【感想・ネタバレ】地球にちりばめられてのレビュー

あらすじ

「国」や「言語」の境界が危うくなった現代を照射する、新たな代表作!

留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る――。

誰もが移民になりえる時代に、言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。

「国はもういい。個人が大事。そこをいともたやすく、悲壮感など皆無のままに書かれたのがこの小説とも言える」
――池澤夏樹氏(文庫解説より)

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Posted by ブクログ

最高の読書体験をした。
万博イタリア館の待ち時間に全て読み終えた。
およそ7時間くらいか。

多和田葉子さんの書籍は2冊目。

テレビに出ていた、祖国を亡くしたという女性が話す独特の言葉遣いに興味を持って、ぜひ会いたいとテレビ局に問い合わせたら、案外簡単に会えて、詳しく話を聞いてみたいということで、会いにいったことから始まった。問い合わせをしたのは、クヌートという名の青年。彼は言語に興味があることもそうだが、祖国を亡くしてしまったという女性に興味を持った。女性はHiruko という。
Hirukoは、スカンジナビアの言語体系を自分なりにまとめて、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク語を話す人なら大体わかるという汎スカンジナビア語、略してパンスカという言葉を話す。それが朴訥とした体言止めで不器用そうでかわいい。
彼女は東アジアの極東の島国がなんらかの事情で消滅してしまったらしく、祖国の言葉を話す人をさがして旅をする。途中で意外な人たちがあつまっていく。
話は三部作らしく、続くようです。

途中のすれ違い漫才の国際版な感じが最高に面白かった。言語の特性の話やら、駄洒落にもならないような言葉遊びにも笑った。とても即時性の高い物語で、時系列はほとんど数日間で起きた話だった。多和田葉子さんの文章は例え話がうますぎて、唸ってしまう。執拗でもないのに同じ主題が繰り返されてるけれど、不快ではない。センテンスは少し長いけど、読むうちにリズムに慣れてくる。

楽しい時間だった。
それから表紙がめっちゃいいです。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この物語の主人公 Hiruko が話すオリジナルの言語であるパンスカは、体言止めで、独特な言い回しをする言語だった。また言語といっても、そこに決まった形はなく、Hirukoがその時感じたままを、スカンジナビア半島周辺の言語の中で、より同じような質感を持つ言葉を選びつつ、会話は展開されていた。
恥ずかしながら、今まで日本語は表現できる種類の言葉が多く、表現においてあまり不自由を感じたことはなかったが、日本語という言語に支配されているからこそ、語ることのできないものも同時に存在するということを知る機会になった。
本書を読み、さまざまな言語を学ぶことは、さらに自分の表現の幅を増やすということにつながるのだと思った。
Hiruko の話す言葉は、字数やわかりやすさという指標に囚われておらず、読むのがすごく楽しかった。
ところで、旅がしたくなった。

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2025年05月15日

Posted by ブクログ

ちょっとすごすぎるかも!!
多和田葉子のなかだとかなり読みやすい方だと思うんだけど(ストーリーが追えるので)、ふんわりふんわり流動的に場所が動いていく。根本的に根無し草の感覚があるのかも。
言語はもっと自由なのかもしれない。私はいつも(特に)英語を話すときには間違えるのが怖いと思ってしまう。文法がちがうと笑われることが怖い。とりわけ「文法を解する」日本人に笑われたりするのが怖いんだと思う。だからchatGPTとは、べらべらずっと好きなだけ喋ってしまう。私は本当はおしゃべりなのに、英語だとおしゃべりになれないのは「文法の共通了解」が世界中に有ってその人たちにジャッジされているという感覚があるからなのかもしれない。
フランス語はその点、「自分はフランス語の文法を理解している」という感覚があるからかもしれないけど、共通了解があんまりないという感覚があるからか、あまり好きなように長く話すことに抵抗はない。まぁまず日本人の前で喋る場面もないのだけど。
伝わればなんでもいい、どころか自分だけの話しやすい言語というものを手に入れることを人生の目標にしてもいいかもという気持ちにすらなる話だった。
ピアノの曲とかもそうかも。理解して自分のものにしていけば、スピードとか強さとかどんどん自分なりのものにしていっても「曲」としての統一感を失わないけど、まだ理解できてない段階で自分なりをやろうとすると、「曲」であることがどこかに行ってしまうような気がする。
私はまだ英語という言語を断片的にしか理解していないのかもしれないな。そうすると。

