あらすじ
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ……」エルサレムを訪れていたポアロが耳にした男女の囁きはやがて死海の方へ消えていった。なぜこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか? そんな思いが現実となったように殺人は起こった。謎に包まれた死海を舞台に、ポアロの慧眼が真実を暴く。
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Posted by ブクログ
「いいかい、彼女を殺してしまわなければいけないんだよ」
こんな会話を盗み聞きしてしまうポアロ。休暇のエルサレム旅行中にだっていうのにさすがに名探偵!事件から寄って来ちゃう!
しかし物語の中盤までポアロの出番はない。話はこの会話の主であるレイモンド・ボイントンと、キャロル・ボイントン兄妹へと移る。
兄妹が殺そうと決意したのは、自分たちの継母(父の後妻)であるボイントン老夫人。彼女はボイントン氏の死後、家族の上に君臨し、心理的に抑えつけ、絶対に逆らえないと精神に叩き込んでいた。ボイントン一家はこんな感じ。
・ボイントン老夫人:昔は刑務所の女看守だった。そりゃーコワい。根っからのサディスト、独裁者。ボイントン氏の死後、氏の資産管理人として子供たちを管理している。
・レノックス・ボイントン(20代半ば): ボイントン夫人の長男(血は繋がっていない)。老夫人に精神を支配され逆らうことができなくなっている。
・ネイディーン・ボイントン :レノックスの妻。看護師資格を持っているが実家は貧しい。そのためボイントン老夫人は自分の手駒になると思って結婚させた。だが芯の強い女性で、夫のレノックスに共にボイントン家を出るように説得を試みている。
・レイモンド・ボイントン(20代初め): ボイントン老夫人の次男(血は繋がっていない)後述の「サラ・キング」と淡い恋が芽生え、そのため母からの支配から逃げる決意をした。
・キャロル・ボイントン(20代初め?):ボイントン老夫人の長女(血は繋がっていない)兄と彼女は、まだ母に逆らおうという気力がある。
・ジネヴラ・ボイントン (ジニー。10代後半?):ボイントン老夫人の次女(老夫人の実子)生まれたときから母に支配され完全に精神不安定。「私は本当は王族なの」などと現実逃避をしている。レイモンドとキャロルが「義母を殺そう」と決意したのは、ジニーを助けるため。
そして舞台はヨルダンの首都ペトラに移る。
旅行者一行はこちら。
・サラ・キング:前半は彼女が主人公のようなもの。イギリス人女性の若い女医。旅行で一緒になったレイモンド・ボイントンと淡い恋が始まりかけ、ボイントン老夫人のサディスト支配から一家を引き離そうとする。
・テオドール・ジェラール:著名なフランス人心理学者。
・ジェファーソン・コープ: アメリカ人で、レノックスの妻ネイディーンに愛を捧げて、ボイントン一家とも交流を結んでいる。
・ウエストホルム卿夫人:アメリカ人で、イギリス貴族と結婚して下院議員となった。激烈な性格!
・アマベル・ピアス :いわゆる「悪い人ではないがうざい人(^_^;)」
ここに、ポアロもいます。
そして旅行者はヨルダンの首都ペトラ観光に行く。
さあ!ボイントン家の事情を丁寧に書いた一部の最後で、いよいよボイントン老夫人が毒殺されましたよ!
(…不謹慎な書き方ですが、ミステリーってエンターテイメントですからね。冒頭で「彼女を殺さねば」と言い会話がありながら殺されなかったらむしろ反則(^_^;)
老夫人の死に対しての捜査は、アンマン警察署長のカーバリ大佐が行うことになった。彼は旧友のポアロに捜査協力を依頼する。
被害者は嫌われ者。ポアロ及び我々読者は、ボイントンの子供たちが母を殺したがっていたことも知っている。するとボイントン一家はだれが犯人でもおかしくないし、家族同士で犯人をかばう、つまりみんなの証言が嘘だとも考えられる。
しかし本当にボイントン家の誰かによる殺人なのか?カーバリ大佐も言っていたけど「レイモンドが犯人というのはあまりにも出来過ぎている」し、他の旅行客だって個性ありすぎる人たちだよ。やっぱり推理小説としては、こんな個性的な人たち出して「ただの同行者で事件に関係ありません」ってことはないよね?
