あらすじ
残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。殺されたのは金持ちの老婦人。金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった――人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向け、着々と進行する綿密で周到な計画とは? ミステリの常識を覆したと高い評価を得た野心作。
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Posted by ブクログ
見事な構成で読みやすく面白かった。前半の人間関係の緊張感みたいなのも面白く読めた。
すでに殺人事件が起きているのにどこがゼロ時間?と思っていたら最後にそういうことか、となった。
何気にネヴィルみたいな人が一番怖い。
バトル警視がポアロに言及していて、ちょっと嬉しくなった。
Posted by ブクログ
冒頭で、殺人事件を考えることについて、つまりこの小説の書き方について語られる。
「殺人事件のニュースや小説を読む時、殺人事件の調査をする時、人々は殺人が起きたところから考え始める。しかし殺人は結果なのだ。因果関係はその以前から始まっている。あの目撃者がそこにいたのはなぜ?あの証人が嘘をついたのはどんな感情で?殺人事件に至るまでには、計画があり、多くの偶然により思いもかけない形が作られ、関係者となった人たち性質が影響して、殺人という”ゼロ時間”に集束するのだ。」
物語の前半は、ある年の月に海辺の町ガルズポイントに集まることになった人々の事情、それまでにした経験が語られる。
スコットランドヤードのバトル警視は、大柄で木彫りのような印象で、切れ者には見えないのだが警官としての素質は確かだった。今回も娘が学校でかけられた盗みの冤罪を晴らした。夏の休暇は家族と日程が合わず、少し遅い休暇を甥のジェームス・リーチ警部のいるガルズポイントで過ごすことにする。
アンドリュー・マクハーターは、何もかもうまく行かず自殺しようとするが失敗した。その後思いもよらない縁で就職が決まった。そこで改めて彼の地、ガルズポイントで最後の休暇を過ごして自分を振り返ってみることにした。
ガルズポイントの屋敷に老未亡人トレシアン夫人と使用人たちが住んでいる。今年の9月にはいつもと違った客が来ることになった。
テニス選手のネヴィル・ストレンジは、亡トレシリアン氏の遺産受取人だ。彼の現在の妻は若く美しく派手なケイ。最初の妻オードリーを追い出して結婚した。なんと今年はネビルの今の妻ケイと、以前の妻オードリーが同じ時期にトレシリアン夫人の屋敷で過ごすことになった。
オードリーは「白い幽霊のような印象」と言われる薄幸そうな女性。若いケイは自信家で自由気儘。「白雪ちゃんと紅薔薇ちゃん」と例えられたり、「目を引くのは間違いなくケイだが、眼の前にいない時に思い出すのはオードリーのこと」などと全く正反対だ。
さらに、オードリーに思いを寄せる昔なじみのトーマス・ロイド、ケイに思いを寄せる若い美男子テッド・ラティマーも滞在することになった。絡み合った恋愛、遺産受取人問題で緊迫感に満ちたトレシリアン屋敷。
そこへ、亡トレリシアンの旧友で、引退した名弁護士トリーヴが訪問してくる。共に過ごした夕食の場で、トレーブ氏はまるでその場の誰かに警告するかのような謎の物言いをする。
果たして「犯罪を犯したが罰せられず逃げ延びている」人物がこの場にいるのか?そして改めて事件が起きるのか…?
冒頭の「ゼロ時間」説明により、この小説は「殺人をスタートではなくて、そこに至る偶然や人間の感情から描き始め、殺人は結果として書きますよ」というものなのね、として読んでいきました。しかし実際に事件が起きてからは「あれ?普通の事件捜査小説だよね?」と感じました…が!しかし!終盤の謎解きでなぜこのような書き方をしたのか納得!!前半のガルズポイントに行く前の会話、体験が、ガルズポイントでの「ゼロ時間」に見事につながった!