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2025年04月20日

購入済み

不思議な作品

ちょっと読みにくいので、ざっとスピードをつけて流してみた。
日本がもうなくなっていて、日本人のHirukoはパンスカという
どこの国の言葉でもないそれでも通じる言語を話す。失語症、
魚の文化、泥沼に咲く蓮にすわるブッダ、ロボット、セックスと
セックスなしの付き合い、言語、テロ、神話と女性と暴力、
束とすっぽかし、反捕鯨、いろいろなものがあって、
不思議な感じがした。

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2025年02月19日

Posted by ブクログ

今度ヨーロッパにいくから、旅がしたくなるような本おしえてって、chatGPTにいったら、この本が紹介された。なんにも前情報なしで、文庫版の表紙のアーティストのファンなのもあって、読んでみることにした。

何気なく読み始めたけど、めちゃくちゃ面白かった。
言語を学んでいくときに今までになかった輪郭が見えてくるような感覚が好きなんだけど、
それを日本語だけでできている物語で味わえるって、不思議!素敵な読書体験ができた!

ただ物語の波がすごいエンタメとかそういう物じゃない、文字にしかできない面白さがあるな。

こういう本をもっと読みたいー!!

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2025年02月09日

Posted by ブクログ

不思議な世界観と読み心地でとても良かった!!
登場人物たちと一緒に旅してるよう。あえて色々な背景を詳しく描かないところも私は好きだった。空気感的にたぶん小川洋子とか好きな人は好きなんじゃないかと思う。でも小川洋子のようなフェティッシュな湿度はなくどちらかというと無機質な雰囲気。
海外旅行好きな人、留学したことある人にもおすすめ。
逆に現実的なストーリーが好きで、ぼんやりとした雰囲気を好まない人には向かないかも。

私がとても好きなフレーズをひとつ、
「わたしの心は、まだ春とは呼べないけれども、クロッカスのなまなましい白や黄色が冬の土を破って出てきている。まだ恋とは呼べないけれど、もう冬に戻ることはできない。」
主人公の女性が芽生えたばかりの自分の気持ちを表現する場面です。

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2025年04月01日

Posted by ブクログ

これは…!なんだか不思議で夢中になる新感覚の読書体験

日本語の響きや語感、ニュアンス、文字、文体、地理など、言語を言語たらしめるそのすべてを、他言語との相対性の中で自由自在に操る。そうして紡がれた海の上を読者がたゆたう中で、登場人物たちの過去と現在と未来とが交錯し物語も展開されていっている、みたいな感覚

コペンハーゲン、言語、旅、留学、グリーンランド、ドイツ、モネ、「並んで歩く人たち」、そして何だか心地よい音がする読書、あたりに少しでも心惹かれる人にとてもおすすめしたい!

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2024年08月19日

Posted by ブクログ

Audibleで聴了。ものすごく引き込まれたので、続編を文庫で買うことに。出来ればそちらもAudibleで聴きたかった。朗読の可能性も感じました。

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2024年03月04日

Posted by ブクログ

hirukoの言葉の、1984感。
異国の目を通して感じる、わたしたちの文化。

ちょっとした表現の、ピリッとウィットのきいたかんじ。

人が語る人、の連なり。

言語がつくる、思考。

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2023年11月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

⚫︎受け取ったメッセージ
自分が言葉を話せることや、言葉自体を
改めて素敵だと感じられる一冊。


⚫︎あらすじ(本概要より転載)

「国」や「言語」の境界が危うくなった現代を照射する、新たな代表作!

留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る――。

誰もが移民になりえる時代に、言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。

「国はもういい。個人が大事。そこをいともたやすく、悲壮感など皆無のままに書かれたのがこの小説である」
――池澤夏樹氏(文庫解説より)

⚫︎感想
言語を扱った本が大好きなので、とても好きな本になった。多和田葉子さんの作品はこちらが初めてだったが、他の作品も必ず読みたいと思う。何語だろうが、言葉のもつ、それ自体の響きや美しさやいろんなものを体感できる。
日本が失われ、日本人であるHiruko が日本語を話す人間を探す旅。設定やHirukoの困難への対応や内省が素敵で、一気に引き込まれた。出会う人々もさまざまな特徴を持っていて興味深い。もう一度読みたい。

