恩田陸のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
奈智は果たして”通った”のか?木霊は一体誰なのか?というミステリを中心に展開するも、虚ろ舟乗り関係の主要な謎については上巻であらかた明らかになったとおり。
成長譚としては性のアレゴリーである(と、個人的には解釈している)血切りを受け入れて大人になっていく、という過程の描写に注力しているものの、性の方はともかく、血切りは「そういうもの」として割り切れるのではという考え、また翻って、上巻から少しフワフワしていた「そもそも奈智の虚ろ舟乗りになりたいというモチベーションはどこから来ているのか」という問題がまた首をもたげてきて、上巻ほどは入り込めなかった。とかいいつつ楽しんで読んだけどね。 -
Posted by ブクログ
恩田陸がこのような作品を書くのかと感心した。全く、違ったテイストだ。
主人公の神原恵弥のキャラクターがユニークだ。医学部を卒業し、外資系製薬会社に勤め、事業のシーズハンターである。精悍でタフだが、姉三人と双子の一人で、もう一人は女。都合四人に囲まれて育ったので、お姉言葉を話す。記憶力抜群で、一度見たら覚えてしまい忘れない。映像記憶能力が高い。
双子の一人、菅原和見は、東京の大手弁護士事務所の弁護士であるが、医学研究者の若槻慧と不倫をしていた。若槻が、北海道に移転することで、追いかけてH市に移転した。そんな和見を連れ戻すために、神原恵弥はH市にやってくる。
恵弥がH市で、和見に会った時には、若槻は死んで葬式だった。そこから、和見、そして、若槻の妻、慶子、さらに国立感染症研究所の多田直樹と繋がりができていく。
若槻慧の手帳には、クレオパトラという文字が書かれていた。そして、神原恵弥と会う約束もあった。そのクレオパトラとは、一体何なのか?が、この物語では追いかけられていく。
和見は、医者に対して、惜しみない慈愛を持って接しているのはわかるが、どこか偽物くさい違和感がある。患者にこんなに慈愛を持っている私を愛してる医者がいる。エセ医者らしい雰囲気を若槻にも感じていた。
天然痘は、1980年世界保健機関(WHO)によって、根絶が宣言されている。感染症で根絶が成功した唯一の例である。牛痘は、牛にかかるウイルスだが、人間にも感染する。しかし、牛痘は人間に感染しても、軽い発熱や水疱が出るだけで、軽い症状であり、天然痘に免疫もできる。そのため、牛痘を使って、天然痘の免疫を作ることができる。
天然痘の歴史は古く、紀元前1100年代のエジプト王朝のラムセス五世が天然痘で亡くなった。ローマ帝国のアントニヌスの疫病も天然痘とされ、350万人が死んだ。アメリカインディアンの絶滅に天然痘が大きな役割を果たした。アステカとインカ帝国の滅亡の要因に天然痘が関与したという説もある。
日本には、佐賀藩の藩主、鍋島直正が、最初に種痘を実施した。1849年だった。
本書では、択捉島でロシア人に捕まって、シベリアに抑留され、その後種痘療法技術書を北海道に持ち帰り、翻訳されたのが1820年。幅広く種痘がなされた。北海道には種痘技術が受け継がれていた。
その若槻慧の書いた「クレオパトラ」は、牛痘なのか?天然痘なのか?を神原恵弥は追いかけていく。制約会社にとっても、大きなビジネスチャンスでもある。
H市には、小高い丘があり街が眺望でき、近くには五稜郭もある。ただし、H市は海岸に面して、山に囲まれていて、火事が起きやすい。海上からの風で火災が起こりやすい。そのことも、一つのミステリーともなる。気楽に読めて、神原恵弥の場面の切り替え方のうまさを堪能できる。