多和田葉子のレビュー一覧

  • 聖女伝説

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    謎の男・鶯谷が頻繁に出入りする家で両親と共に暮らす少女の目を通して、猥雑で不可解な世界を生き延びていく少女小説。


    既読の二作(『百年の散歩』と『献灯使』)に比べ、フェミニズム的なテーマがわかりやすく示された作品。「獣姦」とか「精液」とかいう単語がでてくるのに語り手の年齢が九歳と言われてびっくりするのだが、その精神性はほとんど変わらないままいつのまにか十八歳まで時が飛んでいる。幼児からとっとと少女になることを求められ、”成人”になることは求められないという社会的な性役割を表しているかのよう。女は聖人になれないのか、「聖人の母」にしかなれないのか、という問いはそこにもかかっていたりするのかな。

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    2023年10月27日
  • 白鶴亮翅

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    ストーリーらしいストーリーは無くて日常を描いてるんだけど面白い。
    もっと長く読んでいたくなるような作品。

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    2023年09月24日
  • 白鶴亮翅

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    多和田さんにはずいぶん昔に『犬婿入り』を読み異世界を覗かせてもらった。それから2、3回手にしてきたが途中で撃沈し続けている。でも何故かシンパシーを感じる作家さんなので、傷が癒えた頃に(笑)読みたくなる。努力の甲斐があって今回は見事に当たった!
    夫の留学先に付いていった主人公・美砂が顔立ちまで変わり人気者になり引っ張りだことなるのに比し、旦那の精彩が日毎に欠けていくのが面白い。
    夫は日本へ帰国し(離婚?)たが、ミサはベルリンで一人暮らしを始めた。隣人Mさんに誘われて太極拳学校へ通い、右腕を力強く上げる技「白鶴亮翅」を習う。「白鶴亮翅」とは、太極拳の技法の一つで、白鶴が翼をパッと広げる様子に似てい

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    2023年09月22日
  • 白鶴亮翅

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    初めて多和田葉子の本を読む。
    ノーベル文学賞候補と言われているし、純文学系の賞を軒並み受賞しているので、難解なものを想像していた。
    ストーリーらしいストーリーがないが、案外楽しく読める。
    著者自身の日常生活をかなり盛り込んであるのでは?と思いながら読んだ。

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    2023年09月17日
  • 白鶴亮翅

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    ネタバレ

    夫と別れて翻訳をしながら一人ベルリンで暮らす美砂.隣人のM,後学校時代の友人,大極拳で知り合ったロシア人や菓子職人などとの交流も含めて日記の延長のような小説.
    翻訳中のクライストの『ロカルノの女乞食』や映画「楢山節考」,東プロイセン人のMさんからプルーセン人へと思考はどんどん広がり発展し深まっていく.大極拳との相性もピッタリ.

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    2023年08月29日
  • 地球にちりばめられて

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    復言語の世界はこんな感じになるのかなと思いながら読んだ。変化し続けるパンスカ語に惹かれたけれど、自分たちのことばも実はいる場所合う人とともに変化するものだと気づいた。

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    2023年08月14日
  • 百年の散歩(新潮文庫)

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    最近ふとしたことからドイツ語に興味を持ち、特に「名詞に性がある」というドイツ語の特徴になんとなく気になるものを感じていました。とりわけ「ややこしそうな文法ルール」として。

    そんな中、個人的に惹きつけられた本書の一場面が、ドイツ語文法に怒りを込めて文句を言うアメリカ人と思われる女性に対し、主人公の「わたし」が
    『「性を失った英語の方がよっぽどステューピッドでしょ」と言い返してやりたくなった。』
    と心の中で反発する場面でした。

    真実がどうかはさておき、「言葉というものには元々性があって、英語はその性を失ってしまった言語なのだ」というものの見方は、自分の中に新しい視点を与えてくれたように思います

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    2023年08月11日
  • エクソフォニー 母語の外へ出る旅