「あの時こんな経験をしたので、犯人はこのよう殺人を計画し、関係者はこのように行動・証言し、探偵役はこのように解決した」がピッタリはまります。そして登場人物たちは、見かけと実際の性質が違うような人が複数いるのですが、その人がなぜ本質と見かけが違うのかも納得です。
やっぱりすごいなーアガサ・クリスティー。
探偵役のバトル警視も良かったなあ。一見冴えない無骨なのに、捜査の勘も、懐の大きさも、考え方の柔軟性も超一流。彼はエルキュール・ポアロといっしょに捜査したことがあり「あのベルギー人ならどう考える?」なんて考えたりします。
相変わらず「事件解決後、やたらにカップルが誕生する。たまに意外なカップル誕生」のクリスティーですが(笑)、今回も無事カップル誕生して終わりました(笑)
Posted by ブクログ
クリスティ自身が自作ベストテンに入れたことが肯ける作品。
普通の推理小説は“事件”から始まるが、この小説は“事件”に向かって話が進んでいく。
それを思いつくクリスティの発想の豊かさもさることながら、伏線の回収の仕方など、その見事さに唸るばかりで、読み終わったときは「お見事!」と思わず快哉を叫びそうになりました。
・・・ところで、メインキャラクターであるオードリー・ストレンジについて、目が離れていることが描かれているのだけど、これは何か意味があるのかしら?当時(1944年以前)の人相学などの影響か、単におっとりした印象を与える顔だと書きたかったのか? そこだけ不思議に思いました。
Posted by ブクログ
1944年の作品。
バトル警視が活躍するサイコスリラーサスペンス。
あらすじ
有名なテニスプレーヤーのネビル・ストレンジは、再婚したばかりの美しい妻、ケイ・ストレンジと夏の休暇を養母のトレシリアン夫人の屋敷、ガルズポイントで過ごすことにした。だが、ネビルは別れた妻のオードリーストレンジも同じ時期に招待し、元妻と現妻に仲良くなってほしいと提案する。
さらにケイ・ストレンジに想いを寄せるテッド・ラティマー、オードリーストレンジの幼なじみで、オードリーに結婚の申し込みをしようと決意しているトマス・ロイドも屋敷にはやってきて、ガルズポイントには居心地の悪い不穏な空気が流れていた。
そんな中、トレシリアン夫妻の旧友だった弁護士のトリーブスが屋敷を訪れ、凶悪な殺人鬼の性質を持つ恐ろしい子供の話をする。そしてその次の日トリーブスは持病の心臓病で亡くなってしまう。
さらに、トレシリアン夫人が何者かに撲殺される事件が起こる。
ロンドン警視庁のバトル警視とその甥リーチ警部は殺人事件の真相を暴くために捜査を開始するー
ポアロでもマープルでもなく、バトル警視が主人公の作品を読むのは初めて。
シリーズ物が好きなのでどうかなー…と思って読み始めたら…
なんだコレ…めちゃくちゃ お も し ろ い
序盤、全然無関係かと思われた何げないエピソードが後半に生きてくる。
様々に散りばめられた伏線が最後に全て回収されていく。
すごい…見事としか言いようがない。アガサクリスティ様。
マープルともポアロとも違うタイプのバトル警視は、天才肌ではなく地道に捜査をすすめてコツコツ考え犯人を追い詰めていく、いぶし銀のベテラン警部タイプ。松本清張の「点と線」の鳥飼刑事のような。娘の言葉からヒントを得るというところも似てるかも。
ポアロは登場しませんが、バトル警視がもしポアロがここにいたら…などポアロを思い浮かべながら捜査をするところも楽しいです。
ゼロ時間へ
思わぬ結末でした。え、そうなの?とおもってからのどんでん返し。
サスペンス好きですが不穏な空気はあるものの、なかなか殺人は起こらない。まだあ、という感じだったのはしばらくで、しだいに引き込まれていきました。
実は久しぶりの読書でした。
舞台を観に行くので予習として。
でも、引き込まれてしまいました。
アガサ クリスティの他の本も読みたくなりましたし。アガサ本人お気に入り?いいもの読みました、
Posted by ブクログ
文句無しに面白かったです。
俗に、ノンシリーズと言われる本作。事件の解決は、ポアロのような名探偵ではなくバトル警視。解説によると、このバトル警視の登場自体は5作目。彼は、それまで地味な扱いだったのが、本作で華開いたとのこと。
