作家の筆で描き出される目の前の風景を味わうのが、紀行文を読む楽しみ。
人によって旅の目的はさまざまであり、興味の対象、目に留まるものもそれぞれ違うことが新鮮である。
旅という異界の中にちょっとずつ自分を置いてくるという。自分のかけらは今も異国の地にあるという夢見るような感覚は、行った人でないと分からないのだろう。羨ましいことだ。
付録として、恩田さんの愛読する「旅の本」の紹介、土地ならではの地霊を感じて書かれた恩田さんの作品の紹介も載っている。
これからの読書の案内にもなる。
『ロンドンで絵を買う』
同行者から「イギリス児童文学の挿絵を専門に扱っているギャラリーがあるのでそこに行きたい」と言われて。
みやげに絵を買うのはなかなかいい。
絵を見るたび、あとあとまで旅の記憶を楽しめる。
『チェコ万華鏡』
プラハと京都は姉妹都市である。なんとなくいけずなところが似ている。
チェコは職人の国であり、技術力が高い。美しいプラハの街に隠れた様々な意匠も細部が面白い。
『ほどよい距離、ほどよい広さ 郡上八幡(ぐじょうはちまん)』
二ヶ月も続く「郡上踊り」が有名。
風情ある古い街並みが続き、細い水路が縦横に走っている。「水」が名産。
朝晩散歩したくなる。
『不信心者の「お伊勢参り」』
江戸時代の人たちも盛んに通った「お伊勢参り」
内宮と外宮の他に、「荒祭宮(あらまつりのみや)」という別宮があって、天照大神の荒御魂(あらみたま)が祀られている。
「和御霊(にぎみたま)」に対して、ダークサイドが「荒御魂(あらみたま)」
何かを始めようと決心した時にここに参るらしい。
議員の秘書風の男性がお参りしていた。
『『冷血』と家光の墓 日光』
「大猷院(たいゆういん)」は東照宮に家康を祀った家光の霊廟で「大仕事を成し終えた」という意味。
明るい東照宮と比して、冷ややかな暗さを感じる。霊柩車を連想。
カポーティーの『冷血』が今回の旅のおとも。
『雨の街、風の城 ーー台湾ブックフェア報告ーー』
『ねじの回転』の翻訳本発売に合わせて、出版社がサイン会&書店でのトーク会を企画して、台湾のブックフェアに招いてくれた。
映画『悲情城市』で一躍観光スポットとなった九份(キュウフン)も訪れる。
かつて集落は「風の城」港は「雨の港」と呼ばれていたという。本のタイトルになりそう。
『仙人は飛び、観音菩薩は微笑(ほほえ)む 韓国 雪嶽山(ソラクサン)』
登山好きの韓国人にとって、憧れの名峰・雪嶽山に登る。
仏教徒たちにも聖地。
『スペイン奇想曲』
カミーノ・デ・サンティアゴへの巡礼に観光客として参加。
通過ポイントは、大聖堂、修道院、教会が多く、グレゴリオ聖歌が響き、薔薇窓が美しい。
途中の道道では観光客にもスタンプを押してくれたが、ゴールのサンティアゴでは正真正銘のカトリック教徒にしか印は与えられない。
景色をながめながら歩くと、景色以上に、自分の中にいろいろ見える。
『阿蘇酒池肉林』
飛行機が嫌いなので、東京から博多まで「のぞみ」で行く中、新幹線中のワインを三人で飲み尽くす。
最終目的地は熊本。
阿蘇の景色は雄大で食事は著しく重たい系。
鳥、牛、豚、鹿、と炭火で黙々と肉を焼いては食い、酒を飲んだ。
『熊本石橋の謎+馬刺し憧憬(しょうけい)』
熊本行きの目的は、熊本在住のS F作家・梶尾真治さんに会うことと、大好きな馬刺しを食べること、そして「橋」への興味。
「種山石工(たねやまいしく)」という技能集団が存在した熊本は石橋が多い。
国指定の重要文化財である「通潤橋(つうじゅんきょう)」は一大観光地となっている。
水路橋として今も現役で、5,000円払うと放水して見せてくれる。
『蘇我入鹿(そがのいるか)と玄昉(げんぼう)の首塚 奈良』
最近整備された「頭塔(ずとう)」という史跡は「藤原広嗣の乱」の原因にもなった奈良時代の僧・玄昉の首塚。
蘇我入鹿の首塚は何度も訪れている。
首を刎ね、それを埋めて、石で押さえ、祀る。
どうか出て来ないでください、祟らないでください、という必死さに、祟られる事に身に覚えありの恐怖が滲み出ている。
『銀の箸の国で 韓国 ソウル』
ソウルの国際ブックフェアに呼んでもらった。
韓国では日本の小説が非常にたくさん読まれていて、翻訳点数では去年ついにアメリカのそれを抜いた。
韓国映画やドラマの脚本が大変優れているので、遠からず自国の小説家が育っていくだろうと思う。
『真昼の太陽を見上げる 北京、上海』
北京は、何もかもが茫漠(ぼうばく)として巨大である。
モヤの向こうに太陽が透けているという印象。
北京はヨコ方向のベクトルの都市、上海は圧倒的にタテのベクトルの摩天楼都市。
・恩田陸さんはダークサイドに惹かれるようだ
・チェコがとても魅力的だった
・旅は何かを「見に行く」のではなく「感じに行く」