あらすじ
収録作『手』が映画化。2022年9月16日公開。監督・松居大悟、出演・福永朱梨/金子大地ほか。
『人のセックスを笑うな』『論理と感性は相反しない』など、ビビットな文体とセンスで時代の空気感をすくい取る、山崎ナオコーラの中短編集。
年配の男性の顔や指の写真を集め、ブログに載せることは罪であろうか? おじさんを研究する25歳の女性の視点から、異性を個人ではなく集合体として捉える切なさを描いた「手」。
NHKラジオ文芸館で紹介され異例の話題となった、血のつながらない娘と暮らす44歳のサラリーマンが主人公の、『お父さん大好き』など4作を収録。おじさんたちが可愛く思えてくる、ウィットと切なさに満ちたナオコーラ・ワールドが堪能できます。(※2009年刊の単行本『手』を改題)
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Posted by ブクログ
読み始めて少しして、あ、わたしこの本読んだことがあったと思い出した。「手」のハードカバーを過去に読んでいたのだ。文庫化にあたって改題されていたことに気付かずに購入してしまった。
吉祥寺の某書店にサイン本があると聞いて、ふらっと立ち寄ったら最後の一冊になっていたので、迷わずレジに持って行った。開くと、内表紙の裏のページに見覚えのある金色のペンでサインが書かれていた。"毎朝、目覚めるだけで表現になる。"と。いい言葉だな、と思った。
この言葉は表題作「お父さん大好き」の一節だったのだ。そのページに辿り着くまで思い出せなかったのだけれど。
男と女の会話だったり、妙にドライな視点で語られる心情だったり、そういうものに惹かれて作品を追って来たのだけど(たぶん、うまく説明できないけど)、「お父さん大好き」は特に何かが起こるわけでもなく、関係に深入りするでもなく、ただひとりの男のまわりで起きた出来事を淡々と描いている。何もないようでいて、その中で交わされる会話やモノローグになぜかとても救われたような気持ちになる。
"どうして、古今東西のたくさんの人間がすでに悩み切ったことを、俺が改めて悩み直さなくてはならないのか。こんなことなら、全員で長生きすればいいのに。初めから、決まった数の人間が存在して、そのままみんなで成長し続けた方が、効率が良いはずなのに。古い老人が死に、新しい子どもが生まれて、また一からやり直すとは、世界のシステムはなんとばからしい。"
"毎朝、目覚めるだけで、表現になる。「俺は、この世に生きています」それを体中が叫んでいる。「まだ、生きたい」「世界を、味わいたい」。まばたきするだけで、世界を受け取れる。"
生きているだけで、えらい。俺は、生き続けるだけで、えらい。
最後の一行の絶対的な肯定に、ふっと肩の力が抜けるようなそんな気がした。
Posted by ブクログ
なんとも独特で不思議なお話たち。
淡々としてるようで、ちょっと違う。
あと少し切ない。
順番通りに読むよりも『手』は最後に読むのが個人的にはおすすめ。
☆手
☆笑うお姫さま
☆わけもなく走りたくなる
☆お父さん大好き
Posted by ブクログ
単行本「手」を改題して文庫化
4編の短編集
・手
・笑うお姫さま
・わけもなく走りたくなる
・お父さん大好き
おじさんと若い娘さんが共通点か?
山崎ナオコーラを読むのは「人のセックスを笑うな」以来2作目
読書会で表題作の「お父さん大好き」に興味を持って読んでみた
・手
実の父親を嫌いながら、おじさんと付き合い、世のおじさんの手を隠し撮りした「ハッピーおじさんコレクション」というホームページを作っている女性のお話
配信会社で新聞のラテ欄をを作る仕事をしている寅井サワコ 25歳
サワコの先輩社員で、転職する森
サワコの上司の大河内 58歳
サワコは父親を若干嫌悪しているようにも思えるけど、本質はファザコンなのか?
父親的なものを求めるが故におじさんと付き合うが性的な領域までには発展しないのではなかろうか?
手はその人との繋がりの象徴のように感じる
実の父を嫌っていながらも、病院にも付きそうという態度にそこまで嫌っていないのではと思う
所詮は中耳炎と老化によるものを、突発性難聴と大げさに騒ぎ立てる父への嘲笑や憐憫もある
世の中、おじさんに対して厳しいものがありますよね
自分もその区分に分類されるんでしょうけど、本人にとっては意外と苦になってないという感覚もある
どうせ元から交わらない関係の人たちなら、最初から棲み分けた方が円満にいくものね
・笑うお姫さま
王が笑わない女性を笑わそうとして国を傾けるという童話のような話
「手」でも語られていたけど、「女は笑っていればそれでいい」という価値観に対する反逆なのかな?