さあ、読書として楽しくなってきました!
第一部だけでは、精神的な支配者と被支配者の関係がかなり重苦しかった。推理小説の流れとしてボイントン老夫人は死ぬんだろうけど、死んだからと言って子供たちは社会復帰できるのか?などとも心配しましたよ。
そして主人公のような立場にいるのが部外者で自立しているサラ・キングのため、ボイントン老夫人が客観的には哀れな女だということも見抜かれる。独裁者気質を持ちながら、ただ自分の子供達にだけしか君臨できないのだから。「私に見えている『哀れな女』という姿をボイントン家の人たちにも見えればいいのに」
一部だけならそんな重苦しい人間心理劇場として成り立つし、この時代の女性の社会的立場の様子も読み取れる。
ボイントン家の女性たちが家を飛び出せないのは、何の後ろ盾もない女性が生きていくのは難しいから。
そこへイギリス人女医のサラ、アメリカ人猛女のウエストホルム卿夫人、仕事は持ってるけど物事を見る目は無いピアス夫人が出て、「女性が社会で活躍することが大切」「社会が良くなるなら男女関係ない」なんて話になります。
さらに、アメリカ人で良い人のコープ氏に、フランス人で物事を”セックス”重視で見るジェラール博士など、国際色豊かな登場人物が、国民性による性質の違いを見せてきますね。
でもやっぱり読者としてはミステリーの楽しさも期待しますよね。そこで第二部はポアロの殺人推理が繰り広げられてエンターテイメントとして楽しい。
そして終盤では自分たちを抑えつけていたものから自由になり、それぞれが自立できた人々のその後が書かれます。
私としては「ボイントン家の人たちは、老夫人が死んでも今更性格変えられないし、社会生活できるの?」と懸念していたのですが、それぞれ寄り添う人がいるため本来の快活さを取り戻せたのですね。
Posted by ブクログ
この犯人は誰もわからんやろ!と言いたくなった。
たぶんこの人だろうなー、ほーらやっぱりね…からの、えーっ!!お前かーい!
最高でした。話は地味だし特に盛り上がりもないし、時系列とか複雑なんだけど、面白い。
今作はポアロシリーズの中でも特に心理学的側面からの分析が多く、勉強にもなった。
あとクリスティー作品全体に言えることだけど、外国人や社会的弱者に対する差別とか偏見が随所に出てくるので、この時代の価値観が知れて結構面白い(その価値観自体が良い悪いの話ではなく)。
Posted by ブクログ
【ポアロ】
「いいかい、彼女を殺してしまわなければいけないんだよ」すごいセリフからはじまる。
三谷幸喜さんの本で「地味だけど面白い」と紹介されていて、2021年に三谷さん脚本、野村萬斎さん主演でドラマ化されている。三谷さんファンなのに知らなかった(^_^;)
ボイントン一家はみんな何かがおかしい。
母親にマインドコントロールされている家族。
『春にして君を離れ』くらいの毒親かなと思ったら大間違い。自分の家族が苦しむのを見て喜ぶ本物のサディスティックな母親。こんな母親だったら地獄。
犯人は自分の中で2パターン予想していたけど、どっちも大ハズレだった。予想はハズレた方が嬉しい。
予想できない結末で、なおかつ読後感が最高なのは、やっぱりさすがアガサクリスティ。アガサ作品は有名所しか読んでなかったけど、そんなに知られてない作品でもやっぱり面白い。
もっとクリスティー作品を読みたくなって、『葬儀を終えて』読み始めているけど、これもすごく面白い!Audibleの時間が楽しみになった。
三谷さんの『死との約束』は今度FODで観たい。アガサとの違いも楽しみだ。
Audibleにて。
Posted by ブクログ
外しの美学。
ほんとうに、クリスティーは人の思い込みを見越して、物語を構成する才に秀でていたのだと思う。
被害者の人物像を明確にするための装飾かと思いきや、犯人の動機と直結するという、、お見事。完全に見逃していました。
こんなに凄みのある物語が有名にならない、そのことこそ、クリスティー作品の裾野の広さでもあるかもしれない。
Posted by ブクログ
『ナイルに死す』に続く、エルキュール・ポアロの中東シリーズ。とある家族の不穏な人間関係が事件につながる……。
事件が起こるまで、の第一部が面白い。前作同様、中東の旅情を背景に、独特な個性を持つキャラクターたちの人間関係的な攻防が興味を引く。第二部からはポアロの独壇場。最後の最後まで誰が犯人かわからない、というか話がどう転ぶかわからない、二転三転後のまさかの展開は、まいどまいどながら振り回されるのが楽しい。何かの教訓を得られる人間考察も毎度のことだが、本作はさらなるおまけ付き。このラストは良き。