作中で、バトル警視がポアロの名前をあげて、意識的に違和感を嗅ぎ取って推理し、活路を見出すのがいいですね。ポアロの人柄や推理の仕方が出てくるので、一冊はポアロの登場する本を読んでおいた方がいいでしょう。自分は、一作目『スタイルズ荘の怪事件』を読んでいたのでイメージできました。
物語は、老弁護士が推理小説を読むときの持論を語り出し、「殺人は結果なのだ。物語はそのはるか以前から始まっている - すべてがある点に向かって集約していく…クライマックスに!ゼロ時間だ。」というプロローグから始まります。
内容はプロローグ通り、ある人物が相手を破滅させるために、用意周到に計画を立て、その計画がまさに行われる「ゼロ時間」に向けて進んで行きます。つまり、逆に言えば中々事件が起きないので、ミステリ好きの人には退屈かも知れない。その分、人物描写や心理描写が丁寧で、男女のいざこざからくる緊張感もあり、自分は飽きずにどんどん読み進められましたけどね。結局、犯人当てはハズレて、またしても騙されてしまいましたが、伏線の回収も見事でとてもいい終わり方でした。
クリスティーは、まだまだ有名作品が多々あるので、他の本の合間に少しずつ読んで行きたいと思います。
Posted by ブクログ
凄かった、凄かった。
最後に一気に回収されていく複線。
呆然としてしまう、あまりの凄さに。
バトル刑事の娘さんの件までこう作用するとは…。
ケイのヒステリックもネヴィルに影響されてたんだろうかとか考えてしまう。
Posted by ブクログ
謎が解ける直前まで、犯人の態度がいけ好かなくて、うっとおしいと感じていた。にもかかわらず、犯人は貴方ですの一言で状況がすっかり引っくり返ってしまって、明確な殺意があったからこそ、ああも様子がおかしかったのだと納得せずにいられなかった。疑心暗鬼になればなるほど余計にクリスティの掌の上でいいように転がされるとわかっているけれど、その見事な手腕に惚れ惚れしているのだから、これはこれで楽しい。
Posted by ブクログ
怒涛の伏線回収とどんでん返し
途中で最初から読み直したのだけどこんな真相わからないよ!すごすぎる
最初のほうで後のヒントになる話題が出てたのに自然すぎてスルーしてた
いつもアガサ・クリスティーの作品って全部終わったあとのめでたしめでたしのオチが雑だな〜って思ってたけどゼロ時間へのオチはかなり好き 幸せになってほしい
Posted by ブクログ
最後の最後まで全然事件が起きなかったので、途中で読むのを諦めようかけました。
でも最後まで読んで本当によかった。犯人が意外すぎて衝撃を受けました。この本は、事件にはそこに至るまでの過程がある、と言うのがテーマらしいのですが、その過程(事件が起こるまでのストーリー)を読んだからこそ、この人は絶対犯人じゃないって気になったので何だか変な感じです。
ナニか物足りない
やたらと散りばめられた多数の伏線が
見事に回収されて、すごいなと思う。
ゼロ時間に向かって物語が進んでいくのも斬新だなと思う。
その一方で、後だし感が強いなとも感じた。
Posted by ブクログ
ゼロ時間。殺人はその結果であって、それ以前から物語が始まっている。タイトルから秀逸。クリスティの新たな試み、これまでのミステリーの常識を覆す画期的な作品。
Posted by ブクログ
【ノンシリーズ】
ポアロじゃない「ノンシリーズ長編」。
全ての伏線が最後に一気に回収される。
繋がりがないように思えたエピソードも全て
関係している。
偶然に起きる殺人なんてものはなく、たくさんの要素が絡まった時に殺人は起きてしまう。人間の心理を描いたクリスティーらしい作品。
今回も犯人を当てられなかった。
犯人がわかってからもう一度読み返すと、犯人の心理的な怖さをもっと感じられる。
バトル警視は、ポアロのような灰色の脳細胞を持つ天才タイプとは違って、良いお父さんであり人間味がある。作中でポアロの話も出てきてニヤリとしてしまう。
最初のエピソードが最後になって意味を持ってくる。そこにクリスティーのとてつもない巧みさと、格好良さを感じた。
後からジワジワくる深い渋い作品。
再読したらまた違う面白みがありそう
★4.5
◆あらすじ
休暇を過ごす海辺のリゾート地に集まってくる多重三角関係の男女。そこには不穏な気配が漂う…