国を滅ぼしたのは愚かな王なのに、女のせいとされるのは筋違いなのではというのは納得
・わけもなく走りたくなる
作者の焦燥感を表したかのような文章
昔は狩りをしていて、狩りをしなくてもよくなった世界でも無性に走りたくなる衝動
なんというか、湧き上がる感情を文字として刻みつける職業が作家なんだろうなぁと思う
・お父さん大好き
一ヶ月前に妻が出奔し、血の繋がらない娘と暮らしているおじさんのお話
妻は1か月前に出ていった
大学生のユカリという娘と二人暮らし
ユカリとは血が繋がっておらず、征夫(いくお)さんと呼ばれている
出先でユカリに似た人を見かけて、大丈夫かメールを送る父
二人で大きな月を見た後、背中に囁かれる「お父さん大好き」
私と共通点が多い
血の繋がらない娘、おじさんの年代、娘は大学生、父親を名前で呼ぶ等々
娘との距離感はわかる
そうか、僕はこんな関係を望んでいたのかもとも思う
Posted by ブクログ
単行本『手』の改題、文庫化。
含まれている中短編(4編)は単行本と同じのようです。
不思議な雰囲気を持った作品集です。
おじさん生態コレクターの若い女性を描いた『手』、民話風の『笑うお姫さま』、著者の心象風景を描いたような掌編『わけもなく走りたくなる』、そして妻の出奔と仕事の行き詰まりから自殺しそうなサラリーマンを主人公にした『お父さん大好き』。
特に一つのテーマでまとめられた様子はなく、主人公の年齢性別もバラバラです。山崎さんの心の中にある幾つもの心象風景を描き出した感じ。
とても読みやすく、何か訴えるものもあるのですがそれをどう表現したら良いのやら。困ってしまいます。
Posted by ブクログ
これまた久々なおコーラ。
冒頭の『四半世紀も私にくっついたまま離れない指が、今日もキーボードを叩いていた。』という一文を読んだだけで、(そうそう、この人のこの表現!)と思ってぐっと引き込まれた。
手、の冷静なもう一人の自分がいる感じは共感できるところ。
Posted by ブクログ
最近気になっているナオコーラさんの一番新しい文庫版短篇集(読み終わってから知った)。
"男の点と線"を読んだ時にも思ったけど、ナオコーラさんは普通の物書きのヒトの何倍も人のことをみている。外面的にも内面的にも。
だからどんな短編を読んでいてもどこかでハッとしたり、ドキドキしたり、後ろめたくなったりする。
それから、ナオコーラさんは男目線での短編でも全然違和感がなくて、むしろ男以上に男らしい。あと、いつも読み終わってから気づく。
中性的というか、前世が男でそのまま生まれてきたひとなんじゃないかと思うくらいキレイな男目線。
Posted by ブクログ
日活ロマンポルノ50周年を記念した3作品のうちの第1弾の原作「手」を読みたくて。
映画の方が作品を膨らませてあって、主人公さわ子の切なさがわかりやすかった。
父と特に確執があるわけではないけど、うまく甘えられず、おじさんと過ごし、年の近い森さんに出会い付き合うものの寂しさは埋められず、、不器用なさわ子が少しずつ意志を持ち始める感じがよい。
Posted by ブクログ
こういう感じの20代の時期がわたしにもあったなぁと思った、わたしの下半身はここまでではなかったけど。おじさんとの感じがなんとなく。他のやつはなんとも。お父さん大好き、はぞっとした。
Posted by ブクログ
物語の流れや構成というよりも、主人公が心の中で会話の相手に突っ込む場面、その一言が妙に心に残る作家だと思う。
4つの短編はそのどれもが「おじさん」と「少女」をテーマにしているが、中でも「手」は明らかに「おじさん」を人生の研究テーマに据えている「少女」(とも呼べない年齢の女性)が主役だ。
女は若ければ若いほど素敵、と思っているおじさんに対し、
女は若ければ若いほど素敵という思いがあるから、女に対して「若いね」と言うことが褒め言葉になると考えるのだ。だが女は、努力して大人になったのだから、できるだけ年相応に見られたいに決まっている。
と心で呟くシーンは妙に納得感が高い。
それでいて、こうも思い巡らすのだから最高だ。
若い人は、やっぱり、えらい。いつの時代でも若さは注目を浴びる。私は年を取っていくから、年齢を重ねる楽しさも自ずと知っていくだろうが、あとから生まれてくる人たちの眩しい若さには、いつも敬意を払っていこう。二十歳前後の女の子や男の子をこれから見るときは、決して老いた自分を卑下することなく、でも、眩しさに眼を細めるのだ。
うん、こういう思慮の表現がたまらなく好きだ。
Posted by ブクログ
「手」のラストシーンに胸を締め付けられた。
ナオコーラさんの作品によくある、「ただ出会って別れるだけ」の王道をいく作品かもしれない。
恋愛を客観視すると、総じて美しく見えるが、出会いよりも別れの方が一層美しく見えるのは、本当に不思議である。
以下、本文抜粋。
《音楽って、何度も反復があるでしょう?記憶があるから、もう一回同じメロディが起こると、感動するんですよ。寅井さんと僕も、昨日会って今日も会ったから嬉しいでしょう?一ヶ月会わなかったら顔も忘れちゃうでしょう?でも会うと思い出す。だから、何度も会いましょう》(「手」)
《生きているだけで、「自殺することに、反対です」というシュプレヒコールをあげていることになる》
《朝というものは、絶対的に美しい》(「お父さん大好き」)
Posted by ブクログ
山崎ナオコーラ初めて読んだ。
すらすら、あっさり読めたのは短編だからかな?
視点が変わっていて面白い。
おじさん好きって時々いるのかな。
若い女性とおじさんのちょっぴり切ない都会の物語。
でも、おじさん達もっと、かっこよくなろう!(自分)
わけもなく走りたくたくなる。と、お父さん大好き。が良かった。
ユカリちゃんの疑問の月の大きな夜と小さな夜との違いは、なんだろう?
お父さん知っていても答えないで。
山崎ナオコーラ、もう一冊読んでみようかな。
Posted by ブクログ
☆3.6
恋人ではないけれどセックスはする会社の先輩と、セックスはしないけれど付き合っている30歳年上の上司との間で揺れる20代女性を描いた「手」(芥川賞候補作)など4編。
『私の好きなおじさん』よりも、なんていうか、よかった。
「おじさんという人種の持つ図太い精神に、私は圧倒される」(p18)うーん確かに、おじさんというものはそういうところがあるなぁ。
Posted by ブクログ
ドライ。そんなひと言では表現出来ないが、サクサクとした甘くない菓子をその舌触りでのみ愛でる、そんな印象。おじさんという生き物はなんて哀しくて滑稽で愛らしいのか。おばさんだとこうはいかないのだ。