狐に摘まれたようなとはこの読後感にピッタリの感想だろう。物語があるわけではないが、作品ごとに読者である私が受け取り紡ぐ、あるいは想起される出来事が不思議と湧き起こる。ここまで読者に意図的に委ねられている小説は初めて出会ったと思う。
特に今の自分に印象深いのは、「肉と夫」の夫への諦観と突き放し、「私
...続きを読むたちの優しさ」の夫の矮小さ、甲斐性なさ、「グレン・グルード」の妻の焦燥感、輝かしい過去への憧憬といったところかな。自分の心情や状況にリンクしてしまう。
読む年代や置かれている状況によって一番刺さる作品は違ってくるに違いない、それほどまでに懐の広い作品群になっている。たった数ページで人間、社会の本質をつくを一文に出会ったらかと思ったら、幻想のように脳裏を掠めていく。去年他の短編小説も白水Uブックスで刊行されているとな。手に取るしかないとな。