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2023年11月18日

Posted by ブクログ

新感覚の小説だった。日本がなくなったという、しかも日本に関連する情報がどんどん曖昧に薄れていくという気味が悪いミステリアスな雰囲気なのに、悲壮感はなくむしろ後半はふざけた感じになって予想できない話だった。面白いかと言われるとよく分からない。
純文学に近いのかなと。言語という人個人と切り離せないものが、個人の属性を定義している側面は確かにあり、言語を失くしたり新しく作り出したり複数の言語を操ったり様々なキャラクターが出てくる中で言語=その人の属性というのが全然意味ないんだなと思った。

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2025年11月23日

Posted by ブクログ

面白かった。登場人物どの人をみても変わっているんだけど、そんな人たちが集まって旅をするというのがこんなにも楽しくワクワクするなんて。最後のみんなのカオスな会話の中クヌートの母がアカッシュに向かって「あんた何なの?」アカッシュ「クヌートの恋人です、あなたは?」というのに笑ってしまった。多分ここまで読んだ方ならこの笑いをわかってくれると思うのだけど!続編の『星に仄めかされて』が楽しみ。
「薄暗い空間ならば、近くにいる人たちと薄闇の中で曖昧に結ばれている。貧しさとか日々の苦労とかを共有して。でも明るすぎる光に照らし出されたら、わたしはわたし、あなたはあなたで孤立してしまう。(以下略)」こういうものの見え方もあるっていうことを言葉にできるってすごいなと思った箇所。

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2025年10月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

面白く読んだのに、いざ感想を書こうとするとまとまらない…まとめられない。

消滅した国の言葉を話す人を探す旅。
消滅した国を故郷に持つHirukoは、独自の言語「パンスカ」(汎スカンジナビア語)を作り出して喋っている。その言語に興味を持ったデンマークの言語学者クヌートを筆頭に、旅の仲間が増えてく……
旅のきっかけや目的がハードで、手掛かりを掴んだと思ったらそうすんなりといかず…ですが、切実さよりも光や和気藹々を感じています。今のところ、かもしれないけれど。

HirukoとSusanoo、古事記の神様から付けられてるとしたら、この先はもっと大変なことになるのかなぁ。
ナヌークが開いたHPが、しばらくしたら消えているという描写があるので、日本の消滅の理由も剣呑なものかもしれません。小川洋子さんの「密やかな結晶」のように。
文化の片鱗はあるのに、場所も名前も記憶されてないとは……アジア人の区別つかないとはいえ。


去年、友人がデンマークへ旅行し、オーデンセにも滞在したので、長いこと積んでたけれどこのタイミングで読んだことは良かった気がします。
土産話聞いてなかったら、地名でさらに「???」となってたかも。
続きも読みます。

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2025年08月19日

Posted by ブクログ

主人公の1人であるHirukoのオリジナル言語であるパンスカや、様々な言語が飛び交い、日本語を話す人を探す旅に出る。ってくらい言語をめぐる物語なのに、SFって設定が面白かった。

多和田葉子の小説初めて読んだけど、面白かった!

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2025年04月14日

Posted by ブクログ

 ノーベル文学賞に近いと言われる多和田葉子。初めて読んでみた。いやはや、確かにノーベル賞に近い感じがした。国とは何か?言語とは何か?アイデンティティとは何か?を問いかける。言葉の運び方が実にうまいというか、ダジャレのような言葉の選び取り方。読みながら、なんか可笑しくなる。そうくるかとその言葉の発想がいいのだ。

 まず、物語の中では、留学中のHirukoは、故郷の島国(日本)がなくなってしまっているらしい。国が失っているということが、一つのテーマだ。民族とは、共通の言語を持ち、伝統、食文化、衣服、音楽、芸術などの文化的要素、共有する歴史や生活様式を持っている。

 登場する若者は、クヌート、Hiruko、アカッシュ、ノラ、テンゾつまりクヌート、Susanooの6人。
 自分が何者であるか?というのは、他人があって初めて違いを見つける。その違いを容認することで価値観が多様化する。Hirukoは、語学的才能がある。自分で言語をつくる。
 言語学者のクヌートは、テレビに出ているHirukoを見て、興味を持ち、テレビ局に電話して、Hirukoに会うことにした。その出会いによって、言葉を通じて、二人は理解を深める。
 クヌートは、曾おじいちゃんが、左翼の北極探検家で、その名前をもらった。クヌートは、Hirukoという女性よりも、Hirukoの話す言葉に興味を持つ。クヌートは、面倒なことが嫌いで、子離れしない母親にうんざりし、言葉にエロスを感じる青年だった。