久しぶりにクリスティーが読みたくなって購入しました。今の時代のエログロやバイオレンスの無い、上品な、しかし人の思惑や怨念のドロドロと渦巻くクリスティーワールドで大満足です。
犯人はそうくるか!でしたし、最後はみんなが上手くいく大団円で読んでいてスッキリしました。
Posted by ブクログ
ポアロシリーズ。
名探偵の悲しい宿命とばかりに、旅先でも事件に遭遇しちゃうポアロ。エルサレムを訪れたら、そこで殺人事件の捜査依頼を受けることに。
冒頭はなんとも不穏な台詞で幕を開ける。
その台詞は夜のしじまに流れ出て、あたりを漂い、やがて闇の中を死海の方へ消えていった、という表現…なんて痺れる詩的な導入なんだろう。。
母親がサディスティックで家族を支配的に束縛しているボイントン家の関係性と、この家族と複雑に絡み合う外部の人たちとの利害関係が面白い。その後に発生する殺人事件が単調にならず、それを鮮やかに紐解く様子がとっても痛快だった。
同じ中東の旅情モノ『ナイルに死す』と雰囲気が似ていてなかなか事件が起きないが、本作は序盤でポアロがほとんど登場しないし、家族それぞれの背景がしんどくて前半は読むのがつらかった。中盤で事件が起きたあとは、ようやくポアロが活躍してくれるのでグイグイ読めた。いやぁ、やっぱ凄いな。鋭い分析力がハンパない。
それにしても解決編では、緊張感高まる推理の連続と予想外の展開でホント驚いた!
えっ?えっ、そこ?まじかー!?って一人で盛り上がってたww
エピローグのシーンが、晴れやかな気持ちにさせてくれる満足な作品でした。
Posted by ブクログ
エルサレムを訪れたポアロが聞いた殺人計画。やがて中東を旅行中のポイントン夫人が殺害される。元刑務所の看守で義理の息子や娘たちを支配する暴君だったポイントン夫人。
昔、映画館で『死海殺人事件』を見たときはあまり面白く無かった気がするけど、原作の方は面白い。
ポイントン家の人たちにイライラしたりするけど、事件の展開はとても良い感じ。
Posted by ブクログ
『アガサクリスティ完全攻略』で本書が★5になっていたので読みましたが、そこまでではなかった。というか、本書の前に読んだ『葬儀を終えて』があまりにもよ過ぎたのかも知れません。
「いいかい、彼女を殺してしまわなければいけないんだよ」という会話をポワロがホテルで耳にしてから物語が始まります。エルサレムへの旅行中のこと。
その話をしていたのは、ボイントン一家の次男と長女。ボイントン一家の母親(長男・次男・長女にとっては継母)は子ども達が幼き頃からマインドコントロールして支配し、反抗できないようにしてきた。それなりに年を重ねているのだから、もう少し抗ったらいいのにと思うけれど、母親の言いなり。そこにもどかしさを感じるけれども、それがマインドコントロールの怖さなのだろう。
その母親が殺された。読者は当然子ども達の誰かだろうと予想するだろう。しかし、アリバイや最後に生きている母親を見た時間からすると、嘘をついているのは〇〇ではないかと思う。
また一方で、ある人物の証言を聞いていたら、非常に違和感があったのだけども、その人の社会的地位や言動からすると、その違和感は考えすぎなのかもしれないとも感じる。
読者の思い込みや先入観を、本作も巧みに覆している。しかし、やはり『葬儀を終えて』のほうがより楽しめた。
Posted by ブクログ
1938年の作品
エルキュール・ポアロシリーズ長編16作目。
あらすじ
エルサレムを訪れたポアロがたまたま耳にしたのは、「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」という男女の囁きだった。
ヨルダンに旅行に来たツアー客の1人である医師のサラ・キングは妙なアメリカ人の家族と居合わせる。その家族は揃いも揃って家長のボイントン夫人の権力の支配下にあり、自由を奪われていた。サラは、息子のレイモンド・ボイントンと友人になり、彼らを救いたいと考えていた。しかし、かつて刑務所の看守だった夫人は、子供たちにサラとの交流を禁止する。腹を立てたサラはボイントン夫人を非難するが、夫人は「私は、行動も名前も顔も、何も忘れたことはない。」と謎の言葉を残した後、ペトラ旅行で何者かに殺害された。
家族全員が容疑者の中、エルキュール・ポアロは犯人探しを開始する。
中近東シリーズのうちの一つですが、異国情緒や旅の雰囲気が感じられるのは「ナイルに死す」や「メソポタミアの殺人」の方かな?
