芦沢央のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ読みごたえはありました。
内容は背表紙に紹介されていた通り。
「自ら産んだ子を「取り替え」た繭子。発覚に怯えながらも息子・航太への愛情が深まる。一方、郁絵は「取り替えられた子」と知らず、息子・璃空を愛情深く育ててきた。
それぞれの息子が四歳を過ぎた頃「取り違え」が発覚。元に戻すことを拒む郁絵、沈黙を続ける繭子、そして一心に「母」を慕う幼子たち。切なすぎる「事件」の慟哭の結末は・・・」
芦沢央の作品でこの気分は初めてであるが、イヤミスであればもやもやが残るのもしかたないのか。
面白くないわけではない。
郁絵の「残念だったね。普通に産めなくて」という言葉で、実の母の「あなたがひとりで育てられるわけがないでしょう」繭子には打ち消してきた不安が確定してしまう。
その前にも助産院で「自然なお産。本当のお産をすることで女性は母親になれる。うちで産んだ人で赤ちゃんがかわいく思えない人なんかひとりもいませんよ」という言葉も覆いかぶさる。その助産院にはお産の予約を入れなかった。
人それぞれ考えはあろうが、帝王切開でしか産めない人、母乳の出ない人もいるので根拠のない神話を押しつけるのはどうかと思う。
繭子は30時間を超える陣痛に耐えかねて、帝王切開に切り替えた。帝王切開の基準は満たしているので、自然分娩に失敗したわけではない。
30時間と一言でいうが痛い1分はとてつもなく長い。
1分が長いのに30時間なのだから。
医師だって30時間横に待機なんかしていない。状況が変われば見に来るだけなので、立ち合いも廊下で待っている家族もいない繭子はひとりで頑張ったのだ。
そして、痛い、つらい、苦しい。帝王切開の後がこんなに痛いなんて知らなかったと更に術後の痛みが繭子を襲う。
私は帝王切開だったが、4日間はいろんな管でベッドに縛り付けられ、トイレさえ行けなかったので、時代が変わってすぐに新生児室に行くのだなあと思ったが、繭子の産院も母子別室なのは「おかあさんをなるべく休ませるため」なので、行かなくてもよかったし、自分の赤ちゃんの顔がどうしても見たいとも書かれてなかった。
そして「ベッドのプレートがなければ自分の赤ちゃんがどの子かさえ私にはわからない」とまた落ち込む。
「誰だってわからないってば」と思わずツッこむが繭子には聞こえないよね。
「取り替え」のために新生児室に行ったのではないが、郁絵の赤ん坊がたった210g体重が多いだけでも「この子は残念な子なのか」と負の烙印を捺すばかりである。
「取り替え」てしまった後、「言わなければ」と思うのに言えない状況。これで「わかってしまう」と怯える気持ちと「わかってほしい、楽になれる」と思う気持ちが揺れ動くあたりも感情移入ができる。この心理状態ならそうだろうなと。
早く発覚して元に戻さなければいけないと焦るのだが、日が経つにつれ自分からは告白できずに「だれか気づいて」と願うばかりになる。
「どうして産みさえすればどうにかなるって思ってしまったの」という気持ちも幾度も出てくるのだが、
ひとつめの疑問は、「産まない選択肢はあったのか」ということ。
弁護士の義父、パイロットの夫、避妊や中絶って協力してくれそうにないけど。
ふたつめの疑問は「取り替え」たら「育てられるの」か。捨て子をしたわけじゃないのだから、取り替えたら郁絵の産んだ赤ちゃんを繭子は育てるのである。
育児ノイローゼになりそうないやいや期の壮絶さも含めて。
それを作家は書いていない。
郁絵さんなら保育士だし立派に子育てができるだろうと繭子が思っていることはわかるが、郁絵の子供だから何の問題もなく自分でも育てられるなんて考えがよぎることすら書いてない。
そして4歳で取り替えは発覚する。
産院の取り違えとして・・・
ここからは郁絵の物語だけになる。
今まで育ててきた璃空をどうしても手放したくない郁絵は、自分の産んだ子は選んでやらないのかと言われて悩むが、繭子にべったりな実の息子航太をみて、引き離せるわけがないとも思う。
交換したら別の土地で暮らし、二度と会えないことも郁絵が漠然と隣に住んでお互いの子供二人を二組の父親と母親で暮らせればいいななんて思っていたが、そうすれば、こどもたちはいつまでも前の親を忘れないだろう。
4年間の間に、そして交換までの間にとりこぼしたことはないかと哲平も璃空が忘れてしまっている2年前の約束の花火を冬空の下でしてみたり、いきなりあなたのお子さんではありませんと言われた夫婦ってこんなのだろうかって描写が丁寧である。
みっつめの疑問は、「取り違え」が発覚した時の繭子側の家族の反応や暮らしが一切書かれていないこと。