 Hirukoは、ドイツのトリアの旨味フェスティバルに行く計画を持っていて、クヌートは旅が好きではないが、Hirukoの行くところについていきたかった。コペンハーゲンから二人は一緒にドイツに向かった。アカッシュは、インド人でドイツでガイドをしていて、性の引越しをした人(この表現がいい)だった。赤色系サリーを着ている。たまたまアカッシュはルクセンブルグ空港で、二人に出会い、クヌートに一目惚れする。

 日本人、デンマーク人、インド人が、ドイツの空港で出会って、友達になる。不思議な縁でつながり、「出汁」に興味を持つ。その出汁が、テンゾという若者が作っている。テンゾは、日本語では禅寺で食事の世話をする役職の名前だ。漢字では「典座(テンゾ)」である。こういう名前を持ってくることに著者の企みがある。

 テンゾは、実はグリーンランドのエスキモー人で、医者になろうとして、コペンハーゲンに来ている若者だった。日本では寿司が有名で、テンゾはドイツで寿司職人の手伝いをして、出汁に興味を持ったのだ。旨味フェスティバルがあり、そこでテンゾは出汁でチャレンジする予定だった。そして、テンゾがエスキモー人だとわかって、ドイツで寿司を伝えたSusanooが行ったフランスのアルルに向かうのだった。

 こうやって、一人一人を説明していると実に多様な国の人たちが絡み合い、コミュニケーションをして、互いを認めあい、そこにクヌートの母親も登場して、言語学の話題が広がっていく。とにかく、日本の小説の狭い空間から、飛び出したはみ出者たちの物語だ。よくぞここまでの編集能力があると感心した。多和田葉子の多言語世界とそれぞれの国の特徴、言葉のつながりが実に痛快である。

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2025年03月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

多和田葉子の言葉遊びが冴え渡っておりますね
パンスカなんて言語は多和田語でござんすわ
直感でありながら体系的、詩的で簡潔、超噛んでる
群像劇で多視点展開。僕らは今どこにいる?
場所も心もどこにある?
外面を変える、心を切り替える
スイッチ、不一致、ミファソラド

三部作とのことでこの先も気になりやさあねぇ

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2025年02月18日

Posted by ブクログ

主人公の故郷である島国が消滅した設定の長編小説。北欧の旅を通して描かれる世界は、SFのようでもありおとぎ話のようでもある。「Hiruko」「クヌート」「アカッシュ」「ノラ」「テンゾ(あるいはナヌーク)」「Susanoo」の視点を交互に切り替え、言語の美しさや音感に細心の注意を払いながら、読み進めるほど国や言語の教会があやふやになってくる。著者の日本語に対する異常なまでの完成とアレゴリー的雰囲気は現代の宮沢賢治といえるかもしれない。

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2024年12月02日

Posted by ブクログ

言語の連想ゲームで物語が進んでいく感じというか、登場人物の個性がどうのこうのじゃなくて言語や国境の線引きによって如何に人間が区分けされてきたか、みたいなものが伝わってくる。言語学者による考え方なのだろうか。小説を通した随筆というか、不思議な読書になった。

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2024年10月27日

Posted by ブクログ

多和田葉子さん、実は学生時代から名前だけは聞いていた。でも、多和田さんの本を読み通したのは初めてだった。
留学中に、故郷の島国が消滅し、ヨーロッパで生き抜くため、独自の言語パンスカをつくり出すという設定からもう一気にひきこまれる。
島国が消滅した理由は読み手に委ねられている。原発が関係しているということは容易に想像できる。しかし、そこが主題ではない。
個人と言語、個人と国家とは何かを問いながらも、明るく不可思議なストーリーがそこにある。
「地球人なのだから、地上に違法滞在することはありえない」ということばはずしりと響く。
クライマックスにはビックリ。続きもありそうだ。多和田さんの言語感覚、世界観に魅了された。