Posted by ブクログ
ひとりごと
アガサ•クリスティーさんの作品を初めて読みました。登場人物が多くて(最初名前も覚えるのが難しい)慣れるまで登場人物、役職を見返しました。
本作は自殺しそこねた男から始まり、それぞれが1つの屋敷に集まって何やら起こりそうな雰囲気が漂う中、殺人事件が起こるー。
ゼロ時間の種明かしをされた時、サイコパスの人は1つの事柄だけでここまで用意周到に準備をし実行するんだと思うと怖くなりました
憎い人を簡単に殺めるのではなく徐々に追い詰めてそして思いつく1番の苦しい方法で消えてほしい
その為に、犠牲者が何人いても構わない犠牲者はただの演出という考えが恐ろしいです
ただ普通の人達が理解できないくらいのサイコパス思考、行動を発揮してくれた犯人には感謝です
面白くてすいすいと読めました
Posted by ブクログ
海の見える館ガルズポイントで行われた殺人。被害者の遺産はネヴィル・ストレンジとその妻に相続されることになっていたが、奇しくもその日館には、現在の妻ケイと前妻のオードリーが顔を揃えていた。時を同じくして、ガルズポイントに客として訪れていた高齢の弁護士が死亡する。心臓を患っていた彼は、何者かがエレベーターを故障中と偽装して階段を歩かせたことが原因で死亡したと見られる。
バトル警視は、不自然なほど揃い過ぎた証拠を検証しながら、甥で同じく警察官のジェイムズとともに犯人を追い詰めて行く。
登場人物の過去や心情を丁寧に描きながら、動機やアリバイを重視したクリスティらしい作品。
クリスティの作品は高齢の人物が「最近の人たちは」と若者の現代的な考えに苦言を呈することがよく見られるが、現代人の我々からみてもネヴィルの考えはかなり自己中心的で歪んでいる。
自殺未遂したアンガスがどのように事件に絡んでくるのかというところが良かったのと、リゾート地の夏の終わりを感じさせる描写が素晴らしい。
ポアロシリーズではない作品でポアロが引き合いに出されるのはなかなか珍しいのではないだろうか。そして最後までトマスが残念すぎる。
殺人は物語の結末。つまり物語は、その「ゼロ時間」に向かって進んでいる。
Posted by ブクログ
犯人が怖すぎる…。真相が分かってからはオードリーがただただ気の毒。やたらトマスとメアリーの会話が多いと思ったらそこがくっついたので、納得した。冒頭のシルヴィアの話関係あるのか?と思っていたらしっかり拾われて脱帽。
Posted by ブクログ
殺人事件は始まりではなくて、物語の結末、つまりゼロ時間。
館の老婦人が殺された。証拠が出揃い、犯人は明らかかと思われたがバトル警視には引っかかることがあった。スポーツマンと離婚した元妻と現在の妻、友人、親戚、使用人たち。人間関係を追った後に明らかになった真相とは——。
クリスティーはナイルでもそうなのだが、殺人事件が起こるまでのストーリーが読ませる。作中でバトル警視も述べているように、多くの殺人事件を描いた物語は、まず殺人事件が起きてそこに探偵がやってきて、と始まる。しかし本来、誰かが人を殺すには、そこまでに至る物語がある。
クリスティー作品は登場人物が多くてもその一人ひとりの顔がしっかりイメージできるのがすごい。今回も登場人物たちの動きに惹きつけられて一気に読んでしまった。
最初の妻であるオードリーが語る自分の変化。追い詰められて、もう楽になりたいからやってもいない罪を自白しそうになる。現代でいえば精神的DVだろうか。この男女の関係は書かれてから半世紀を超えても新鮮に読むことができる。
この物語の探偵役はバトル警視。ポアロほど個性が強いわけではないが、地道に捜査と考えを進ませていく。物証に乏しい今回の犯人を追い詰めるシーンは、読んでいてもハラハラする。なぜ出てきたのかわからなかった自殺未遂者の登場で一気に展開が進むのもすごいが、その後で彼が持ち出した決定的一打も綱渡りだったことを読んで、さらにクリスティーの筆力に感服。
Posted by ブクログ
犯罪が起きた時がスタートではなく、様々な要素が絡まり合って収束する、ゼロ時間こそが全て。
中学の時に読んで感銘を受けたクリスティ作品。
改めて読み返したが、やはり素晴らしい!時代を感じさせない!
