多和田葉子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ベルリンで日本語教師をする日本人マモル、
ニューヨークでドイツ語を教えるドイツ人マンフレッド、
東京で漫画家を目指すアメリカ人マイケルの三角関係。
「時差」
稚内からサハリンへ渡りガガーリン公園を、運動場を、丘を見て
戦争の残滓を見つける
「U.S.+S.R. 極東欧のサウナ」
全てが合理化されて部下とは顔を会わせない女社長の麻美は
家ではみみちゃんを可愛がり老齢の克枝に手を焼いている
「土木計画」
乗っていた飛行機が不時着して私は機内に荷物と記憶を置いてきてしまった。
残されたのはポケットいっぱいのレシートの束だけ。
担当医の甥の後藤とその妹の三河と共に推理を重ねる
「海に落とした名前」
カバー作品:ピピロッティ・リスト 装丁:新潮社装丁室
不思議な短編集です。
どの作品も小説という媒体をうまく活かしています。
ベルリンとニューヨークと東京を舞台とした三角関係を描いた
「時差」は何の前触れもなく語り手がぐるぐる交替して面白い。
「U.S.+S.R. 極東欧のサウナ」は小説ならではの場面の切り替えを、
「土木計画」は叙述トリック(推理小説ではない)を、
「海に落とした名前」は記憶をなくした主人公と自問自答とトリップを
これしかないという文章で著しています。 -
Posted by ブクログ
多和田作品を読むのはこれで3作品目。ドイツで暮らし日本語で綴る作家らしく、軽やかで不可思議で面白味をたたえた作品集です。4編収録。 ベルリンの日本人マモル、ニューヨークのドイツ人マンフレッド、東京のアメリカ人マイケルが過ごす3人3様のとある一日の様子を切り取り「時差」を描きながら同時に、恋愛に対する温度差、片思いをも含みを持たせて描いているところが興味深い「時差」、視野人物の思考をありのままに忠実に描いて、ヘンといえばヘンだけど、不思議な面白味がある「U.S.+S.R. 極東欧のサウナ」、まさに「海に名前を落としてしまった」私が、名前を取り戻そうとする表題作の“私のポケットに突っ込まれたままのレシートが、名前を忘れてしまった私の唯一のアイデンティティ”で“私がレシートに変換されてしまう哀しみと滑稽さ”が、なんともいえない味わいがあるところが好き。 今年は多和田葉子作品を積極的に読んでいくつもり。
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Posted by ブクログ
不自然さや奇妙さがなぜか心地いい、オフ・ビートでナンセンスなディストピア小説?
北欧留学中に母国が消滅してしまった女性Hirukoは、スウェーデン語、ノルウェー語、デンマーク語の要素をそれぞれ取り込んだ、すこし珍妙なオリジナルの言語「パンスカ」を作りだした。Hirukoが出演するテレビ番組を見た言語フェチの言語学者クヌートが放送局に電話をかけるところから始まる物語です。RPGのようにひとりまたひとりとパーティーに仲間が加わっていき、ラストシーンは全員そろいぶみという分かりやすい構成です。
この物語を読み進める読者は、ひとつの大きな筋を追いながら、隠れているもうひとつの筋が常に頭のすみっこに流れていることを感じるのではないかとわたしは思います。メインの筋はHirukoの目的である「同じ母国語を話す人を探し、その人物と言葉を交わすことができるのか」。そしてもう一つの筋は「Hirukoの母国に何がおこったか」です。これのせいで読んでいる間、うっすらと通奏低音のように何か嫌な予感を感じていました。ネタバレになりますが、この作品は最後までそれを明言することはありません。序盤、国名こそ出てきませんがHirukoの故郷は日本であることは明らかです。日本がなぜなくなったのか。そしてそれは国土そのものが物理的になくなったのか。それとも侵略や合併などで「日本」という国のつくりが変わってしまったのか。日本に住む人々はどうなったか。それらは一切明かされないのです。