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2024年10月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初の多和田洋子作品。ドイツ、スカンジナビア周辺の地名が大量に出てきて楽しい。
日本が消滅した世界で独自の言語「汎スカ」を操る日本人主人公が、消えてしまった母語を話すために同郷人を求めて旅をする。その過程で巻き込まれる人々の個性的なキャラクター、多和田氏の美しい表現技法に引き込まれる。
母語とイデオロギー、アイデンティティのつながり、ネイティブって何だろう、などなど色々考えさせられる作品。
あと、デンマーク人毒親が息子にかける言葉がいちいち鋭利でツボ。

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2024年09月22日

Posted by ブクログ

外国留学中に祖国が消滅してしまい、外国で独自の言語を作って生きている女性を巡るお話

以下、公式のあらすじ
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留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る――。誰もが移民になり得る時代、言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。
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「汎スカンジナビア」でパンスカ
デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語が絶妙に混ざっていて、いずれの言語話者も理解できるけれども、逆にどの話者にとっても違和感がある人工言語
英語が話せる事がわかると、健康保険制度が整っていないアメリカに送られてしまうと思っているため、英語は極力話さない

パンスカは言葉本来の意味に近い表現を模索する
「なつかしい」は「過ぎ去った時間は美味しいから、食べたい」と表現する事を夢想する

昔話を子供向けに紙芝居に訳す際に
狸と狐の「ばけくらべ」を「メタモルポーセース・オリンピック」と訳したり
「鶴の恩返し」の「恩返し」部分の訳に悩んで、「鶴のありがとう」にしたり
鶴女房が機織りをするエピソードは、羽を抜いてダウンジャケットを作る話に改変したりする

そもそも、移民の子供に教える仕事も
「わたしの紙芝居への夢は巨人。紙芝居屋としてのキャリアはネズミ」と言って採用された経緯がある


パンスカの話者は自分ひとりだけであるが故に、むしろ自由でいられる

誰もが移民になりえる時代、独自の言語をきっかけに人と出会って親交を深める物語としては最良だと思う


母国、故郷とは何かを考えてしまった
日本は島国だし、外国と陸上の国境はない
日本語が話せれば生活ができる

しかし、ヨーロッパ大陸は陸続きに外国に行けて
同じ地域に住む人でも異なる言語を話す人が身近にいるのが珍しくもない
日本でも一見して日本民族ではなさそうな人を見かける事が以前に比べて珍しくはないけれども
それでもやはり「日本人の国」という認識が強い

そんな日本人が祖国を失ったら、どんな状況になるのかという思考実験としては興味が惹かれる

なので設定的に、小松左京「日本沈没」の後のようなものだろうなと想定して読んでた
そして、所々の描写から、今よりちょっと未来の出来事なのだろう事も推測できる

日本は「鮨の国」とよばれていたり、「乗客の背中を押して電車に無理につめこむ専門職」がいたり、性ホルモンが消滅して男女の区別すらなくなっていると思われていたりする
そんな、諸外国から見た日本がカリカチュアされている描写が多い

でも、こんな国のイメージってどこの国でもある気がする


「母国」という単語があるけれども、自らのアイデンティティとなる国は母のような存在なのだろうか
途中や最後はクヌートの母親が何かと登場するけれども
クヌートはそれを煩わしく思っている
もしかして、母国との関係性の比喩なのかとも思った


そしてこの物語、続きがあるようだ
多分、三部作

全部が文庫化されたらまた改めて読むかも

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2024年09月05日

Posted by ブクログ

あらすじ
留学中に日本が消滅してしまった女性Hirukoは母語を喋れる仲間をさがしつつ日本の文化を残そうする。
彼女に興味を持った言語学者のクヌートをはじめとした登場人物が各々動き出し旅へと駆り立てられる群像劇。

感想
文体が素晴らしすぎる! Hirukoが作った独自言語パンスカの簡潔な説明書のような言葉。
おしゃべりで人の話を聞かない登場人物は地の文でも一切改行がないなどなど。
個人的に好きな文章はアカッシュの地の文での『ふっくりした頬の内部に整った骨格を感じさせる美味しそうな青年だった』という一文。全く下品な言葉を使っていないのにここまでキモく感じさせるの本当にすごい。

Susanooがロボットだということが仄めかされているが、最後の最後までネタ晴らしなく終わったので驚いた。ただ、この小説のノリだと例えロボットだとしてもみんなそんなものかと受け入れそうな気がするのも面白い。

