多和田葉子のレビュー一覧

  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    面白かったです。
    ホッキョクグマの3代に渡る物語。
    社会に溶け込んでる祖母、サーカスにいるけど人と会話したりする母「トスカ」、産まれたときから動物園にいて人工哺育で育つ息子「クヌート」。
    くまなんだけれど、ほっこりはしなくてなんだか哲学的。社会風刺もありました。祖母が亡命疲れしたり。
    クヌートが愛らしいけど、しみじみと考えていることはこちらも考えさせられるような事だったり、やっぱりくまだからちょっとズレていたり。
    くまの代が代わるにつれて実際に移動できる範囲は狭まったけれど、その分、思考は拡がった気がします。
    言葉選びなども面白くて不思議な世界でした。

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    2020年12月28日
  • 犬婿入り

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    表題作のつもりで読み進めていってたら全然違う作品で焦った。

    さて、解説にもあるとおり、二作品を収めたこの『犬婿入り』は「溝」がキーワードになっている。つまり境界線のことだ。

    「ペルソナ」では信頼の置ける弟の和男でさえ、主人公・道子とは合同な意見を持っているわけではない。
    特に序盤は、意識的にさまざまな国の名前が登場する。母語である日本語が、だんだんと自分の体から解離していく。日本人らしさや、外国人らしさ、といったステレオタイプには軽微な齟齬がある。同じくらい執拗に、肉の厚みについて述べられる。それもその一点が明白に羞悪な瑕瑾であるかのように。また、「ニガイ」は一貫してカタカナで表記されてい

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    2020年10月28日
  • 海に落とした名前

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    ネタバレ

    印象に残った二篇を。

    「時差」三ヶ国に離れるゲイの三角関係のお話。ゲイの気持ちに関する話は初めてだったんですが、個性ある三人の心の動きはとても気持ちよかった、みんな優しい。でも肉体の描写は辛かった。

    「海に落とした名前」航空機の事故で記憶喪失になった主人公、唯一手元に残ったレシートを手掛かりに自分を取り戻そうとする。が、落としてしまった名前、レシートの中に自分の人生がいかに表現されているかというお話のように感じました。ヘルプに現れる人たちのクセが強すぎて、ちょっと主人公へのフォーカスがずれてしまうのが残念。

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    2020年10月03日
  • 言葉と歩く日記

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    ネタバレ

    ベルリン在住で、日本語とドイツ語のニヶ国語の小説を発表している多和田さんの、"言葉"に関する日記形式のエッセイ。
    小説の中で多和田さんはよく言葉遊びを取り入れておられる。生まれてからずっと日本在住で日本語しか話さ(せ?)ない私にとって、それは新鮮で斬新で、いつもクスッと笑ってしまう。
    ドイツから見た日本、ドイツ語と比較した日本語、というように俯瞰して日本並びに日本語を観察しておられるからできる技なのだろう。特に印象深かったことをピックアップ。

    ●時代と共に日本人が遣う日本語も変化し、遣われなくなり消えていく日本語も少なからずある。実際遣っている我々は、そんなものかと時代に

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    2020年09月27日
  • かかとを失くして 三人関係 文字移植

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    これまで読んだ中でも、その独特な世界観は際立っている。
    半分過ぎた辺りで本が行方不明に。
    見つけ出す前に他の本を読み始める。

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    2020年09月26日
  • 言葉と歩く日記

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    ノーベル文学賞候補ベルリン在住多和田葉子さん。ドイツ語圏、日本、英語圏などを言葉とともに旅するエッセイ。ドイツ語で表す日本語とのニュアンスの違い。日本語で考える日本人にグローバルな思考とは何かを問う。

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    2020年09月09日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    多和田葉子(1960年~)氏は、早大文学部ロシア語学科卒業後、ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社し、ハンブルク大学大学院修士課程を修了。1982~2006年ハンブルク、2006年~ベルリン在住。1987年にドイツで2ヶ国語の詩集を出版してデビュー。チューリッヒ大学大学院博士課程(ドイツ文学)修了。ドイツ語でも20冊以上の著作を出版し、それらはフランス語、英語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、スウェーデン語、中国語、韓国語などにも翻訳されている、本格的なバイリンガル作家。1993年に芥川賞、2016年にはドイツの有力な文学賞クライスト賞を受賞。今や日本人で最もノーベル文学賞に近い作家との声