惜しむらくは、訳が堅苦しくてややぎこちないところ…。
Posted by ブクログ
いつもながら、素晴らしい筆力。
誰もが怪しく見えるのに、ラストはいつも驚かされる。今回は自分でも推理に挑んでみたけれど、大外れだった。
クリスティー女史はいつも事件が起こる心理的な要因に着目していて、そこが他のクライムサスペンスとは一線を画しているが、本作にはそのエッセンスが詰め込まれているように感じた。作者ご本人もベストテンに選び、江戸川乱歩はベスト8に挙げたとあとがきで読んだが、それも納得の珠玉のミステリ。シリーズものではないが、バトル警視が出てきたのも嬉しかった。
Posted by ブクログ
「殺人は結果であり、物語ははるか以前から始まっている」当然と言えば当然だが、殺人が起こるまでを切り取るのは面白い。僕はクリスティがほとんどのトリックや構成を彼女の時代に生み出したと思っているが、今回も秀逸だ。
バルト刑事シリーズもクリスティの中では有名だが、改めて読むと彼の人間性(無骨だが力強く優しさがある)に惹きつけられる。彼の娘の事件は確かに頭の悪い女教師の暴走だが、それに対してのリアクションがバトル刑事の魅力を思い出させてくれた。
章が変わり、登場人物達の紹介が行われ、彼らは物語の舞台ソルトクリークに終結する。どの人物達も一癖も二癖めありそうな連中ばかり。これからどのように経過が進み、0時間に到達するのか。
クリスティは人物描写、風景描写に定評があるが、今回も館の喧騒の中にいる様な気分になる程熱量を持った描写をしている。クリスティ作品として、動機で一番多いのはお金、愛憎だが、それでも数十の作品を通してオリジナリティ溢れる作品が多いし、今作もそれぞれの人物達の思惑がまるで渦の様に物語の世界を飲み込んでいる様だ。
ネヴィルとケイの夫婦、元妻であるオードリー。不穏な事を打ち明けた後に亡くなった老弁護士。何かを匂わせて殺されるのはクリスティ作品ではよくあるパターンだ。
真相が明るみになり、その後の結末はさすがクリスティと思わされるクオリティだ。
自殺未遂を起こし、自分自身に嫌気がさしていたマクワーターという男性が、伏線を回収し、彼が生きている事に意味を見出し(冒頭で彼が看護婦から言われた千里眼的予言まで回収してしまうとは。また、彼が自分のポリシーを返して嘘をつく部分は温かい気分になった。)最終的に主人公の様になるのはとても良かった。
クリスティは実は悪役はきちんと悪い奴で、不幸な登場人物達は最終的に幸せになる事が多い。
今回も沢山の登場人物達が事件後幸せになるであろう事は、読後、爽やかな気持ちになれる要因だ。
それにしても、犯人が実行を計画した「ゼロ時間」に向けてストーリーが集約していく様子は見事だった。
Posted by ブクログ
だいぶ好きでした。人間関係の伏線回収と、オチが良かった!ゼロ時間、なるほどね、と思いながらスラスラと読み切りました。久しぶりのアガサクリスティ!さすがです。
Posted by ブクログ
「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇『ゼロ時間へ(原題:Towards Zero)』を読みました。
『無実はさいなむ』、『蒼ざめた馬』に続き、「アガサ・クリスティ」作品です。
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残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。
殺されたのは金持ちの老婦人。
金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった―人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向けて、着々と進められてゆく綿密で用意周到な計画とは?