「違ったんですか。交換します。別の土地に住みます。新学期に合わせて顔合わせやお泊りなど準備していったほうがいいですね。産院は良心的な補償を考えていますよ。示談がいいと思います。」意向は郁絵たちに産院の弁護士を通じてもたらされるが、彼らの言葉では語られない。
別れまでの数か月を繭子の夫や両親、義父母は何を思ったのか。そちらも描いてほしかった。
結末は繭子の母が示談になんてしない、裁判にする、お金だけ払って罪にならないなんてずるいとわめきだしたので、繭子は自分が取り替えたのだと告白する。
この後の繭子側の家庭は何を思ったのか事情は聞いてくれたのか、何も説明がなく、繭子と離婚したこと、繭子には二度と航太を会わせないこと、こうなったらこの子もそちらで育てて頂いた方がいいのでしょうねと郁絵たちのもとに航太を捨てにくるのだ。
航太は繭子が「これが悪い夢を食べてくれるからね、大丈夫よ」と持たした獏のぬいぐるみを抱いている。
「ママ、ママ」と張り裂けんばかりに泣き続ける航太。
そしてごみ箱にぬいぐるみを棄てる。
「おばさん、ママに伝えて。ぼく、大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ」
4歳児の記憶は薄れるとは思う。
すっかり忘れることはなくて、何かいつも自分は捨てられるというトラウマがこの子に残る気がして
読み終わった感のない小説でした。 -
Posted by ブクログ
タイトルのカインは、旧約聖書のカインとアベルから取られている。カインは、人類初の殺人者だという。このタイトルにより、混沌とした構成がより複雑さを増すことになります。
物語の中核は、世界的評価を受ける芸術監督。彼は、主催するダンスカンパニーで「カイン」の上演を決定する。
トラブルの発端は、主役を射止めたダンサーの失踪。ここから、失踪したダンサーの関係者やカンパニーと関わりのあった人達が、心情を語り始める。
各章ごと、思念の流れが変わり、被害者そして加害者となるだろうという人物を読み間違う。
面白い構成で最後まで楽しめました。ただ、犯罪者となった人物の言動が読み取れず、犯罪心理なんてこんなもんよね、と後書きを読んだら角田さんも似たような事を書いていて安心した。加えて、アベルとなる人物像をもう一息欲しかったかな。
それでも、芦沢さん覚醒するかもと思う作品でした。 -
Posted by ブクログ
めずらしいくバレエを題材にしたミステリー。
失踪した主人公のダンサーを取り巻く
人々の詳細な心の動きをその人物毎に
追っていき主人公が何故公演直前になぞの言葉を残し失踪したのか?
そして、また謎めいた主人公の弟の画家が
執着するモデルの女性、そして何より
背景が全く見えないバレエ団の監督誉田
誰もが何も言い返せず、底知れぬ威圧感と
ダンサー達との見えない関係。
誉田一人だけ、最後まで何を考えているのか
全く明かされず最後の最後にある意図
がある事が分かる。
失踪の原因は解明されたが、弟に起こった事と
エピローグには余白があり全部が解明されて
いない感じが残る。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ【収録作品】道尾秀介「眠らない刑事と犬」/大山誠一郎「カラマーゾフの毒」/芦沢央「アイランドキッチン」/方丈貴恵「影を喰うもの」/浅倉秋成「糸の人を探して」/森川智喜「フーダニット・リセプション」
「眠らない刑事と犬」『N』所収。ペット探偵に犯行現場からいなくなった犬探しを依頼する刑事。母親の気持ちがよくわかる。
「カラマーゾフの毒」 悪役俳優鹿養大介の安楽椅子探偵もの。『カラマーゾフの兄弟』に出てくるような一族で発生した毒殺事件。家政婦が見ている前で、どうやって犯人は被害者に毒を盛ったのか。解説によると、シリーズが完結したので、来年単行本になるそうだ。
「アイランドキッチン」 引退後家を買おうと思いついた元刑事。不動産屋で紹介された物件に過去の事件現場があったことで、当時を思い出す。いやいや妻に相談もせず思いつきで家を買おうとは。それで妻孝行する気分になっているところが情けない。このおじさん本気かよ、へたすると離婚案件になっちゃうな、と別のところで気が揉める。まあ伏線なんだけど。もう一組の勘違い夫に妻はいつまで我慢できるかな。それにしても過去の事件がつらく、後味は良くない。大きな声で自信ありげに繰り返されると信じてしまう。コマーシャルならまだいいけれど、誹謗中傷はきついな。ないことを証明するのは無理だもの。「いい」人ほど生きづらいわけだ。この元刑事を主人公とする連作のアイディアがあるそうだ。