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    2020年06月03日
  • 変愛小説集 日本作家編

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    タイトル通り変愛を集めた短編集。

    「お、おう、そんなところに」「そんなのと」「え、何この設定」とか本当にそれぞれ変な愛ばっかり笑

    吉田篤弘目当てだけど、電球交換士が出てきていたとは。

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    2020年04月16日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    “川、湖、滝など、水の見える場所にすわっていると喉につかえていたものが流れて楽になる。”(p.171)


    “子供は親のすべての表情、仕草、言葉を解釈できないままに記憶し、夜空のように肩に背負って歩いていく。”(p.206)

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    2020年01月31日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    ベルリンの街並みと多和田葉子の想像力、言語力がゆるやかに化学反応を起こしながら散歩はどこまでも続いていく。散歩しながら思索する人は多いだろうけど、そんな人たちの頭の中を多和田仕様で覗かせてもらったような気持ち。気取らず朗らかに、足取り軽く彼女はゴドーを待っている。


    散歩に出たくなるけれど、ただ同じ道を歩いても多和田葉子が拾い上げる要素の数は誰とも比較にならないように感じる。そしてわたしもこの本で、かつて歩いたことのあるベルリンの記憶を辿る。
    ベルリン以外には住みたくない、本当にそう思ったことがあった。
    そうだったよ、わたしも、もう一度ベルリンに行きたい。

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    2020年01月13日
  • 犬婿入り

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    これが多和田葉子の世界、という短編2編。

    純文学はその作家の個性がわかると、あるいは立ち上がってくるものがわかるとなかなか面白いものです。芥川賞の「犬婿入り」の雰囲気もそうですが「ペルソナ」の方はその入り口という感じでしたから、より理解しやすかったですね。

    「ペルソナ」は作者の分身のような道子さんの、ドイツ留学における生活のもろもろの遭遇と心模様を描いています。移民を認めているドイツには様々人種が集まっている。わたしたちがヨーロッパの人種を判別しがたいように、自分たち日本人や韓国人、中国人を東アジア人としてまとめられる経験をする。違和感や嫌悪感を感じる人(道子さんの弟)もあるが、道子さん

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    2019年11月17日
  • 犬婿入り

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    春樹の次(寧ろ春樹以上⁉)に、ノーベル賞に近いとされる作家に初挑戦。話題の”献灯使”からとも思ったけど、とりあえず芥川賞作品から。中編2作を収録していて、表題作は後半なんだけど、なんせ前半が辛かった。『~った』がひたすら多用される文章の意図も何となくは分かるし、人種問題も理解はできるんだけど、物語としての魅力が…。表題作も、唐突に犬婿が入ってきたり出ていったりで、実際問題良くは分からんのだけど、何となくおかしみはあってまだ良かった。

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    2019年09月30日
  • 変愛小説集 日本作家編

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    「恋愛」ではなく「変愛」…変わった形の愛が描かれたアンソロジーです。
    面白かったです。
    ディストピア文学が大好きなので、「形見」が好きでした。工場で作られる動物由来の子ども、も気になりますが、主人公の子どもがもう50人くらいいるのも気になりました。色々と考えてしまいます。
    「藁の夫」「逆毛のトメ」「クエルボ」も良かったです。藁の夫を燃やす妄想をしたり。クエルボはラストは本当に名の通りにカラスになったのだろうか。。
    多和田葉子、村田沙耶香、吉田篤弘は再読でしたがやっぱり良いです。
    岸本佐知子さんのセンス好きです。単行本から、木下古栗さんの作品だけ再録されなかったようですが。
    表紙の感じに既視感が

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    2019年08月30日
  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    自伝を書く祖母、サーカスで活躍する母、動物園の人気者となる息子、ソ連やドイツを舞台に描いたホッキョクグマの三代にわたる物語。

