多和田葉子のレビュー一覧
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文字の羅列が意味を成し、眺めるともなくそれを見ていると、不意に情景が立ち上がる。すると集中力が増してくる。集中力は、集中力を呼び、やがて文字の羅列は、文章であるのだと理解する。読み耽るといった表現がそのまま当てはまるのは、こういうことだな、と確信を持つ。客観的に僕自身を眺める感覚。それがつまり、僕の読書だ。思う存分愉しめた。
言葉の意味を転がるような視線で追いかける。とても興味深い物語だった。ときに世の「哲理」を示唆するかの描写、物語の中とはいえ、はっとした。
核心に触れたかどうかは、わからない。絶えずザクザクとした手触りを感じていて、どこか不穏な気配をも感じつつ。それは言葉か。状況か。物語の背景か。
読後に訪れた、この感覚は何だろう。この本を薦めてくれた上白石萌音さんは「視界を拡げられた」と書いている。「視界」とは言い得て妙だ。ならば確かに、と腑に落ちた。
僕は自身の殻の中に閉じこもることが好きだ。そのせいで寂しい思いもするけれど、寂しいことは、そんなにいけないことなのだろうか。好きなものは好きで構わない。その上で、自分の「殻」をこじ開けてくれたような、そんな気がする物語でした。
上白石萌音さん曰く、ぜひ予備知識無くして読むように、と。僕もそれに倣い読んでみました。それゆえにこの感想文も、内容にはまったく触れていません。
なにとぞあしからず。
発見も、気づきも、ありあまる物語にて。
視界を拡げ、殻をこじ開ける力を実感していただきたく。 -
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ネタバレ言語も国籍も性別も混ぜこぜで海をゆく一行の旅の終わり。
…かと思いきや、次(?)は西から行く!ということで旅は続く。完結しなかったけれど好きな終わりです。
シベリア鉄道だと端まで行き着いてしまう、でも船なら先延ばしできる…という感覚に切なくなりました。
日本がどうなったかは仮説が語られてました。これも強烈。
死者と生者も入り乱れてくるのが面白かったです。
不勉強で誰だかわかりませんでしたが、文学史的に重要な方々なのか…
海進んでるときはいいけど、確かにどこかへ上陸しようとしたらビザ要る、と思いました。
難民って、渡航ビザどうやって取るんだろう…ググったら「難民旅行申請書」というのが日本にはありましたが外国はどうだろう?
そう思うと、EU圏内移動自由なシェンゲン協定はすごい。日本のパスポートはかなり強いらしいです -
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面白かった。登場人物どの人をみても変わっているんだけど、そんな人たちが集まって旅をするというのがこんなにも楽しくワクワクするなんて。最後のみんなのカオスな会話の中クヌートの母がアカッシュに向かって「あんた何なの?」アカッシュ「クヌートの恋人です、あなたは?」というのに笑ってしまった。多分ここまで読んだ方ならこの笑いをわかってくれると思うのだけど!続編の『星に仄めかされて』が楽しみ。
「薄暗い空間ならば、近くにいる人たちと薄闇の中で曖昧に結ばれている。貧しさとか日々の苦労とかを共有して。でも明るすぎる光に照らし出されたら、わたしはわたし、あなたはあなたで孤立してしまう。(以下略)」こういうものの見え方もあるっていうことを言葉にできるってすごいなと思った箇所。 -
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ネタバレ面白く読んだのに、いざ感想を書こうとするとまとまらない…まとめられない。
消滅した国の言葉を話す人を探す旅。
消滅した国を故郷に持つHirukoは、独自の言語「パンスカ」(汎スカンジナビア語)を作り出して喋っている。その言語に興味を持ったデンマークの言語学者クヌートを筆頭に、旅の仲間が増えてく……
旅のきっかけや目的がハードで、手掛かりを掴んだと思ったらそうすんなりといかず…ですが、切実さよりも光や和気藹々を感じています。今のところ、かもしれないけれど。
HirukoとSusanoo、古事記の神様から付けられてるとしたら、この先はもっと大変なことになるのかなぁ。
ナヌークが開いたHPが、しばらくしたら消えているという描写があるので、日本の消滅の理由も剣呑なものかもしれません。小川洋子さんの「密やかな結晶」のように。
文化の片鱗はあるのに、場所も名前も記憶されてないとは……アジア人の区別つかないとはいえ。
去年、友人がデンマークへ旅行し、オーデンセにも滞在したので、長いこと積んでたけれどこのタイミングで読んだことは良かった気がします。
土産話聞いてなかったら、地名でさらに「???」となってたかも。
続きも読みます。 -
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何度も言葉の濁流に飲み込まれそうになりながら、なんとかこの大海を渡り切った、と感じるような読後感。
登場人物のセリフの言い回しが独特で、洋画を小説にしたような雰囲気だな、というのが第一印象だった。
