集団での暴力や大声での罵倒で人としての尊厳を奪い取り、無力で無価値な人間であると徹底的に「しつけ」という名のリンチを加える。まるで生け贄にする羊を痛めつけてなぶり殺すのを楽しんでいるような一連の流れに、自分自身が取り囲まれて大声で罵倒されているかのような錯覚に襲われ、怒りと憤りと悔しさで胸が苦しく泣きそうになり途中で読むのが耐えられなくなった。こんな暴力こそが正義と言わんばかりのあり得ない事が許されていいのか?しかしこれは現実に起こった出来事なのだ、読み続けなくてはならない、と最後まで読んだ。
NHKの特番で尼崎事件のことを知り現代の日本でこんな事があっていいのか、と唖然とした。その事件をモチーフにしているというので読まなくてはならないと思ってこの本を手にした。
警察は何をやっているんだ?この国は本当に法治国家なのか?こんな暴力がこんな理不尽が許されていいのか?憤りで息が詰まる。涙が出てくる。読んでいるだけで苦しい。
「民事不介入」?何だその言い訳じみた言葉は?
ふざけるな。なんで何もしてくれないんだ!
悔しい、悔しい、悔しい…
介入するのが難しい聖域なのは分かっている。だけどこうして閉鎖的な密室で行われている犯罪じみたものはまだまだ明るみに出ていないだけでいくらでもあるんじゃないか?これから同じような事件だって起こるだろう。被害に遭っているそういった人のSOSをきちんと拾いあげ、事が起こる前に未然に防ぐ手段を真剣に考えてほしいと思った。
なぜ次女だけが「家族」の一員として洗脳(?)されたのだろう?なぜこれまでずっと一緒に過ごしてきた両親姉ではなく、突如やってきた暴力を振るう訳の分からない連中の一員になってしまったのだろう?いくら以前に確執があったとは言えなぜ豹変してしまったのだろう?心の穴にすっぽりとはまりこんでしまったの?
最後のページから先に見ると複雑な人物相関図で8家系が示されている。一部の人だけに番号が振られていて説明書きがない。この数字はいったい?と思ったが…何なのかを知った時に愕然とした。
ふと少年マンガなどで「俺たちはファミリー」という決まり文句のような名セリフを思い出した。これと瑠璃子が口癖のように言う「家族」の違いとは何だろう?他者を阻害して利用して自分達だけが甘い蜜を吸うもの?何か紙一重のような気もしてくる。
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備忘録
生まれて初めて「愛」を与えられた
見返りとして、「すべて」を差し出すことになった。
6 集落の人々は生け贄の名目で沼を使って邪魔な誰かを処刑していたのだ。生贄に選ばれるのは集落の掟に背いたもの、手足が不自由になり働けなくなったもの、貧しい家の間引かれる子、私怨など。
34 これで抜ける、伝家の宝刀を。民事不介入。自分からそのお金を女に渡しているんですよね。ですと直ちに犯罪性があるとは言えないんですよ。恐喝されている、脅されているという証拠はありますか?
48 家族同士で虐待を強要される状況
正常な判断がほとんど失われてそのうち自分も殺されるのだろうとぼんやり考えるようになる
50 サイコパス この世には良心というべきものを持たず常に自分の欲望に忠実で他人を支配し利用することだけを考える冷たい頭を持って生まれてくる者がいる。企業経営者や政治家として大成するものもいるが、生まれつきの性質が犯罪と噛み合ってしまうと、その犯罪は常軌を逸する。
51 将を射んと欲すればまずは馬を射よ。諺は普遍的な人間の法則を言い当てている。
54 刑事さん、犬は吐いたものを飲み込むように愚かさを繰り返すという諺をご存知ですか?一度口から吐き出したものを飲み込むなんてそもそもできないんです。口から出た言葉はもう戻ってきません。話すということは取り返しのないことなんです。聞いて知ると言うことも取り返しのつかないことです。知る前には戻れななくなってしまうんです。
62 推理小説や映画に出てくる殺人犯は複雑なトリックで完全犯罪を目指すでしょ。でも現実の世界ではそんなことしなくてもすんなりとかんぜんはんざいを達成できてしまうことがあるんだって。瑠璃ちゃんは学んだんですよ。
65 あなたたち警察がやる事って集めた証拠を法律に当てはめる事ですよね。それは真実とは関係のないパズルのようなものではないですか?