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2024年09月01日

Posted by ブクログ

多和田葉子を何冊か読んだなかで、ダントツに面白かった。終盤はやや主張を強くしたいせいなのか堅苦しさが出てしまった観がある。
しかし、そこまでは絶妙なユニークさとファンタジックな面白さがあった。失われた列島を故郷に持つhirukoが北欧に暮らす設定、彼女の奇抜さと納得のいく理由、玉突きのように事が転がり、人がくっついて増える展開。
それは単に奇抜なのではなく、著者の国や言語や人のあり方についての当たり前な考え方を代弁するものである。そんな社会風刺は生々しすぎると白けてしまうのだが、日本人ディアスポラを想像させてくれるファンタジーは美しく、切実に感じられた。

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2024年06月26日

Posted by ブクログ

ドイツ在住の作家の描く(日本にとっては)ディストピア小説。代表作「献灯使」と違い、不思議とのんびり明るい。移動時間に少しずつaudibleで聴いて約3週間、約9時間でやっと終えた。矢野敦史さんの朗読で、女性語り部分は違和感あるが、途中女性に変化しつつある人も出てくるので、これはこれで良かったのかもしれない。

第一章はクヌートが語り手。デンマークのコペンハーゲン大学の言語学者。テレビで見て、自前の言語を作ったヒルコという女性と知り合う。忽ち彼女に魅了される。クヌートは彼女の「今や消滅した国の言語を話す人を訪ねる旅」に付き合うことにする。

第二章はヒルコが語り手。どうやら1人語りの時は人工語ではなくて日本語を使ってるよう。英語は話せるけど、話さない。移民状態の彼女は、英語話者は強制的に米国に送られると恐れている。日本から外国へ留学している時、人づてに「日本は消滅したらしい」と聞く。詳しくは誰も教えてくれない。何故か、最後まで分からなかった。

第三章は北ドイツ在住、学生のアカッシュが語り手。顔は明らかにインド人。女性化進行中。

第四章は北ドイツ、博物館学芸員のノラが語り手。ドイツ語、英語を話し、数日前にノルウェーに行ったきりの寿司職人「テンゾ」の自称恋人。一行は日本人らしき「典座(てんぞ)」を探しにオスローに行くと決める。

第五章はテンゾが語り手。実は彼はグリーンランドのエスキモー人、ナヌークだった。彼の半生が語られる。

物語はこの後、第十章まで続いて、フランス・アルルまで飛んで、スサノオという通り名の、福井で少年時代を過ごしたまごうことなき日本人も登場したりする。

みんな、名前を名乗った時点で、デンマーク人なのか、ドイツ人なのか、インド人なのか、エスキモーなのか、判明するところが面白い。それはそうだ。スサノオは明らかに日本人だ。ヒルコは学者らしい偏った知識を持っていて、テンゾと聞いて直ぐに禅宗の食事係を意味する「典座」を連想し、「彼は日本人よ」と推測を述べた。

デンマークって何処?複雑な島国。地図を見てやっと、ドイツにもノルウェーにも国境を接している、アイスランドは元植民地だったことを知った。さまざまな人種が国を跨いで移動して、さまざまな言語が飛び交い、そして少しずつわからないけど、少しずつ何故か理解が進んでゆく。AIが進んだいま、更に国を跨いで言語は、人類を繋げるツールになりつつあるのかもしれない。

スサノオの回想を介して、近未来の日本も少し分かる。
どうやら、少年のときでも、福井の海から魚はとれなくなっていて、故郷PRセンターでは、ロボットが釣りをしたり、網をかけたり、再稼働された原発の宣伝をしていたりしていたていた。文脈から推察するに、スサノオやヒルコが海外にいる時、かなり深刻な原発事故が起こり、日本は例外なく全員死んだ模様だ。

ドイツにはグリュック(幸福)という地名が多くあり、グリュックスタット(幸福の町)という処では、昔原発が出来そうになって反対運動で有名になったのだそうだ。以来、ドイツ人はグリュックと聞くと、原発を連想するのだそうだ。
そういう描写の暫くあとに「福井という言葉は、魚という幸福が井戸のように無限に出てくる地名だ」と説明がある。あゝ「原発銀座」と言われた「福井」も、本当に原発事故があった「福島」も、わたしたちも「福」と聞けば、原発事故を思い出しても、不思議はないのではないか、などと「小説に書いてない連想」をしてしまう(そう言えば、「福竜丸」という原爆に遭った漁船もあった)。