殺された人物が、死んだ方が皆のためになるどうしようもない悪い奴、というところからして、「オリエント急行の殺人」と同じような展開か?と思わせらます。作品内でも、オリエント急行のときのように見逃してくれ、というようなセリフが出てきます。が、さすがクリスティー。オリエント急行とは全然違う展開になっていきます。
1938年という時代を生きた、さまざまなタイプの女性について想いを馳せることができる深みのある作品。
医師として自立している強い女性、サラ・キング。
元看守として家族の中で権力を誇示するボイントン夫人。女ながらに政治家として活躍しているウエストホルム卿夫人。ウエストホルム卿夫人のような活動的な女性に憧れながらも、自分では何もできないアマベル・ピアス。母親のせいで家族以外とつながりを持ったことがなく、外に出るのを恐れているキャロライン・ボイントン。精神的に不安定で、思い込みの激しいジネブラ・ボイントン。
それに比べてこの作品に出てくる男性たちはなんとも弱々しく自分の意志がない(毒親のせい?)
女性ながらに小説家として女性がまだまだ生きづらい時代に生きた、アガサクリスティならではの視点を感じます。
Posted by ブクログ
近中東舞台の旅行モノ
今作もパズルのようで完成図が美しいですね
心理と事実を元に多角的に仮定を検証…真相を追及と言う
論理に納得させられつつも、ここまで説明がつくのかと悔しさを感じます…
優先して読む作品ではないかなーと言う印象ですが旅行はワクワクしますし、物語も面白く読みやすいので是非!
Posted by ブクログ
「わたしは決して忘れませんよ。よく憶えておいてね。わたしは何一つ忘れていませんよ」
ほんとうのホラーは、人のこころの中にある。
恐るべきマザーにより支配されたポイントン家の人々。
第一部はこの話の主人公たちがこの物語の彩りを掻き回すように着色する。
ここでのポワロはまるで“ひょっこりはん”のように、物語のちょっとした端っこに顔を出す程度。
事件発生後の第二部になり、ポアロは本来の位置に着く……。
アガサ・クリスティーのミステリーは、本当に色々な展開を楽しむことができる。
最終的には謎の解明になるが、その結果がそんなに重要ではない時もある。
このお話はまさにそう、過程での登場人物のあやふやさがいい。
良かったです。
Posted by ブクログ
面白かったなあ…
この本を原作とした三谷幸喜のドラマが再放送するのを知って読んでみた。三谷幸喜は「地味だけど面白い」って言ってたけど、たしかにめちゃくちゃ面白かった。
個人的には『ナイルに死す』や『メソポタミヤの殺人』より好き。
作中に登場するエルサレムやペトラの風景がピンとこなかったので、ネットで画像検索しながら読んだら楽しかった。
あと三谷幸喜のドラマのキャストを見て、登場人物のイメージを掴みながら読むのも楽しかった。
ただ、当時のヨーロッパの人の中東地域への価値観や宗教観はやっぱり理解できてないので、そこは仕方ないかな〜という感じ…
「彼女を殺してしまわなければならないんだよ」というセリフを一番最初に置いて、様々な登場人物がボイントン家に関わり合っていく…旅行中の出来事を通して、家族全員の気持ちが犯行へ傾いていく、その過程も面白かった。
そしてそのすべてが伏線で、鮮やかに回収していくのが本当に気持ちいい。
真犯人は最後の最後までわからなかった…
Posted by ブクログ
嘘ォ!?となった犯人。予想外すぎた。しかしクリスティは機能不全に陥る三歩手前くらいの家族の描写が上手すぎる。現実は意地悪婆さんが長生きして、他の家族が押しつぶされるという結末のが多いんだろうな。
Posted by ブクログ
今まで読んできたクリスティーは(と言っても数冊しか読んでないけど)殺人事件が起こってから読んでてテンションが上がることが多かった気がするけど、今回の”死との約束”は正直、殺人事件が起こるまでの、変な家族の描写のところが面白かった。
結末も意外だし驚いたけど、太った毒蜘蛛継母から支配されているかわいそうな子供たち!みたいなところで満足して、ポアロの聞き取り調査が始まるとふーん…みたいな気持ちに落ち着いてしまった。
Posted by ブクログ