しかし、ちりばめられたヒントで察することができます。十数年前のあの時の日本を知っている人であれば。いくらでもあの出来事をドラマチックな物語として受け入れる準備がわたしにはありますが、この物語はそれを語りません。後半に、あるワードが微かな違和感を残すレベルで登場したのでわたしは察することができましたが、わたしより感覚が鋭い人ならもっと早く気づくことでしょう。
気になる部分がハッキリと描かれないので、宙ぶらりんにされたような気分になります。それは「日本消滅についてを描かないから」だけでなく、この作品自体が以下のように「収まりの良さを狙っていない」かつ「不自然さをはらんでいる」からじゃないかと考えました。
Hirukoは帰る国をなくしているはずですが、悲しみや辛さなどの心情は一切表現されません。Hirukoの家族はどうなったのかも気になるところですが、不自然と言ってもいいほどストーリーはそこに触れません。なんならHirukoは1ミリも絶望しておらず淡々と現実を受け入れている様子にも見え、非現実的で超人的なキャラクターにすら思えます。他の人物も、一つの国が消滅するという人類史に残るような大事件に対して不自然なほど無知です。
この作品世界におけるスマートフォンのことだと思われますが、「スマイルフォン」なる携帯端末が登場します。でも別にこれがスマートフォンじゃなくて敢えて「スマイルフォン」である必要性はありません。「スマイルフォン」という名称そのものが物語になにかしらの影響があったようには思えません。
でもこれらの不自然さは、不思議とわたしを不快にするものではありませんでした。
Hirukoが『鶴の恩返し』の紙芝居の国際版を作る際、「機織り」を説明するのが困難なので、鶴が自分の羽毛をダウンジャケットに仕立てるストーリーに改変したり、『かぐや姫』の紙芝居を作りながら「かぐや姫は月からの移民二世かも」なんて考えるという、オフ・ビートなユーモアもあります。
またHirukoオリジナルの言語「パンスカ」は、テキスト上ではカタコトの日本語+体言止めのように表現されていて、話し言葉としてはどこか珍妙な響きがあります。それもこの物語に間の抜けた奇妙なリズムを与えていて、なんとも魅力的です。
物語としてのリアリティを損なうレベルの不自然さや奇妙さが、なぜか心地いい。この作品を、総じてオフ・ビートでナンセンス的な魅力があるとわたしは思いました。でも淡々としたその裏で、日本が消滅しているというのはある意味めちゃくちゃ怖いかも。
図らずも、人は人を巻き込みながら生きていくものです。この小説のように、日ごとに1人ずつ仲間が加わっていくほどドラマチックな出会いはわたしにはないものの、それでも人生のある一日に、自分の幼馴染と仕事仲間と肉親のように、自分を抜きにすると個別でつながりはまったくない人々が自分を媒介に一箇所に集うような経験があったりします。この小説は、そんな地球上にちりばめられた出会いのひとつを書いたものだと思いました。
八方を海に囲まれた島国の日本に生きていると、他国と地続きである諸外国の言語感覚や、すぐそばにある異文化という大陸的な感覚は想像するしかないのが少しもどかしいです。その感覚が分かるともっと違った味わいなのかも。でもそれが必須というわけではなく、わたしはこの小説を楽しめました。
「異文化」や「ナショナリズム」を描いたり、言語学的な知見をストーリーに組み込んだり、日本消滅をもっと掘り下げる等、シリアスさや重厚さを出すことはいくらでもできそうだけど、それをせずに淡々と異国の人々の出会いを書いているところがなんとも独特です。重厚じゃないけど安っぽくもないという不思議な作風で、えもいわれぬ味わいがありました。 -
Posted by ブクログ
政治腐敗や環境汚染、高齢化など、行き過ぎた日本への痛烈な風刺。そこに「鎖国」という設定により、他国の情報が得られないことによる不安感も加わる。ディストピア小説である。
あまり楽しんで読める話でもないし、主人公の老人や少年にもあまり感情移入できなかったのだが、言葉遊びから生じる文章のナンセンスな面白さはあった。
表題作『献灯使』がページ数の半分以上を占めているが、他に4本の短編を含む。物語としては独立しているのだが、いずれも同じ世界を(時代をずらして)描いているようにもみえる。さらに言えば、同著者の『地球にちりばめられて』シリーズ3作に登場する「世界から忘れられた国」もそうなのかもしれない。 -
