アガサ・クリスティーのレビュー一覧
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ネタバレ神はわたしのしたことを赦さない。
ローラは両親の愛を妹シャーリーに奪われていると感じていた。だから彼女は妹の死を願った。両親が不在の夜、火事が起きて、妹は炎の中に取り残された。ローラは炎の中に飛び込んで、妹を救った。その日からローラは妹を何よりも大切なものとして愛し続けたのだった。それが何を引き起こすのかわからずに。
最後の伝道者ルウェインの未来視したのはローラだったのでプロポーズするという展開はちょっと唐突すぎてうまく理解できなかったが、愛することで他人の人生を駄目にする罪ということには考えさせられた。両親を早くに亡くしたローラは親代わりとなり、よかれと思ってシャーリーの幸せを考え続けた。自分の幸せについてはあまり考えなかった。もちろん結婚が幸せだという単純な結論ではなく、ローラが自分の人生に目を向けずシャーリーの幸せばかり考えて行動することを、クリスティーによく出てくるタイプの皮肉を愛するおじいさんボールドック氏が早いうちに看破している。他人の人生に手を出しすぎてはいけない、と。
こういう近しい人の幸せが自分の目的になって、その人の「幸せ」を追い求めすぎる人はいつの時代もどの場所にもいる。水をあげすぎると花はダメになる。シャーリーは意外と強いタイプだったとルウェインは言っていたが、ヘンリーを選んだのがシャーリー自身なのだからシャーリーが戦うまで待てるローラだったらよかったのに。そうはいっても実際にはローラのようにシャーリーに辛く当たるヘンリーを安楽死させるまで振り切れる人は少ないだろうが、ローラはできてしまった。そしてそれをシャーリーの幸せのためだと思っていた。ローラは恵まれない子のために、おそらくプライベートなどない状態で、働いている。他人を「幸せ」にすることに全力を注いでしまっている。しかもそれに成功してしまっている。ルウェインはそんなローラの生き方を間違っていると伝えた。
原動力を他人にすることの危険さを、この物語は語っている。自分の人生を生きることの大切さと、その難しさも語っている。ローラみたいに生きると多分気持ちがいいと思う。でもそれは誰かを「幸せ」にすると過信して、逆に台無しにしているかもしれない。ローラにはルウェインが現れたけど、自分には現れなかったら。やはりウェストマコット名義のクリスティーは、自分にとってゾワッとする作品だ。 -
Posted by ブクログ
ポアロシリーズ20作目。1941年の作品。
『白昼の悪魔』という邦題もなかなか渋いけれど、原題『Evil under the Sun』がかっこいい。
小さな島のリゾート地が舞台という夏に読むにはぴったりでした。事件が起こったのは8月25日。
朝起きたらバルコニーから海岸に降りてひと泳ぎ、ホテルのダイニングルームで朝食。あるいは遅くまで寝ていてベッドで朝食。
海辺で日光浴、ボート遊び、テニス、散策もしくはテラスで読書。
島はホテルの私有地なので、海岸は宿泊客のみのプライベートビーチ。
なんていう上流社会の夏の過ごし方がなんとも優雅。
(216ページ)
「ミセス・マーシャルはいつもベッドで朝食をとっていたんだね」
「はい、いつもです。いつもベッドでほんの少しだけ。紅茶とオレンジ・ジュースとトーストを一枚です。多くのご婦人方同様、太らないように気をつかっていらっしゃったのでしょう」
ミスリーディングや思わせぶりなセリフ、小道具が多すぎて、宿泊客全員怪しく思える。というか、ラスト40ページくらいまで誰が犯人でもおかしくない展開。ミステリーとしてはまったくフェアじゃないけど、夏のリゾート気分を味わえたので私は十分満足。
新訳版は田村義進。『ゴルフ場殺人事件』、『メソポタミヤの殺人』なども手がけており、全体的に上品で読みやすい。
ただ、いくつか、伏線回収されていなかったり、あれ、このセリフあったけ?みたいな箇所があるんだけど、これは原文のミスなのか。
ブティックのオーナーであり、ドレスデザイナーであるロザムンド・ダーンリーのモデルはあきらかにココ・シャネル。
彼女のつけている香水は「ガブリエルの8番」。この香水は架空のものですが、ココ・シャネルの本名はガブリエル・シャネルで、2017年に「ガブリエル シャネル」という香水が発売されています。
それを考えると、ラストの彼女の選択はいまいち不満である。
(37ページ)
「結婚して子供をつくるのは誰にでもできることです。あなたのように自分の力で地位と名声を勝ちえた女性は、百人──いや、千人にひとりいるかいないかですよ」