登場人物の魅力、キャラクター性は様々な物語になくてはならない要素だ。クリスティは描写力に定評があり、人物描写、風景描写は本当にその人達がその場所で生きている様な、そんなイメージを読者に与える。当然、時代のギャップや違和感は出てしまうが、それはあくまで古典としてのギャップであり、反対にそれらも魅力として捉えると、とてもノスタルジックな世界観の中ミステリーが展開されていき、何か壮大なストーリーを経験している様な、そんな気持ちになる。
今回、いきなり「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」という二人の人間の会話をポアロが偶然耳にするところから始まる。舞台はエルサレム、そして死海を中心に展開されていき、ポアロの海外旅行物の一つにあたる。イラクやエジプト等、考古学者のパートナーを持つクリスティらしい場所から、今回はイスラエル周辺が舞台となり、砂漠や岩だらけの場所、洞窟等現実離れした設定が魅力的だ。
物語の中心はサラ・キングという若い女医とボイントン家の人々が担う。家長のボイントン夫人はとても嫌な人であり(クリスティは嫌な年寄りを描かせたら世界一だろう(笑))、ボイントン家の人々は彼女に支配され、洗脳され、外界での生活を遮断されて暮らしている。今回、偶然、家族旅行に来ているが、周りからすれば異常な家族に見られている(全員が夫人の悪意に敵意を持っているが、批難の言葉は辛辣、余りにも酷い表現が昔からクリスティ作品の魅力の一つでもある。)
舞台はホテルから場所を移し、ヨルダンのペトラに移動するが、そこでボイントン一族を巻き込む殺人事件が発生する。物語は第二部に進み、ポアロのが本格的に参戦し、事件の真実に迫る。
メロドラマ的な要素と二転三転するストーリー。誰かが誰かの為に真実を偽り嘘をつき、全てを隠そうとしていくが、ポアロは真相を見抜き、心理の中に真実を見つけ、組み合わせていく。全てを正しく配置するポアロの手法が巧みな作品で、僅かの時間で真相に辿り着いてしまう。
クリスティ作品を読み慣れていた事と、遥か昔に読み終えていた作品の為、何となく犯人を推理できたが、やはり一筋縄ではいかない、意外性のある展開は面白い。また、個人的には「オリエント急行事件」についてポアロが問われ、言及している様子もあり、あの事件の結末とポアロの対応にはとても感動していた為、作中ではどの様に思われていたのかが不思議であった(やはりあの結末を世間が納得していない事は明白な様だが、真実は一族とポアロしか知らない)
長い間クリスティの作品に浸かり、そもそも僕の読書の土台を形成した作家であり、また改めて作品を手に取るようになると、過去作との関連や言及が以外に散りばめられている事に気づき、面白さのベースが改善されていく。今作は当然、過去作なしでも楽しめるのだが、雰囲気を更に楽しむ為に「ナイルに死す」や「メソポタミアの殺人」「白昼の悪魔」等と関連して読むと旅行気分を味わいながらとても楽しめるだろう。
Posted by ブクログ
殺人が起きるまでの第一部は「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃならないんだよ」という興味を引く一文から始まるわりに大したことも起こらないようにみえて焦らされた
中東の風景に詳しくないのもあって想像しづらかった
うってかわって謎解きに入ってからはボイントン家の人々の行動や犯人にかなり意外性があって想像以上におもしろかった
自分が母親に会ってみたら死んでて、それを家族がやったと全員勘違いしていくところがいい
犯人を含めて一堂に会した謎解きかと思いきや、犯人には隣の部屋で盗み聞かせておいて…というのが凝ってるなと思った
Posted by ブクログ
「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇『死との約束(原題:Appointment with Death)』を読みました。
『ポワロの事件簿〈1〉』、『ポワロの事件簿〈2〉』、『ヘラクレスの冒険』に続き「アガサ・クリスティ」作品です。
-----story-------------
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ…」エルサレムを訪れていた「ポアロ」が耳にした男女の囁きは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。
どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか?
