでの人生を振り返り、やがてある残酷な気づきを得る——
ジョーンには、よき母、よき妻として家族に尽くしてきたという強い自覚がある。農場を経営したいという夫の夢をたしなめて弁護士の道をすすめ、子どもたちには家の中で最も日当たりのいい部屋を与え、彼らが付き合う友人たちさえも「良かれと思って」選別してきた。しかし現実には、夫はやがて彼女から心理的に距離を置くようになり、子どもたちはジョーンを冷たくあしらうようになっていた。
夫の進みたい道を支えるのが愛なのか、それとも世間的評価の高い安定した道に進むよう導くのが愛なのか。この作品が恐ろしいのは、話し合い、分かり合おうと努力するという「第三の選択肢」を、他でもないジョーン自身が「家族のための正しい導き」という絶対的な正義感によって、無自覚のうちに潰してきたという事実を描いている点だ。

タイトルにもある Absent とは、英国から物理的に離れ、砂漠に取り残されたジョーンの「不在」を表すとともに、彼女の人生から決定的に欠落していた「愛情や共感の不在」も示している。とはいえ、ジョーンをそこまでの Absent 状態に追い込んだのには、話し合いを諦めてしまった夫にも責任があるだろう、と個人的には感じた(解説で書かれていたことに100%同意する)。ただこの辺りは読み手によって誰に感情移入するかで大きく印象が異なる部分かもしれない。

人間小説(Introspective novel を仮にそう表現する)には違いないのだが、随所にアガサ・クリスティの風味を感じる展開だった。それは、完璧な主婦であったはずのジョーンの回想を通して夫や子どもたちから見た「本当の彼女の生き様」がじょじょに明らかになってくる点や、彼女と家族の捉え方の決定的なズレ(信用できない語り手)に現れている。ジョーンが目を背けていた真実がだんだんと浮き彫りになっていくミステリーのような緊張感、そして英国へと戻るジョーンが自身の気づきを結局なかったことにしてしまう後味の悪さ(イヤミス)はまさに女王の筆致である。

また、孤独や恐怖の象徴といえば「夜」や「闇」というイメージが強いが、この作品が砂漠のど真ん中で「太陽の強い光に晒されること」を『孤独』の概念として表現している点も非常に印象的だった。

Introspection(内省)とは人間の内面、つまり常では外部に晒されないはずの領域である。誰もいない広大な砂漠で、誤魔化しの効かない太陽に灼かれることがあったとして、炙り出される私自身の Absent とは一体どんなものになるだろうか。そんなことを考えさせられる読書体験だった。

0
2026年04月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

怖すぎた。独りよがりの自分の世界に閉じこもって、周囲の気持ちを汲まず、自分の理想通りに生きるとこうなるのか、と。終盤で自分の過ちに気づいて、夫に謝ろうとしたのに、結局自分の理想の世界を選んだのは恐怖だった。でも正直、自分もこうなりそうと思った節がある。わがままで傲慢なところを貫くと、家族を苦しめてしまい、最終的には独りぼっちになるということを、胸に留めて生きていきたい。折に触れて読むことになるのかも、というか忘れた頃に読んだ方がいいのかも、、、長年愛され続けてるだけある作品。

0
2026年04月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

クソ刺さった。

刺さり過ぎて二度と読みたくないと思う一方で、人生に迷った時にまた読みたいとも思う。

ジョーンは最低なやつだが、ロドニーも、子どもたちも、結局同じなんだなと思った途端に、この作品の怖さを理解した。

0
2026年04月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

アヴァリルの駆け落ちを止めるための、話し合いのシーンが出色。
アヴァリルと二人だけで話したいと言うロドニーに、ジョーンにも同席してほしいと言うアヴァリル。「なるほど、怖いんだな」と言ったロドニーの言葉の意味が、その時点では分からなかったが、今なら分かる。父に筋の通った言葉で事の本質を言い当てられ、説得されるのが怖かったんだろう。訳の分からない母にまぜっかえしてもらい、話し合いをうやむやにしたかったのかも。

感情的にならず理路整然と冷静に諭すロドニーは、いかにも弁護士然としていて、自分の娘に対する態度とは思えない。父の経験と苦しみを知っている理知的なアヴァリルは、もはや反抗する術もない。心配が図星になったのだ。
彼女にしては感情的な捨て台詞を残し、部屋を去る。