ロザムンドはにっこり笑った。「でも、やっぱりわたしは哀れなオールドミス。とにかく、今日はそんな気分なんです。どんな貧乏暮らしでも、夫がどんなに粗野で陰気な人でも、腕白坊主がぞろぞろあとを追いかけてきても、そのほうがずっと幸せなんだと思っています。そうじゃないでしょうか」
いくつか自分用注釈。
3ページに出てくるコーネリア・ロブスン、リネット・リッジウェイは『ナイルに死す』。
ウェストン州警察本部長と話しているセント・ルーの事件とは『邪悪の家』。
133ページの「ウォーレス」とは、1931年に妻を殺したとして有罪になり、その後、逆転無罪となったウィリアム・ハーバート・ウォレス事件のこと。
以下、引用。
12
「そうなんです、ムッシュ・ポアロ、あなたのお噂はコーネリア・ロブスンからいろいろとうかがっています。わたしたち、五月にはバーデンホフに滞在していましてね。そのとき、エジプトでリネット・リッジウェイが殺された事件の話を聞いたんです。」
Badenhof
14
「わたしが若いころには、せいぜい足首までしか見ることができませんでした。ふんわりしたペチコートがちらっと見えただけで、胸がドキドキしたものです。それがいまは、ふくよかなふくらはぎも、膝も、リボンがついたガーターまでも──」
21
「たしかにここは夢のような場所です。じつにのどかだ。陽は燦々と降り注ぎ、海はどこまでも青い。ですが、ミス・ブルースター、忘れちゃいけません。邪悪は陽の下のいたるところに潜んでいます」
35
「ええ、びっくりするくらいに。イギリスの田舎です。大きなあばら家。馬や犬。雨の歩道。薪ストーブ。リンゴ畑。つましい暮らし。古ぼけたツイードの服。来る年も来る年も同じイブニング・ドレス。荒れ放題のお庭。秋にはシオンが咲き乱れ……」
37
「結婚して子供をつくるのは誰にでもできることです。あなたのように自分の力で地位と名声を勝ちえた女性は、百人──いや、千人にひとりいるかいないかですよ」
ロザムンドはにっこり笑った。「でも、やっぱりわたしは哀れなオールドミス。とにかく、今日はそんな気分なんです。どんな貧乏暮らしでも、夫がどんなに粗野で陰気な人でも、腕白坊主がぞろぞろあとを追いかけてきても、そのほうがずっと幸せなんだと思っています。そうじゃないでしょうか」
44
ううん、ニキビじゃない。そう判断して、ほっとした。そして思った。十六歳なんてイヤ。本当にイヤ。
自分がどこにいるかわからない。子馬のように頼りなく、ハリネズミのように刺々しい。見苦しさや頼りなさが気になってならない。
46
時間の感覚をつかめないのは幼さのせいかもしれない。一年は永遠に思える。
69
70
74
ドーヴィル、ル・テュケ、ジュアン・レ・パン
ビアリッツ
マーゲイト
83
部屋を出て、廊下を進む。廊下のはずれのドアからバルコニーに出る。そこにある階段をおりていけば、ホテルの下の岩場に出る。その岩場には磯まで小さな鉄の梯子が取りつけられている。海水浴場へ行くより手間がかからないので、朝のひとときをそこで過ごす者は多い。
85
年上のクリスティーンとのあいだには微妙に共感しあえるものがある。それはどちらも同じ人物を憎んでいるという事実に根ざしているからにちがいない。
93
「さっきも主人に言ったばかりなんだけど、わたしたちもぜひダートムーアに行ってみたいと思ってますの。ここからはそう遠くないし、言い伝えからしてロマンチックなところのようだし。それからあの有名な監獄のあるところ、プリンスタウンていったしら。あそこへも行ってみたい。」
94
歯磨き粉の金属ケース
108
「こいつは驚いた!」と、州警察本部長のウェストンは言った。「こんなところできみに会えるとは!」
エルキュール・ポアロは愛想よく答えた。「これはお久しぶり。セント・ルーの事件以来ですな」
「いまでもよく覚えてるよ。あんなに驚いたことはない。いまだに納得がいかないのは、葬儀のときのきみの策士ぶりだ。普通じゃ考えられない。常軌を逸していた」
112
「マーシャル大尉がどんなふうに思い、何を考えているかはわかりません。感情を表に出さない御仁のようですから」
「でも、感情はあるはずだ」
エルキュール・ポアロはうなずいた。
「ええ。感情はあるはずです」
133
「なんとも言えません。感情を表に出さないので。証人台に立ったときの印象は間違いなく悪いものになるでしょうね。ある意味、気の毒な話です。どんなに傷ついていても、そんなふうには見えないのだから。ウォーレスも同じような調子だったので、陪審員の心証を害して、有罪判決を下されてしまいました。確たる証拠があったからじゃありません。妻を亡くして、あんなに冷静でいられるはずはないと思われたからです」
ウィリアム・ハーバート・ウォレス事件
149