「ポアロ」の思いが現実となったように殺人は起こった。
謎に包まれた死海を舞台に、「ポアロ」の並外れた慧眼が真実を暴く。
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1938年(昭和13年)に刊行された「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇、、、
以前、映像化作品の『名探偵ポワロ「死との約束」』も観たことがある作品… 4作品連続で「ポワロ」シリーズです。
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ。」という男女の囁きは夜のしじまを漂い、闇の中を死海の方へ消えていった、、、
エルサレムを訪れた最初の夜、ふとこの言葉を耳にした「ポアロ」は、好奇心にかられながらも想った… どうしてこうも、至る所で犯罪にぶつかるんだろう。
やがて「ポアロ」の予感を裏づけるかのように事件は起った… 当地を訪れていた「ボイントン家」の傍若無人な家長「ボイントン夫人」が死体となって発見されたのだ、、、
一家の不安を救うべく、「ポアロ」は立ち上った… 謎に包まれた<死海>周辺を舞台に、アンマン警察署長の「カーバリ大佐」からの依頼により「ポアロ」が真相を追及する。
家族を支配下に置いていた「ボイントン夫人」… 抑圧され束縛されていた「ボイントン家」の長男「レノックス」、その妻「ネイディーン」、次男「レイモンド」、長女「キャロル」に4人に「ボイントン夫人」を殺害する動機と機会があった、、、
さらに、その4人は、身内の誰かの犯行と感じ、お互いを庇おうという思いから偽りの証言を行ったことから、捜査を混乱させてしまう… でも、「ポアロ」は、偽証を見抜き、一歩ずつ真相に近付きます、、、
真犯人は家族の外にいたという驚きの展開が愉しめましたね… 冷静で賢い真犯人は、暗示にかかりやすい女性を利用して巧くアリバイ工作をしていたんですねぇ。
「ボイントン夫人」が、「サラ・キング」に向けて話しかけた(とミスリードさせられていて、実は別な人物に向けられた)「わたしは決して忘れませんよ… どんな行為も、どんな名前も、どんな顔も」という言葉と、殺害された当日の午後に家族を自由な行動を許可するという、いつもとは違う言動を取ったことが真相を推理するヒントになっていましたね、、、
家族に自由な行動を許可して、誰かを罠にかけて、さらに束縛しようという判断かと思いましたが、まさか、旅行者の中に新しい犠牲者を見つけ、料理すべき魚を捕らえるために邪魔者を一掃したかったなんて… 激しい権力欲、支配欲を持った暴君ですよね。
同情の余地なしの犯罪だったし、「ボイントン夫人」亡きあとの「ボイントン家」が幸せになるという、読後感が心地良い作品でした。
以下、主な登場人物です。
「エルキュール・ポアロ」
私立探偵
「ボイントン夫人」
金持ちの老婦人
「レノックス・ボイントン」
ボイントン夫人の長男
「ネイディーン・ボイントン」
レノックスの妻
「レイモンド・ボイントン」
ボイントン夫人の次男
「キャロル・ボイントン」
ボイントン夫人の長女
「ジネヴラ・ボイントン」
ボイントン夫人の次女
「ジェファーソン・コープ」
アメリカ人、ネイディーンの友人
「サラ・キング」
女医
「テオドール・ジェラール」
フランス人、心理学者
「ウエストホルム卿夫人」
下院議員
「アマベル・ピアス」
保母
「マーモード」
通訳
「カーバリ大佐」
アンマン警察署長、ポアロの旧友
Posted by ブクログ
ボイントン夫人が家族を支配しており、その支配がとても強力な物語。流石に今の時代はこんなことはありえないと思うけど、昔はあったのだろうか?
トリックもさることながら、ボイントン家のちょっとアカン状況も楽しませてくれる一冊でした。
Posted by ブクログ
注! 内容に触れています
やたらと全知全能なポアロwがことの真相を明かす後半より、ボイントン夫人が子どもたちを支配している、ボイントン家の状況が語られる前半の方が面白かったかな?
