あらすじ
ベトナムの女子高生の「わたし」は、講演をするために訪れた東ベルリンで知り合った青年に、西ドイツ・ボーフムに連れ去られる。サイゴンに戻ろうと乗り込んだ列車でパリに着いてしまい、スクリーンの中で出会った女優に、「あなた」と話しかけるようになる――。様々な境界の上を皮膚感覚で辿る長編小説。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
言葉が通じない異国に住む主人公。ドヌーヴの演じる役がすべて混ざり合い、映画のストーリーがとけあっていく。すべての要素が好みだった。こんなすごい作家がいたのかと驚いた。この作家の作品をもっと読んでみようと思う。
Posted by ブクログ
相変わらず独特の浮遊感。
根なし草のような成り行き任せの日々を送る女性が唯一心を傾けたのは、映画の中の「あなた」。
次第に主人公の現実世界は遠い物語のように薄らぎ、映画の中の「あなた」への語りかけだけが生気を帯びる。
よく分からないけど好き。
Posted by ブクログ
「わたし」(物語の語り手)の眼は現実の光景を見る以上に、スクリーンの中の「あなた」(ドヌーヴの演じる女)に注がれる。現実の「わたし」自身も運命に翻弄されるのだが、「わたし」のアイデンティティは、あくまでも「トリスターナ」の、あるいは「インドシナ」の中で役柄を演じる「あなた」と共にある。しかし、フランス語を解しない「わたし」には言語による共感ではなく、「視る」ことにおいてのみ自己を「あなた」に投入していく。作中の「わたし」も、作者もそこに「歪み」があることを重々に承知しつつ。本当に見事な小説空間だった。
Posted by ブクログ
異国へ迷い込み、流されていく女性の生を追う。
眼差しには権力が宿る、という言葉があるように、人の視線には常に意味が込められます。「裸の目」という表題はそうした眼差しの意味を排した、あくまで説明的というか冷徹に出来事が語られていくこの本をよく表していると思います。
過酷でドライな内容です。なかなか無い雰囲気の本なので戸惑いつつも、その独特さに惹かれました。
Posted by ブクログ
これはかなり読み手を選びそうな感じがした。各章は主人公の生活と女優カトリーヌ・ドヌーブが出演している映画の話が出てくるが、最終章はそういった描写はなく、映画の登場人物の名前(ダンサー・イン・ザ・ダーク)から始まるから、現実のお話なのか映画のお話なのか全くわからない(知っている人だけが気づける?)。おそらくそれを狙って書いているんだろうけども。
じゃあ予備知識なしだと何も楽しめないのかというとそうでもないと思う。それは『旅する裸の眼』は社会主義国家のベトナムからドイツやパリを移動し、時代の移り変わりによって変わった価値観(ベルリンの壁崩壊やパスポートなしで移動できるようになった欧州など)を主人公である女性は一歩はみ出た?ところから見た世界を描いている。私たちの眼は必ず何かのフィルターがかかっている。
Posted by ブクログ
ベトナムの優秀な高校生「わたし」が講演のため東ベルリンに行くが、そこから彼女の運命が大きく変わる。
少女は実在の映画と共に歩み、次第に絡み合っていく。
これでもかと与えられる不幸に、言葉で言い表せない虚しさや絶望を感じた。文章の淡白な響きに救われることもあった。
惜しむらくはその映画をひとつも観ていないこと。映画もだが国家や政治、歴史についても知識があったほうが楽しめる作品だと思う。