そういう「言葉遊び」がたくさんある。

序でに「小説に書いてない連想」ということで、連想すると、とうとう何故、どの様に「(日本らしき国が)消滅したのか」謎のままなのだけど、真面目に文章に即して考えると、ヒルコも、スサノオも、母国が消滅したらしい、ということは思っているけど、家族知人がどうなったのか?全く知らないし、ほんとはどうしてこうなったのか全く知らないのである。どうやら、その時外国にいたわずかな日本語を母国語とする人々が、世界に散らばっているだけの様だ。そんなことが「あり得るのか?」どんな深刻な原発事故でも、たくさんの移民が世界に散らばることぐらいはできるはずだし、地球に放射能汚染が広がって、外国人がこんなにのんびりしているはずがない。わたしは連想する。近未来だから、もしかしたら、事故が起きた時、チェルノブイリみたいに、「日本そのものをコンクリート詰めにした」のかもしれない。そうやって、海ごと放射能を地球の一箇所に閉じ込め、世界中の人々が、そのことを見ない様にしたのだ。だから、数十年後のヒルコ、スサノオが情報から遮断されていることも、クヌートたちが、一切「日本」という言葉自体を最後の最後まで口にしなかったのも理解できる。これは余談でした。
でも、言語が存在する限り、国は消滅しないと、わたしは思う。





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2024年05月08日

Posted by ブクログ

復言語の世界はこんな感じになるのかなと思いながら読んだ。変化し続けるパンスカ語に惹かれたけれど、自分たちのことばも実はいる場所合う人とともに変化するものだと気づいた。

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2023年08月14日

Posted by ブクログ

留学中に祖国(おそらく日本)が消滅し、帰る場所を失った女性Hirukoが、独自に生み出した言語パンスカを操りながら旅先で出会った仲間と共に母国の言語を話す人を探す旅に出る。

言葉が通じないことの恐怖と通じない故の自由さ、両方が見えた気がする。
入り口はSFだったのに、読み進めると「文化とは?」「言語とは?」と哲学の深みに連れて行かれたような…言葉の意味や自分はどこまで自分なのか?なんて普段は考えもしない方向に舵を切られて読みながら沸騰しそうだった。
派手な未来描写はないのに、“今ある世界の延長かもしれない世界”のように見えて、読み終わってからも得体のしれない怖さがじわじわ近寄ってくるような感じがした。読書というより思考の旅をしたような不思議な感覚。

ちりばめられた言葉を探す旅はこの先も続く。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

多和田さんが紡ぎ出す物語は捉えどころがない。ファンタジーではない。SFでもない。ミステリでもサスペンスでもない。なのに、どこかその全部の要素を内包しているように思える。留学中故郷が消滅しまった女性Hirukoは日本人であることは間違いないが、本当に日本人なのだろうかと揺らぐ。不思議な縁で旅をすることになったHiruko、クヌート、アカッシュ、ノラ、ナヌーク、Susanoo。それぞれの語り口で語られる彼ら彼女らの事情。彼らはどこにむかおうとしているのだろうか。

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2025年01月19日

Posted by ブクログ

日本がなくなった世界でhiruko という女性が日本人を探す。書かれているのは日本語だが、パンスカという独自の言語が出てきたり、アカッシュはインド人、ナヌークはエスキモーだったりとみんな個性豊か。

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2024年12月11日

Posted by ブクログ

初読作家さん。
文庫の装丁に惹かれて読んでみた。

日本と思しき国(鮨の国とかの表記)が消滅して、国に帰れなくなった留学生の話が根幹。
この設定は面白かった。
クヌートのお母さんが怖すぎたw

最終的にどこへ向かうんだ?と思うと、ちょっと迷子になってしまった。
調べてみると、続編があるようです。

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2024年12月06日

Posted by ブクログ

留学中に故郷の島国が消滅。独自の言語をつくり、同じ母語を話すものを探す
島国、それは多分日本であって、しかもなにか
ちぐはぐなことになってしまった島国
演劇的な小説と解説で言っていて、地理と言語で満ちて、人と人が繋がりいつしか集合していく
ちょっと不思議で、一読ではわからない



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2024年11月24日

Posted by ブクログ

多和田葉子さんのエッセイを読んだあとにこちらを読んだので、書いてある内容が入ってきやすかった気がする。
前半はゆったりと言葉の面白さに身を任せられたのだけど、最後が怒涛の展開であまりついていけなかった。

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2025年08月16日

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