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戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奧に響く痛ましい叫び――悔い改めろ! 介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味……。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る! 全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
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Posted by ブクログ
『“殺してもいい命”なんてあるわけ無い、でも自分の命の価値を他人が推し量ることはできない』
この感想を読んだ人の中には、家族や親族などの介護を経験したことがある方もいらっしゃるだろう。
本作を読んだ私は、その方々に「本当にお疲れ様です」とただ声をかけたくなった。
(非常に上から目線になっていて申し訳ないが・・)
今、日本の高齢者は総人口の半数にも迫ると言われている。
日々のテレビ番組や動画サイトなどでも度々、この介護の現場を取り上げられるが、そこには映像の中で語られる綺麗事だけでは済まされない状態に既に陥ってしまっている家族がいることも忘れてはならない。
本作は、性善説を信じるクリスチャンの検察官・大友、介護の現場で働くヘルパー、両親の介護に疲れ切った家族、そして“事件の犯人”、4人の視点から描かれる。
本作で起こる事件、それは日常生活の殆どに介助が必要、いわば要介護状態の高齢者を殺害するというものだ。
最初読んだ時は「動けない高齢者を狙って殺害するなんて酷い事件だ!」なんて激昂してしまった。
ただ、読み進めていくとその裏にあったのは介護疲れで崩壊寸前の家族の姿だ。
例えば、自分の両親が認知症等を患い、要介護状態になったとしよう。
軽度な状態だと家族・親戚同士で介護をすることもあるだろうが、進行するにつれ、家族だけでは全ての介助が難しくなるケースが起こる。
自分に所帯を持っていれば、仕事や家事など介護以外でもやることは山積みで、時間の全てを介護に使う、なんてことは困難になるだろう。
生活の全てに介護が必要だとなった場合、訪問介護などの専門サービスを頼るか、老人ホーム等への入居を検討するが、直面するのはお金や施設等の利用までの順番待ち、場合によっては世間体もある。
(世の中には、「親を施設に入れる」ことへネガティブに感じ、家族介護がベストだという風潮・考えを持つところがあったりするのだ)
運良く訪問介護サービスを利用できるようになったとしても、家族介護には限界がある。
その限界の先に待っているが、介護疲れやストレスによる虐待や家族の鬱病などにより、元に戻すことが難しいほど壊れてしまった家族の姿なのだ。
本作にはそんな介護の限界を生々しく、そして赤裸々に描いている。
「殺してもいい命」、それはあってはならないものだ。
だが、自身の介護で「家族に殺して欲しい」とまで願ってしまう高齢者や、届くことのないSOSを出し続ける家族の姿を性善説を信じる検察官の視点から見ると、同情と憤慨、私はどちらもが湧いてきた。
ロストケアというタイトル、それがなぜ生まれたのかは本作を読んで確かめて欲しい。
Posted by ブクログ
葉真中顕、初読み。
殺してもいい命なんてあるわけがない。
そう思っているのに、介護に追い詰められた家族の苦しみや、死によって救われたと感じてしまう人の心情を前にすると、簡単には割り切れなくなる。
高齢化社会、介護の現実、制度の限界、命の尊厳。さらに安楽死や嘱託殺人についてまで考え始めると、何が正しいのか、答えはなかなか出てこない。
犯した罪は決して許されない。それでも、犯人をただの異常者として片づけることもできなかった。その背景や考え方を知るほどに、様々な感情が生まれてくる。
読み終えてから、もう一度読みたいと思った。
真相を知ったうえで、あの場面はどう描かれていたのか、あの言葉にはどんな意味があったのか、確かめてみたい。そして、今とは違う時期に読み返したら、この作品をどう受け止めるのだろう。
社会問題として忘れてはいけないことが描かれ、ミステリーとしても再読したくなる。簡単に感想をまとめられないほど、考えさせられた一冊だった。
Posted by ブクログ
介護の末の殺人から始まったその連続殺人事件は、死刑になるとわかっていたが、それも予定できたことである。
それは介護の苦しさだけではなく、社会に穴が空いていることに気づいたから…
重い重い家族をひとりで支えていると、おかしくなる。
それでも明日はやってきて、ずっと続いていく…。
その殺人は、かつての自分が誰かにしてほしかったことをしたのだと。
正義を信じる検察官の大友は、たとえどれほど立派な信念に基づいていようとも、救いのための殺人など認めるわけにはいかない。
最後まで大友は、斯波の引き起こした要介護老人のロスト・ケア事件に対して敗北感を残したままだ。
それは社会システムに歪みをどうすることもできないからだろう。
Posted by ブクログ
いずれ来たる親の介護。
“家族”という名の絆で結ばれた宿命。
これまで育ててくれた恩返しとして、親が老いる時は子供が介護を行うことは自然の摂理とさえも感じる。しかし、子育て・仕事とライフステージが進む中で、認知症や寝たっきりの看病などで介護者も疲弊していく。そこには暴力や放棄などが伺え、資金力がない家庭は自分一人で全てをこなす必要がある。
介護での財力の差。社会サービスでは埋めきれない大きな溝を考えさせられた一冊。
犯罪を肯定するわけにはいかないが、犯罪に手を染めてしまう、背景や社会的障壁、葛藤など、自分に置き換えた時に、どうするかが問われる。