ただ、めでたし、めでたしな結末はよかった。
ホッとした(^^ゞ
ていうか、その人が犯人なら、ボイントン家の人たちやサラを、さも、「犯人はお前だろう」的にネチネチいじめないで、さっさと真相を言ったらいいじゃん!
ポアロって、性格わりぃー!(^^ゞ
もっとも、著者としては、読者に「え、その人が犯人なの? いやー、その人が犯人なんて可愛そう」とハラハラさせながら読ませることを目的に書いているわけで。
ポアロが性格悪いというよりは、著者の性格が陰険なのかもしれない(爆)
ていうか、ま、これはミステリー小説なわけで。
つまり、その性格悪いハラハラも含めて、「エンタメ」ってことなだろう。
とはいえ、犯人があの人っていうのは、著者がクリスティーだから許されることで。
これが、新人作家の著作だったら、ボロクソにこき下ろされそうな気がするかな?(爆)
これって、映画化したってことだけど、どんな内容なんだろう?
映画としてはコケたってことだけど、そもそも、こんな地味な話をどうして映画にしようとしたんだって話だ。
前半のボイントン夫人の暴君っぷりを見ていても不快なだけだし。
かといって、起こった事件は一つなわけで、
どうやって見ている人を話に惹きつけたんだろう?と、逆に映画を見てみたくなった(^_^;
本来、旅行なんかに出たくないはずのボイントン夫人が旅行に行こうと考えた理由が、途中で、ジェラール博士によって明かされる(ただし推察)。
“年寄のご婦人がたは世界中どこの国でも同じようなものなんです。つまり、彼女たちは退屈しているのです。”
これなんかは、今の日本人全てに当てはまるんだろうなぁーと。
ちょっと可笑しく、そして耳が痛い(^^ゞ
Posted by ブクログ
そうくるかぁー。入れ替わり立ち代わり雑談を交えながら関係者に尋問して真相を暴いていくタイプで、一行が家族って設定だったから、オリエント急行を連想してしまった。けど今回は真逆で、家族は誰も犯人じゃないのかぁ、と。いや確かにプロットはすごいけど、ちょっと最後無理矢理過ぎない?と真っ先に思ったが、犯人のチョイスやエピローグを見て、ミステリーのプロット以外にもクリスティーなりのテーマが今回もあるんだなと思い、好きな作品の一つになった。
持って生まれた欲求や性質があるなら、それを持て余して堕落するのではなく、良い方向に昇華させることもできるはず。ボイントン夫人の卑しい人生と、事件後のジネウラの幸せと成功な姿があまりにも対極的で印象に残った。
前半の登場人物の描写が鮮明で、相変わらず人間の洞察力に長けた作家だなと思う。冒頭の鮮烈な一文に反してしばらく事件は進展しないが、登場人物が関わり合っていく様子や人物描写に引き込まれて一気読みしてしまった。
犠牲は時には必要なんじゃないかというサラに向かってジェラールが言った台詞が心に刺さった。「あなたがそう考えているなら医者を選ぶべきではない、医者は常に死と戦うべきなのだから。」
創作機能の負担を減らしたいから、人間はだいたい真実を語るものだ、しょっちゅう嘘ばかりついていられない。というポアロの発言に非常に納得した。そう言いきって、実際に自分のやり方で真相を暴いちゃうポアロの魅力にどうしても釣られて、ポアロものを読んじゃうんだよな…。
Posted by ブクログ
一家を財力で支配するサディスティックな未亡人。ボイントン一家の人間が自由を手にするためには、専制君主気取りの女王を死に追いやらなければならない。「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」という一文から始まるのが魅力的。ただ、一家の人間は被害者以外は薄味というか、あまり記憶に残らないキャラクター造形でレノックスとレイモンドがややこしくて何度冒頭を振り返ったか。部外者サラが一家の人間を救い出そうと奮闘するも、君主にすべて気取られて釘を刺される展開は一種のディストピアもののような趣向で面白い。実はこの出来事が事件の謎を解く鍵となっている…
誰からも憎まれる被害者の設定が、登場人物たちの行動・証言をより複雑にして、不可思議な状況が出来上がるという趣向もいい。あのクリスティーの名作の亜種みたいな印象だ。
Posted by ブクログ
ボイントン夫人が、(見た目が)荒れ地の魔女のイメージで読みやすかった。
今回のポワロは、多数のおしゃべり好きな人達から話を聞くから、辛抱強くしている場面が面白い。
Posted by ブクログ
ペトラ遺跡は、『インディ・ジョーンズ』のはるか昔に、クリスティが舞台に使っていたのだねえ。
「殺さなくては」という家族の会話を耳にしたポアロ。それは独善的な母親に支配された、金持ち一家の子供たちの言葉だった…。
供述の矛盾をつく謎解きと、あーこういう人いるよねえってキャラ作りがやはりお見事。
Posted by ブクログ
死との約束ってなんだろ、
と思いながら読み始めた。
毎回クリスティーの小説を読み始める時は「伏線1個1個ぜんぶ拾う気持ちで行くぞ!」と気合を入れる。
しかし、必ず裏切られる!