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    「エクソフォニー(exophony)」
    聞き慣れない言葉だが、「母語の外に出た状態一般」、そして「母語以外の言語で文学を書く現象」を意味するらしい。

    日本語とドイツ語で創作活動を続けてきた著者の多和田葉子さん。

    様々な言語文化と接する中で見えてきたもの、感じたことを鋭い洞察力で文字に起こしている。異なる言語の視点を持つことで、日本語を客観的に見る機会が得られることに気付かされる。
    ドイツ語の言葉遊びも面白い。

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    2023年07月31日
  • 献灯使

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    終末期の淵に立たされた世界の中で、生きる力をすでに見失った子ども達と相反して現実世界を生き抜こうとする老人達。
    表現というのはこんなにも多様なのかと驚いた。
    読み終わった後に私自信がこの小説の言葉や世界から抜け出せなくなりました。

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    2023年07月27日
  • 白鶴亮翅

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    初めての作家のハードカバーブック。
    なぜ読んだかというと、今まさに私は太極拳を習い始めて3年目。

    この主人公は、夫の仕事のためにドイツに移り住んだが、本人は気に入りずっと暮らしていたいと感じる。
    そして、日本よりも伸び伸びと生きている自分を発見するのだ。仕事は翻訳家。

    2度目の引越しで、バラの美しい隣家の住人高齢のM氏と出会う。

    コーヒーを飲みながらのおしゃべりで、国と自分の中の所属性、ところが変われば迫害の加害者、被害者となる歴史を感じる。

    日本で暮らしていた時には感じなかった、さまざまな国を背景とする人間たちのそれぞれの幸せと不幸。

    立場が変われば、見る人が変われば歴史はかわり、

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    2023年07月12日
  • 尼僧とキューピッドの弓

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    中世から続く修道院、尼僧といったモチーフから想起されるものと作中で語られる現代的な尼僧らの生活や価値観のぶつかり合いに、読みながら知的興奮を覚える。
    ルポ的ですらある前半と、ある一面からの答えをくれる後半の読み口の違いもたまらない。

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    2023年07月03日
  • 白鶴亮翅

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    小説というものは、始まりがあって終わりがある、登場人物たちにとっての何かの出来事があって、物語(小説)のラストではその出来事が丸く収まるものだ(ハッピーエンドであろうとそうでなかろうと)と、自分はこれまでなんとなく思いこんできたのだなぁ。

    この小説を読み終わって、ベルリンに住んでいる人たちのある期間の出来事をたまたまそこだけ目にしたんだなー、という不思議な気分になった。

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    2023年06月29日
  • 私たちはどう生きるか コロナ後の世界を語る2

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    金田一秀穂さんは
    日本語は緊急事態に向かないと言う

    緊急事態を宣言します、には
    本当に緊急事態なの?

    緊急事態宣言を発出します、だと
    ああそうですかとどこか他人事

    日本語の得意は落とし所を探す事

    ロックダウンより20時閉店
    和を持って貴しとなす、それでいい

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    2023年06月27日
  • 白鶴亮翅

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    ベルリンで暮らす美砂は、結婚してからこちらで暮らし始めてもっとここで住んでいたいという気持ちで、夫だけが日本へ帰ることに…。
    ひとり暮らしになり、隣人のMさんと交流をもつことで、第二次世界大戦前後のドイツと日本の歴史や民族について興味を持つ。
    Mさんに誘われた太極拳学校でもいろんな人と関わる。

    美砂は、人づきあいが良さそうに見えて、でもクールな感じもする女性で文学を愛するようでいながらもちょっと違うかも…と不思議であり、でも気にはなり年齢もあきらかにしていないからよくわからないのである。
    だが、さらさらと読み進めても不快さは感じない。
    家電が関西弁で喋ってくるし、言い返しているし…とわけがわ

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    2023年06月19日
  • 犬婿入り

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    『ペルソナ』も『犬婿入り』も面白かった。
    多和田葉子さん自体、初めてだったけれどとても読みやすくあっという間に読んでしまった。