「ある学者が記した論文によると、社交界で浮名を流した伊達男(ボー)ブランメルと生涯独身であったニュートンのような人物とでは、孤独の意味がまったくちがう。」
183
「サボイ・ホテルでブレスレットをなくしたときに来てくれた若い刑事さんは、そりゃもう、優しくて親切な人でした。」
210
聖書。古びたシェークスピアの戯曲。ハンフリー・ワード夫人の『ウィリアム・アッシュの結婚』、シャーロット・ヤングの『若い継母』、A.E.ハウスマンの『シュロップシャーの若者』、エリオットの『寺院の殺人』、バーナード・ショーの『聖女ジャンヌ・ダーク』、マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』、ディクスン・カーの『火刑法廷』。
216
「ミセス・マーシャルはいつもベッドで朝食をとっていたんだね」
「はい、いつもです。いつもベッドでほんの少しだけ。紅茶とオレンジ・ジュースとトーストを一枚です。多くのご婦人方同様、太らないように気をつかっていらっしゃったのでしょう」
239
「聖書に出てくるイザベルやアホリバのような毒婦です。悪行のかぎりを尽くし、あげく鉄槌がくだされたのです」
260
すぐに返事はかえってこなかった。村人たちにじろじろ見られているのが気になるのだろう。指をさされこそしないまでも、それと同じことを目でされているのだ。
285
「無作法をお許しいただけるでしょうか、マドモアゼル」
「あなたが無作法なことをなさるとは思いませんけど」
「恐縮です。それでは言わせてください。あなたがいまお使いの香水はじつにいい。繊細で、深淵で、複雑です」手を振り動かし、それから感情のこもらない声になって、
「ガブリエルの八番ですね」
「よくおわかりですね。ええ、わたしはいつもこれをつけています」
294
「たしかにアリーナ・マーシャルは聖職者が淫らな女(スカーレット・ウーマン)と呼ぶにふさわしい人物です。」
366
若島正「明るい館の秘密 クリスティ『そして誰もいなくなった』を読む」
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ネタバレ【再読】
婚約していたエリノアとロディーの前に現れたのは、門番の美しい娘メアリイ。たちまちロディーはメアリイに心を奪われ、エリノアとの婚約を解消する。その折、伯母のローラが死亡し、エリノアは遺産を相続する。エリノアは、ローラが可愛がっていたメアリイに遺産の一部を譲る。
その後屋敷を売り払ったエリノアはメアリイを昼食に招くが、彼女がつくった昼食を食べたメアリイが死亡する。機会も動機もあるエリノアは当然逮捕され、裁判にかけられることに。さらに病死と思われたローラの死にも不審な点が見つかった。エリノアは、メアリイを可愛がっていたローラが遺言を書き換える前に殺したのではないかということでローラ殺害の容疑もかけられたのだった。ポアロはローラの主治医だったロードの依頼を受け、エリノアの無実を証明するために立ち上がる。
看護婦やほかの使用人の証言を集めていくも、エリノアへの疑惑は深まるばかり。だがポアロは、バラの傷跡やモルヒネのラベルから、ホプキンズの犯行を見抜く。
男女の愛憎をテーマにした人間ドラマはクリスティーの真骨頂。動機も機会も全てが一人の女性を指し示す事件にポアロが挑む。使用人のコミュニティが深く描かれているのも特徴。
●見どころ
・どんな相手からも話を引き出すする術を熟知しているポアロ
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Posted by ブクログ
ネタバレ【再読】
偏屈な老富豪シメオンにより、クリスマスに集められた一族の面々。その夜、シメオンが何者かに惨殺される。部屋には鍵がかかっており、凶器も消えていた。事件の直前にはシメオンのダイヤが盗まれていたことも判明。
シメオンは死の直前に遺言の書き換えを仄めかしており、それが殺人の引き鉄となったと見られる。また屋敷には、シメオンの孫娘ピラール、シメオンの旧友の息子スティーブンも訪れていた。ポアロは、遺言の書き換えによって得をする者・損をする者、惨劇の時間にアリバイのある者・ない者などの観点で推理をすすめていく。
犯人は警視のサグデンだった。サグデンはシメオンの私生児だったのだ。
サグデンが部屋で何かを拾ったピラールの行動をなぜポアロに話さなかったのかという疑問をもった読者は多いと思うが、それこそが真相に繋がるものであるのが面白い。
●見どころ
・遺産をめぐる骨肉の争い
●名言
「わたしは、主人からけしかけられて獲物を狩り出しながら、その獲物がどうも気に入らないからといって、呼びもどされて、帰ってくる犬ではありませんよ!」