あらすじ
変てこだったりグロテスクだったり極端だったりする、究極に純度の高い愛のアンソロジー。人気作家勢揃い! ●川上弘美●多和田葉子●本谷有希子●村田沙耶香 ●吉田知子●深堀 骨●安藤桃子●吉田篤弘●小池昌代●星野智幸●津島佑子
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さまざまな形の「愛」が収められたアンソロジー。どれも一般の恋愛観からは少し外れた愛で、しかしそんな奇妙な愛こそが恋愛であるような気がする。どこか変でなきゃ恋愛なんてできないな、と感じた。
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岸本佐知子さんの編んだ書き下ろしアンソロジー、タイトルに惹かれてまず読んだ津島佑子の短編「ニューヨーク、ニューヨーク」が素晴らしかった。読みながら、読み終わってから、幾つものことを思った。
「ニューヨークのことなら、なんでもわたしに聞いて。それがトヨ子の口癖だった、という」冒頭のセンテンスを読んで、わたしも数年前の夏に数冊の本を読むことで行ったことのない「ニューヨークのことはもう分かった」と嘯いたことを思い出す。そこには彼女がニューヨークを思うのと同じように個人的で特別な理由があったのだけど。
その後に元夫と息子がこの世にいない彼女について語り合うことで明らかになり“発見”される、今まで知り得なかった「彼女の孤独や哀しみやささやかな矜持や希望」あきらめ、恨み、失望は、編者あとがきで岸本さんが書いているように「私たちみんなが心の奥に抱えているもの」なのだと思えた。少なくとも、わたしは同じようなものを抱えていた。改めてそれらを見つめることになる。さらにその語り合い、解釈を通して「なにか肝心なものが欠けた存在」では、と思いはじめる元夫、名無しの“男”の人生に自分を省みて、思い出し落ち込み、わたしも「少し涙ぐむ」。
そして、もういない人を語りあうこと、あるいは不在になったときに語られることについても考える。別の方向からの印象を聞き、ぶつかり合いすり合わされることで、新しい印象が浮かび上がる。それは勿論“正解”ではないのだけど、新たな、あなた、わたしが描き出される。何処までいっても憶測でしかないそれを、真実とその人自体だと思い込む、そうせざる得ないことは、実はとても恐ろしいことなのではと思い至る。しかし、人も含めた世界はそうやってしか捉えることが出来ないのなら、それは真摯に語られるべきだ。この小説のように。そんなことを少しこじつけて思う。とても素晴らしかったけれど、予想していなかった怖い思いもした短編小説だった。太宰治の娘だということはさっき知った。「電気馬」も読んでみたい。
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12編のアンソロジー。
どの作品も変愛の名に相応しかった。この一冊に密度濃く詰め込まれたそれぞれの変愛。愛と一口に言っても当たり前ながら1つも同じものはない。
その中でも特に好みだった2つについて書きたい。
『藁の夫』
2人の間に嫌な空気が流れる、その始まりはいつも些細なことなのだと思い出させる自然な流れだった。あんなに幸福そうだったのに、藁に火をつけることを想像させる経緯、鮮やかな紅葉にその火を連想させるところがたまらなく良かった。
『逆毛のトメ』
シニカルでリズムのいい言葉選びが癖になる。小説ってこんなに自由でいいんだと解放して楽しませてくれた。躊躇なく脳天にぶっ刺す様が爽快だし、愚かな人間の頭に邪鬼の形相のトメがいることを想像してそのコミカルさに取り憑かれる。気づけばトメのことが好きになっていた。
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タイトル通り変愛を集めた短編集。
「お、おう、そんなところに」「そんなのと」「え、何この設定」とか本当にそれぞれ変な愛ばっかり笑
吉田篤弘目当てだけど、電球交換士が出てきていたとは。
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「恋愛」ではなく「変愛」…変わった形の愛が描かれたアンソロジーです。
面白かったです。
ディストピア文学が大好きなので、「形見」が好きでした。工場で作られる動物由来の子ども、も気になりますが、主人公の子どもがもう50人くらいいるのも気になりました。色々と考えてしまいます。
「藁の夫」「逆毛のトメ」「クエルボ」も良かったです。藁の夫を燃やす妄想をしたり。クエルボはラストは本当に名の通りにカラスになったのだろうか。。
多和田葉子、村田沙耶香、吉田篤弘は再読でしたがやっぱり良いです。
岸本佐知子さんのセンス好きです。単行本から、木下古栗さんの作品だけ再録されなかったようですが。
表紙の感じに既視感が、と思ったら、多分小川洋子の「不時着する流星たち」の単行本の絵と同じ方でした。あったかいような不安になるような、好きな絵です。
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いくつか読んだことがある作品も収録されていましたが、今までの愛に対する見方を思いっきり揺さぶられる一冊であることは間違いなし。
どれもこれもお勧め?