73 焼肉はただ肉を焼いて食べるだけじゃないの。れっきとした料理なのよ。ラスボスは焼く前の肉に細かく包丁を入れ筋を切りたっぷりの蜂蜜にしばらく漬けた後、塩胡椒バター、クミンやらなんやらのスパイスで下味をつけ、手間をかけてから焼いた肉は甘かった。蜜の甘みだ。そこにスパイスの刺激と肉汁が調和して驚くほど旨かった。なるほど確かにこれは料理だ。おれはこれまで焼肉だと思って食ってきたものが単に肉を焼いただけのつまらない食い物だったことを知った。
78 自分の左手が欠けているのと同じようにこの世界もほんの少しだけ欠けているという感覚を抱いていた。
80 家族ってのはね、血のつながりではないんだよ。愛なんだ。愛があればそれだけで「家族」なんだよ。
存在を差別するでも特別扱いするでもなく尊重してくれる瑠璃子の態度は嬉しかった
83 愛を与えられたのだから返さなくては。当然のことだと思った。誰かが愛を返せなかったり不義理を働いた時、即ち瑠璃子の機嫌を損ねた時に家族会議が開かれた。どうやって躾けるか、あんたたちで考えな。
87 わたしたちは与えられた分、返さなくてはならないの。望まれたら何でも捧げるのよ
考えてはダメよ。迷ってもダメ。人は自分で考えて何かを決めよる時孤独になってしまう。あなたが寂しくなかったのは考えなかったからよ。何も自分で決めなかったから。
101 法律を作った人は親族を定義することで家族を定義することから逃げたのかもしれません。家族を定義することは勇気のいることですからね。
「話し合い」という、一方的に取り囲まれて前後左右から大声で罵倒、罵声、怒鳴り声に囲まれて逃げ場はなかった。
何度も何度も謝っているうちに本当に悪いことをしたような気がした。
147 まともじゃない!あんたたち誰一人としてまともじゃないよ
148 自由を奪われ罵倒され排泄を管理され裸にされ謝らされた。この一連のプロセスで剥ぎ取られたものは衣服ではない。自分が無力で無価値な存在だということを徹底的に思い知らされた
152 何を言っているのか?みんな家族でしょう?警察なんて絶対ダメよ。馬鹿なこと考えないで大人しくしていましょう。瑠璃子さんに逆らったらいけないの。なんでも瑠璃子さんの言うとおりにするのよ。
恐怖は倫理にすり替わった。逆らうことは悪です従うことは善なのだと思考停止した。
今自分たちが受けている仕打ちは報いなのではなく理不尽な虐待だ。瑠璃子たちがやっていることは不法だ。警察を頼ることは悪いことでも何でもない。この国は法治国家なのだ。
161 瑠璃子さんはすごい金持ちだ。気前もいい。そんな瑠璃子さんに「家族」と言ってもらえるのは少し上等な人間になれたような気がした。
163 いやあ、我が母親ながら申し訳ありません。実はわたしは生まれた時のことを覚えているんですがね、私が顔を出したあの女の股ぐらは酷い臭いがしたんですよ。あのような場所から生まれてきたと思うと恥ずかしくて仕方がないですよ。
やだ虎ちゃんってばそんなこと言って。
ときこさんが笑った。瑠璃子さんも雪も他のみんなも笑った。俺も笑った
191 なあアサやん、今この時点でもう死体遺棄の共犯だから。やり切るしかねえから。
197 自分の命を盾にして鉄の心を消費する母親は育児放棄の常習犯であった。
プライドを傷つけられたら落とし前をつけなくてはならないしその際に暴力があってもいい。
202 虎はこちら側特有のずるくてらだらしない匂いを纏っていた。ところが彼の親族は一人残らずあっち側の人間だった。
心配しないで。選ばれなかった人にも役割はあるの。