ミステリの常識を覆したと評価の高い画期的な野心作を新訳で贈る。
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1944年(昭和19年)に刊行された「アガサ・クリスティ」のミステリ長篇、、、
「エルキュール・ポアロ」も「ミス・マープル」も登場しないノン・シリーズモノですが… 以前、「ミス・マープル」モノに変更されて、アレンジを加えられた映像化作品の『ミス・マープル3 ゼロ時間へ』を観たことがある作品です。
テニスプレーヤーで万能スポーツマンの「ネヴィル・ストレンジ」は二番目の妻ケイは、9月の初旬、「ネヴィル」を養子として育ててくれた金持ちの老婦人「カミーラ・トレリシアン」の住む屋敷ガルズポイントで休暇をとることに… そこには毎年9月に「ネヴィル」の前妻「オードリー」が滞在しており、今年はその時期に「ネヴィル」と「ケイ」が一緒に滞在することになった、、、
「ネヴィル」の計画では家族的な雰囲気の中で、「ケイ」と「オードリー」の仲を取り持つことだったらしいが… 気の強い「ケイ」は、ことあるごとに「オードリー」につらくあたる。
そんなケイの言動を目の当たりにした「ネヴィル」の心は徐々に「ケイ」から離れていき、別れた「オードリー」の方に傾いていくが、それが「ケイ」の気に障り、「ケイ」は「ネヴィル」にも突っかかることも… そんな様子を「カミーラ」と同居している「メアリー・オルディン」や「ケイ」の友人で近くのホテルに滞在している「テッド・ラティマー」、「オードリー」の従兄「トマス・ロイド」などが各々の思いをこめて見つめていた。
そんな中、最初の事件が起こる… ガルズポイントを訪れた弁護士の「トレーヴ」が深夜になって近くのホテルに帰るとエレヴェーターに故障中の札が下がっており、心臓の弱い「トレーヴ」がやむを得ず部屋のある3階まで階段を上がることに、、、
ホテルまで送ったロイドがその姿を見たが、それが「トレーヴ」が生きているのを目撃された最後となる… 翌朝「トレーヴ」はホテルの部屋の中で死んでいるのが発見された。
「トレーヴ」の死因は心臓麻痺だった… 「トレーヴ」の心臓では階段を3階まで上がること自体が自殺行為だったのだ、、、
しかし、ホテルではエレヴェーターは故障などしていないという… 誰かが故障中の札をエレヴェーターに下げたらしい… イタズラか、それとも「トレーヴ」の心臓のことを知っている誰かが故意にやったことか。
続いて第二の事件が起こる… 「カミーラ」が部屋の中で殺害されていた、、、
凶器と思われるゴルフクラブが部屋に残されており、そのクラブは「ネヴィル」のものと確認され、しかもゴルフクラブには「ネヴィル」の指紋しかついていなかった… さらに、「ネヴィル」のスーツの袖に血痕がついているのが見つかり、使用人の証言からカミーラと「ネヴィル」が激しく言い争っていたこともわかった。
だが、捜査にあたったバトル警視は「ネヴィル」が犯人とは思えなかった… あまりにもできすぎているのだ、、、
非情な計画的犯罪と一時的な感情がごちゃ混ぜになった、相容れない二つの要素が入り混じった、まるで辻褄の合わない事件… 「ネヴィル」にはアリバイが成立することが判明し、次に「オードリー」が疑われる。
「オードリー」がカミーラを殺害し、「ネヴィル」に罪を被せようとしたのか… 「トレーヴ」の死は病死なのか… 「バトル警視」の捜査が本格的に開始されたが、事件は意外なところから解決に向かい始める、、、
自殺でし損なった男「アンガス・マクワーター」が、終盤に意外な活躍を見せ、
