多和田葉子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『地球にちりばめられて』、『星に仄めかされて』に続くシリーズ最終巻。今回の御一行はコペンハーゲンから日本を目指し、船に乗ってバルト海を東へ向かう(そんな航路では日本へはたどり着かないのだが、なぜかそういうことになっている)。旅の中で色々と謎の人々が登場し、物語はますます不可思議な方向に。これ、本当にこれで完結?
三部作を通して、つかめるところが沢山あるのに全体としてはつかみどころのないような、妙な読書体験だった。
登場人物たちは癖の強いキャラクターばかりで、傍にいるようなリアリティがある。一方で、それぞれ「自分語り」が挿入されているにもかかわらず、全体としては何を考えているのか分からない。語られるエピソードには様々な寓意や風刺が込められているようにも見えるのだが、強く主張はしてこない(言語、異文化、歴史、環境問題、ジェンダーなど、色々な問題を考える機会を与えてくれるのは確かだ)。そして、ストーリー上、大小様々な謎が埋め込まれているのだが、明確な答えもない。
しかし、このすっきりしない感じこそが、実はそのまま人間の現実ではないか。荒唐無稽ともいえるこの物語に、妙な安心感を感じてしまうのは、これがデフォルメされた「日常」だからなのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
物語の日本はどんな世界なのだろうと
不思議な気持ちで読み進めていました
老人がとても元気
子供たちは虚弱 精神は老成している
鎖国政策をとる日本
民営化される政府
ありがとう の言葉が死語になっている
仮設住宅や汚染という言葉から
どうやら大災害後の日本で社会の仕組みや価値観が
大きく変革したらしいことがわかってきます
日本の今の社会に見え隠れしている不穏さに
得体の知れない漠然とした不安を
抱くことがあるけれど
物語の世界に触れたことで不穏さの輪郭がくっきり見えてきました
今 自分が馴染んでいる価値観や世の中が
本当に正しいの?
それで良いの?
このままで良いの?
真っ直ぐこちらを見据えている表紙の
ハシビロコウの眼差しに
問い詰められている気がして
居た堪れなくなりました
せめて怒りだけは忘れないように
主人公の老人 義郎のように -
Posted by ブクログ
著者自身と思われる若い日本人女性が、西ドイツのハンブルクにある書籍取次会社で「研修生」として働く日常が淡々と描かれている。
大きな起伏も、回収すべき伏線も、ましてや劇的な結末もない滞在記(しかも500ページ超)なのに、なぜページを捲る手が止まらず、読み終わってしまうことをこんなに惜しむのか、よく理解できない。
ひとつあるとすれば、1980年代というインターネットもSNSもなかった時代に異国に身を置き、異なる言語、異なる文化にどっぷり浸かる体感や、それが及ぼす心身の変化がリアルに感じられるからかもしれない。
著者が病的に「小説を書きたい」と思い立つ場面はグッとくる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ多和田葉子を初めて読む。
言葉はこんなにも存在に食い込んでいるのか。
自己の存在を考えるとき、恋愛や記憶、国家や生まれた土地が脳裏によぎるが、この作品にはそれらよりも色濃く、言語という明瞭なテーマがある。
正直、こんなに簡単に出来事が展開してよいのか?という思いはある。
ただ、以下に述べる内容は小説世界を純粋な表現空間に仕立て上げている。たどたどしい会話、人物の精神に深入りしない淡々とした一人称の文。関心に従って、あるいは成り行きに従った即時的な展開。その中で、移動に向かうことで前向きに保たれるゆるやかな連帯。近代的な1つの完成を目指すのではなく、その時々を一緒に生きる。健全な現代のつながり方が提示されている。
クヌートの母という、近代的な「物語」から逃れられない存在。Susanooという近代的な「物語」から脱落した存在。今を生きるHirukoたちの旅は近代的な「物語」とも向き合って、きっとその人たちの世界も揺さぶるだろう。
次作も読まざるを得ない。 -
Posted by ブクログ
私にとって文学は、自分の感受性を鍛えてくれるもの。
一読するだけでは説明の列挙でつまらないと感じてしまうが、解説や他者の感想を読むと、現実社会とのメタファーに気付けたり、「そういう意味だったのか」「この文章を読んでそういう風に感じる人がいるのか」と、自分の発想に無いもので予想もしていない角度から殴られる感覚が気持ちいい。
この本は年齢や立場、読む時の自分の心情、誰に感情移入するか等で印象がガラッと変わる作品。
読み手が「虫」を「病気」「無職」「介護」「鬱」「依存」...何に置き換えるか。
物語の根幹である「虫」について「どんな虫なのか」「どうして虫になってしまったのか」あえて説明しないことで読み手に物語を委ねる「説明しない美学」が美しい作品。
「ブラック企業・社畜」
グレゴールは両親の借金を肩代わりし、自分の時間を犠牲にして五年間で一度も仕事を休むことなく働く献身的な人。しかし、「虫=病気=無職」になり、働けなくなった瞬間に価値を失い、家族に疎ましく思われる存在になってしまう。
「介護・ヤングケアラー・障害」
家族の誰かが意思疎通もできない状態になってしまっても、大切な人のために身の回りの世話をしなくては、という気持ちと、この人がいなくなった方が残された家族は身体的・経済的にも幸せなのではないかという葛藤。本当に辛いのは、「虫になったこと」ではなく「家族が徐々に冷たくなっていく過程」