206 あちら側で過ごした2年間は穏やかだった。叔母夫婦は直接血が繋がっていない鉄にも優しかった。何不自由ない生活をさせてくれた。だが、惨めだった。鉄は敏感に感じ取っていた。あちら側の人々に特有のこちら側の人間に対する憐れみを。
彼らがそうした善良さを発揮するたびに鉄は頭を垂れた。ありがとうございます。その度に鉄は自分に頭を下げさせる叔母夫婦を憎んだ。
大月で叔母の一家と暮らすうちに鉄は理解していた。鉄や母親のような人間はどこまでもこちら側にいるしかない。
213 しーちゃんは瑠璃ちゃんへの借金を返すために身体を売り続けました。死ぬまで何十年も。死ぬ直前のしーちゃんは覚醒剤のやり過ぎで自分の名前もわからなくなっていました。でも椿ちゃんはその歪みに気付きました。瑠璃ちゃんに愛されることは瑠璃ちゃんに搾取されることと同じなんだと。
215 人殺しがばれなかったのはなぜだと思いますか?一つはみんな馬鹿だったからです。殴れと言えば殴って殺せと言えば殺して死ねと言えば死にます。二つ目は警察が侮っていたからです。三つ目は「家族」だったからです。家族は聖域で他人が土足で踏み込んではいけないんです。
愛ってね、ただ睦み合って慈しみ合うだけのものではないんですよ。愛は不平等です。愛は理不尽です。そして愛は力です。否応なしに人を従わせる権力です。愛による支配こそ家族の本質です。人の集まり、集団はあまねくこの家族の在り方を拡張して作られているんです。
217 瑠璃ちゃんはしくじりました。家族を増やしすぎたんです。馬鹿ではない人も家族に入れてしまったんです。血のつながらない赤の他人ばかりで家族を作ることがそもそも無理があったのではないでしょうか?愛は家族の第一条件で愛による支配こそ家族の本質です。
人はもらったものしか与えられない
250 私はずっと誰かにこんな風に褒めてもらいたかった。雪ちゃん、あなたはプライドを奪われていたのよ。そして我慢させられていたのよ。
雪は立ち上がって瑠璃子の胸に飛び込んだ。そこは柔らかく暖かかった。雪は自分の身体が液体でも個体でもない粘性の何かに沈んでいくような錯覚を覚えた。
258 映画や小説には究極の選択がある。主人公が悪に追い詰められて自分が死ぬか恋人を殺すかの2択に迫られる。悪役が追い詰められた時に人間の本性が露わになるという。けれど俺は思い知った。追い詰められた人間に究極の選択なんてない。ただ状況に服従するだけ。きっとこれは人間の本性でもなんて上等なものではない。腐った木の実が地面に落ちる、そういう自然現象に近いものがある。
262 順調に昇任試験を突破していく勤勉さと面倒事を避ける賢さを併せ持つ、「優秀」な警察官だった。同時に陰湿でもあった。一方的に無能なレッテルを貼られあからさまに無視をされた。次第に原因不明の腹痛と突然訳もなく目から涙が出るようになった。自殺するか仕事をやめるかの二択で後者を選べたのはたまたまだったように今で思う。
あの時警察が介入していれば失われずに済んだ命がいくつもあった。
270 自分の「家族」に殺人をはじめとするたくさんの犯罪を犯させていますが、自分は直接手を下しませんでした。息子の清四郎と義妹もです。瑠璃子は保険をかけていたのかもしれない。例え犯行が露呈しても自分と息子と妹は罪を逃れられるように。
274 終わってないんですよ。あの事件。事件発覚から13年が経過した2024年のこと。
281 暴力は常に正義だった。
307 死に方は大事よ。その人の人生がどんな人生だったか死に方で決まってしまうのだから。