「影を喰うもの」 生き物の影を喰い、その生命を奪う影魚。それに喰いつかれたのは友人か愛犬かをロジックで解き明かす。特殊設定ものながらロジカル。そしてオチは予想がつくがやはりシュール。
「糸の人を探して」 自分を見初めたという相手を合コン相手から探す恋愛経験ゼロの主人公。コミカル。
「フーダニット・リセプション」 犯人当て推理小説の解決編にコーヒーをこぼして読めなくした高校生が、虫食いになった原稿を穴埋めする。論理パズルだと思えば面白いが、コーヒーをこぼした女子高生のキャラが苦手というか不快で斜め読みしてしまった。 -
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ネタバレ『非日常の謎』をテーマにしたアンソロジー。
凪良さん目当てで読んでみました。で、あ、知ってるお話だった。という感じ。
でも他の作家さんの作品にもふれることができて良かった。
好きだったのは「これは運命ではない」シリーズの中の一つなので、物足りなかったが、他の作品が読みたくなった。
「この世界には間違いが七つある」はユニークな発想だった。間違い探しの中のくまちゃんの独白。
「この世界には間違いが七つある」芦沢 央
「成人式とタイムカプセル」阿津川辰海
「どっち?」木元哉多
「これは運命ではない」城平 京
「十四時間の空の旅」辻堂ゆめ
「表面張力」凪良ゆう -
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ネタバレこの本を読んで1番感じたことは「人にはどんな背景があるかわからないんだから、余計なことは言わない方がいい」ってことかなあ。
帝王切開だったことを「残念だったね」って、私だったら「は? 何が残念なわけ? うるせえなコノヤロウ」と思うだけだけど、とことん気にしちゃう人はいるだろうから。
それにしても産まれたてとはいっても、一度見た、しかも写真撮っておいた赤ちゃんがかわってることに気づかないかね?郁絵の旦那よ。
とはいえ、入れかわってしまった子をいまさら交換なんて、想像を絶する辛さだろうし、なにより子供たちがかわいそうでならなかった。 -
Posted by ブクログ
凪良ゆうさんの短編を読みたくて手に取った本。
日常の中にひっそりと潜む謎の世界を6人の作家が綴る短編集。
どれもちょっと怖いお話ばかり。
それぞれ面白いけれど、やはり凪良さんの短編が好き。
表面上は何の変哲もない平和な日常。
登場する人物はごく普通の人たち。
下宿の管理人と、作家の弟。
かつてその下宿に住んでいた女性。
お寺の長男と よくできた嫁。
そして、お寺の次男は幼稚園の園長。
下宿を取り壊す過程で発見された謎のお札が軸になって話が進む。
お札の発見以外、特に何かが起こるわけではない。
ところが、それぞれの人物の独白を読み進めるうちに、
そこはかとなく怖いものが迫って来る。
最後の短編、芹沢央氏の「この世界には間違いが七つある」ですが、
シュール過ぎて理解不能でした。
知らない世界が伏線になっているようで、私には解説が必要! -
Posted by ブクログ
非日常をテーマにしたアンソロジー。
『十四時間の空の旅』は飛行機が舞台。
主人公は、小学五年生で親の都合によりアメリカに渡り、また高校一年の途中で日本に戻る…。
これは思春期の子供には辛いことだろう。
私が通った学校にも帰国子女と呼ばれる子はいて、仲の良かったギャルは英語が得意だった記憶がある。
でも、みんな小学生で日本に戻ってきてから受験しているから、英語を褒めても「使わなきゃ忘れる」と、ちょっとうんざりした顔をしていたような。
本作の主人公は、中途半端な語学力、日本式の発音で辛い思いをした。
アメリカではガイジン、日本では垢抜けて英語が得意なことを期待され、しかし仲良しグループはすでにできている、という洗礼を受ける羽目になる。
おまけに飛行機内で荷物は荒らされ、さらにアジア系の怪しすぎる人が後方にいる…。
本作は子供の不安をよく描いている。
この作品は同じような思いをしている人たちは自らと重ね合わせて感じるものもあるだろう。
救いはあって、終わり方は旅をテーマにした物語らしい終わり方で、清々しい。
『この世界には間違いが七つある』は、著者らしいちょっと不思議な世界。
イラスト付きで、そちらも楽しめる。
まさに日常と非日常を描いた作品。
ライアーゲームや、金田一少年のように、マスターと呼ばれる謎の人間によって彼、彼女らは閉じ込められゲームをさせられる。
ド定番の怪しさなのだが、ラストの謎解きが驚きだ。
短編ならではの驚きと不可思議さで、戸惑いを覚えるその体験がたまらない。