二人の静かだけどヒリヒリするような応酬の意味を理解できないジョーンの憐れなこと。まさに「プア・リトル・ジョーン」だわ。

0
2026年03月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

10年近く前に「バーナード嬢曰く」で取り上げられていて、その時に気になってすぐに購入して、10年近く積読になっていた本をようやく読み始めて一気に読んだ

うわ、この不遜さは自分かもしれない・・・痛々しい気持ちで読み進める
自分はみんなに嫌われているかもしれないと思ってるとむしろ自分を正当化したくなるんだろうなぁ

バクダットからテル・アブ・ハミド(テルアビブのことか?)→アレッポへとタクシーと汽車で移動 その後にヨーロッパに入って・・・そっか、第二次対戦前はイスラエルやシリアはイギリス領だった? あれ?バグダッド→イスタンブール→ベルリンを鉄道で結ぶ3B政策はドイツの政策だっけ? 待っていた汽車はドイツの鉄道会社? うろ覚えの中東の世界史を思い出す

ずっとジョーンの視点だったのが、最後だけロドニーの視点で解決編

アガサクリスティは、誰かを思い出しながらこの本を書いていたのか、自分を顧みていたのか
少し意地悪なところもあった人のような気がするので、楽しんでこの本を書いていたんだろうなと想像する

0
2026年03月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

とにかく怖い。自分の中にもジョーン・スカダモアがいるのではないか。すでに誰かにとってのジョーンなのではないか。夫であるロドニーの評価は分かれるところだと思うが、個人的には嫌な奴と切り捨てきれない部分があった。「結婚は連帯の意図の表明であり、不測の事態が起こった時も、相手を見捨てない契約」という覚悟を貫いているようにも思えたが、結局のところ、ロドニーもジョーンと同じように、自己満足に陥っているだけなんだろうな。ありのままの現実と向き合うレスリーの姿が、ロドニーの弱さを浮き彫りにしていると感じた。現実を直視し分かち合う勇気を持てないことを、優しさなどという美辞麗句で飾って済ませてはいけない、と突きつけてくる本だった。

0
2026年02月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ミステリーではないアガサクリスティー

一人の女性ジョーンが妻として母として人一倍の自信と誇りを持って生きてきた。
ただ実際は周りが何も見えていなかった
怖いことだと思う。自分に置き換えたらどうだろう。それに気づいた時180度変えた考え方ができるだろうか。それまでの人生を否定できるだろうか。

多角的な視野で見ることは難しい。自信があることは素晴らしい。
ロドニーはなんて大きい人なんだろう。ただ妻に心のうちも打ち明けられない人生は哀しいとしか言えない

子どもたちは離れていきそれぞれ新たな人生を歩み始める。今でいうところの毒親を離れてやっと自分基準の幸せを求めて。

0
2026年02月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

久しぶりに一気読み(2日には分かれたけど)した本。

子育てしている身としてはジョーンを見ているとヒヤヒヤしてしまう。表面的に理解した気にならず、相手に向き合って理解し合える親子関係、夫婦関係を築きたいとら思った。

最後、ロドニーが「ジョーンはこれからもひとりぼっち。それを君が気づきませんように」みたいな言葉が恐ろしい。ロドニーも向き合いなよと思ってしまうが、仕事を反対されたときから心が折れてしまったのかな。

知らぬ間に愛想を尽かされることがないよう、ジョーンを反面教師にしたい、、、、

0
2026年02月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人は中々変わる事はできないということを突きつけられた。
ジョーンが最後の最後で変わる事が出来なかった気持ちはよく分かる。

0
2026年04月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み進めていくうちにどんどん背筋が凍る。
ジョーン、、なんて女なんだ、、と思ったが人間って多かれ少なかれこういうところがありそうだとも思った。
正義だと思っているものが本当に人のためになっているのか、自分のためではないのか、振りかざす前に落ち着いて考えたいと思わされる。特に家族に対して境界線を履き違えるなんてよくある話だし気をつけたい。

結末は人は簡単には変わらないという示唆なのか。
「ただいま」ではなく「許して」って勢いづいて言えていたらジョーンも変われたのかもなと思うがそれもかえってリアル。

0
2026年04月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人が死なないクリスティーは初めて読んだけどこれも悪くない。大きな事件が起きるわけではないのに、次々に浮かぶ疑惑と繋がっていく記憶の断片が頭に流れ込んでくるようで、この疾走感はさすがクリスティーだなと思った。
主人公は女の悪いところ詰め込みまくり。それに途中で気づくところまでは良かったんだけど、結局無かったことにして見て見ぬふりするところはさすが女って感じでますます女が嫌いになった。自分も女だけど。

0
2026年03月27日

「小説」ランキング