多和田葉子のレビュー一覧
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『ペルソナ(能面)』
ドイツに住む日本人である姉弟の物語。日本人である主人公は、東アジア人と一括りにされ、ドイツ人に偏見の目で見られる。いくら活躍しても日本人というだけで、婉曲的にであるが、侮蔑的な屈辱を味わったイチロー選手やダルビッシュ選手を思い出す。主人公は他者が日本人に期待する能面を被って街へ出る。その時やっと自分自身が自由な感覚を取り戻す。強い言葉を持った一人の人間として。
『犬婿入り』
「異類婚姻譚」(人間以外の存在と 人間とが結婚する説話の総称)をベースに書かれている。ありえない話なのに、あれ?これ、もしかしたら犬が入ってる人間?それが信じられないくらいリアリティをもって物語が -
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「ペルソナ」
日本に生まれて日本で生活し、日本語で育ち日本語で生活していては感じることが難しい感覚を味あわせてくれます。ドイツの都市で留学生として生活する主人公の道子の視点で、ドイツでの文化的差異における差別や、日本を離れて自国の文化や言葉とのつながりが途絶えている状態の内面が描かれていると思いました。
不安感や焦燥感を感じながら落ち着かない気持ちで読んでいました。
「犬婿入り」
犬婿入りの話は昔話として日本だけではなく、アジアのいろいろな地域でいろいろな形で広がっているそうで、そういった話をモチーフに作者独自の話が紡がれていきます。
多摩川べりの町の学習塾の先生みつこと犬男との奇妙な生活は -
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純文学作家の発想
ひとつづつ評していく。
川上弘美。未来SF。
発想が陳腐だと思ふ。書きたいことを意識的に書いてはゐるが、予定調和的で凡庸から突き抜けない。
人間由来の人間を工場で作らず、多様な動物由来の人間どうしが結婚し合ふ未来観(近親交配によるホモ接合型を減らすためだらう)。そこでの恋愛。
厳密にいへば、人間と他種ではゲノムの相補性が少ないからありえない。遺伝子組換かもしれない。まあそこは目をつむることにしても妙だ。
未来でも入籍といふ制度は残ってゐる。人間に本能の性欲が残ってゐるんだらうけど。結婚しない人や、核家族がどうなったかも書いてない。
妙にSFが現実路線のわりには -
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「男の顔には、怒りの予兆のエラが立っている。プラットホームで化粧するな、とその顔に書いてある。」
冒頭のこのセリフは「令和」の「若い男性」である私には2重の意味で新鮮である。ナンパ、キャッチ、ぶつかり、これらは私に無縁のものだ。何なら、ティッシュ配りのバイトさんや道に迷った人もなかなか私をターゲットにはしない。少なくとも私なら、私は選ばないだろう。そんな人生を歩んできたので、女性のこういう体験は新鮮に映る。それに加えて、本小説は2002年に出版されている。まだ物心ついて間もない、私が知らない時代の話である。この頃はまだ、都会の他人同士が少なくとも今よりは関わり合っていた時代、というと大袈裟なの -
購入済み
エッセイのような小説のような不思議な感覚。10遍収められていますが、前半は街の描写や言葉遊びなどが多く楽しく読めるのですが、後半になるにつれてどんどん空想的になっていき、言葉遊びなどもしなくなっていく。一つ一つを独立した短編としてでなく全体として捉えたらまた違ったものが見えてくるのかな。
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不思議な印象の小説だった。
手に取ったのは、タイトルが目についたから。なんと白鶴亮翅といえば太極拳の技の一つ。なんで、そんなタイトルなのか。1年ほど前から太極拳を始めた者としては、見過ごせないではないか!
主人公はベルリンで翻訳家として一人暮らしをする女性、美砂。隣人の男性Mさんに誘われて太極拳の学校へ通い始めた美砂は、そこでさまざまルーツをもつ女性たちと知り合いになり、関係性を深めていく。
関係性を深める、と書いたが、べったりとしたものではない。むしろ淡く、時にすれ違うような関係性である。彼女たちと交流するなかで、美砂は自らについても顧みていく。
登場する女性は、皆、何らかの過去がある。