多和田葉子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
主人公の父が営む洋書店を媒介としてドイツの書籍取次会社の招きで研修生として冷戦で東西が分断された西ドイツの港町ハンブルグで過ごす半年余りの生活を描く。
1980年代のまだ日本はバブル景気前だが、就職もせず中途半端な身分のままドイツの書籍取次会社の多様なセクションで多様なドイツ人と仕事場でドイツ人の多様なキャラやドイツ特有な文化や生活習慣に触れる様子をスクエアな観察眼で見つめる。
主人公がレズ関係にあったマグダレーナを除いて、多くのドイツ人と交流するがあくまで観察の対象ないし時間つぶしとして付き合う様子を508頁付き合うのは些かしんどい。
それでも高等遊民な主人公がやがて文章を(小説を)書く内的衝動にまで至る道のりに達するまでにはそれだけのエピソードの積み重ねが必要だったのかもしれないなとも思った。
日本や日本人がヨーロッパで深く認知されていないこの時代に、日本女性の目線で多くのドイツ人女性の生活や考え方が描かれることも稀有な記録として面白いとも言えた。
ただ本書は自叙伝のようでもあり、特に事件やイベントに遭遇するわけでもなくメッセージ性があるわけでもない。
1980年代初頭の特に女性にとって閉鎖的な日本社会から脱出したいという一つの機会を将来にかけて生かしたサクセスストーリーと読み替えることもできるだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ太陽諸島=日本だと思い
3作目はHirukoたちが日本の現状を知る話なのかと予想していた。
が、結局は曖昧な船旅から始まったように、
旅先さえも定まらないまま、Hirukoたちは世界をつなげる海に揺られて行った。
そもそも作中では日本という固有名詞は一度も出てきておらず、Hirukoたちの会話から推測するしかない。
目的はあるけれど、そこに辿り着けるわけじゃない。
その道程での各々の心境や感じ方を
一緒に楽しむ物語なのだろうと思った。
海外や異文化と聞くと
まるで見えない膜のような隔たりが存在しており、
私たちの日常とは交わらない遠くの話かのように感じられるが、当たり前のように自身の価値観を交換し合う彼らを見ていると他国の人も私も同じ人間、それだけでいいんだと思わせてくれる。
-
Posted by ブクログ
多和田葉子さん初読です。ドイツに住みながら日本語・独語で小説を執筆し、国内外多くの文学賞を受賞する国際的に評価の高い作家さんです。本作は2014年刊行で、表題作(2018年全米図書賞)の中編+短編4篇を収録。
『献灯使』は、原発事故による環境汚染禍の日本をモチーフにしていることは明らかですが、歪な世界観や設定をはじめ、希望と危うさ・絶望が混在したような終末に困惑しながら、自分の解釈を確定しきれない印象をもちました。一方、多言語に精通する著者ならではの言葉へのこだわりは、国や言語の境界を軽々と越えている感がありました。
原発事故後、鎖国しディストピア化した日本。老人は超長寿、子供は虚弱で死亡率の高い世界に暮らす〈義郎〉とひ孫の〈無名〉。外来語の禁止、ネットも絶たれた閉塞社会から、無名が「遣唐使」ならぬ「献灯使」として国外へ渡る姿が描かれます。
なんとなく、本作が発表された当初以上に国際情勢も気象も少子高齢化も悪化し、とても幻想では済まされない不気味なリアルさが迫ってきます。〈無名〉の姿が犠牲ではなく希望であってほしいし、「献灯使」の命名も希望の表れと受け止めたいです。
他の4編も原発事故後の世界を背景としていますが、言葉遊び?で外国語翻訳は無理では?と思えるもの、『献灯使』の閉塞状況を補足するもの、人間が絶滅した後の動物たちの世界等、様々な視点から不穏な未来が描かれています。
文庫表紙の装画は堀江栞さん作品「凛然」。ダークで迫力あるハシビロコウの眼力に圧倒されます。痛みや悲しみを内包したような姿、じっと動かない辛抱強さが、妙に本作とマッチしている気がします。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ私小説風味の日常
父の勧めもあり、ドイツへ渡り書籍の取り扱いを行う会社へ研修生として出向いた主人公の女性。
様々な課を転々としながら半年ほど?の研修期間を、日々の徒然とともに描かれた作品。
東西ドイツが分断されている時代を背景に日々のことを描いている。時折挟まれる「その後」の話、例えば、部屋を貸してくれた友人は闘病生活を送ることになる、などの悲劇的であり日常的に起こりうる寂しさをいきなり放り込んでくる。
全体は暗めの質感、パブ「たまねぎ」も登場人物たちの空気の読まなさ加減もドイツならよくあることなのかも、と思いながら読み進めていく。そのため核心をついたような発言も鼻持ちならないというよりかはキラーフレーズとしての役割を果たす。
多和田語はたまーに出てくるくらい。 -
Posted by ブクログ
留学中に祖国(おそらく日本)が消滅し、帰る場所を失った女性Hirukoが、独自に生み出した言語パンスカを操りながら旅先で出会った仲間と共に母国の言語を話す人を探す旅に出る。
言葉が通じないことの恐怖と通じない故の自由さ、両方が見えた気がする。
入り口はSFだったのに、読み進めると「文化とは?」「言語とは?」と哲学の深みに連れて行かれたような…言葉の意味や自分はどこまで自分なのか?なんて普段は考えもしない方向に舵を切られて読みながら沸騰しそうだった。
派手な未来描写はないのに、“今ある世界の延長かもしれない世界”のように見えて、読み終わってからも得体のしれない怖さがじわじわ近寄ってくるような感じがした。読書というより思考の旅をしたような不思議な感覚。
ちりばめられた言葉を探す旅はこの先も続く。 -
Posted by ブクログ
ネタバレプロ向けの小説という印象の作品。
視点は面白いし、価値観を揺さぶってくる感じも悪くないが、読み終わった後の満足感はあまりない。
読んでも読まなくてもよかったなという感じ。
ペルソナ
ペルソナとは能面のことらしい。
人種や国民性についてステレオタイプな価値観を持つ人々がたくさん登場する。日本人は能面のように表情がなく感情が読めないと言われる。
道子が混乱して街を歩き回るところはカフカを想起させた。
犬婿入り
犬がお姫様の尻をなめるという「犬婿入り」という民話は本当にあるのかどうか。その話をした北村みつこの家に、何やら犬っぽい太郎という男が住み着いて犬っぽいことをする。