「アガサ・クリスティ」の長篇ミステリー『もの言えぬ証人(原題:Dumb Witness,米題:Poirot Loses a Client[改題:Mystery at Littlegreen House])』を読みました。
『書斎の死体』、『動く指』、『茶色の服の男』、『シタフォードの秘密』、『邪悪の家』に続き「アガサ・クリスティ」作品です。
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「ポアロ」は巨額の財産をもつ老婦人「エミリイ」から命の危険を訴える手紙を受けとった。
だが、それは一介の付添い婦に財産を残すという問題のある遺言状を残して、彼女が死んだ二カ月後のことだった。
「ポアロ」と「ヘイスティングズ」は、死者からの依頼に応えるとともに、事件に絡む愛すべきテリア“ボブ”の濡れ衣も晴らす。
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1937年に発表された作品… 『邪悪の家』に続き「ポワロ」シリーズです。
「ポワロ」は2か月前に死去した老婦人「エミリイ」が差し出した手紙を受け取るが、奇妙なことにその手紙は彼女の死の半月も前の日付が書かれていた… そして、その手紙には、命に危険が迫っていることを示唆する内容が記載されていた、、、
手紙が差し出された経緯に疑問を抱いた「ポワロ」は、婦人の死の真相究明に乗り出す… という、なかなか興味深い展開の物語でした。
1. 小緑荘の女主人
2. 親戚縁者
3. 不慮の災難
4. ミス・アランデル,手紙を書く
5. エルキュール・ポアロ,手紙を受け取る
6. われら,小緑荘に行く
7. ジョージ亭で昼食
8. 小緑荘の内部
9. ポアロ,犬のボール事件を論ず
10. ミス・ピーボディを訪問
11. トリップ姉妹を訪問
12. ポアロ,事件を論ず
13. テリーザ・アランデル
14. チャールズ・アランデル
15. ミス・ロウスン
16. ミセス・タニオス
17. ドクター・タニオス
18. 隠れた殺人者
19. パーヴィス氏を訪ねる
20. 二度目の小緑荘訪問
21. 薬剤師,看護婦,医師
22. 階段上の女
23. ドクター・タニオスの来訪
24. テリーザの否認
25. わたしの推理
26. ミセス・タニオス,話を拒む
27. ドクター・ドナルドスンの訪問
28. 新しい犠牲者
29. 小緑荘での審判
30. 終りにひと言
解説 ミステリ評論家 直井明
資産家の老婦人の手紙は、死後2ヶ月近くたって「ポアロ」のもとに配達されてきた!
ロンドンから車で1時間半ほどのところにある田舎町、マーケット・ベイシングの小緑荘の女主人「エミリイ・アランデル」が死んだのは5月1日のこと… 「エミリイ」には、甥の「チャールズ」と姪の「テリーザ」、もう1人の姪の「ベラ・タニオス」の3人の親族がいた、、、
「エミリー」の巨額な遺産は、3人の親族に残されるはずだったが、彼女は死の10日前に遺言を書き替え、遺産は全て家政婦の「ミニー・ロースン」に遺された… 金使いの荒い遊び人の「チャールズ」と浪費癖のある「テリーザ」、それにギリシャ人医師である夫の「ジュイコブ」が投機に失敗した「ベラ」 と3人とも金を必要としており、「エミリイ」の遺産をあてにしていたが、遺産は全く手に入らなった。
「エミリイ」が遺言を書き替えたのは、4月14日の深夜に起きた「エミリイ」の階段からの転落事件が原因だった… 深夜に目が覚めた「エミリイ」は、2階から階段を下りようとして何かに躓き、階段を転げ落ちてケガを負った、、、
飼い犬の「ボブ」が、お気に入りのボールを階段の上に置きっぱなしにし、そのボールを「エミリー」が踏んだことが原因と想定されたが、「エミリイ」はこの事故には「ボブ」は関係ないと考えていた… なぜなら「エミリイ」は前夜きちんと「ボブ」の遊んだボールを、いつもの机の引き出しにきちんとしまったことを覚えていたし、その夜「ボブ」は外に出て夜遊びをして締め出されていたからだ。
「エミリイ」は、親族の誰かが事故を装って殺そうと企んだと思い遺言を書き替えたのだ… その際、「エミリイ」は「ポアロ」への調査依頼の手紙を書いたが、「エミリイ」は投函を忘れ、その後、「エミリイ」は肝臓病が悪化して5月1日に亡くなってしまった、、、
「エミリイ」の葬儀が終わり、「ミニー」や他の家政婦によって「エミイリ」の遺品が整理されたが、その時に「エミリイ」の書いた手紙が見つかり、投函されて「ポアロ」の元に届いたのが6月28日のことだったのだ… 「ポアロ」は、手紙の日付と届いた日があまりに開きすぎていることを不審に感じ、「ヘイスティングズ」とともにマーケット・ベイシングに赴いて調査を始める。
「エミリイ」の遺言書き替えの原因となった階段転落事故を調べると、その夜は飼い犬の「ボブ」が朝まで外にいたことが判明… さらに階段の上の壁に釘が打たれ、その釘にワニスが塗られてわかりにくくしたあった、、、
何者かが、階段の手すりを支える柱の根本とこの釘の間に紐を渡し、深夜に起きる癖のあった「エミリー」が躓くように細工をしたと思われた… そして、遺言の書き替えは極秘に行われたので、殺人未遂の犯人はその当時の遺言では遺産を相続することになっていた親族3人と想定する、、、
誰が「エミリイ」を殺そうとしたのか?