これまで育ててくれた分、親には親孝行したいし、手を上げることなんて一切考えてはいないものの、実際その立場にたったら自分の言動に保証ができるか?と問われる。
是非お勧めしたい一冊。
Posted by ブクログ
メチャクチャ考えさせられる一冊です。
43人の老人を殺した「彼」の正義と、法律と世間の倫理がぶつかる話です。
高齢者介護に苦しむ家族を解放するために、殺人を犯すわけですが、実際に家族は自分の親を殺せないし、かといって終わりがわからない介護を何年も続けないといけない絶望感が、とんでもなくリアルに感じました。
老人も、寝たきりや認知症で自分自身すら理解できない人が死なないだけで生き続けるのは辛いだろうという見解も、誘導されてる感はありますが納得させられてしまいました。
家族も本人も救うという意味で、その代行殺人を行う正義は、果たして悪なのかと問われたら、答えは出ないと思いました。
重たい内容ですが、かなりのめり込んで読むことができました。
Posted by ブクログ
こんなにも序章を読み返す本は初めてだった。
登場人物に動きがある度に戻り考察した。
介護企業・フォレストに務める佐久間、有料老人ホームへ入居した父をもつ検察官の大友、介護を職とする斬波、介護疲れに追い込まれた羽田、そして戦後史上最多の殺人を犯した〈彼〉。
〈彼〉はもう逮捕され起訴され、法廷で判決を言い渡されるところから始まる。犯行の描写も第一章にて早々にある。今作のゴールはどこにあるのか、果たしてこの〈彼〉は誰か。
しっかりミスリードされるので安心してください。
これはミステリとしてかなり楽しめた。
その一方で社会問題としても考えさせられる。
少子高齢化問題は今や日本にとって深刻な問題のひとつ。老老介護やヤングケアラー、事件も耳にする。
祖母の介護に疲れて帰ってくる母を見ると、自分は耐えられるだろうかと不安になる。誰もがする側、される側になるからこそ考えなければならない。
〈彼〉の言うとおり「救われた」、と思ってしまう環境があまりにも痛かった。
確かに人口推移と将来予測は大きな変動やズレはないはず。分かっていた、みんながこうなることを。なのに、、
読んだみなさんが置かれた立場それぞれのリアルな考えがあると思います。
ロスト・ケア、どう考えますか。
Posted by ブクログ
星★5!
フォーカスしたい部分がありすぎて。。。
・ミステリー本として
葉真中顕さんは一文一文が短くて読み易い。そして時々出てくる比喩や象徴的な表現が素晴らしい!今後の展開をそれとなく匂わせる使い方、ブラボー(*´꒳`*ノノ゙パチパチ
今回もしっかりミスリード
させられてました╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ!
・主たる題材の介護について
長らく介護現場の看護師をしております。在宅事業所における介護保険のグレーゾーンなんぞも中々にリアルを書かれていて見事です!どこまでどうやって調べて書くんだろうってくらい。
そして“彼”の信念は痛い程よくわかる。もうね、わかりすぎるくらい。あたしが“彼”の弁護士やりたいくらいよ。
・犯人の深淵
365~366ページ、“彼”の善性に触れる事ができて爆泣き。
他にも感想山ほどあるけど長くなりますのでこの辺で。。( ・ω・ )ノ
10年以上も前の作品なんですね〜もっと早く出会いたかった!!
これは広く人に知られてほしい作品でした。
Posted by ブクログ
専門職であるはずの私が、家族の前で無力だった〜『ロスト・ケア』を読む〜
介護保険制度が創設されてから、確かに改善されたことは多い。
「介護の社会化」は進み、家族だけで抱え込まなくてよい仕組みが整った。
少なくとも、そう教えられてきた。
ただ、私は介護保険制度が始まった後に社会福祉士になった世代。
制度ができる前と後の違いを、実感として知っているわけではない。
養成課程で「昔より良くなった」と学び、どこかで「そういうものなのだろう」と受け止めてきたに過ぎない。
では、今の日本は本当に安心して老後を迎えられる社会になっているのだろうか。
家族の負担は、軽くなっているのだろうか。
私と妻の祖母はいずれも介護状態にある。
それを支えている両親たちは、認知症が進み、身体が弱っていく祖母を前に、不安や悲しさ、時には怒りを抱えながら日々を過ごしている。
介護は制度で支えられているはずなのに、その感情の多くは、今も家族で引き受けられているように見えるし、実際のところ私自身も頼りにしてしまっている。
社会福祉士として、私はこれまで多くの高齢者と、その家族に向き合ってきた。
支援をしてきたつもりではある。
けれど、ふと立ち止まると、本当に力になれているのだろうかという問いが胸に浮かぶ。
ましてや自分たちの祖母のこととなると、なおさらだ。
専門職であるはずの自分が、十分に関われていない。力になれていない。
その事実が、無力感として残っている。
『ロスト・ケア』の中で描かれる介護現場の姿は、決して誇張ではなく、あまりにも現実に近い。
人手不足、余裕のなさ、理念と現実の乖離。
読んでいて胸をえぐられるような感覚があった。
社会福祉士として働いている私にとっては、痛いところを突かれているという表現が、しっくりくる。
同じ現場で働くソーシャルワーカーや介護職であれば、きっと似た感情を抱くのではないだろうか。
目を背けたくなる。
でも同時に、目を背けてはいけない問題だとも感じる。
この作品は、介護や支援の現場にある見ないふりをしてきた問いを、容赦なくこちらに差し出してくる。
だからこそ、読み終えたあとも考え続けてしまう。
そして、考え続けること自体が、私たち支援者に求められている姿勢なのかもしれない。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。