「バトル警視」の娘が学校で遭遇した盗難事件との類似性が、本事件解決のヒントとなり、
「トレーヴ」の語った昔話… 弓矢で遊んでいて誤って友人を射殺した少年の話が事件の重要なカギとなっていた、
と、全く関係ないと思われていたエピソードが、うまーく繋がったときは、パズルのピースがぴたっと嵌った感じで気持ち良かったですね。
まさかね… (偽装の)アリバイが成立することを前提に、敢えて自分に容疑を向かせ、その後、「オードリー」に容疑が向くように仕掛け、「オードリー」を絞首刑にするのが目的だったとは、、、
その目的を達成するために、身近な人たちを殺めるなんて許されない犯罪ですよね… しかも、その動機は、自分が捨てられて自尊心を傷つけられたという、あまりにも利己的な理由ですからね。
自殺し損ねた男「アンガス・マクワーター」が印象的でしたね… しかも、「オードリー」と一緒になるというハッピーエンドで、事件の陰惨さを忘れて、希望を持つことのできるエンディングが良かったです。
以下、主な登場人物です。
「カミーラ・トレリシアン」
金持ちの老未亡人
「メアリー・オルディン」
トレリシアンの遠縁の親戚
「ネヴィル・ストレンジ」
万能スポーツマン
「ケイ」
ネヴィルの2番目の妻
「オードリー」
ネヴィルの最初の妻
「テッド・ラティマー」
ケイの友人
「トマス・ロイド」
オードリイの遠い従兄
「ハーストール」
執事
「ジェーン・バレット」
小間使い
「アリス・ベンサム」
小間使い
「エマ・ウェイルズ」
小間使い
「スパイサー」
料理女
「アンガス・マクワーター」
自殺しそこねた男
「トレーヴ」
有名な老弁護士
「ロバート・ミッチェル」
警察署長
「ラーゼンビイ博士」
警察医
「ジョーンズ」
巡査部長
「バトル」
警視
「ジェームズ・リーチ」
警部、バトルの甥
Posted by ブクログ
殺人事件がスタート地点ではなく、そこに致るまでの流れがあり、事件は全てがゼロ時間に集約される。 と冒頭に書かれてるようにゼロ時間までは、登場人物は多く、何も起きないので最初はツマラナいかもしれないけど、しっかり読み進めると面白い! 最後の最後まで、伏線が張り巡らされてて気が抜けない作品でした。満足。
Posted by ブクログ
全体的にはかなり好きな作品ながら、テーマとストーリーの相性が良くないのか惜しい印象が残った。タイトルのTowards zero「ゼロ時間へ」が、一つの事件に集約されていく強烈な流れを感じさせて素晴らしいのに、焦点となる企て自体がアガサお得意の見た目と違う人間関係から導き出される、つまり解決の時まで謎のため、例えばZの悲劇のような冤罪の死刑執行阻止を目指すカウントダウン的な緊迫感など得られようもなく、後付けの肩透かし感が残ったし、二次的な理由から起こってしまった凄惨な事件が悲しい。
犯人造形や、バトル警視、法律家等のサイドストーリーも面白かったし、追い詰められて無実なのに罪を認めてしまうところなど現代でも考えさせられる要素が多く古さを感じさせない。タイトルや語り方が違ったら大満足だったかもしれない。
クイーン の先行作と同じトリックというコメントがあって、最近読んだアガサの短編に当該作らしいタイトルをいじった話があった。あちらの犯人は探偵が見逃さないのが腹立つような正義漢で、本作と対照的なのも面白い。
Posted by ブクログ
動機が斬新。読み終わってから、ゼロ時間へ遡った物語だということをじっくり考えさせられた。イマイチバトル氏のキャラがつかめず読むのに少し苦労した。というかまた騙された。絶対いいやつって思わせるのが本当に上手。訳もわかりやすかった。
Posted by ブクログ
