山崎ナオコーラのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
医者が用意した人生ではなく、妻自身の人生をまっとうしてほしい
この言葉の本当の意味が、小説全体を通して段々とわかってきます。
医療職として終末期をみることもある者としては、この小説の医療者の見え方はかなりショックなものでした。特に、医師との噛み合わない話の場面では、医師側の気持ちも大いにわかってしまいました。トラブルを避けるために、事実ベースかつ最悪の想定を常に話しておき、それを理解してほしいという思いが先走ってしまうのです。
仕事を効率よくこなすことに躍起になり、疎かになっていた、病気ではなくそのひと自身をみるということを思い出させてくれる、苦しい読書となりました。
ネガティブなことばかり -
Posted by ブクログ
最後まで読むとタイトルの良さが分かる。とても良い、とてもマッチしたタイトル。まさに美しい。
近い時も遠い時も、近づく時も遠のく時も、相手を想うことで「美しい距離」となるのだなぁと。
この小説の紹介文に“がん患者が最期まで社会人でいられるかを問う病院小説”とあったのだけど、読んでみると印象は全く違うなぁと思った。視点がそのがん患者の夫だからそう感じたのかもしれないけれど。
豊崎由美さんの解説に、“小説は書かれた言葉だけで成り立っているのではない。書かれていないことにも語らせる力を持った小説こそが、いい小説なのだと、わたしは思う。”とあった。「まさに」!
この小説は、静かな中にも、ひしひしと夫の -
-
-
-
Posted by ブクログ
ネタバレ色んな「あきらめる」が出てくる。あきらめるって悪いことじゃない。
余命わずかの岩井が「まずは、あきらめる。あきらめることで、あきらめきれないことが始まる。そこから始まるんだ」
輝は、育児について、「今、生きているだけでいいんだとあきらめないといけない」
ユキのネグレクトは、ちゃんとあきらめた結果。育てられないって言うことで、次の道が開けた。あきらめることから始まることもある。
輝は、悟る。心をあきらめよう。心を制御するのではなく、行動をコントロールしよう。
弓香や塔子は、雄大に対して上手くあきらめてる。でも、博士はあきらめようと思っても、あきらめきれない気持ちを抱えて、評価されたいという感情と -
Posted by ブクログ
あなたは、『病院で治療を受けることによって父乳(ふにゅう)を出すことが可能である』ことを知っているでしょうか?
(*˙ᵕ˙*)え?
昨今、男性育休という言葉がよく聞かれるようになりました。このレビューを読んでくださっている方の中にも、同僚が男性育休中です!とか、それ私のことです!とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。子育ては女性の仕事であり、男性は会社で働くもの、そんな考えが支配していた時代も遠い過去へと過ぎ去っていく現代社会。男女平等が叫ばれ、その境目がなくなってもいく現代社会。
しかし、未だ男性と女性には、それぞれに求められる役割があると思います。例えば前述した育児一つとって -
Posted by ブクログ
あなたは、未来の自分に思いを馳せたことがあるでしょうか?
一日いちにちの積み重ねが一年となり、二年となり、私たちは歳を重ねていきます。遠い未来のことだと思っていても、過ぎてみればそんな時代もあっというように時は過ぎていきます。それは特に10代、20代といった年代では殊更でしょう。大人になるなんてずっと先のこと、『そんな大人のことは、想像もできない』と思っていた未来も思った以上に早くやってきます。
そんな未来にはどのような景色が見えるのでしょうか?過去に想像はできなかったとしても、まさかこんな未来が?という景色がそこにあるのでしょうか?
さてここに、十四歳の時代と二十五歳の時代を並行に描い -
Posted by ブクログ
「源氏物語」の読みにくさには2つの理由がある。1つは1000年前の言葉で書かれている、所謂古典文学ということ。もう1つは、現代とあまりにもかけ離れた1000年前の社会規範が根底に流れているということ。前者は優秀な訳者によって乗り越えることは容易いが、後者はそれが難しい。ゆえに、現代の社会規範でもって、この壮大な物語を読み解き、楽しんでしまおう、というのが本書の趣旨となる。
引用文に関しては筆者による現代語訳も併記されているので、難なく読むことができる。その上で、現代にも通ずる社会問題(貧困問題やジェンダーの多様性など)を考えていくのは面白いと率直に思った。1000年前には論点にすらなり得なかっ -
Posted by ブクログ
若林さんは不思議な人だ。
めっちゃ自意識過剰で自己防衛本能が強くて、見栄っ張りでカッコつけ。本音は言わない。
だけどスッと人の懐に入ってくる可愛げもあるんだなぁ。
この本では、若林さんのそんな部分が遺憾無く発揮されていて、終始ほっこり見守る気持ちで読むことができる。
人が死ぬ本ばっかり読んでたアタマが癒される〜。
私が好きなのは、羽田圭介さん&藤沢周さんの回。
この回は、若林さんが話すボリュームも多くて、羽田さん、藤沢さんとの相性の良さを感じる。話してることもほどよくカタくて、良い意味で、男同士っぽい感じ。小気味よくてずっと読んでたい。一冊丸ごとコレでもいいなぁ。
あとは角田光代さん -
Posted by ブクログ
あきらむ、は「諦める」の古語で、明らかにする、というプラスの意味だ。
現在のあきらめるという語とは全く意味が異なるように感じる。
しかし、一旦あきらめることで、自分をありのままに受け止めてより良く生きられるということでもあるのだなぁと、今作を読んでいて感じた。
自分の欠点や願いを諦めて手放すことで、冷静に今の自分に向き合い、問題への解決策や改善策を模索できるようになる。
それは、とても前向きで建設的なことではないだろうか。
世の中には「あきらめるな」というメッセージが溢れているが、人は完璧ではないし弱い生き物なのだから、むしろ「あきらめる」ことをもっと考えなければいけないのではないか、と思った -
Posted by ブクログ
「来たよ」
カーテンから覗いて、片手を挙げる。
「来たか」
笑って片手を挙げる。
こうした2人の、2人だけのやり取りがとてもあたたかくて、やさしくて、今でも心に温もりを宿らせています。
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
「大好きだよ」
小さな声で耳元に囁いてみた。
夫と妻、そして、父と母やお客さん。
それぞれの、それぞれなりの心づかいや愛情が心に響きました。
また、"余命の物語“や「妻が死んだ時に距離の開きが決定したのではなくて、死後も関係が動いている。」といった言葉も印象的でした。
"余命の物語"はネット上などで時々目にする美談化的な営みの中に似たも