多和田葉子のレビュー一覧

  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    人間は想像できたことしか実現できないと何かで見聞きしたけれど、では想像できたことなら実現できるということなのだろうか。この本を読んでいるあいだじゅう、ずっとそんなことを考えていた。じぶんのなかには絶対にあり得なかった、あり得る可能性にもまったく気付かないままの物語はまさに未知で楽しかった。うつくしい冬の描写にときめき、おもいでの鮮やかさにこうべを垂れ、深く深く流れる憧れに空をあおいだ。冬場れが広がっているきょうに読み終えることができてよかった。夏の褒美が冬ならば、冬の褒美が夏なのか。一年が終わりを迎える。

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    2022年12月30日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    10の短編
    全てに出てくる「あの人」、とは何者なのか
    ドイツの通りを歩けばプラタナスの木や墓地のレリーフ、閉店したお店の写真、様々なものが葉子さんに語りかける
    孤独遊びが癖になってしまって人生の内容になってしまった
    慰められる言葉です

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    2022年12月19日
  • 献灯使

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    多和田葉子氏の著作は初めてです。「震災後文学の頂点」という売り文句に惹かれ、そのまま読過していました。

    著者はノーベル賞の時期になると村上春樹氏と共に名前が挙がる程、海外では評価されている方。私はかなりハードルを上げていましたが、それを容易く超える作品でした。1つ1つの美しい表現の洪水に感動し、その度に友人にその文を送りつけるほどです。

    私のお気に入りは大厄災に見舞われた日本列島に暮らす家族を描いた表題作『献灯使』と、人類滅亡後の世界を戯曲で描いた『動物たちのバベル』です。

    「当たり前」は「当たり前でない」ということが認識されつつある現代で、両作品は輝きを増してゆくでしょう。

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    2022年11月15日
  • 溶ける街 透ける路

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    文章の透明感に吸い込まれそうな感じ。観光では行かないような街、全く知らなかったような街が多かったのに、実際に自分も旅している気分になった。

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    2022年10月27日
  • 言葉と歩く日記

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    私は中国語と日本語の間で著者のように行ったり来たりしている。
    共感し、驚き、感激し、とにかく読み終わるのが嫌だった。

    もっともっと続きが読みたい。
    外国語の語感を通して日本語を深め、それを日本語で思考した後外国語でもう一度表現してみる。
    そういう作業を楽しんだ。

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    2022年08月22日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    ネタバレ

    エクソフォニーとは母語の外に出た状態一般を指すそう。移民ではなくとも外国語で書く人がいる。意思疎通のために独自言語として進化したというわけでもない。日本語とドイツ語で本を書く著者の母語の外を巡る紀行文であり、言葉に対するエッセイ。母語しか扱えない(それもたまに危うい)身としては、母語と外国語の狭間を生きる感覚がどういうものなのか、体感できないゆえに羨望を覚える。思索は尽きない感じがした。

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    2022年06月23日
  • 雲をつかむ話/ボルドーの義兄

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    文章は何か過剰な気がするけど、話は面白かったです。

    終盤の主人公(小説家・詩人)と友人(女医)の会話:
    「まだベルリンに帰っていなかったんですか。」「わたしも泊まります。」「その必要はありませんよ。風邪をひいただけですから。」「一人でいてはいけません。」「孤独はわたしのテーマじゃないんです。」「でも今夜は高い熱が出るかもしれません。」「高熱もわたしのテーマじゃありません。」「さっきからこれもテーマじゃない、あれもテーマじゃないって言っているけれど、それならあなたのテーマは何なんですか。」

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    2022年03月26日
  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    しろくまの話。ちょうどロシアのどこかの街にエサを求めたしろくまがたくさん来たというニュースを見た。他の人にはこんな話書けないよね。

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    2022年03月12日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    「でも、わたしにとっては負の世界に分け入っていくことの方が美味しいものを食べることよりも魅力的なのだった。」