「韋駄天どこまでも」は漢字遊びの要素なので、編者も書いているように翻訳は超絶技巧が必要だなぁ。
単行本にしか収録されていない作品があるそうなので、単行本も読まねば。
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純文学作家の発想
ひとつづつ評していく。
川上弘美。未来SF。
発想が陳腐だと思ふ。書きたいことを意識的に書いてはゐるが、予定調和的で凡庸から突き抜けない。
人間由来の人間を工場で作らず、多様な動物由来の人間どうしが結婚し合ふ未来観(近親交配によるホモ接合型を減らすためだらう)。そこでの恋愛。
厳密にいへば、人間と他種ではゲノムの相補性が少ないからありえない。遺伝子組換かもしれない。まあそこは目をつむることにしても妙だ。
未来でも入籍といふ制度は残ってゐる。人間に本能の性欲が残ってゐるんだらうけど。結婚しない人や、核家族がどうなったかも書いてない。
妙にSFが現実路線のわりには、ふはっとしてあいまいだ。雰囲気小説のたぐひか。さいきんの川上弘美には『大きな鳥にさらわれないよう』等、未来小説がある。
多和田葉子。
川上弘美より面白い。
純文学らしく突っかかる表現が冒頭から続く。生花で花の首をちょんぎるだの、乱暴な表現は筒井康隆を想起した。独特で考へ抜かれた奇妙さを意識して、多和田自身も意図しない効果が出るやうな浮揺感を狙ってゐる。言語にこだはるナショナリストぶりもあらはれて、いつもの社会諷刺もある。
全体としては普段の多和田の域をつかず離れず。
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普段、ほとんど読むことのない現代の日本人作家のアンソロジー。
興味深く読んだ。
もとは、深堀骨 の作品を読んでみたかったから手に取ったが、どれもなかなか良かった。ありそうでない話というファンタジーというか、不気味な話が多い。恋愛要素はどれも少なく見えるが、一応恋愛ものという括りらしい。
一作だけ、多和田葉子の漢字の話はすでに読んでいた。
特に印象的だったのは、
本谷由希子、迫力とリアリティと奇想天外で面白かった。
村田沙耶香、細かく書き連ねて積み上げるのがうまい。
吉田知子、多分この中で一番好きなタイプの作家。
小池昌代、切れ味がよい。
星野智幸、描写がうまい。
というかんじ。
編者は岸本佐知子。掃除婦の訳者だ。納得。
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恋愛でも偏愛でもなく、変愛。変な愛の短編集。変だけど当人たちにとっては大真面目。
幻想小説を読んでいるときみたいな、いつの間にか背後にこことは違う世界の気配がぶわっと広がって迷い込んでいくような没頭感を覚える作品が多め。
一部文章が合わなくて読みづらい作品もあったけれど、そこを乗り越えたらすいすい読めた。
形見…川上弘美さん
梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる…吉田篤弘さん
クエルボ…星野智幸さん
あたりが好み。