え~そっちなの??????と思わされる。
それなのに納得がいく。
遠い昔のページに書いてあった一文を思い出して、
やられた…と膝から崩れ落ちそうにはならないが、そのくらい良い意味で期待を裏返される。
アクロイド殺しの時と同じような感覚というか、
あ~そんな情報あったなと。
最高。
ただ、亡くなったボイントン夫人のサディズムについて、もう少しだけ作中で彼女の人生を濃く教えてもらえたら、更に更に大好きな作品になっただろう。
Posted by ブクログ
シンプルながら意外性もある本作。
冒頭から「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ……」という不穏な会話が飛び出すところが王道っぽくて良い。
事件発生までを書いた第一部は、ボイントン一家の歪な関係がメインとなっている。
第二部でポアロは捜査に乗り出すが、やっぱり最後の最後まで犯人が分からなかった。
Posted by ブクログ
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ・・・」エルサレムを訪れていたポアロが耳にした男女の囁きは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか?ポアロの思いが現実となったように殺人は起こった。謎に包まれた死海を舞台に、ポアロの並外れた慧眼が真実を暴く。
どう考えても怪しい会話が冒頭で繰り広げられ、犯人としか思えない展開から始まるところが本当に上手いなあと思う。読者はどうしてもそっちに意識がいってしまうので。誰かが嘘をついている中で、時間のアリバイを順序立ててポアロが謎解きする場面はやっぱりかっこいい。ボイントン家の家族と彼らにそれぞれいろんな関係者が絡んできて、訳が分からない。自分ではさっぱり解けませんでした(笑)しかしクリスティは歪んだ精神を描く筆力がすごい。普通に被害者に全く同情できなかった。
Posted by ブクログ
本作は衝撃的な言葉から幕が上がり、ある家族の物語が描かれて、そして事件が起こる。大胆なトリックこそないが、緻密に描かれた描写に感服させられた。
なるほどね
証人尋問だけで解決させるポアロのお手並みは見事なものだけど
それを推理小説にするとこうなるのかという感じで
ミスリードといったら良いのか肩透かしといったら良いのか
私にとってはスッキリしなかった。
Posted by ブクログ
ポアロもの。
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」
この不穏な囁きを、ポアロが偶然聞いてしまうという導入部が何とも秀逸で惹き込まれますよね。
エルサレムを舞台に物語は展開するのですが、第一部はボイントン家の異常さを中心に描かれています。
この家族を支配する、ボイントン夫人が“毒親、ここに極まれり”という強烈さで、彼女の息子や娘達(そして嫁)は、まさに“生殺与奪の権”をボイントン夫人にがっちり握られてしまっている状態です。
この異常な家族を含む複数名で観光をしているうちに、ついに事件が起こり、第二部からポアロが前面に出て、真相解明に乗り出します。
そこからは、ポアロと被疑者達とのヒリヒリするような心理戦が続き、読む側も思わず熱がこもってしまいます。
被害者と関係のあった人達は全員怪しいので、後半の連続ミスリードのレールに乗りっぱなしの私はあちこち迷走する羽目に(汗)。
結局、真犯人は個人的に完全ノーマークの人で、またしてもクリスティーにやられましたね。
そして、ラストはそれぞれ“収まるところに収まった”感じで、皆が幸せそうで何よりでした。
ところで、この作品は以前日本人キャストで映像化されていたそうですね。見てみたかったな~。