人間関係のもつれと殺人ミステリーが上手に組み合わさっててすごい
ミスタートレーヴがあっさり死んでしまったのは驚いたけど、最後まで弓で友達を殺したかもしれない子どもの話が頭に残っていて、いい味出してたなあと思いました
Posted by ブクログ
物語冒頭に登場した、自殺未遂の男・マクワーター。本編に全然加わってこないし、「なんなんあいつ。」と思ってたら最後の最後に大活躍。
最後のオチは、なんか急展開だなぁと思ったがまあ面白く読み終えられた。
Posted by ブクログ
2/3程過ぎても何も起きず、なんだなんだと読んでいたが、驚きの結末。テニスプレーヤーのネヴィルと若き妻ケイ、離婚した妻オードリー。オードリーが殺人をしたと見せかけてネヴィルだった。最後、冒頭にいたアンガスという自殺に失敗した男が目撃者になり、オードリーと結ばれるという運命的な展開。オードリーを捨てたのかと思ったがネヴィルが捨てられたのか。男の逆恨みって怖すぎる。バトル警視が探偵役。ポワロは居ないが全然面白い。
Posted by ブクログ
しっかりした和食(横溝作品)が続いて洋食が食べたくなったので、久々にクリスティーを。
ちょうど、”夏の終わりに読みたくなるミステリー”とtwitterで聞いたもので、海辺の館が舞台のこちらを選びました。
殺人は事件が起きるはるか以前から始まっている――。
ずばり、これが今作のテーマです。
殺人犯がいかにして強い憎悪を抱き、どんな計画を立て、そして分厚い仮面の下にそれを隠してあたかも普通の人を装って生活する様を、我々読者に気取られないように書き切ったクリスティーの筆力はさすがとしか言えません。なかなか事件が起きないのに退屈させないのもすごい。
事件が起きて、証言や証拠が集まって、探偵が皆を集めて「さて……」と言う。そんないつものパターンとは異なる読書体験に、脳の違う部分が刺激された気がします笑
それにしても、犯人があの人だったとは……。
それを踏まえて再読したら、そのサイコパスっぷりに背筋が寒くなりそうです。この作品の発表は1944年とのことですが、その時代にサイコパスや精神的DVといった要素を持つ人物を描くクリスティーは、どれほど時代感覚に優れていたというのか。。
今作はノンシリーズとのことで、いわゆる探偵役を務めるのがバトル警視。
娘とのエピソード(一見関係ないように思われる)で、すっかり夢中になってしまいました。
派手さはないものの、堅実な捜査を重んじ、そして自身の直感も大切にする。
そんなバトル警視から、ポアロさんへの言及があったのには思わずニッコリ。二人が共演する『ひらいたトランプ』、早速ぽちってしまいました〜♪
犯人を追い詰める証拠の弱さと結末のラブロマンスはちょっと引っかかりましたが(トマス、いいところがないじゃないか!笑)、でも、これまで他人に傷つけられてきた二人だからこそ今後は幸せになってほしいな。
真相を覚えているうちにぜひ再読したい一冊です。
Posted by ブクログ
「前妻が自分を犯人だと思わせるために嘘の証拠を用意した」と思わせるための嘘の証拠を用意して、育ての親みたいなおばさん殺して、前妻を絞首刑にしようと企むテニスプレイヤー
エレベーターに故障中の札かけて老人に階段使わせて死なせる
バルビツール、センナ
Posted by ブクログ
本書のテーマでもあるが、最初から殺人が起こるわけでなく、物語の半分を過ぎないと殺人が起きないのが特徴的。
それだけ、なぜ殺人を起こしたのか、人々の心理描写が色々と描かれていたのが良かったと思う。だからといって、もちろん犯人がわかるわけでも無いのも凄い。