消滅した島国(日本)の謎については一切触れず、ただ「久しぶりに同郷の人に会って日本語で話してみたい」という女性を中心に、多国籍の男女がまとまっていく様子をそれぞれの視点から追っていくストーリー。
とにかく比喩表現が多くて文字もびっしりなんだけど、その比喩が的を射ていて「その発想はなかった」と驚かされるものが多く痺れた。作者の頭の中はいったいどうなっているんだろう。
なにか感動するポイントがあるわけじゃないし、登場人物に感情移入できるかといったらそんなこともない。(強いていうなら、子離れできてない母を持つクヌートの気苦労は理解できるかな、というくらい)
それなのに、次から次へとやってくる言葉の波に乗るように思わずページをめくってしまう。そんな不思議な引力のある作品だった。
ただ、いかんせん文字量が多くて明確な区切りも少ないので、読むのにけっこう体力を使う。体感的にだいぶ読み進めたと思ったけどまだ10ページしか進んでなかった、みたいなことがよくあった。
正直人に勧めやすいわけではないけど、「なんかすごいものを読んだ」という重量感がしばらく残りそう。 -
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ノーベル文学賞に近いと言われる多和田葉子。初めて読んでみた。いやはや、確かにノーベル賞に近い感じがした。国とは何か?言語とは何か?アイデンティティとは何か?を問いかける。言葉の運び方が実にうまいというか、ダジャレのような言葉の選び取り方。読みながら、なんか可笑しくなる。そうくるかとその言葉の発想がいいのだ。
まず、物語の中では、留学中のHirukoは、故郷の島国(日本)がなくなってしまっているらしい。国が失っているということが、一つのテーマだ。民族とは、共通の言語を持ち、伝統、食文化、衣服、音楽、芸術などの文化的要素、共有する歴史や生活様式を持っている。
登場する若者は、クヌート、Hiruko、アカッシュ、ノラ、テンゾつまりクヌート、Susanooの6人。
自分が何者であるか?というのは、他人があって初めて違いを見つける。その違いを容認することで価値観が多様化する。Hirukoは、語学的才能がある。自分で言語をつくる。
言語学者のクヌートは、テレビに出ているHirukoを見て、興味を持ち、テレビ局に電話して、Hirukoに会うことにした。その出会いによって、言葉を通じて、二人は理解を深める。
クヌートは、曾おじいちゃんが、左翼の北極探検家で、その名前をもらった。クヌートは、Hirukoという女性よりも、Hirukoの話す言葉に興味を持つ。クヌートは、面倒なことが嫌いで、子離れしない母親にうんざりし、言葉にエロスを感じる青年だった。
Hirukoは、ドイツのトリアの旨味フェスティバルに行く計画を持っていて、クヌートは旅が好きではないが、Hirukoの行くところについていきたかった。コペンハーゲンから二人は一緒にドイツに向かった。アカッシュは、インド人でドイツでガイドをしていて、性の引越しをした人(この表現がいい)だった。赤色系サリーを着ている。たまたまアカッシュはルクセンブルグ空港で、二人に出会い、クヌートに一目惚れする。
日本人、デンマーク人、インド人が、ドイツの空港で出会って、友達になる。不思議な縁でつながり、「出汁」に興味を持つ。その出汁が、テンゾという若者が作っている。テンゾは、日本語では禅寺で食事の世話をする役職の名前だ。漢字では「典座(テンゾ)」である。こういう名前を持ってくることに著者の企みがある。
テンゾは、実はグリーンランドのエスキモー人で、医者になろうとして、コペンハーゲンに来ている若者だった。日本では寿司が有名で、テンゾはドイツで寿司職人の手伝いをして、出汁に興味を持ったのだ。旨味フェスティバルがあり、そこでテンゾは出汁でチャレンジする予定だった。そして、テンゾがエスキモー人だとわかって、ドイツで寿司を伝えたSusanooが行ったフランスのアルルに向かうのだった。
こうやって、一人一人を説明していると実に多様な国の人たちが絡み合い、コミュニケーションをして、互いを認めあい、そこにクヌートの母親も登場して、言語学の話題が広がっていく。とにかく、日本の小説の狭い空間から、飛び出したはみ出者たちの物語だ。よくぞここまでの編集能力があると感心した。多和田葉子の多言語世界とそれぞれの国の特徴、言葉のつながりが実に痛快である。 -
Posted by ブクログ
『雲をつかむ話』ではまさに雲をつかむようでつかめないようなそんなお話だった。しかも数々のエピソードは作者の経験談が多く入っているというのだから驚いた。そして言語というものに対してとても追求する感じなんだなと―初めて多和田葉子の小説を読んだけどーそう感じた。あとは普段は流してしまいそうな物事の意味や疑問みたいなものを小説内に入れていくのも個人的には好きだ。
例えば「雲たちはまるで日が暮れる前に家に帰ろうと急いででもいるかのように夕空を目に見える速さで移動して行く。雲たちは夜、どこで眠るのだろう。」
「箸は二本で筆は一本、と言う人がいる。だから物書きは食費の半額しか稼げない。でも、もし二本の鉛筆を持って、同時にものを書いたらどうなるだろう。左手は左から右へ、右手は右から左へ。両手は中央で交わり、また離れて行く。」など。
あとは解説が非常にわかりやすくてとても良かった。