「鬱病・メンタル不調・偏頭痛・理由なく朝起きられない人・引きこもり・依存症・社会的・性的少数派」
理解されにくい持病や、多くの人が当たり前にできることが当たり前でない人、説明できない苦しさ、理解されにくく、本人の意思でどうにもできない苦しみの投影。
タイトルの『変身』はザムザ? それとも家族? -
Posted by ブクログ
難解でうまく入り込めず挫折してたけど、久々に最初から読み返したら面白くて一気に読んだ。前回はタイミングが合わなかったのか、初読だから内容が入ってこなかったのか?たぶん曖昧さや余韻を楽しむ作品。
不思議な構成で最初は混乱。できるだけ前提知識は抜きで読むのがおすすめ!というコメントを見て読んだけど、曖昧さに耐えながら読み進めていくような感じ。哲学っぽいことや歴史とか社会問題が読みやすく落とし込まれているような。よくわからないなりに★5寄りの★4。
疑問点も多くいつか読み返したい。たとえば第3章のミヒャエルは幽霊だったってこと?とか。すぐに出てこないけど他にも色々。
解説の最後の一文でしっかり締められてる感じがまたよい。
〜〜
88頁“どうしよう。イッカクになってしまった。“の部分がシュール&唐突でウケた。あともう1箇所似たような笑いのポイントがあったのにメモし忘れた。 -
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500ページを越えるぶ厚い本を手に取り表紙をめくる。2段組みでないことに少し安堵の気持ちをおぼえ読み始めた。文章は平易な表現で、読みやすいリズム感がある。比喩の巧みさも含め、若いころに読んでいた開高健さんを思い出した。
主人公はドイツの出版取次会社に研修生として働き、公私を含めた日常を淡々と書き綴っていく。我々の生活に時間の区切りがないことと同様に、全編章立てもなく書き綴られる。淡々と、連綿と。
研修生として転々と業務が変わる様子、職場ごとの人間関係、帰宅すると現れる友人たちや家主さんたちとの関係。人間の内側を伺いながら同じような日常が繰り返し描写されていく。同じような日常の中で気づく小さな変化や感じたことが、言葉に置き換えられて表現され、読み手の心に共感が拡がる。改めて優れた表現とは優れた比喩であると感じさせられる。
著者は1960年生まれで、本作品の舞台は1980年代だ。時々物語の中で “当時は”と表現され、現在の著者の目線が入る。それは、『当時タバコとアルコールを摂りすぎると長じて食道がんになる可能性が高いことを、誰も教えてくれなかった』と60代を迎えた当時の友人らとの関係性が持続していることが表現されている。もちろん研修生として一時滞在の予定だった著者が、そのままドイツに住み続けている事実の隠喩でもある。
1964年生まれである読み手の僕は、本作と同年代の日本の空気感を知っており、著者が彼の地で感じたギャップを、多少なりとも理解しやすい年代だと思っている。終盤、労働組合の集会の描写もまた印象的だった。新鮮な異文化体験の中にいろいろな気づきがあり、良い読書体験だったと思う。 -
Posted by ブクログ
文字の羅列が意味を成し、眺めるともなくそれを見ていると、不意に情景が立ち上がる。すると集中力が増してくる。集中力は、集中力を呼び、やがて文字の羅列は、文章であるのだと理解する。読み耽るといった表現がそのまま当てはまるのは、こういうことだな、と確信を持つ。客観的に僕自身を眺める感覚。それがつまり、僕の読書だ。思う存分愉しめた。
言葉の意味を転がるような視線で追いかける。とても興味深い物語だった。ときに世の「哲理」を示唆するかの描写、物語の中とはいえ、はっとした。
核心に触れたかどうかは、わからない。絶えずザクザクとした手触りを感じていて、どこか不穏な気配をも感じつつ。それは言葉か。状況か。物語の背景か。
読後に訪れた、この感覚は何だろう。この本を薦めてくれた上白石萌音さんは「視界を拡げられた」と書いている。「視界」とは言い得て妙だ。ならば確かに、と腑に落ちた。
僕は自身の殻の中に閉じこもることが好きだ。そのせいで寂しい思いもするけれど、寂しいことは、そんなにいけないことなのだろうか。好きなものは好きで構わない。その上で、自分の「殻」をこじ開けてくれたような、そんな気がする物語でした。
上白石萌音さん曰く、ぜひ予備知識無くして読むように、と。僕もそれに倣い読んでみました。それゆえにこの感想文も、内容にはまったく触れていません。
なにとぞあしからず。
発見も、気づきも、ありあまる物語にて。
視界を拡げ、殻をこじ開ける力を実感していただきたく。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ言語も国籍も性別も混ぜこぜで海をゆく一行の旅の終わり。
…かと思いきや、次(?)は西から行く!ということで旅は続く。完結しなかったけれど好きな終わりです。
シベリア鉄道だと端まで行き着いてしまう、でも船なら先延ばしできる…という感覚に切なくなりました。
日本がどうなったかは仮説が語られてました。これも強烈。
死者と生者も入り乱れてくるのが面白かったです。
不勉強で誰だかわかりませんでしたが、文学史的に重要な方々なのか…
海進んでるときはいいけど、確かにどこかへ上陸しようとしたらビザ要る、と思いました。
難民って、渡航ビザどうやって取るんだろう…ググったら「難民旅行申請書」というのが日本にはありましたが外国はどうだろう?
そう思うと、EU圏内移動自由なシェンゲン協定はすごい。日本のパスポートはかなり強いらしいです