    さまざまな動物が人間に混じって生活する世界で、語り手はクマという設定ではあるけれど、お手軽なファンタジーではない。
    クマの視点だからこそ見えてくる本質、たとえば政治や社会に対する批判やホモサピエンスとしての人間の愚かさなどが、素朴でユーモラスな口調で語られる。それらは哲学的で深みのあるまっすぐな言葉で、ときには愉快にときには哀しく響いてくる。
    『献灯使』で知った作者の魅力をもっと知りたくて手に取ったのだが、ドイツ在住ということもあるのか独特の感性がおもしろく、さらにほ

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    2019年06月22日
  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    不思議な物語でした。
    解説を読むと実は登場するシロクマたちは実在するとありました。
    シロクマが小説を書くんです。シュールだけどなぜかやめられない不思議な魔力というようなもののある小説でした。

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    2019年03月21日
  • 尼僧とキューピッドの弓

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    普段自分の読むようなジャンルではないけれど、講談社企画の「乃木坂文庫」で鈴木絢音ちゃんが紹介していた本だったので購入して読みました。
    明確なオチはないのですがその時代の情景や人間関係が分かりやすく書かれていてたまにはこういうのもいいなって思いました。
    もっと凝らして読めばまた違う感じ取り方があるんだろうとは思います。自分に感じ取れたかは微妙です。

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    2019年02月04日
  • 犬婿入り

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    ネタバレ

    人は自分と共通点のある似通った人とは仲間になりたがるけれど、ちょっとでも異なる人とは区別したがる。
    生まれた国や言語、文化、風貌、立ち振舞い等あらゆる基準により自分とは異なる者を「異物」と見なし排除し、時に攻撃する。
    まるで多数決で多い方が正義となるかのように。
    『ペルソナ』でのドイツに住む日本人・道子に対して、表情が乏しく何を考えているのか分からない、と言って傷付けたり、表題作の風変わりな塾教師に対して母親達が無責任な噂話を広めたり。

    個人的には芥川賞受賞作の表題作より『ペルソナ』(これも芥川賞候補作)が好き。
    道子が日本人の顔になるために化粧をする姿(素顔ではベトナム人に間違えられるため

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    2018年11月25日
  • ヒナギクのお茶の場合

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    ネタバレ

    多和田さんの自由な文体が相変わらず面白い。
    「電車に乗っていると、どうして電車なんかに乗っているのだろうと思ってしまう」
    出だしから笑った。
    静かなトーンの話からクスッと笑える軽快な話、と多和田さんの引き出しの多さが伺える短編集。
    「枕から枕へ、今夜見る夢から明日の夜見る夢へ」とあるように、多和田さんに夢の世界に誘われたかのようにふわふわした余韻が漂う。

    特に『目星の花ちろめいて』『所有者のパスワード』が好き。
    『目星…』は多和田さんの紡ぐ詩のような言葉遊びが心地好く、続きが気になる終わり方でもっと読んでいたくなる。
    『所有者の…』の姫子が夢中で読んでいた「ボクトーキタン」(永井荷風の『濹東

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    2018年11月05日
  • 言葉と歩く日記

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    ネタバレ

     『地球にちりばめられて』で知った著者。2冊目。こちらはエッセイ。

     その昔、野沢直子が一時帰国をして『笑っていいとも!』に出演したことがある(御存知と思うが、野沢直子は日本で売れた後、武者修行とばかりにアメリカに渡り、現地で伴侶を得て当時はアメリカのショービジネス界で頑張ってた。今も?なのかな?)。

     その時、「今、日本って、なんでも2文字で言っちゃうんですねー」と驚いていた。何のことかと思ったら、「早い」「遅い」「長い」などが、「はやっ!」「おそっ!」「ながっ!」っとなっていると。
     全然気づかずにそうした表現を使ってたけど、そうかー、久しぶりに海外から日本に戻ってくると、そういう違い

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    2018年10月30日
  • 変愛小説集 日本作家編

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    いくつか読んだことがある作品も収録されていましたが、今までの愛に対する見方を思いっきり揺さぶられる一冊であることは間違いなし。
    どれもこれもお勧め?
    「韋駄天どこまでも」は漢字遊びの要素なので、編者も書いているように翻訳は超絶技巧が必要だなぁ。
    単行本にしか収録されていない作品があるそうなので、単行本も読まねば。

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    2018年07月21日