多和田葉子のレビュー一覧
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ドイツの田舎町の歴史ある尼僧修道院を訪れた日本人のわたし。そこには様々な人生を送ってきた女性たちが共同生活をしていた。そんな尼僧たちの生活を観察するわたし。しかしわたしに滞在許可を与えた尼僧院長が不在だった。
透明美、陰休、老桃、火瀬、貴岸。わたしが尼僧たちにつけた呼び名は、その読みを示されておらず非現実感を高めます。しかし彼女たちはしっかりと現実に足を下ろしてそこにいます。
修道院の尼僧というと人生の全てを宗教に(神に)捧げた人たちなのかと思いましたが、そうとは限らず彼女らの宗教観も様々なものだったのです。それよりは自分の人生をどこかの段階で振り返り、少し方向を変えてみよう高さを変えてみよう -
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多和田さんのことは、これまでにも聞いたことがあった。
日本で生まれ育ち、二十代で渡独し、日本語とドイツ語で捜索活動をする作家だと。
ただ、何かすごく前衛的な、オソロシゲな作品なのではないかと、勝手に思い込み、いまだ小説や詩を読んだことがない。
今回は、日記ということで、手にしてみた。
2013年の1月1日から4月15日まで、一日も休むことなく記事が続いている。
その中には、ドイツ語や他の言語と日本語との意味や言い回しの違いを楽しんでいるようなものが多い。
それはある意味、この人の文章に誰もが期待することなのだろう。
ただ、思索的すぎないタッチだったので、ほっとした。例えば、「産婦人科」「昭和 -
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作家の川上未映子が、小説を書く感覚を掴むために「ゴットハルト鉄道」を写したというのを読んだのがきっかけで手にとった。
「ゴットハルト鉄道」は紀行文のようで、でも、所々に作者の鋭い感覚が伺える表現がある。それが小説であることを表している。
一番好きなのは「無精卵」どこの国の話なのか分からないし、他にも謎が多い。なのに、生々しさがすごい。「隅田川の皺男」でも感じたけど、女の生々しい臭いを感じる。
女というと、花とか石けんの良い匂いのする存在であるかのように表現されることがわりとある。けれど、人間も動物であると気づかされる。作中の女からは獣のような臭いがする。
謎めいた部分が気になって、一気に読んで -
Posted by ブクログ
22年前(執筆当時)からドイツに住み、日本語とドイツ語でそれぞれ小説を書き、その双方で(それ以外の国でも)評価の高い著者の「ことば」に関する随想。エッセイと呼ぶには(この語の本来の意味はそうではないのだろうが、日本語で言うエッセイには軽すぎるような響きがあるので)、ずっと思索的な内容を持っている。それには、あるいはドイツ語の持つ構造も関係があるのかもしれない。しかも、ここには日本とドイツだけではなく、言語をめぐる著者の様々な体験が注意深く、著者のことばに置き換えられて語られる。言葉の熟成を思わせる如くに。
なお、未見の映画だが、本書に2回『ハンナ・アーレント』のことが出てくる。ナチスの高官