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    2022年02月24日
  • 献灯使

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    友達にお知らせしてもらった多和田葉子の作品。
    独特な表現と底知れない不気味な感情が押し寄せてくるんだけど、惹きこまれてどんどん読み進めてしまった。
    5編あったけど、全部が表題作に結び付いていて、色んな視点から震災後、鎖国状態になった日本というものを描き出していて、とても面白かった。

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    2022年02月18日
  • 犬婿入り

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    ネタバレ

    2編収録。
    ・ペルソナ
    ドイツに姉弟で同居する道子。二人はそれぞれ留学中の身である。ドイツ中世文学をやる弟、道子はドイツ現代文学を研究中だが、成果なく、奨学金を得られなくなり細々したバイトに明け暮れている。
    自分に向けられる差別、自分以外の外国人に向けられる差別、日本人の奥さんたちと弟が持つ差別感情。道子は常にそれらを感じながら生きている。
    作者の体験から出てきた作品なのだろう。肌感覚の嫌な感じがうまく文章から伝わりゾクゾクする。

    ・犬婿入り
    面白すぎる。だが笑って済まされるものではない不穏な物語だ。民話にありがちなエロさ、不潔さ、理不尽さをきちんと備えた、しかしちゃんと現代の話である。なん

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    2022年01月01日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    フランス語がわからない著者がその環境に10日間ほどいたときの、夢の話が興味深かった。"ちょっと空気が震えただけで、泣いたり、喚き散らしたり、人を殺したくなる"という一文の凄み。ぐっとくるを通り越してなんかもう、ウッとなった(もちろんいい意味です)ここからもいい意味で、わりと怒りを感じるところに人間味を感じた。

    そのほかにもいいなあとじわじわ感じるところが多々あり、ほかの方も感想に書いてらしたけれど、多和田さんの言葉に対するこだわりや真摯さを感じられる。言葉えらびがすてきで、くり返し読みたくなる文体でした。読んでよかったです。

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    2021年12月03日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    小説だと思って読みはじめたからか最初は読みにくかった。
    小説ということだけど、小説というより多和田さんが散歩をしていて、考えていることをつらつら垂れ流しにしているエッセイという感じで、一緒にベルリンの街を、時空を、思考の中をふらふら歩いている気分になる。
    特に最初の方は、言葉遊びが樋口一葉と雰囲気が似ていて川上未映子が好きそうな感じだなと思った。
    「別宮、別宮浮かん、別空間」、「おつまず、つままず、つつましく、きつねにつままれ、つまらなくなるまで」

    ★「シーン」があるのは映画の中だけのことで、現実にはシーンなんてない。切り取ることのできない連続性の中を突っ走っていくだけだ。

    ★出逢ったかも

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    2021年12月01日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    日本語とドイツ語で創作する作家の母語をはなれることと、そこから何かを生み出すことに関するエッセイ集。

    エクソフォニーとは、母語を離れた状態を表す言葉のようだが、フォニーというところに、音楽的なニュアンスがあって、シンフォニーとか、ポリフォニーといった調和感ではないのだけど、一種の緊張感と解放性のある言葉なのかな〜。

    私たちの概念やストーリーがまさに言葉でできていることを日常的なレベル、そして文学作品を作る現場から、すらっと教えてくれる。

    そして、言語の音とか、綴りなどがもつ、呪術性というか、身体性も改めて、伝えてくる。自分の知らない意味の分からない外国語から、何らかの作品を作ってみるワー

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    2021年11月28日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    世界各地の地名をタイトルに、その土地にちなんだエッセイをまとめた第一部と、ドイツ語という言語にフォーカスしたエッセイをまとめた第二部からなりますが、個人的には多和田さんご自身の着眼点の面白さがより詰まった第二部が面白かったです。