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ネタバレ『研修生』を読んで、異国の地で生活することの難しさと、新しい環境に身を置くことで自分自身が変わっていくことについて考えました。主人公はドイツで研修生として働きながら、仕事や言葉、文化の違いに戸惑い、さまざまな人と出会います。その日常が淡々と描かれているからこそ、異なる文化の中で生活する不安や孤独、そして人とのつながりの大切さが伝わってきました。
特に印象に残ったのは、海外での経験を通して、主人公が少しずつ自分の未来や「自分が本当にやりたいこと」を考えていくところです。大きな出来事が次々に起こる物語ではありませんが、何気ない日常の中にも、自分の生き方を変えるきっかけがあるのだと感じました。
この作品を読んで、知らない環境に飛び込むことは不安なことでもありますが、そこでの経験や人との出会いが、自分の新しい可能性につながるのだと思いました。私もこれから、普段とは違う環境や考え方に触れる機会があれば、怖がらずに挑戦してみたいです。 -
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ネタバレ◼️多和田葉子「太陽諸島」
三部作の完結船旅編。って完結してまう?続編をぜひ〜涙
「地球にちりばめられて」「星に仄めかされて」に続くHiruko主人公もの。前作でついにSusanooが意外な本性を表し、Hirukoらと故郷への船旅に出る、という本編最大の謎へと向かう未来への期待を残した。一緒に旅するのはデンマークに留学中の言語学者の卵クヌート、女性へ性の引越し中のインド人アカッシュ、グリーンランドのエスキモー出身ナヌーク、ナヌークに思いを寄せるドイツ人女性ノラといったにぎやかで出自も言語もさまざまな仲間たち。
途中で、これは行き着かないな、と思った。船はバルト海を突き当たりのサンテトペテルブルクへ向かう。Hirukoは陸路で行こうとするが、ロシアのビザを持っておらず不可能、スエズ運河も通れず、アフリカを回る航路で行こうにも危険がつきまとうという。この世界は留学中に故国が消滅してしまったり、戦争中であることを匂わせたりといった特殊な世界のようだ。
これまでと同じように視点が変わるモノローグの章が連なる。意外な?必然的な?恋の進展もある。けども、歴史や国家間の関係を論じたり、英語、ドイツ語、Hirukoが作ったスカンジナビアの共通語パンスカで噛み合うような合わないような会話が交わされる。
Susanooはその名のごとく傲岸で荒い。Hirukoに対してもなにかと、昭和風オッサン的態度の言葉でつっかかり母語の福井弁と新潟弁でやり合うシーンもあって楽しい。
最近映画「急に具合が悪くなる」を観た。その中でカンヌの最優秀女優賞を取った2人の主演、過去早稲田に留学し日本語が堪能なヴィルジニー・エフィラがフランス語で問い、フランスで活動している演出家の岡本多緒が日本語で答える、というやりとりを思い出した。多言語、言葉そのものへの興味と、国情、自分を作ってきた過去、旅の情景など、ある意味突飛な部分もあり、独特なストーリー展開。
さらに物語の彩りがさまざま、過去の作家や絵のモデルにもなったブレヒトの元恋人、さらには江戸幕府と交渉したアメリカ領事ハリスに仕えミルクなどを調達した女性・唐人お吉まで時空を超えて登場する。
HirukoとSusanooの母国の名前はずっと出てこない。どうも東日本大震災や原発の影響はほの見えるが・・でそんな中、その巻の序盤、
「その時、波がふいにジャパンと音をたてて船体を洗った」
という一文に意表を衝かれ笑わせられる。解説にも「衝撃的かつ笑撃的な一行である」と。その通り。素晴らしい。さすがやるな多和田葉子。ネタバレでごめんなさいm(* _ _)m
それにしても、意味が深そうな遊びにしても、こう連なるとすこうし・・冗長かなと。で、著者的に謎は謎のまま、というのが意図であり、テーマとは違う、ということだと思うが、やっぱり、アジアまで行ってほしいなと。このパーティーそれが目的なんだし。ちょっと物語としていけずすぎる。
粘り強く続編を待つこととしたい。