    あれは何かを意味していてとか、あれはそういうことで等、難しい解釈は分からない。
    ただ私が読んでいて好きだなぁと思ったのは、ペルソナにしても犬婿入りにしても主人公の女性が周りで起こっている変な事の割に、妙に現実的な考え方や過ごし方をしているところだ。
    周りが全部おかしくて、主人公だけが現実のような。不思議の国のアリスのようなところが初心者読者の私も取り残されず楽しめた。

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    2023年05月30日
  • 犬婿入り

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     「ペルソナ」と「犬婿入り」の2作品で「犬婿入り」の方が好きだった。
     2作ともギリギリのギリギリで破綻しない奇妙な状況や雰囲気が終始続いて、最後には堰を切ったように破局を迎える。その感じがすごく良かった。特に犬婿入りの方はホラーみたいな不気味さがあるけど奇妙さに親しみの持てる感じが良かった。

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    2023年05月08日
  • パウル・ツェランと中国の天使

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    短い作品ではあるが注釈を読まないとパウルツェランのエッセンスは到底わからない(個人差はありますが)と思う。私は詩を人生で堪能してきた人間ではないから、彼に触れるのはお薦めしないとご提言をいただいた反駁で手に取ったわけであるが、間テクスト性満ち溢れた本作はより彼について知りたいと思わせ、同時に多和田葉子という作家が積み上げてきたエクソフォニーを体感できるようなそんな作品だった。彼女の作品を関口さんが翻訳する。日本人のかいたドイツ語文学を日本人が翻訳する?不思議な試みだなと当初考えてはいたものの、同じ人間でも異なる言語に身をおいてみれば織り成す内容も形式も変わってくる。まさに「世界は言語によって構

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    2023年04月11日
  • 犬婿入り

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    この作家の特徴でしょうか?
    文章がとても長い。1つの文章にたくさんの情報が入っている。
    「ペルソナ」も芥川賞の「犬婿入り」も間なのか溝なのかを書いてあるんだな?と思いました。
    「ペルソナ」の最後にどちらでもない自分になった道子はその後どんな人生を送ったんだろうか?
    「犬婿入り」は本人たちとその周りの人たちのギャップが面白かったです。

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    2023年03月26日
  • 雪の練習生(新潮文庫)

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    ホッキョクグマの3代にわたる物語。3つの中編からなる。
    サーカスの花形クマが自伝を書き、オットセイの出版社の雑誌に連載。
    その娘のトスカはバレエ学校を出るが舞台に出してもらえない。そこへサーカスから声がかかり、女性調教師のウルズラと出会う。トスカとウルズラは伝説の舞台を作り上げる。
    さらにその息子のクヌートは育児放棄により、人間に育てられる。育ててくれたのはマティアスという男性。クヌートは地球温暖化による北極の環境破壊を止めるための広告塔としての役割を求められていた。クヌートがミルクを飲んで満腹になると眠くて寝てしまうシーンは本当に可愛い♡
    ソビエト連邦がまだある時代から現代までをカバーする背

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    2023年04月04日
  • 献灯使

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    ネタバレ

    これまでに読んだ多和田葉子の本は
    『犬婿入り』
    『ゴットハルト鉄道』
    『ヒナギクのお茶の場合/ 海に落とした名前』
    ファンタジー成分が多いけれど、わりと女性である作者に近い感覚の作品群だと思っていた。

    本書『献灯使』は5つの作品を含む短編集。
    視野が広がったためなのか、女の子っぽいところはなくなっている。
    フクシマ以後の核汚染の怖れを濃厚に映し、現代社会への風刺に満ち満ちている。

    『韋駄天どこまでも』が唯一ひとりの女性が主人公でその内面を書いているのだけれど、その視点はものすごく遠く高くにあるように感じられる。この作品は漢字をゴシック体で読者の目につくようにしかけ、漢字のダジャレのような遊

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    2022年11月10日