「エミリイ」の死因は本当に病死だったのか?
犯人が遺言の書き替えを知らないとすれば、「エミリイ」を病死に見せかけて殺害したのかもしれない… 「ポアロ」は「チャールズ」、「テリーザ」、「ベラ」の3人をはじめ、「テリーザ」の恋人の「レックス・ドナルドスン医師」や「ベラ」の夫の「ジュイコブ」、「エミリイ」の古い友達の「キャロライン・ピーボディ」、「ミニー」が親しくしている霊媒師「トリップ姉妹」、「エミリイ」の弁護士の「パーヴィス」や「エミリイ」の主治医「グレインジャー」など関係者に何度も会って調査を進める。
そして「エミリイ」の最後の食事の後で、「エミリイ」の頭の周りが後光が差したように光ったことを突き止め、「エミリイ」の死の真相に近づく… 果たして「エミリイ」の死の真相は、、、
依頼人が既に亡くなっていることを除けば、比較的オーソドックスな展開の作品でしたね… 「ポワロ」は関係者への訪問と面接を手際よく行い、8人の容疑者(3人の親族「チャールズ」、「テリーザ」、「ベラ」、「ベラ」の夫「ジュイコブ」、「テリーザ」の婚約者「ドナルドスン医師」、遺産を相続した家政婦「ミニー」、そして使用人2人)から犯人を徐々に絞り込んで行きます。
直接的な証拠はなく、「ポワロ」の推理から容疑者を消去法で外して行くという手法でしたね… しかも、犯人は「ポワロ」の推理が披露される直前に自殺してしまっていたので、反論もできないという展開でした、、、
当たり前に親族3人がイチバン怪しいのですが… その中では、最も犯人らしくない人物が犯人でしたね。
犯人の夫や子どもには辛い結果かもしれませんが… まっ、結果的には親族含め遺産は等分したようなので、結果オーライなのかな、、、
そして、この事件の報酬はテリアの「ボブ」で、いつも人の心が読めない「ヘイスティングズ」が、「ポワロ」よりも犬とは心を通じさせる… という皮肉なエンディングは、洒落が効いていて良かったな。
あと、霊媒師たちが見た「エミリイ」に後光が差したように光ったことが燐による毒物の影響とは… 全く思いつかなかったですね、、、
登場人物や容疑者がある程度限定されていたので、比較的展開が理解しやすい作品でした。
以下、主な登場人物です。
「エルキュール・ポアロ」
私立探偵
「ヘイスティングズ」
ポアロの友人
「エミリイ・アランデル」
小緑荘の主人。
「ウイルヘルミナ(ミニー)・ロウスン」
エミリイの家政婦。
「チャールズ・アランデル」
エミリイの甥。
「テリーザ・アランデル 」
エミリイの姪で、チャールズの妹。
「ベラ・タニオス」
エミリイの姪。
「ジュイコブ・タニオス」
ベラの夫。ギリシャ人の医者。
「レックス・ドナルドスン」
テリーザの恋人。医者。
「キャロライン・ピーボデイ」
エミリイの古い友人。
「ジュリア・トリップ」
霊媒師。
「イザベラ・トリップ」
霊媒師。ジュリアの妹。
「パーヴィス」
エミリイの顧問弁護士。
「グレインジャー」
エミリイの友人。医者。