    冒頭からずっと読んでいて、色々な単語に対する好き嫌いの記述が本書中に何度も出てくるので「やっぱり言葉に対する感性が鋭いんだな」ぐらいに思っていましたが、第二部の以下の部分を読んではっとさせられました。
    ちょっと長いですが、多和田さんの文章に対する哲学が垣間見えるとても印象的な一節なので引用させていただきます。

    『(前略)ところで、わたしは単語の好き嫌いばかり言って

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    2021年10月19日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    「わたし」は散歩をしている。読者も一緒に歩き始める。でも、あれれと思っているうちに、言葉がつるつる滑って行ったり、時間と空間がずれたり、いないはずの人が現れたり。

    短歌を作っていて時々、自分の中からひょいと意外な言葉が出てくることがある。見ている情景と自分の心とが化学変化みたいなものを起こしている時は、その感覚を逃がさないように、言葉の海でジタバタする。

    『百年の散歩』を読んでいて、そんな心の動きに似ていると思った。

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    2021年08月21日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    ベルリンに住む「わたし」は「あの人」に会うため町を歩く。勝手に名付けた人びとが語らう黒い喫茶店、ガラス越しにミシンを踏む人の姿が見える帽子屋、子どもの幽霊がお菓子をねだる自然食料品店。待ち合わせを永遠に引き延ばすかのようにさまよう「わたし」の歩みはベルリンの町に折り重なる何層もの歴史の記憶に分け入り、だんだんと浸食されてゆく。


    ざっくり言ってしまえば、散歩中の意識の流れを追っただけ、とも言える小説。だが、散歩の合間に目に入ってくる景色と、それにまつわる知識や個人的な思い出、あるいは全然関係ない心配事などが同時多発的に頭のなかをかけめぐる、あの感覚そのものを言語化したような語り口が本当に素晴

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    2021年08月20日
  • 溶ける街 透ける路

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    多和田葉子(1960年~)氏は、早大文学部ロシア語学科卒業後、ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社し、ハンブルク大学大学院修士課程を修了。1982~2006年ハンブルク、2006年~ベルリン在住。1987年にドイツで2ヶ国語の詩集を出版してデビュー。チューリッヒ大学大学院博士課程(ドイツ文学)修了。ドイツ語でも20冊以上の著作を出版し、それらはフランス語、英語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、スウェーデン語、中国語、韓国語などにも翻訳されている、本格的なバイリンガル作家。1993年に芥川賞、2016年にはドイツの有力な文学賞クライスト賞を受賞。今や日本人で最もノーベル文学賞に近い作家との声

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    2021年08月03日
  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    理屈という網の目で濾すことができない物語。なにせホッキョクグマが亡命するのだから。まさに雲をつかむような話なのに、童話ではない。視点もくるくる変わり、だれが語っているのかわからなくなる。夢想するような、例えようのない読書体験だった。

    読む都度、全然違う感想をもちそう。
    約300頁という多くない頁数の中に、何巻にも渡るような壮大な世界が凝縮されている印象を受けた。
    今回、クマの目を通して私が受けとめたのは、言葉の囚人である人間の姿。
    体温や皮膚感覚に飢え、言葉によって思考も想像力も限定される、そんな人間への憐れみを感じた。

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    2021年05月23日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    140ページに、「速く読み過ぎてはいけない」とあります。

    ケータイでスクロールしながらヤフーニュースを流し読みしているうちに、本を読むときも加速しすぎて、意味を捉えることができないことが多くなりました。目が先に行っちゃう、って感じ。

    は?

    「書くという作業は、作者とは別のからだである言語という他者との付き合いなのだ」

    「いろいろな人がいるからいろいろな声があるのではなく、一人一人の中にいろいろな声があるのである」

    204ページに、何とhard-fiのイメージがあって驚く。私のポケットにも穴が開いてるから。

    最後の「感じる意味」は何度でも戻っていきたい。感じたことを無視しちゃいけない

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    2021年04月15日